岡山地方裁判所 昭和52年(ワ)652号 判決
【主文】
一 被告は原告に対し、七一三万七一二九円及びこれに対する昭和五二年一一月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は一〇分し、その七を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
【事実】
「第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、左記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)の設定の登録を受けた者である。
記
考案の名称 葉たばこの懸吊り器
出願日 昭和四〇年九月二一日
出願公告の日 昭和四四年一月二五日
登録日 昭和五〇年一月二三日
登録番号 第一〇六六五九四号
2 本件考案の登録出願の願書に添付した明細書に記載された「実用新案登録請求の範囲」は、「断面コ字形に屈曲するとともにその上下面の端部を垂直に屈折して補強面55′を設けたスチール製支杆1の垂直面2に多数の切抜孔3を穿つて舌片4を起立させ、その垂直面で葉柄を挾むようにするとともに挾圧子7の両脚にて支杆1の外側から挾圧して成る葉たばこの懸吊り器」というものである。
3 本件実用新案権は、熱をよく伝導させ通風を良好にして葉たばこの葉柄の乾燥を敏速にするとともに、乾燥室内で安定よく葉たばこを吊すようにする葉たばこ懸吊器を得ることを目的とするものである。
(一) 本件考案は、次の構成要件からなる葉たばこ懸吊器である。
(1) 断面コ字形に屈曲するとともにその上下面の端部を垂直に屈折して補強面55′を設けたスチール製支杆1の垂直面2に多数の切抜孔3を穿つて舌片4を起立させ、
(2) その垂直面で葉柄を挾むようにするとともに
(3) 挾圧子7の両脚にて支杆1の外側から挾圧して成る。
(二) 本件考案の作用効果は次のとおりである。
(1) 本件考案の支杆は、断面コ字形に屈曲するとともにその上下面の端部を垂直に屈折して補強面を設けたことで堅牢であるばかりでなく、乾燥室の左右の側壁に取り付けた桟に支杆の平らな下面を乗せると、支杆は安定よく桟の上に支持されて転動することはない。
(2) 支杆はスチール製であるから、乾燥室内の温度をよく伝えて葉柄を熱するばかりでなく、舌片にささつた葉柄は舌片の長さの方向に裂けて内部の水分を蒸発させ、そのうえ舌片の切抜孔から空気が流通するので、葉柄は敏速にしかも十分乾燥することができる。
(3) さらに、葉柄は挾圧子の両脚により両支杆の補強面を介して押圧されるので、内部から液汁が滲み出てその乾燥を促進し、しかも脱落する憂いもない。そして支杆は補強面を押されるので、挾圧子の強い弾圧力によく堪えて曲がることがない。そのうえ挾圧子はその脚部がコ字形支杆の外側の補強面の間に形成する凹所に係止するので、支杆から離脱することなく確実に挾圧する。
4 被告は、昭和四九年三月一日から別紙図面及び同説明書記載の葉たばこの乾燥用懸吊器(以下「(イ)号製品」という。)をパンチハンガーの名称で、業として製造販売している。
5 (イ)号製品は、次のような構成上の特徴及び作用効果を有している。
(一) 構成上の特徴
葉たばこ懸吊器であつて、
(1) 断面コ字形に屈曲するとともにその上下面11′(番号は別紙図面に付されたものを示す。以下同じ。)の端部をほぼ垂直に屈折して補強面22′を設けたスチール製支杆の垂直面3の中央に、長手方向に一列にほぼ三角形状の多数の切抜孔4′を穿つて大舌片4を起立列設し、その大舌片4の列の両側に、ほぼ平行にそれぞれ一列に多数のほぼ三角形状の切抜孔5''5'''を大舌片4の間の位置に交互に穿つて小突片55′を起立列設させ、
(2)支杆の垂直面3と、断面コ字形に屈曲するとともにその上下面66′の端部をほぼ垂直に屈折して補強面77′を設け、垂直面8の中央に、長手方向にV字溝9を設けたスチール製支杆の垂直面8をもつて、葉たばこ13の葉柄14を挾むようにするとともに
(3) 挾圧子の両脚部先方の凸曲部1111′で支杆の外側から挾圧して成る。
