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岡山地方裁判所 昭和40年(行ウ)4号 判決 1972年2月10日

岡山市田町二丁目九番二号

昭和四〇年(行ウ)第四、七号、昭和四一年(行ウ)第一、四号

昭和四二年第九号事件原告

岡山勤労者演劇協議会

右代表者委員長

西山亨

玉野市玉仲之町二五九七番地

昭和四〇年(行ウ)第四号、昭和四一年行ウ

第二号事件原告

玉野勤労者映画演劇協議会

右代表者会長

村田竹四郎

右両名訴訟代理人弁護士

豊田秀男

嘉松喜佐夫

岡山市天神町三番二三号

昭和四〇年(行ウ)第四号、七号、昭和四一年(行ウ)第一、二、四号、昭和四二年(行ウ)第九号事件被告

岡山税務署長

和気英男

玉野市宇野

昭和四〇年(行ウ)第四号、昭和四一年(行ウ)第二号事件被告

玉野税務署長

菅沼清高

右両名指定代理人

平山勝信

浜田嘉弘

開阪宗遠

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用中、併合前に生じたものは当該事件の各原告の負担とし、併合後に生じたものは原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

原告ら

被告岡山税務署長が原告岡山勤労者演劇協議会に対し、被告玉野税務署長および岡山税務署長が原告玉野勤労者映画演劇協議会に対し、原告らが開催した別紙記載の催物につきなした別紙記載の入場税および無申告加算賦課決定処分を取消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

被告ら

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二当事者の主張

原告ら

一  原告岡山勤労者演劇協議会(以下、単に、岡山労演という。)玉野勤労者映画演劇協議会(以下、単に、玉野労映演という。)は、いずれも「民族的または民主的演劇の普及と発展」を目的として、その所在の岡山市もしくは玉野市およびその周辺の勤労者、学生、一般市民の手により結成された団体で、右目的を達成すべく、サークル活動を基礎とした民主的運営を組織原則として、勤労者の立場に立つた民主的演劇または映画の上映演、観賞運動を展開し、定期的な映画または演劇を見る会(例会とよばれている。)、作品研究会、講演会、機関紙の発行等多種多様の活動を行つている。

二  ところで、原告らは、被告らが行なつた別紙記載の各例会活動について、例会は入場税法第二条第一項の「催物」に該当し、原告らは同条第二項の「主催者」で原告らの会員は「入場者」であるとして、会員の拠出した会費を同条第三項の「入場料金」とみなして、原告らに対し、それぞれ別紙記載の年月日に、その記載の入場税および無申告加算税の賦課決定処分をした。

原告らは、右に対して、被告岡山税務署長、玉野税務署長に対して、それぞれ所定の法定期間内に異議を申立たが、いずれも棄却されたため、更に、広島国税局長に対し、それぞれ所定の法定期間内に審査講求をなしたが、右申立もいずれも棄却された。

三  被告ら主張の二の事実を認め、同三の事実を否認する。

原告らは、入場税法所定の「主催者」ではないし、その開催する例会は、同法所定の「催物」には該当せず、原告らの会員および会員の納入する会費が同法所定の「入場者」および「入場料金」であるとは言えないから、被告らの原告らに対する前記課税処分は、いずれも違法な処分であつて、取消を免れない。

(一)  人格なき社団は、租税義務の主体とはなり得ない。

人格なき社団は、法的には、団体として権利能力も行為能力も有しないものであり、その活動とは、団体を構成する権利能力と行為能力を有する個人の活動の総和を意味するにほかならないものである。したがつて、人格なき社団に対外的な法律関係が発生するのは、団体を構成する各個人が社団の目的にしたがい、直接、間接に代表者に対して、社会活動をなすにつき発生すると予想される私法的法律関係の内容をなす事項の処理を委任し、代表者は、その受任の権限に基づき、構成員全員の代理人として対外的に私法的法律関係を発生せしめるからにほかならず、この代表者の受任権限に基づく諸活動の結果発生した私法的法律関係の法的効果は、社団を構成する構成員全員に総有的に帰属するものである。このように、人格なき社団とは、社団財産を総有し私法的な義務を総有的に負担しながら、社団目的のために社会的活動をなす構成員全員を指称する講学上の呼称であつて、構成員全員以外に構成員と対立し、構成員とは別個独立して法律関係の当事者となる社団が存するものではない。人格なき社団が「法律上独立した地位にある。」という意味は、右に述べた意味にすなぎいのである。したがつて、原告ら自身も、原告らの会員から別個独立して財産権の主体となり、財産権上の義務の主体となることはできないのであるから、原告ら自身が租税義務の主体となることができないのは当然のことである。

