大判例

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岡山地方裁判所 昭和25年(ヨ)4号 決定

申請人 備前護謨株式会社労働組合

右代表者 組合長

被申請人 備前護謨株式会社

一、主  文

本件仮処分申請は之を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

二、事  実

申請代理人は、「本案判決確定に至る迄仮に一、被申請人は申請人所属組合員に対し昭和二十三年十一月分に付いては四千五百円ベース、同年十二月分以降は五千円ベースによる賃金、組合員中請取者に対しては昭和二十四年一月分以降の賃金として生計手当の支給をしなければならない。二、被申請人は申請人に対し其の保管に係る賃金台帳等従業員の給与、労働時間に付いて記載する帳簿の閲覧をさせねばならない。」との決定を求め、其の理由として、

一、被申請人は大阪市に本店を、岡山市に工場を有する護謨製品の製造販売を目的とする資本金弍百万円の株式会社であり、申請人は右岡山工場従業員八名を以て組織する労働組合である。

二、しかして本件紛争は岡山工場従業員のみに関聯を有し、賃金支払債務等の履行地も岡山市であるので、本件仮処分申請事件の管轄も当然岡山地方裁判所にあるものである。

三、扨而申請人組合は組合結成の昭和二十三年九月当時従業員の賃金が参千円台のベースであつたので、結成後直ちに被申請人と賃上交渉をした結果同年十一月十五日当事者間に、

1.十一月分暫定賃金として男女平均賃金四千五百円を支給する。

2.十二月分以後の賃金は暫定的に男女平均賃金五千円を支給する。

3.暫定賃金の配分方法は組合会社間の協議の上決定する。

4.右交渉は十一月十六日より再開する。

5.生産能率向上の為に会社組合協議して行う。

旨の新賃金協定が成立した。

四、しかるに被申請人は右協定を履行しないので、申請人は昭和二十四年七月二十六日岡山県地方労働委員会に右協定履行其の他の紛争に付き斡旋を申請し、斡旋委員は被申請人の協定履行義務を確認し、被申請人に対し其の旨勧告したが、被申請人は結局之を拒絶した。

五、右協定に付き被申請人は組合員と非組合員との別なく両者を一団として支給すべきものとし非組合員或いは組合脱退者に対しても賃金を引上げたので組合員のベースは自然低下する不当な結果となつたのであるが、元来右協定に際し申請人は組合員のみ賃上げした場合は非組合員に対し気の毒でもあり又其の間に感情的に隔たりが出来てもよくないと考えて、「右を暫定賃金として了承する。但し組合員以外にも支給するものとす。」と希望を述べたものであり被申請人の主張するところとは趣旨が異なるものである。被申請人はあまつさえ右ベース決定に付いては被申請人会社重役の給与も含めて決すべきであると主張するに至つて居る。

六、更に前記協定成立当時被申請人は申請人に対し従業員中請取者(出来高払を受ける者)に付いても常傭者(時間給を受ける者)同様生計手当を支払う旨約し、昭和二十三年十一月及び十二月は其の支給をしたが昭和二十四年度以降支給を停止して現在に至つて居る。

七、しかして申請人は右新ベースと旧ベースとの差額たる不足賃金は各従業員に付き約八、九百円平均となるが正確に幾何となるかは不明であり、不足賃金債権行使に付いては毎月の組合員数、支給賃金が幾何であるかを知ることが絶対要件であるが組合員は之を記憶して居ないので其の前提として被申請人備付の賃金台帳、労働時間出来高記載帳簿の閲覧が必要であるに拘わらず、被申請人は申請人組合長からの閲覧申出に応じないので、右未払債務支払請求訴訟提起が不能である。右は被申請人の権利濫用による申請人の訴権侵害行為である。

八、以上の理由により申請人は被申請人の前掲債務履行を求めるべく本案訴訟提起の準備中であるが右本案判決確定を俟つては貧困な組合員には生活の脅威となり著しい損害を蒙る結果を生じ、且つ志気阻喪して訴訟提起も不能となるので茲に不足賃金等支払及び帳簿閲覧を求める為本件仮処分申請に及ぶ次第である。

と述べた。(疏明省略)

三、理  由

先ず本件仮処分申請に付き申請組合に当事者適格があるか否かに付いて考察する。

凡そ労働組合は使用者との間に労働条件等に付き労働協約等の協約を結んで組合員の経済的地位等の擁護向上を計るものであつて、その組合員である個々の労働者は労働条件等に付き使用者と個々的な労働契約を締結して使用者との間に雇傭関係を生ずる。而して組合員は使用者に対し契約により得た権利を主張し得ると共に協約によつて確保された地位をも要求することが出来るが組合は協約の当事者として一般的に協約により定められた使用者の義務を使用者に対し要求する権利を有し、使用者が之を遵守履行しない場合は訴訟を提起して協約上の権利の実現を計ることが出来るが、雇傭契約に基き個々に発生した組合員各自に属する権利については之が処分の権限を有しないものと謂わなければならぬ。

本件に於て申請人が支払を求める賃金債権は雇傭契約の主体たる労働者個人の権利に属するものであつて組合にはその処分の権限がなく、従つて之につき訴訟を追行するの権能を有せざるものと解するの外はなく、従つて本件賃金支払の仮処分申請に付いては申請人組合に当事者適格がないものと謂わざるを得ない。

申請人の生計手当の支払請求についても亦右に述べたところと同様に解すべきである。

次に帳簿閲覧の点に付いて按ずるに、申請組合は其の理由として被申請会社が前記賃金協定を履行しないので不履行部分の賃金債務の履行を求める訴訟提起の前提として本件仮処分を必要とすると謂うのであるが右事由は民事訴訟法第七百五十五条及び第七百六十条に規定してある仮処分の事由の何れにも該当しないのでこの仮処分申請もその理由がないものと謂わなければならない。

そこで、本件仮処分は何れも却下し、申請費用に付いて民事訴訟法第九十二条、第九十五条を適用し、主文の通り決定する。

(裁判官 中島貢 菅納新太郎 辻川利正)

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