(二) (イ)号製品は、(一)の構成上の特徴を有することによつて前記3の(二)記載の本件考案の作用効果と同一の作用効果を有するものである。
6 (イ)号製品は、本件実用新案権の考案の構成要件を具備している。
(一) 前項(一)(1)は、3(一)(1)の要件を充足している。
ただ、(イ)号製品の場合には、舌片が三列となり大舌片の両側に小舌片が存在する点において本件考案の場合と相違するかのようであるが、本件考案では舌片の配列形状等は特定していないのであるから、右の要件を充足することにかわりはない。
仮に、右の点が相違するものであるとしても、本件考案の構成要件を利用している。
(二) 前項(一)(2)は、3(一)(2)の要件を充足している。
ただ、(イ)号製品の場合には、両支杆を用いており、支杆は本件考案の支杆1とその構造を異にする点において、本件考案の場合と相違するかのようであるが、本件考案では双方とも同一構造の支杆に限るとは限定しておらず、本件考案の支杆1には同様の構造を有する他の支杆を重合する場合に限らず、舌片を備えないスチール製支杆や単なる帯状金属板を重合して用いてもよいのであるから、右の要件を充足する。
(三) 前項(一)(3)は、3(一)(3)の要件を充足している。
(四) なお、(イ)号製品において、支杆が大小舌片を有し、支杆がV字溝を有することによつて生ずるであろう作用効果は、本件考案の有する作用効果に加えて生ずる付随的なものに過ぎない。
(五) よつて、(イ)号製品は本件考案の構成要件のすべてを具備しており、また、その作用効果も本件考案のそれと同一であるから、(イ)号製品は本件考案の技術的範囲に属するものであり、被告は(イ)号製品を業として製造販売することにより原告の本件実用新案権を侵害した。
7(一) 被告は、故意又は過失により、昭和四九年三月一日から(イ)号製品を別表(一)記載のとおり製造販売して本件実用新案権を侵害したが、これによつて被つた原告の損害は、被告の利益額をその損害額と推定する方法によれば、同表損害額欄記載のとおり七七七万八三九一円となる。
(二) また、原告は本件考案に係る原告製造の葉たばこ懸吊器(以下「原告製品」という。)を長野農業資材株式会社(以下「長野農業資材」という。)に販売していたが、被告が長野県内で(イ)号製品を安売りしたため、正規の販売価格から値引きして販売せざるを得なくなり、これによつて原告は値引額相当の損害を被つた。その損害額は別表(二)のとおり五一八万五〇〇〇円である。
(三) そこで、原告は被告に対し、右(一)の損害額七七七万八三九一円の六〇パーセントに相当する四六六万七〇三四円と、(二)の損害額五一八万五〇〇〇円との合計額九八五万二〇三四円を請求する。
8 よつて、原告は本件実用新案権に基づき、被告に対し、九八五万二〇三四円及びこれに対する実用新案権侵害行為の後である昭和五二年一一月二一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」
【理由】
一請求原因1ないし3の事実は、<証拠>によりこれを認めることができ、同4(但し、(イ)号製品の製造販売の始期の点を除く。なお、この点は後述する。)及び同5(一)の事実は当事者間に争いがない。そして、同5(二)の事実は弁論の全趣旨によりこれを認めることができる(但し、(イ)号製品自体に特有の作用効果が存するかどうかは暫く措く。)。
二そこで、(イ)号製品の構成を本件実用新案の構成要件と対比することによつて、(イ)号製品が本件実用新案権の考案の構成要件を具備しているかどうかを検討する。
1 まず、(イ)号製品の構成上の特徴である請求原因5(一)(1)の事実と本件考案の構成要件である同3(一)(1)の要件とを対比するに、(イ)号製品のスチール製支杆と本件考案におけるスチール製支杆1とでは、断面コ字形に屈曲するとともにその上下面の端部を垂直に屈折して補強面を設けている点において同一であり、また、両支杆ともその垂直面に多数の切抜孔を穿つて舌片を起立させている点においても同一であることが認められる。もつとも、(イ)号製品のスチール製支杆では、大舌片の両側に小舌片が存在する形で、大小二種類の舌片が三列にほぼ平行に起立している点で本件考案と相違することが認められるけれども、少なくとも大舌片が葉たばこの葉柄を突き刺して、葉柄内部の水分を蒸発させること及び舌片の切抜孔から空気が流通することから葉柄が敏速かつ十分に乾燥できるという作用効果を有し、また本件考案においては舌片の配列形状は特定されていないことが認められるから、右相違をもつて前認定を覆すことはできない。
