岡山地方裁判所 昭和25年(行)7号 判決
原告 中和村議会
被告 中和村長
一、主 文
前中和村長西山清市が昭和二十五年二月二十七日付をもつてなした中和村議会解散はこれを取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は、第一次的に「前中和村長西山清市が昭和二十五年二月二十七日付(同日告示)をもつてなした中和村議会解散は無効なることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、右判決が許容されない場合は予備的に、「前中和村長西山清市が昭和二十五年二月二十七日付(同日告示)をもつてなした中和村議会解散はこれを取り消す。」との判決を求めた。
三、事 実
一、原告議会は昭和二十五年二月十四日午後一時より開かれた会議において議案七件報告二件諮問二件の審議を終了した後議長が会議録署名議員を指名しようとした際訴外人前中和村長西山清市が突如発言を求め報告第三号として「村有山林立木の所有権擁護について専決処分報告」の承認方を求めた。
二、右報告第三号の内容は、「中和村が村民である中沢隆(村議会議員)に対して売却した山林立木を伐採期間経過後伐採したのでその所有権擁護のため盜伐として告訴した。」というのである。
三、そこで出席議員の過半数のものは、「事村民にかかることであるから、たとえ伐採期間延期手続または更新契約締結がまだなされていないとしても金銭をもつて解決されることであるから西山前村長が村議会の議決を経ずに村民を直ちに告訴することは不穏当と思料されるので告訴を取り下げ円満解決の方策をたてては如何。」といい、殊に中島祝議員は、西山前村長に対して、「決して村に損害をおよぼさぬ様責任をもつて解決するから告訴を取り下げ自分に任せてくれ。」と一時間余に亘つて熱心に勧述したが、西山前村長は村議会の席上を無断立ち去り帰宅したので、原告議会は西山前村長の釈明を十分聞くことが出来ないので種々右件の円満処理方につき懇談した後同月十八日午後一時まで本会議を休会することとした。
四、しこうして、同月十八日午後一時本会議を開いたところ、西山前村長は開会へき頭前記同月十四日本会議において述べたものと同趣旨のことを述べた後出席議員に向つて、「村有林立木擁護のため私のとつた告訴問題につき免角の論議をする諸君等は村民大衆の代議機関人であるのか、僅か一、二人の者の利益擁護の存在であるのか疑問である。本村の生きて行く大黒柱である村有立木の取扱を粗略にして村治の円満、村政の運用は出来る筈がない。この観点からすれば本村議会は正に腐敗の極に達しているといつても過言ではない。議員全員はこれに対し一連の責任を感じ連帯辞職して村民に陳謝されんことを勧告する。報告第三号につきこれ以上云々することは村長に対し信任がないことの表現にほかならぬと考える。」趣旨の発言をして直ちに議場を退席した。
五、原告議会は西山前村長退場の為め止むなく出席していた前記中沢隆につき本件事情をただした上円満処理方を協議すると共に前記西山前村長の原告議会に対する侮辱的暴言につき審議の結果中島祝議員の発言に基き、「只今の村長の答弁は議会を侮辱する言である。議会として愼重審議中にもかかわらず一個人の利益の為めに審議を引延する如き言は速に取り消すべし。報告第三号は地方自治法に示してある議会の権限を無視した越権行為であると信ず。村長は議会に対して陳謝せよ。さもない限り本件の審議は進行出来ない。よつて村長は責任を明らかにすべし。」との文書を発することに全員一致賛成の下に決議した。
ところが西山前村長は同月二十七日付中発第六三一号をもつて原告議会代表者議長竹内像一に対し、「二月十八日開催の中和村議会の結果により二月十九日付でなした議決通告は明らかに村長不信任の議決と認めるから地方自治法第百七十八条第一項に基き中和村議会を解散する。」旨の通告をなし、翌二十八日右通告書は右竹内議長に送達せられると共に、二十七日これを告示した。
六、しかしながら右西山前村長のなした議会解散通告は左記理由により全然無効のものである。
1、前記原告議会が議決し西山前村長に通告した事項は二月十八日本会議における同村長のなした原告議会議員に対する侮辱と理由なき辞職勧告の暴言に対し責任をただしたもので、報告第三号を否決したものでもないから同村長が不信任の議決と認定したのは不当である。
