岡山地方裁判所 昭和41年(ワ)73号 判決 1970年1月29日
原告 浅野静夫
右訴訟代理人弁護士 河田清次
被告 宮本耕佐
右訴訟代理人弁護士 小倉金吾
主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
一、当事者の求めた裁判
(一) (原告)
一、被告は原告に対し別紙目録記載の宅地中別紙図面ホヘトチリヌルオワカヨタレソホの各点を順次結んだ線で囲まれた宅地(以下本件宅地という)を、その宅地上にある別紙図面①の木造瓦葺平家建一棟床面積約四九、五八平方米の家屋、同②の木造瓦葺平家建家屋一棟床面積約二三、一四平方米の家屋、および同③の木造瓦葺平家建家屋一棟床面積三二、七二平方米の家屋(以下本件各家屋という)をいずれも収去して、明渡せ。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
三、担保を条件とする仮執行宣言。
(二) (被告)
主文同旨。
二、請求原因
(一) 原告は、本件宅地を所有する。
(二) 被告は、本件宅地上に本件各家屋を所有して、本件宅地を占有している。すなわち、原告はもと訴外亡寺尾甚太郎に本件宅地の一部分を賃貸し、同訴外人は本件各家屋の一部分を建築し、その子訴外高橋房江に本件宅地のその余の部分を賃貸し、同訴外人は本件各家屋のその余の部分を建築したが、訴外高橋は訴外寺尾からその所有家屋を買取り、本件各家屋全部の所有権を取得してのち、これを訴外井上武治に売却し、同訴外人はこれをさらに被告に売却したものである。
(三) よって、原告は被告に対し、本件各家屋を収去して本件宅地を明渡すことを求める。
三、答弁
請求原因事実中(一)の事実は不知、同(二)の事実は否認する。
四、証拠≪省略≫
理由
一、本件宅地が原告の所有であることは、原告本人尋問の結果により認められ、これに反する証拠がない。そして、原告本人尋問の結果および被告第一、二回各尋問の結果によれば、本件各家屋が別紙図面記載のとおり存在し、被告が本件各家屋を店舗、これに伴う倉庫および従業員宿舎のために利用していることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠がない。
二、そこで、右のような被告の本件各家屋の占有利用行為がそれだけで原告の宅地所有権を侵害するものであるか否かにつき検討しなければならない。
一般に、家屋の占有利用行為がそれだけでその敷地所有権を侵害しているといえるのは、その利用者が家屋の所有権をも有する場合に限られると解すべきである。なぜなら、家屋の利用者が家屋の所有者からこれを賃借している場合のように、他に家屋の所有者がいる場合には、家屋の利用者は家屋の敷地を独立に占有するものでなく、したがって家屋利用者が家屋所有者とは独立に家屋の敷地を侵奪してその所有権を侵害していると解することは背理であるからである。なお、家屋利用者が敷地所有者の家屋所有者に対する家屋収去土地明渡の執行を妨げまたは妨げるおそれある場合に、敷地所有者は家屋利用者に対して妨害排除または妨害予防の請求権を取得することはいうまでもない。しかしながら、本訴請求にこのような請求が含まれているとは解しがたい。それゆえ、本件においては、原告の宅地所有権の侵害の有無は被告が本件各家屋を所有しているか否かにかかっている、といわなければならない。
そこで、被告が本件各家屋を所有しているか否かにつき検討する。被告が本件各家屋を所有しているという主張にそう直接証拠として原告本人尋問の結果および証人浅野政子の証言があるが、原告本人の供述は、被告が本件各家屋を前主たる訴外井上武治から買ったことを確かめたという抽象的な供述に終っているばかりでなく、その直前の供述中には本件各家屋の所有者は本件宅地の直接の借主たる訴外亡寺尾甚太郎と思う旨の供述がみられ前後矛盾しており、また証人浅野政子の証言中訴外高橋房江が訴外井上武治に本件各家屋を売却した旨の証言があるが、これは証言全体からみて推測の域を脱するものではない。このように、原告本人尋問の結果および証人浅野政子の証言はそれ自体証明力が乏しいのみならず、証人高橋房江および同井上武治の各証言ならびに被告第一、二回各尋問の結果、これにより真正に成立したものと認められる乙第一号証に照し、にわかに措信できない。傍証として証人久保田リカの証言があるが、その証言には訴外高橋房江と訴外井上武治との間で本件各家屋の取引が同証人方でなされた旨述べるのみで、その取引の内容が売買であったか賃貸借であったか明瞭でないばかりでなく、同証人は右取引に関与したのではなくたんに自宅を取引の場所に提供したにすぎないことが証言自体から明らかでありさらに、成立に争いのない甲第六号証の一、二、同第七号証の一、二、同第八号証および証人高橋房江の証言によれば本件各家屋のうち同証人の父たる訴外亡寺尾甚太郎の所有であった部分を同証人が買ったことが認められるが、右証人久保田リカの証言および右認定事実はその他の本件全証拠を考え併せても本件各家屋が訴外高橋房江、訴外井上武治、被告と順次売却されたことを推認させるに足りない。
それゆえ、結局、本件全証拠をもってしても被告が本件各家屋を所有していることを証するに足りず、被告は本件各家屋の利用行為によって原告の本件宅地所有権を侵害しているとは認めがたい。
三、以上の理由により、原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 東孝行)
<以下省略>