2(一) 次に、(イ)号製品の構成上の特徴である請求原因5(一)(2)の事実と本件考案の構成要件である同3(一)(2)の要件とを対比するに、(イ)号製品においてはスチール製支杆と同のそれぞれの垂直面で葉柄を挾むようになつているのに対し、本件考案においては単に「その垂直面で葉柄を挾むようにする」ことが構成要件となつている。そこで、本件考案における「その垂直面」が、何を指しているのかが問題となる。すなわち、断面コ字形に屈曲するとともにその上下面の端部を垂直に屈折して補強面を設けたスチール製支杆の垂直面を意味するのか、又は右同様の構造に加えて垂直面に多数の切抜孔を穿つて舌片を起立させたスチール製支杆の垂直面を意味するのか、さらに、葉柄を挾むものが、双方ともスチール製支杆であることを要するのか、仮に要するとした場合双方とも同一構造でなければならないか又は一方のみスチール製支杆であれば足りるのか等、が問題となる。前掲甲第一号証によると、本件実用新案は、前記のとおりその登録請求の範囲には「その垂直面で葉柄を挾むようにする」との記載があるに過ぎないが、その詳細な説明欄においては「支杆1の(中略)舌片4に葉たばこの葉柄を突き差して並べ次に他方の支杆1の垂直面2をこれに重合し支杆11の両端外側を挾圧子(中略)により挾着する。」(実用新案公報2欄一行目から五行目まで)とか、「葉柄は挾圧子(中略)により両支杆の補強面55′を介して押圧される」(同2欄一七行目から一九行目まで)とか、又は「挾圧子7はその脚部がコ字形支杆の外側の補強面55′の間に形成する凹所に係止する」(同2欄二三行目から二四行目まで)とかの記載があり、また、同公報添付図面第2図には舌片を備えないコ字形スチール製支杆が図示されている。さらに、<証拠>によると、本件実用新案の出願公告後にされた株式会社木原製作所、鈴木重武及び西武の各実用新案登録異議申立に対し、原告は自らの出願の要旨が二本の支杆と挾圧子から構成されるものであり、しかも右支杆は双方とも補強面を有する断面コ字形に屈曲したスチール製支杆である、と主張して、右異議申立人らの引用例とは相違する旨答弁していることが認められる。
以上の事実に、前認定に係る本件考案の目的及び作用効果を総合すると、葉柄を挾むものは、断面コ字形に屈曲するとともにその上下面の端部を垂直に屈折して補強面55′を設けたスチール製支杆1の垂直面と、右同様の構造に加えて垂直面2に多数の切抜孔3を穿つて舌片4を起立させたスチール製支杆の垂直面とで葉柄を挾むようにすることが本件考案の構成要件であると解するのが相当である。右に関し、原告は一方のみスチール製支杆1であれば、他方は単なる帯状金属板であつても本件考案の技術的範囲に属する旨主張し、また、被告はスチール製支杆1は双方とも垂直面に多数の切抜孔を穿つて舌片を起立させた構造であることを要する旨主張するけれども、前認定に照らしていずれもこれを採用することはできない。
(二) 以上の検討を前提に、(イ)号製品の支杆が本件考案のスチール製支杆1の要件を具備するかどうかについてみるに、支杆にはV字溝9が設けられている点を除いて両者は同一であることが認められる。そして、被告は、V字溝9が支杆の大舌片4に嵌合されることにより両支杆を重合する際の位置決めが容易となり、重合後、両支杆が相互にずれないため、葉たばこ乾燥の作業能率が向上することをもつて、本件考案の技術的範囲に属さない旨主張し、これに沿う証人綿貫隆夫、同上市邦夫(第一回)の各証言が存するけれども、V字溝の幅が支杆の垂直面8の幅に比して小さな割合を占めるに過ぎないことは別紙図面第2図及び第6図により明らかであり、これによつて、支杆の中央部のV字溝部分を除くその余の垂直面8でもつて、支杆の垂直面3との間に葉タバコの葉柄を挾み込んで葉タバコを乾燥させるという支杆の垂直面8自体の有する本来的な機能ないし作用効果をさほど大きく減殺させるものとは到底いえないし、弁論の全趣旨によると、被告主張のV字溝の有する前記作用効果は本件考案の有する作用効果に付加して生ずる付随的な効果に過ぎないと認められる。
