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岡山地方裁判所 昭和29年(行モ)3号 決定

申請人 浜岡作一 外一名

被申請人 岡山市長

一、主  文

被申請人が昭和二十九年五月四日付で申請人浜岡作一に対しなしたその所有にかかる岡山市内山下八十一ノ一所在木造セメント瓦葺木羽葺二階建及平家建三棟を昭和二十九年八月一日までに移転すべき旨の移転命令の執行は之を停止する。

申請人吉原正記のなした申請はこれを却下する。

申請費用は申請人吉原正記と被申請人の負担とする。

二、事  実

一、申請の趣旨

「被申請人が昭和二十九年五月四日付で申請人浜岡作一に対しなしたその所有にかかる岡山市山下八十一ノ一所在木造セメント瓦葺木羽葺二階建及び平家建三棟を同年八月一日までに移転すべき旨の移転命令並に同年四月六日付で申請人吉原正記に対してなしたその所有にかかる岡山市山下八十六ノ十三所在木造瓦葺平家建、二階建二棟を同年七月五日までに移転すべき旨の移転命令の執行はこれを停止する。」旨の決定を求める。

二、申請の理由

申請人浜岡作一は前掲地番の土地百四十三坪二合五勺を申請外渡辺千代松から賃借し、その地上に前記建造物を所有する者であり、申請人吉原正記も前掲二棟の家屋を所有する者であるが、被申請人は申請人両名に対し前掲の如く土地区劃整理のため必要があるとして特別都市計画法第十五条によりその所有家屋につき移転命令を発した。しかしこの両移転命令は後に述べる理由によつて無効であるから被申請人を被告として申請人等は昭和二十九年六月二十九日岡山地方裁判所に対し前記両命令の無効確認訴訟を提起し昭和二十九年(行)第一〇号行政処分無効確認事件として目下係属中であるが、移転命令に記載の時期は目前に迫つて居り、命令を執行されるならば、本案の行政訴訟において後日勝訴してもすでに所有家屋は破壊されて住むに家なく現在の営業を廃するのやむなきに至るなど物心両面に生ずべき損害は償うべからざるものがあり緊急の必要があるのでその執行の停止を求める次第である。

而して前記移転命令は次の理由によつて無効である。

(1)  申請人浜岡作一に対しては被申請人は換地予定地の指定をなさずに本移転命令を発しているが、これは特別都市計画法第十五条第二項に反し、単に違法であるというに止まらず無効である。

(2)  本件移転命令は土地区劃整理のため必要があるからというのであるが、形式上は岡山市川崎町一番地所在三十六坪(測候所敷地)の県有地の換地予定地として本件係争土地を含む岡山市内山下一帯約五千坪を指定したことになつている。かかる換地指定が岡山市土地区劃整理における他の事例に比較して著しく不公平不均衡であり無効であることはまことに明白である。岡山県は現在岡山市上伊福に県庁舎を有するが同地は不便であるという理由で本件係争地を含む約五千坪を県庁舎敷地として取得し県庁舎建設を企図しつつあることは公知の事実であつて、本来任意の売買によつて買収するか土地収用法所定の手続によつて収用すべきにかかわらずことさらにこれを回避し土地区劃整理に名をかり申請人等岡山市民の犠牲に於て安易に同様の目的を達成しようとし、被申請人も亦唯々諾々これに協力してかかる不当な換地予定地の指定をなしたものである。従来被申請人が本件内山下約五千坪を県に換地予定地として交付するについて従前の土地である県有地は第二工区内の県有地であるとか或は三十六坪であるとか石関町天神山四七三三坪であるとか又或は弓之町元知事公舎敷地、元警察部長敷地、元図書館敷地等を寄せ集めたものであるとか最近には岡山全市内にある県有地であると称するなどその都度区々たる弁解をしているのはこの間の事情を物語るものに他ならない。かかる無効な換地処分を前提としてなされた本件移転命令は土地区劃整理のため必要があるとはいえないから当然無効である。

(3)  仮りに本件係争地を含む内山下五千坪の換地予定地としての原地が岡山市石関町天神山所在の旧県庁舎敷地四七三三坪の県有地であるとしても岡山県はすでにその内約四千五百坪を他に処分しているのであつて換地を指定してかかる広大な土地を取得させるのは前同様の理由で違法無効でありこれを前提とする本件移転命令が無効であることまた言を俟たない。

三、被申請人の意見

被申請人が申請人等主張の如き移転命令を出したことは争わないが本件申請は却下さるべきものと思料する。その理由は次の通りである。

(1)  申請人吉原正記は昭和二十九年七月二十一日本件移転命令の建物を除却して移転を完了したから最早本件移転命令に基く執行はその必要なく同申請人は執行停止を求める権利がない。

(2)  申請人浜岡作一について

(イ)  本件移転命令に際し申請人浜岡に対し換地予定地の指定をしなかつたことは争わないが、本件係争地は国有地で大蔵省の所管に属し借地権者は渡辺幸江であつて浜岡は特別都市計画法施行令第四十五条所定の届出をしていないから、大蔵省及び渡辺幸江に対しては換地予定地の通知をしたが、浜岡に対しては通知をしなかつたのであつて何等違法の点はない。