2、地方自治法第百七十九条所定の条件がないのにかかわらず同法第九十六条第一項第十号により原告議会の議決すべき事項につき無断処分を行い、また同法第百八十条に基き原告議会がその議決により特に指定もしていないのにかかわらず無断専決処分を行う法令違反行為をあえてしながら、しかも右処分に対する報告承認もあらかじめ議案に上程せず閉会間際に突如発言を求め、なお議員の質疑や誠意ある勧告を曲解して挑戦的侮辱的暴言を吐き退場しながら原告議会の村長の責任追及通告を奇貨に解散請求におよぶが如きは明らかに信義則に反する権利濫用である。よつて原告議会は三月十七日西山前村長に対し右解散請求の無効であることを通告したのである。
七、しかしながら前記議会解散により中和村選挙管理委員会は四月八日選挙日を同月二十八日とする旨の告示をなし、同日議員の選挙(西山前村長も三月十六日付五月一日をもつて病気により退職する旨の申出があり、更に右五月一日を四月二十七日と訂正したので村長選挙も四月二十八日行われ中島祝氏が新たに村長に選挙された)が行われたので原告議会はこれにより名譽をき損され損害を被つている実情であるので右解散無効の即時確認の利益が存するものである。
なお、予備的請求の原因としては仮に前記解散無効の請求が認容されないとしても本件解散は前記第六項記載の如く地方自治法第百七十八条第一項に規定してある前提たる不信任の議決がないので少くとも違法で取り消されるべきものである。と述べた。
被告訴訟代理人は本案前の答弁として、「原告の訴を却下する。訴訟費用は竹内象一個人の負担とする。」との判決を求め、その理由として、
一、中和村議会は昭和二十五年二月二十七日西山前村長により解散されたものであるから、もはや議会も不存在であり従つてその代表者たる議長もなく、従つて本訴提起に対する議会の議決もないから竹内象一が議会の代表者たることも出来ぬので本訴は不適法である。
二、地方自治法は普通地方公共団体の長と議会との間の紛争につき同法第百七十六条第五項において訴訟をなすことを認めているので、右法条は尓余の本件の如き紛争については公共団体の自治に任し訴訟をもつて解決すべきかぎりではない趣旨である。
から何れにしても本訴は不適法として却下さるべきものである。と述べ、本案につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、西山前村長が昭和二十五年二月二十七日中和村議会の解散を断行するにいたつた経過(原告請求原因第一ないし五項)は認めるが本件解散が無効であるとの点は争う。原告の請求は次の諸点より理由ないものとして棄却せらるべきものである。
一、本件解散は正当である。
二月十九日付の原告議会の議決通告は不信任議決と認むべきものである。何となればいわゆる不信任の議決は政治上の運用として形式の整つた不信任案でなくても実質的に不信任の意思が表明され議決された場合も同様に取り扱われるべきものであることは疑を容れない。間接的に不信任の意思が表明され、それが議会の多数の支持を得れば不信任案が可決されたと同一の政治的効果を生ずるものとして解散の必要が生じ、法律的にもかく解すべきものである。
従つて西山前村長が本件議決通告をもつて不信任の議決と認め議会の解散を行つたのは正当である。
二、本訴は失当である。
地方自治法は地方自治体の長と議会との関係につき相互の自主性を尊重するとともに監督庁等他の介入を排除し両者の対立抗争が生じた場合は相互に抑制作用を発揮せしめて自主的解決を図り与論の判定により地方行政の円満公正な運営を期している。同法が第百七十六条ないし第百七十八条等の規定を設けた所以もここにあり、両者の抗争に関する訴訟についても同法第百七十六条第五項のみを規定し、これに限定しているものと解せられるから本訴の如きは失当である。
三、本訴は解散の無効確認を求めたものであるが、確認の利益がないものであるから失当である。
四、仮に本件議会解散が取り消し得べきものとしても行政事件訴訟特例法第十一条により本件解散を取り消すことは公共の福祉に反するから請求棄却されるべきものである。
と述べた。
四、理 由
先ず被告の本案前の抗弁について案ずることとする。
一、原告議会不存在従つて議長も不存在であるとの点。
被告は原告議会はすでに解散により存在しなくなつたものてあるというが、原告は本訴において右被告の昭和二十五年二月二十七日付の議会解散処分の無効ないし取消を主張しており、本件訴訟確定に至るまでは右解散処分の効力従つて原告議会不存在も未確定であるのでこの点に関する被告の抗弁は理由がない。