(二)  入場税法上納税義務者は、個人および法人に限られており、人格なき社団は含まれない。

入場税法上納税義務の主体に関する基本的法条は同法第一ないし第三条であり、これ以外に納税義務の主体に関する規定は存在しないところ、租税法は、何ら反対給付を与えることなく国民から財産権を徴収するものであるから、その規定は明確に規定されるべきでいささかの疑義の存在も許されず、その解釈も特に、納税義務者が誰であるかについては厳格になされるべきものであり、同法第二三条、第二五ないし第二八条の五カ条を総合的に判断するならば、同法が納税義務者として予定する主体は、個人および法人に限ると解すべきである。

同法第八条別表上欄第四は「社会教育法第十条の社会的教育関係団体」と規定し、社会教育法第一〇条は「この法律で「社会教育関係団体」とは、法人であると否とを問わず、公の支配に属しない団体で社会教育に関する事業を行なうことを主たる目的とするものをいう」と規定しているのであるが、社会教育法は、当該団体に対して、その求めに応じ専門的技術的指導または助言を与え、さらに当該事業に必要な物資の確保につき援助を行なうよう配慮することを規定し、右につき政策的かつ一方的な配慮をほどこそうとしているにすぎないのであるから、その点国民から一方的に「奪う」租税法規とは性格を全く異にしている。したがつて、入場税法上「社会教育関係団体」なる規定は、入場税法独自の立場で解釈すべきであり、前記別表上欄第一の「児童、生徒、学生又は卒業生の団体」とともに、法人格を有するものについてのみ同法第八条が適用されるべきものと解するのが相当なのである。「それは、同法第八条第一、二項には「別表の上欄に掲げる者」と規定して、税法上において慣行的に個人および法人の如き人格者を指称する「者」なる用語が使用されていることからも明らかである。

(三)  本件課税処分の対象となつた原告らの例会は、入場税法第二条第一項の「催物」に該当しないから、同条第二項の「主催者又は経営者」は存在しないし、同条第三項の「入場者」および「入場料金」なるものも存在しない。

前記(一)で述べたように、原告らの代表者は、原告らの構成員全員を代理して、興行場等を借り受ける契約、出演契約、印刷物等の請負契約を締結し、関係諸経費の支払等対外的な法律行為をなすものであつて、右の契約をなし関係費の支払等をなすものは原告らの会員全員である。原告らの例会は、右のようにして行なわれる対外的法律行為によつて設営された演劇を、原告らの会員が観賞する対内的事実行為にすぎないのであつて、原告らの例会を行なう主体は、原告らを構成する会員全員であり、同時に右の特定した会員のみが排他的にこれを観賞することができるのであるから、右の例会は「多数人にみせるもの」でなく、「多数人にみせ」ている第三者さらにはその第三者から「見せられたり」する多数人なるものは存在しない。したがつて、原告らの例会は、入場税法第二条第一項所定の「催物」には該当しないし、例会観賞の場において、会員個人とは別個独立した第三者に対しての人格なき社団が同条第二項所定の「主催者又は経営者等」として介在する余地も全く存しない。また、会員のきよ出する会費も、会員たる資格を取得しこれを存続せしめる条件であり、かつ、原告らの例会観賞を含む労演運動に要する経費の分担金であつて、同条第三項所定の入場の対価としての「入場料金」ではないし、会員が同項所定の「入場者」となるものではない。