したがつて、(イ)号製品の構成上の特徴である請求原因5(一)(2)は、本件考案の構成要件である同3(一)(2)の要件を具備しているものと認めるのが相当である。
3 (イ)号製品の構成上の特徴である請求原因5(一)(3)が本件考案の構成要件である同3(一)(3)の要件を具備することは、挾圧子自体が本件考案において有する目的及び作用効果の点からして明らかというべきである。
4 以上によれば、(イ)号製品は本件考案の技術的範囲に属するものと認められるから、(イ)号製品を業として製造販売した被告の行為(この点は当事者間に争いがない。)は原告の本件実用新案権を侵害することになる。そして、被告の右行為は少なくとも過失により原告の本件実用新案権を侵害したものというべきであるから、被告は原告に対し、これによつて生じた損害を賠償すべき義務がある。
なお、被告は本件実用新案が登録出願の拒絶理由及び登録の無効理由に該当する旨主張するが、右は主張自体失当であつて、到底採用することはできない。
三そこで、損害額について判断する。
1 被告の利益額による推定損害額
(一) (イ)号製品の販売数
<証拠>を総合すると、被告は(イ)号製品を昭和四九年三月一日から製造販売していることが認められ、これに反する<証拠>は措信することができない。
そこで、以下、被告による(イ)号製品の販売数について検討する。
(1) 昭和四九年度における販売数について、証人坂本吉太郎は、被告の同年度における葉たばこ乾燥ハウスの売上げ額からこれを算出し得るとして、原告主張に係る販売数(二万五三四〇組)に沿うかのような証言をするけれども、その算出根拠が明らかでなく、かつ算出に係る販売数は推定の域を出ないものであつて、これを措信することはできないというほかなく、他に昭和四九年度における(イ)号製品の販売数についてこれを認めるに足りる証拠はない。
(2) 昭和五〇年度において五万〇八三三組の販売数があつたことは当事者間に争いがない。また、右のほか、さらに四五二五組の販売があつたことは<証拠>によりこれを認めることができ<る>。
(3) 昭和五一年度に四万三九六五組、昭和五二年度に一万一八〇〇組の販売数があつたことについては、当事者間に争いがない。
(二) (イ)号製品の販売価格
昭和五〇年度及び昭和五一年度における(イ)号製品の一組当たりの販売価格が二〇〇円であつたことについては、当事者間に争いがない。昭和五二年度における同販売価格について、被告は二三〇円である旨主張し、原告主張に係る販売価格二〇〇円を超えていて、これは販売利益額の算出という観点からみれば、自己に不利益な陳述をしているところ、前掲甲第一〇号証の五によると、同年度の販売数のうち、七六〇〇組については被告主張の右販売価格で、四〇〇〇組は二二〇円で、二〇〇組は二〇〇円でそれぞれ販売したことが認められる。
(三) (イ)号製品の製造原価
(1) 鉄板代
(イ)号製品の構成部分である両支杆の原材料としての一組当たりの鉄板代(単価)についてみるに、<証拠>を総合すると、鉄板一〇〇〇グラム当たりの単価が、昭和五一年度においては一〇三円、昭和五二年度においては一一二円であり、(イ)号製品一組当たりに用いられる鉄板の重量は右各年度とも八四四グラムであることが認められるから、(イ)号製品一組当たりの鉄板代(単価)は、昭和五一年度が八七円、昭和五二年度が九五円であると認められる。
計算式
昭和五一年度
一〇三(円)÷一〇〇〇(g)×八四四(g)=八七(円)(円未満切り上げ)昭和五二年度
一一二(円)÷一〇〇〇(g)×八四四(g)=九五(円)(同右)
次に、昭和五〇年度における鉄板代(単価)については、これを算出し得る帳簿等の書証は存しないけれども、弁論の全趣旨により昭和五一年度と同じ単価八七円と認めるのが相当である。