(ロ)  本申請の係争土地を含む内山下約五千坪の土地が県庁舎敷地に予定されていることは認めるが被申請人は県に対しこの土地を県庁舎敷地として特別に交付したのではなく岡山市石関町七十六番地所在旧県庁舎敷地四千七百三十三坪と川崎町一番地の三十六坪(測候所敷地)を併せた県有地の換地予定地として指定したのである。本件換地計画において岡山市弓之町百四十六番地所在八百二十五坪(旧知事公舎敷地)他十一筆合計四千三百七十三坪の県有地を他の民有地及び官有地の換地予定地として指定したため前記旧知事公舎敷地他十一筆の換地予定地として岡山市石関町七十六番地旧県庁舎敷地四千七百三十三坪を指定したのであるが、このため旧県庁舎敷地について更に換地の必要を生じ、本件係争土地を含む内山下約四千九百七十八坪をその換地予定地として指定したのである。岡山県が旧県庁舎敷地の相当部分を他に売却処分したことは認めるが、これは弓之町百四十六番地他十一筆合計四千三百七十三坪の換地予定地として指定された後にしたものであつて換地予定地の指定があつたのみで換地処分自体はまだ完結していないのであるから前記売却処分は本来弓之町百四十六番地他十一筆合計四千三百七十三坪の処分に他ならない。従つて本件係争地を含む内山下約五千坪の原地としての処分ではないから旧県庁舎敷地及び測候所敷地の換地予定地として本件の土地を含む内山下一帯約四千九百七十八坪を指定したことは何等違法ではない。

以上の理由により申請人浜岡に対する本件移転命令は何等違法ではないからその執行停止申請も亦却下を免れない。仮りに本件移転命令が違法であつたとしてもその執行によつて生ずべき損害は金銭によつて補償し得るものであり、且岡山における戦災復興都市計画事業の急速なる実施は焦眉の急を要するものであり、執行の停止によつて公共の福祉に重大なる影響を及ぼす虞が大であるから本申請は却下されたい。

四、疎明<省略>

当裁判所は職権を以て申請人浜岡作一及申請人吉原正記の実父吉原三郎治を審尋した。

三、理  由

申請人浜岡作一に対する関係に於て職権を以て案ずるに特別都市計画法第十五条によれば、土地区劃整理のため必要があつて土地区劃整理施行地区内に存する建築物等の移転を命ずるには三ケ月を下らない期間を定めることを要するところ、疎甲第二号証ノ一によれば本件移転命令は昭和二十九年五月四日付で移転期限を同年八月一日と定めて居り定められた期限が三ケ月に満たないものであることが明白である。もつとも疎第一号証によれば被申請人は申請人浜岡に対し同年五月一日付移転通知書と題する書面で本件建築物を移転すべき旨通知して居り、被申請人は右移転通知書の記載と後の移転命令書の記載と相俟つて五月一日付を以て八月一日まで三ケ月の移転期限を定めた移転命令を発したものと解しているもののようである。然し五月一日付の移転通知書は単に移転されたき旨の意思通知に過ぎず特別都市計画法第十五条に所謂移転命令とは解することができない。のみならず同条に所謂期限を付した移転命令は命令者の最終的決意の表明たる最後通告の性格を有するものであり、これによつて受命者に対し命令に従うべき旨の最終的決意を促がすものに他ならない。本件移転命令の如く受命者に対し不利益を課する行政行為の期限については他の行政行為の場合と異り期限なきものについて後から最初の行為を起算点とする期限を指定することによる追完は認められないものと解すべきである。従つて五月一日付移転通知書には期限の定めがないが申請人に対して移転すべき旨が要求されて居り五月四日付の移転命令に於て五月一日から起算して三ケ月の期限を定めたことによつて両方相俟つて五月一日付で三ケ月の期限を定めた移転命令が発せられたものとする解釈は到底容認することはできない。すなわち五月一日付移転通知書は特別都市計画法第十五条に所謂移転命令ではなく五月四日付ではじめて同条に所謂移転命令が発せられたものと見るべきである。

思うに特別都市計画法第十五条の趣旨は同条の移転命令は受命者の意思に反しても執行し得る反面受命者に対しては物心両面に於ける甚大な負担を受忍すべきことを要求するものであることを考慮し移転につきできるだけ充分な準備期間を与える意味で三ケ月を下らない期間を定めることを要すると規定したのであつて、法の所期するところはできれば三ケ月を超える期間を与えるにあるものと解される。従つて右規定は単なる訓示規定ではなくてこの規定に違背する命令は違法であつてその命令に定めた期限が到来しても即時に執行力を生ずるものと解すべきではない。

而してかかる違法なことが明白な移転命令の執行によつてその意に反して所有建築物を除却されることは申請人にとつて償うべからざる損害を生ずる虞があるのみならず、右期限を昨八月一日を以て経過した今日違法執行を受ける危険が目前に迫つて居りかかる命令の執行を停止する緊急の必要があることが認められる反面岡山戦災復興土地区劃整理事業は公共の福祉の見地からも早急の完遂がもとより望ましいが提出された全疎明資料を通じて判断するに申請人浜岡に対する本件移転命令を一時停止してもこれがために土地区劃整理事業全般の進捗に重大な支障を生ずる虞は殆んど認められず却つて本件移転命令の如き基本的人権に重大な影響を及ぼす行政処分について法の適正な運用を保障することは基本的人権尊重の見地に立つわが憲法の下で広義に於て公共の福祉に適合するものというべきである。

よつて行政事件訴訟特例法第十条により申請人浜岡に対する本件移転命令の執行を停止すべきものとする。

次に疎乙第十三号証によれば申請人吉原正記は昭和二十九年七月二十一日本件移転命令の目的物件の移転を完了したことが認められ移転命令は最早執行の必要がなくなつたものと謂うべく同申請人は現在では本移転命令の執行停止を申請する利益を有しないからその申請は不適法としてこれを却下すべきものである。

よつて申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条を適用し主文の通り決定する。

(裁判官 三関幸太郎 藤村辻夫 藪田康雄)

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