被告ら

一  原告ら主張の一、二の事実は認める。

二  原告らは、昭和二四年以降全国的に展開されているいわゆる労音労演運動の一環として、岡山労演において昭和三〇年一〇月、玉野労映演において昭和三七年七月に結成され、その活動を続けている団体で、その規約によれば「働く者の映画、演劇を押し進めることによつてその理解を深め民族的民主的映画演劇の発展をめざす」ことなどを目的とし、右目的遂行のため定例映画演劇会(いわゆる例会)等を開き、映画演劇に関する批評会、講座、研究会、機関紙その他資料を会員に配布するなどの活動をすることを事業とすることを語つているが、その事業のうちの主要な部分は右の例会活動である。

そして、原告らは、別紙記載のとおり、昭和三八年三月から昭和四一年一一月までの間に、例会を開催して右に記載の演劇、映画を上演したもので、その入場人員および領収した入場料金(税込)は右に記載されているとおりである。なお、昭和三八年三、五、一〇、一一月分については、右の催物開催に要した経費、すなわち、会場の賃借料、舞台装置費、出演者の報酬(宿泊費を含む)および広告宣伝費等催物の開催その他会場等に入場させるために直接要した経費を領収した入場料金、その催物の会場の定員(通常入場させることができる人員)の数を入場者数とし、右入場料金を入場者数で除して一人当りの入場料金の額(税込)としたものである。

しかしながら、原告らはいずれも、右入会につき、入場税を申告しないため、被告らは、右入場料金に基づき別紙記載の入場税および無申告加算税賦課決定処分をなしたものである。

三原告らの開催する例会は、入場税法第二条第一項の「催物」に該当し、原告らは同条第二項の「主催者」で、原告らの会員および会員の支払う会費は、それぞれ同条第三項の「入場者」および「入場料金」に該り、本件課税処分に違法はない。

(一)  原告らは、三名以上の会員をもつて構成されるサークルを基礎組織とした団体で、規約により、最高議決機関として総会(玉野労映演においては代表者会議という。以下同じ。)を、執行機関として委員会(玉野労映演においては運営委員会という。以下同じ。)を設け、委員会の中に原告らの代表者として委員長(玉野労映演においては会長という。以下同じ。)を置き、その統括下に事務局を設けて原告らの事務を掌らせている。総会は、各単位サークルの代表者により構成され、そこにおいて多数決のもとに運動方針等の決定がなされ、委員会においてその運営方法が決定され、委員会のもとにある専門部において実施されることになつている。また、会員は、入会金と会費を納付することにより誰でも入会することができるとともに、脱会も自由である。このように、原告らは、会員を構成員として、団体としての一定の基本組織を定めて、意思決定機関、執行機関を設け、構成員たる会員の増減変動とは無関係に団体としての統一性を持続しているいわゆる人格なき社団であると言わなければならない。

そして、原告らは、その設立目的を達成するために演劇等の上演開催すなわち例会活動をその主要業務としているのであるが、右の例会を主催する者は、社会的現象としては、統一性ある団体として実在し、その構成員たる個々の会員とは独立の存在として活動している原告らにほかならず、出演者と交渉し、会場を選定して借り受ける等の準備をし、例会当日までの宣伝、印刷、会費の徴収、座席整理券の交付等の事務を進めるのは、右の実体を備えた原告らである。そして個々の会員は、毎月会費を原告らに納入するのであるが、右の会費は、会員が例会を観賞するための費用すなわち入場料金にほかならない。すなわち、会員は、事前に決定している当該上演種目を観賞しようと思えば、引き続いて会費をサークル代表者を通じて納入し、座席指定引換券の交付を受けて、会場に入場することができ、また、観賞したくなければ、会費を納めずに脱会し、次の例会の際、入会金と会費を納めて再び会員となることができ、あるいは、脱会せずに会費を納め、交付を受けた座席指定席引換券を他人に贈与することもできる。また、会員でないもので例会の観賞を希望する者は誰でも、入会金と会費を納めて既存のサークルに所属するか、新たにサークルを結成するかして会員となり、あるいは、右により会員となることができない者は、個人として会員になることができ、例会を観賞することができる。このように各会員は例会ごとに当該会費(新規会員は入会金を含めて)を支払うことによつて原告らの主張する例会会場に入場し、演劇等を観賞することができるのであつて、例会開催について収益が出たからといつてその当時の会員に分配するわけでもなく、また、欠損が出たからといつてその当時の会員に追徴するわけでもなく、会員は、会費を納入することにより、いわゆる前売券に該当する座席指定席引換券の交付を受けているにすぎないのである。