右に関し、原告は昭和五二年度における鉄板代(単価)についても八七円である旨主張するが、前認定に照らし採用することができない。一方、被告は昭和五〇年度における鉄板代(単価)について一〇〇円である旨反論し、これに沿う<証拠>が存するけれども、前認定に照らしたやすく措信することができない。なお、昭和五一年度における鉄板代(単価)が八四円である旨の被告の主張は計算上の誤まりであると認められる(前掲乙第一九号証の一参照)。
(2) バネ代
(イ)号製品の構成部分である挾圧子の原材料としての一組当たりのバネ代(単価)についてみるに、昭和五〇年度におけるそれが二二円であることは当事者間に争いがなく、また、<証拠>を総合すると、昭和五一年度及び昭和五二年度におけるバネ代(単価)は二四円であると認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(3) 加工賃
<証拠>によると、被告は(イ)号製品の製造を中村製作所に請け負わせていたことが認められ、同製作所に支払われた(イ)号製品一組当たりの加工賃(単価)についてみるに、昭和五一年度及び昭和五二年度におけるそれがいずれも二九円であつたことは当事者間に争いがなく、また<証拠>によると、昭和五〇年度における加工賃(単価)は三〇円であつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(4) 運賃及び包装代
<証拠>によると、被告は(イ)号製品を包装したうえ、購入先まで貨物自動車で運搬して販売していたことが認められるところ、<証拠>を総合すると、(イ)号製品一組当たりに要した運賃及び包装代は少なくとも一〇円と認めるのが相当である。この点に関し、原告は運賃代は五円である旨主張するけれども、<証拠>によると、原告製品の販売に関しても、その一組当たりの包装代として九円、原告本社のある岡山県下の購入先への運搬に要する運賃約五円、合計約一四円の費用を要することが窺われるのであるから、原告の右主張を採用することはできない。
(5) 右(1)ないし(4)によれば、(イ)号製品の一組当たりの製造原価は、昭和五〇年度が一四九円、昭和五一年度が一五〇円及び昭和五二年度が一五八円であると認められる。
(四) 販売利益総額
右(一)ないし(三)で認定した(イ)号製品の販売数、一組当たりの販売価格及び製造原価によれば、販売利益総額は別表(四)のとおり五八一万六七〇八円となる。
(五) 減価償却費
<証拠>を総合すると、被告は鉄板を(イ)号製品を構成する両支杆に製造加工するに必要な機械として、昭和四九年度中に鉄板ロール機械を二二〇万円で購入したうえ、これを支杆のV字溝の加工のため二七万円で改造したこと、また、支杆の舌片を作るためのプレス機械の部品(プレス型)を同年度中に一台を三〇万円で、さらに昭和五一年度中に一台を三〇万円で購入したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右購入機械は、いずれも(イ)号製品の製造に必要な固定資産であるから、減価償却の手続による費用額を販売利益総額から控除すべきものと解するのが相当であるところ、減価償却の計算方法については会計学上定率法、定額法等種々の方法があるが、定率法を採用するのが相当である。そして、鉄板ロール機械は昭和四九年度に購入され、その取得原価は購入価格二二〇万円に機械改造代二七万円を加えた二四七万円であり、また、プレス型は昭和四九年度及び昭和五一年度にそれぞれ購入され、その取得原価はいずれも三〇万円であり、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号)によると、右各機械はいずれも同省令別表第二機械及び装置の耐用年数表のうち、番号251、設備の種類プレス、打抜き、しぼり出しその他の金属加工品製造業用設備、細目その他の設備に該当し、その耐用年数は一二年、定率法による償却率は〇・一七五であるから、右各機械の各購入年度から昭和五二年度までの各年度における減価償却費は別紙(五)減価償却計算書のとおりである。これによれば、鉄板ロール機械につき昭和五〇年度から昭和五二年度までの減価償却費の合計八九万四四〇九円、昭和四九年度中に購入のプレス型につき昭和五〇年度から昭和五二年度までの減価償却費の合計一〇万八五二五円並びに昭和五一年度中に購入のプレス型につき昭和五一年度及び昭和五二年度の減価償却費の合計九万五八一三円の総額一〇九万八七四七円を減価償却費として、販売利益総額から控除すべきことになる。