二、裁判所の審判の対象外であるとの点について(被告が請求棄却の理由二で述べている点もこれと同趣旨と認められるので合せて判断する。)
被告は普通地方公共団体の長と議会の紛争につき地方自治法第百七十六条第五項掲記の場合のみが訴訟の対象となり本件の如きはその対象となり得ないものと言つているが、憲法第三十二条第七十六条第二項条文により裁判所はあらゆる法律上の争訟につき裁判する権限が与えられており、本件において原告の主張する如く被告が議会の一議決を故意に不信任の議決となし違法に議会を解散した事実が認められるとすれば、かような場合に右解散の無効確認の争につき、裁判所が審理権がないとは、新憲法の精神から到底認められないところである、と考えるので、この点に関する被告の抗弁も採用できない。
そこで、本案に入つて案ずるに、原告主張の如く昭和二十五年二月十四日および同月十八日の中和村議会における報告第三号をめぐる原告議会被告村長間の意見の相異衝突より生じた紛争が原因となり、被告村長が同月二十七日中発第六三一号をもつて原告議会議長竹内象一に対し地方自治法第百七十八条第一項により原告議会の解散通告をなすと共に(同月二十八日通告書到達)その旨告示したことは当事者間に争がないところである。すなわち事実については争なく法律点が争となつているので以下順次争点を検討して行くこととする。
一、本件議会議決が長の不信任議決と認められるか。
およそ普通地方公共団体の議会によるその長に対する不信任の議決はきわめて重要なる事柄であるから一般的にその議決は明確になされなければならないものと考えられる。もちろん地方自治法第百七十七条第四項には特別の場合に議会の一定の議決を不信任の議決とみなす場合が規定してあり、また長の施策の内根本的重要性を有するものを議会が否決した場合の如きは不信任の議決と同視していい場合もありうるであろうが本件の如きは西山前村長が報告第三号により原告議会に了解を求めた処分が原告議会において種々論議されたところ西山前村長がこれを不当とし二月十八日の激越な原告議会攻撃の発言があり、原告議会においても右西山前村長の発言を原告に対する侮辱としてその取消および同村長の報告第三号の内容をなす処分を越権行為なりと断じて陳謝方を要求し、右解決を見ない内は右案件の審議進行を拒絶すると共に同村長の責任を追及しているもので、議会村長間の感情的対立から若干行きすぎた点も見受けられないことはないが、この程度をもつてしてはいまだ実質的にも不信任の議決とは認められず、二月十八日本会議における西山前村長の、「報告第三号に対する議会のこれ以上の論議は不信任の表現とみる。」趣旨の言も同村長の一方的発言で、しかも議会の審議権を封ずる不当なものであるから採るに足りないものである。
二、本件議会解散の効力。
従つて本件議会解散も原告議会の不信任の議決なくして西山前村長により行われた違法なものであるが果して右かしにより解散は無効となるものか単に取り消し得べき程度のものに過ぎないかに付いて考察して見るに、普通地方公共団体の長は地方自治法第百七十八条第一項に基き議会において長の不信任の議決をした場合は当該議会を解散することが出来るのであり、議会の一議決が不信任の議決に該当するか否かは前記の如く場合によつては解釈により決せらるべきであるところ、本件の如きかしは重大明白なものというを得ないから単に取り消し得べきものであるに過ぎないものと認むべきである。
三、本件が行政事件訴訟特例法第十一条に該当する場合であるか。
本件解散により中和村議会議員の選挙が行われている(被告もこの点争つていない。)ので、解散の取消があると右議員選挙の効力に影響することはもちろんであるが、一切の事情を考慮するときこれをもつて本件取消が公共の福祉に適合しないものと認めることはできない。
以上により、原告の第一次的請求たる解散無効確認はその理由がないので容認できないが、予備的請求たる解散取消請求は正当であるのでこの点において原告の請求を認め、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条第九十五条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 中島貢 菅納新太郎 辻川利正)