また、入場税法第二条第一項の「催物」とは、多数人に見せ、または聞かせるものであれば、それが特定人か不特定人かは問わないところであつて、団体等が構成員の総合的意見に基づいてその希望する演劇等を上演し会員に観賞させたとしても、同項所定の「催物」たることを妨げるものではなく、会員が協同して演劇等を企画し立案する等のいわゆる「自立的運営」は団体運営上の特良たるにすぎないものである。

したがつて、原告らの行なう例会は、入場税法第二条第一項の「催物」に該当し、原告らは同条第二項の「主催者」に会員および会員の納入する会費は同条第三項の「入場者」「入場料金」に該当するものと言わなければならない。

(二)  入場税法上の納税義務者には、人格なき社団も含まれることは明らかである。

納税義務者について、各種税法のうち所得税法、法人税法、相続税法等においては「法人でない社団又は財団で管理人又は代表者の定めがある」人格なき社団または財団が納税義務者となる旨明文をもつて定めているのに対し、入場税法は納税義務者を「経営者」又は「主催者」と規定しているのみであるが、これは、所得税法等がいわゆる直接税法で法文上納税義務者として「法人」あるいは「個人」とかの人格性を明記し、これを基礎として条文を構成しているからであり、また、入場税はいわゆる間接税の一種で、興行場等への入場について、その娯楽的消費支出に担税力があると認め、入場料金なる経済的負担に対して課せられるものであり、納税義務者は入場者から課税対象となる入場料金を領収する者として規制されているのであるから、納税義務者が法人格を有するか否かは重要な意味を持つものではなく、入場税法にいう主催者についてみれば、社会生活上の統一的活動体として、その名において当該興行場等をその経営者、所有者から借り受ける契約、演技者等との出演契約等契約当事者として活動し、現実に催物を行ない入場者から入場料金を領収する等法律関係の主体たりうる地位を有するものであれば足りると言わなければならない。しかも、入場税法は、同法第八条において、免税興行に関し、人格なき社団をも掲げあるいは通常法人格を有しない団体を掲げており、このことからしても、入場税法上人格なき社団も納税義務者となることは明らかである。

第三証拠

原告ら

甲第一ないし第四〇号証を提出し、証人山室啓爾、黒川隆紀、吉田加津代の各証言、原告岡山勤労者演劇協議会代表者本人尋問の結果を援用し、昭和四〇年(行(ウ))第四号事件において提出された乙号証の各成立を認め、昭和四〇年(行ウ)第七号事件において提出された乙号証のうち、第三号証、第七ないし第九号証、第一二、一五、一七、一九号証の成立を認め、第一四、一八号証がそれぞれ被告主張のポスターを撮影した写真であることを認め、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。

被告ら

乙第一ないし第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし三、第一六、一七号証の各一ないし四、第一八、一九号証(以上、いずれも、昭和四〇年(行ウ)第四号事件において提出分)、第一ないし第二〇号証(以上、いずれも、昭和四〇年(行ウ)第七号事件において提出分)を提出し、そのうち第一四号証は岡山労演五月例会「泰山木の木の下で」と題するポスターを、第一八号証は同七月例会「欲望という名の電車」と題するポスターを撮影したものであると付陳し、証人松本進、有木恒与、安原了の各証言を援用し、甲第二三ないし第三〇号証の成立を認め、その余の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