(六) その他の販売費及び一般管理費
被告は、営業諸経費として昭和五〇年度における(イ)号製品販売総額一〇一六万六六〇〇円の五パーセントに相当する五〇万八三三〇円を販売利益総額から控除すべき旨主張するので、これについて考えるに、実用新案法二九条一項にいう侵害者の受けた「利益」とは、純利益すなわち販売利益から一般管理費及び販売費を控除したものを指すものと解すべきであるから、被告の右主張は控除額の点を除きこれを首肯することができる(なお、被告主張の営業諸経費は右一般管理費及び販売費に相当するものと解される。)。
そこで進んで、昭和五〇年度における販売利益額から控除すべき一般管理費及び販売費について判断するに、<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。すなわち、従来葉たばこの乾燥には繩吊り方式が用いられていたところ、原告は昭和四〇年ごろから葉たばこ乾燥作業の能率化を図るため原告製品を開発製造し、展示会に展示するなどしてその周知をはかり、昭和四六年ごろには長野県下においても販売するようになつたが、昭和四八年ごろからは、主として長野農業資材を販売特約店として販売していた。同会社は、従来から葉たばこ乾燥ハウスを製造販売していたことから、右ハウスと原告製品との一括販売方法により長野県下において幅広い販売力を有していた。また、旧日本専売公社は葉たばこ耕作者に対し、昭和四八年から葉たばこ生産対策五か年計画に基づき葉たばこ乾燥施設の改善の援助、指導を始めたため、昭和五〇年ごろからは葉たばこ乾燥ハウスと共に葉たばこ懸吊器の需要が増える状況にあつた。一方、被告は資本金四〇〇万円、従業員一二、三名を有し、鉄骨建築を主たる業務とする会社であつて、昭和四五年ごろから旧日本専売公社の長野県下での指定工場の一つとして葉たばこ乾燥ハウスを建築していたが、北信たばこ耕作組合の関係者から葉たばこ懸吊器の製造販売の助言を受けて昭和四九年ごろから(イ)号製品の製造を開始し、主として長野県下の葉たばこ耕作組合ないし農業協同組合に販売したり、右各組合の斡旋により葉たばこ耕作者に販売していた。そして、昭和五〇年には、葉たばこ乾燥ハウスと一括して(イ)号製品を販売することとなつた。<反証判断略>
右認定の事実によれば、昭和五〇年度においては昭和四八年ごろからの原告製品の普及によつて葉たばこ懸吊器として広く葉たばこ耕作者に周知されていたことから、(イ)号製品は右周知を利用して販売すれば足りたこと、また、(イ)号製品は主として葉たばこ乾燥ハウスとの一括販売方式により販売されていたことなどの事情が窺われ、したがつて、(イ)号製品自体のための販売活動に要した費用はそれ程多くないものと認められ、右事実に、企業会計上一般管理費及び販売費の内訳であることの明らかな運賃、包装代及び減価償却費がそれぞれ費用として別個に控除されていることを合わせ考えれば、昭和五〇年度における販売総利益から控除すべき販売費及び一般管理費としては、同年度の(イ)号製品販売総額一〇一六万六六〇〇円の二パーセントに相当する二〇万三三三二円と認めるのが相当である。
(七) 以上によれば、被告が(イ)号製品の販売によつて得た利益額は、前記(四)で認定した販売利益総額五八一万六七〇八円から同(五)で認定した減価償却費一〇九万八七四七円と同(六)で認定した販売費及び一般管理費二〇万三三三二円を控除した四五一万四六二九円となるところ、実用新案法二九条一項により被告の得た利益額をもつて原告の受けた損害額と推定され、右推定を覆すに足りる証拠はないから、原告の被つた損害額は結局四五一万四六二九円と認められる。
2 値引きによる損害額