一  原告らが、当事者双方の主張のような設立目的のもとに設立された、その主張のような組織を備えた団体であることは当事者間に争いがない。

右事実に、成立に争いのない甲第二四ないし第三〇号証、乙第四ないし第一一号証、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし三、第一六、一七号証の各一ないし四(以上、乙号証は、昭和四〇年(行ウ)第四号事件における提出分)、乙第三号証、第七ないし第九号証、第一二、一五、一七、一九号証、被告主張のポスターを撮した写真であることにつき争いのない乙第一四、一八号証(以上、昭和四〇年(行ウ)第七号事件における提出分)、証人山室啓爾の証言により真正に成立したものと認められる甲第一ないし第五号証、証人山室啓爾、吉田加津代、黒川隆紀、松本進、有本恒与、安原了の各証言、原告岡山勤労者演劇協議会代表者本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

原告らは、いわゆる労音労演運動の一環として、それぞれ被告主張の頃設立された「演劇の理解を高め演劇を通じて豊かな教養を培うために演劇を継続的に観ること、勤労者間に民族的、民主的演劇の普及と発展をめざすこと」等を目的とした団体で、三名以上の会員をもつて構成されるサークルを基本組織とし、会員はいずれかのサークルに所属することを原則としている。そして、その機関としては、最高の意思決定機関として、一〇名に一名の割合(サークル内の会員数が一〇名以下の場合はそのサークル一名の割合)で選出された代議員(玉野労映演においては代表者という。以下、同じ。)をもつて構成する総会(玉野労映演においては代表者会議という。以下、同じ。)を設け、右総会により原告らの各年度における方針、例会作品、会費等について多数決により決定するとともに、執行機関として運営委員会を設け、同委員会において、総会において決定された事項を具体的に執行する。運営委員会は、総会において選任された委員長、副委員長(玉野労映演においては、会長、副会長という。以下、同じ。)、事務局長、会計監査委員その他の委員により構成され、委員長が原告らの代表者として一切の会務を統括する。また、原告らの業務の運営について、運営委員会を補助して一切の事務を行なうため、運営委員会の統括の下に事務局、事務局長、事務員等を置いている。原告らの財政は、会員の納入する入会金、会費のほか寄付金等でまかない、会計年度を毎年四月一日から三月三一日までとしている。そして、一般人が原告らの会員となるには、特に資格は要せず、入会金および会費を納めて、既存のサークルに所属するか、あるいは三名以上一緒になつて新サークルを作ることにより誰でも入金することができ、脱会も自由でいつでも脱会できるほか会費を二ケ月(玉野労映演においては三ケ月)以上未納した場合には脱会となる。ところで、原告らにおいては、機関紙の発行、研究会の開催、レクリエーシヨン行事等をも行なつているが、原告らの業務のうち最も主要な実務は、設立目的からも明らかなように、定期的(原則として、岡山労演においては二ケ月、玉野労映演においては三ケ月に一回)に演劇等を上演し会員にそれを観賞する機会を提供するといういわゆる例会開催にある。右例会開催にあたつては、前年度において計画が樹てられ、上演種目、上演劇団等について、最終的には総会において決定され、それに基づいて運営委員会およびその統括下にある事務局において具体的に運営されているものであり、それにいたる経過において、勤労者の演劇に対する理解を深める等の設立目的をより達成するために、運営委員会内部に設けた企画種目等の資料をサークルに回してアンケートをとりあるいは会員相互における討議を経た後その希望を集約し、更に、劇団および西日本の各労演の意見調整するなどして、上演種目、上演劇団等について会員の希望や趣向が反映されるように考慮されている。原告らと劇団との出演交渉については、右の西日本の各単位労演の意見を調整する西日本総会において各単位労演の代表者および劇団の当事者との間で討議され、その時出演料等も決められるもので、例会会場の借り受け、その使用料の支払、劇団の出演料、宿泊料等の支払等は、一切原告らにおいて行なつている。原告らの会員が、例会に出席し演劇等を観賞するには、所属サークルを通じて会費を納入し、それと引換えに整理券(座席指定席引換券)の交付を受け、これを例会当日会場に持参して呈示し入場するのであるが、自己の希望する上演種目が上演されないときは、会費を納めないことによつて自由に脱会することができ、更に、一度脱会した者あるいは従来会員でなかつた者も観賞したい上演種目が上演されるときは、新たに会費のほか入会金(昭和三八年当時において五〇円と僅少な額である。)を納付することにより会員となり(所属するサークルの知りあいがない時は、事務局のサークルに所属するというかたちで個人の加入も認められている。)観賞することができるし、加えて、整理券さえ持参すれば会員でなくても例会会場に入場できる実情にある。しかも、当該例会開催に要した費用が当該例会の前に会員が納入した会費および入会金の合計額より超るような場合であつても、その当時の会員らに対して追徴するということはない。そして、原告らのサークル数は、昭和四一年当時において、岡山労演が二二〇サークル(会員数は二〇〇〇名を超える。)、玉野労映演が七〇サークルの多数にのぼつており、原告らの主要財源は、会員の納入する入会金および会費で、そのほとんどは例会開催の費用に費やされており、研究会、レクリエーシヨン等の費用は、ほとんど各会員の負担となつている。

以上のように認められ、他に、右認定を覆えすに足る証拠はない。

右事実からすれば、まず、原告らは、団体としての組織を備え、意思決定に多数決の原則が行なわれ、個々の構成員の入会、脱会いかんにかかわらず団体が同一性を失うことなく存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体として存立するに必要な点を具備しているものであつて、いわゆる人格なき社団といわなければならない。

二  ところで、人格なき社団とは、法的には権利能力も賦与されておらずしたがって行為能力も有しないものではあるが、社会的には、前述のような組織を備えた、社団として社団法人と同様の団体であり、個々の構成員とは別個独立の社会的実在として認められうるのであつて、法的にも、権利能力は有しないものの社団法人に関する規定の準用を受けるものと考えるべきで、社団の意思決定は総会により行ない、具体的行動は代表者を通じて、社団自らの名において、契約を締結し、責任を負うのであつて、人格なき社団は、個々の構成員の個人財産とは切り離された社団財産を構成員の総有というかたちで所有するものである。

原告は、人格なき社団とは、権利能力を有せず、対外的にはその代表者が構成員全員の代理人として私法的法律関係を発生せしめるのであつ、個々の構成員とは別個の存在たる社団が存在するものではないし、納税義務の主体とはなりうるものではないと主張するのであるが、しかし、人格なき社団なる概念は、法的には権利能力は有しないが社会現象上個々の構成員とは別個独立した存在である社団を、法的にも法人格という構成を用いることなく、他の法律上の概念を用いて個々の構成員とは切り離し、結果的には法人格を認めたのと同様の結果に達しようとすべく考えられてきたものであつて、そのために、個々の構成員個人の財産とは切り離された社団財産なるものを、構成員の総有に帰属するものとして認められているのである。このような個々の構成員個人の財産とは切り離された財産をもつ人格なき社団に対して、法律により権利義務の主体となりうる地位を賦与するかあるいは納税義務の主体となすかは立法政策の問題であり、人格なき社団であるが故に納税義務の主体とはなりえないとは言えず、人格なき社団が納税義務を負うものであるか否かは、当該租税法規の解釈により定まるものと言わなければならない。

三  そこで、入場税法上人格なき社団が納税義務を負うか否かについて検討してみるに、入場税法の規定自体からは納税義務者すなわち同法第三条所定の「経営者」または「主催者」に人格なき社団が含まれるのか必ずしも明白ではないが、しかし、右の「経営者」または「主催者」なる用語は、必ずしも人格なき社団を排除するものとは考えられないうえ、元来入場税は、興行場等への入場者の娯楽的消費支出についての担税力があるものとみて課税するいわゆる間接税であつて、実質的負担者は消費支出する入場にほかならず、「経営者」または「主催者」が納税義務者とされているのは、徴税上の便宜にほかならない。したがつて、社会現象上の個々の構成員とは別個独立の存在で、社団として社団法人と同様の構成員とは別個独立の存在で、社団として社団法人と同様の実体を備え、法的にも個々の構成員個人の財産とは切り離された財産を認めうる限り、右のような団体を納税義務者となすことは不合理ではなく、納税義務者が法人であるか個人であるかあるいは人格のない社団であるかは入場税法において重要な意味をもたないものと言うことができる。しかも、同法第八条第一項に規定する免税を受ける者について、同法別表の上欄には、「児童、生徒、学生又は卒業生の団体」、「学校の後援団体」、「社会教育法第十条の社会教育関係団体」等むしろ通常法人格を有しないものが多いものと考えられる団体が掲げられているうえ、右の社会教育法第一〇条は「この法律で「社会教育関係団体」とは、法人であると否とを問わず、公の支配に属しない団体で社会教育に関する事業を行なうことを主たる目的とするものをいう。」と規定していること等を考え合わせると、入場税法上人格なき社団も納税義務の主体として予定せられているものと解するのを相当とする。

四  次に、原告らが行なう例会活動が入場税法所定の課税対象となりうるか否かについて検討してみるに、さきに認定した事実に徴すれば、原告らがその主要業務として行なう例会は、「演劇を継続的に観ること」により会の目的を遂行すべく行なうものであり、右の人格なき社団である原告らが、団体として、例会会場を借り受け、劇団と出演契約を結び、会員の個人財産とは切り離された社団の財産(会員より徴収した入会金および会費等)でもつてその費用の支払いをなし演劇等を上演しているのであつて、右は、個々の会員とは別個独立の社会的存在である原告ら自身が、会員である多数人に観賞させるために主催したものにほかならない。そして、例会において上演する演劇等は入場税法第二条第一項に規定する「催物」にほかならず、それを主催する原告らは同条第二項の「主催者」、観賞する多数の会員および会員が納入する会費は同条第三項に規定する「入場者」および「入場料金」にそれぞれ該当するものと言わなければならない。

もつとも、前顕各証拠によれば、原告らが例会を開催するについて、その上演種目等を決定するにつき会員の希望や趣向が反映されるように考慮されているほか、サークルあるいはサークルブロツクごとに上演種目の研究会を開く等の活動をして会員の演劇への理解を深め、あるいは、例会当日、会員が会場の整理等に携わつていることが認められるのであるが、右事実をもつてしても、これが前記認定の妨げとなるものでもない。

原告らは、当会の本質は、演劇を自分達の手で企画し、これを安い費用で観賞するために実費を持ち寄り、会員各自が協同して上演し、会員各自が観賞するところにあるのであつて、例会は、いわば会員全員が主催者であると同時に入場者であり、観せる側と観る側の対立はないのであるから入場税法第二条所定の「主催者」、「入場者」、「入場料金」には該当しないし、特定の会員が観賞するのであるから同条所定の「催物」にも該当しないと主張するのであるが、さきに認定したとおり、原告らは会員とは別個独立の社会的存在を有する人格なき社団として、会員である多数人に観賞させるために主催したものと言わざるを得ず、また、前記認定事実からして、原告らが会員より徴収する会費は、会員らが例会の上演種目を観賞するための入場の対価たる性質を有すると言わざるを得ないし、入場税法第二条所定の「催物」は多数人に観賞させるものであれば、その特定、不特定を問わないものと言うべきであるから、原告らの主張はいずれも理由がない。

五  そうすると、原告らが別紙記載の例会を開催して、その記載の入場人員が入場し、その記載の入場料金相当額(税込)を領収したこと、右につき入場税の申告をしていないことは当事者間に争いがないから、入場税および無申告加算税は別紙記載のとおりとなり、本件課税処分は何ら違法はないと言わなければならず、結局、原告らの本訴請求はいずれも理由がなく、棄却を免れない。

よつて、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 裾分一立 裁判官 米沢敏雄 裁判官 近藤正昭)

岡山労演(岡山税務署長による処分)

<省略>

玉野労映演(玉野税務署長による処分。ただし、39.11開催のものについては、岡山税務署長による処分。)

<省略>

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