(一) 原告は、前記の推定損害額のほかに、これに加えて、被告の侵害行為により原告製品を値引きして販売せざるを得なくなつたとして値引額相当の損害額を請求するので、これについて検討するに、実用新案権の侵害による損害は不法行為による損害の一つであるから、侵害行為と相当因果関係の存する損害である限りその損害賠償を求め得ることは明らかであつて、実用新案法二九条一項の損害額の推定に関する規定も右法理を排除するものではないと解される。そうすると、実用新案権を侵害する(イ)号製品との間に販売市場における競争関係が生じたことにより実用新案権者が自己の製品の販売価格を値下げせざるを得なくなり、その侵害がなかつたならば当然維持できたであろう販売価格を維持し得なかつたことによる逸失利益も消極的損害の一場合としてその賠償を求め得るものというべきである。
(二) そこで、進んで右観点に基づき原告の損害額について判断する。
(1) 原告が昭和四八年ごろ以降長野県下においては原告製品を長野農業資材に卸販売する方法によつてのみ販売していたこと、被告が昭和四九年三月一日から(イ)号製品の製造販売を開始し昭和五〇年度ないし昭和五二年度における販売価格及び販売数が別表(四)のとおりであつたことは前認定のとおりであり、これに<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。
(ア) 原告は、原告製品を長野農業資材に対し、昭和四八年度に一万七〇〇〇組、昭和四九年度に二万二〇〇〇組を卸販売したが、昭和五〇年度における卸販売は全くなかつた。これは、同年度における原告製品の卸販売価格が一組当たり二三〇円であり、長野農業資材が葉たばこ耕作組合又は農業協同組合を通じて葉たばこ耕作者に小売販売する際の価格が一組当たり二七〇円であつたのに対して、昭和四九年三月一日から長野県下で販売の開始された(イ)号製品の一組当たりの小売販売価格が二〇〇円と安価であつたことが、昭和五〇年ごろになつて葉たばこ耕作者の間に知れるところとなつたことによるものであつたと推察される。
(イ) 原告は、原告製品を主として北海道を除く全国一七、八箇所に存する販売代理店に対して卸販売による方法により販売し、その価格は各年度当初に当該年度における価格として協議決定され、いずれの販売代理店に対しても一律に適用されるというものであつた。そして、昭和五一年度における右卸販売価格は一組当たり二三〇円であつたが、長野県下においては、被告の右安売りに対抗して原告製品の販売を回復するべく、長野農業資材に対する卸販売価格のみ一八〇円に値下げした(以下、長野農業資材以外の販売代理店に対する卸販売価格を「通常卸販売価格」、長野農業資材に対するそれを「値下げ卸販売価格」という。)。右と同様の理由で、昭和五二年度においては、通常卸販売価格が二四〇円のところ、値下げ卸販売価格は一九〇円であつた。
(ウ) 右卸販売価格の値下げに対応して長野農業資材の小売販売価格も値下げされた(但し、値下げ後の小売販売価格を確定するに足りる証拠はない。)ことにより、原告製品の販売が回復し、卸販売数は昭和五一年度においては七万組、昭和五二年度においては一万二五〇〇組となつた。
以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。なお、原告は昭和四九年度と昭和五三年度においても長野農業資材に対し、値下げ卸販売価格で販売した旨主張し、これに沿う<証拠>が存するけれども、昭和四九年度は被告が(イ)号製品の販売を開始した年度であつてその販売数自体確定できないうえ、安売りの影響が長野県下の市場において直ちに生じたとは考えられないこと、原告製品の卸販売価格は当該年度当初において協議決定されていたものであることからして、昭和四九年度における値下げ卸販売に関する前記各証拠は採用することができない。また、昭和五三年度においては、(イ)号製品の販売を認めるに足りる証拠は存しないから、同年度における原告製品の値下げ卸販売についても、これに関する前記各証拠は採用することができない。
(2) ところで、前認定によれば、原告製品一組当たりの長野農業資材に対する卸販売価格が通常のそれより昭和五一年度及び昭和五二年度にわたつて五〇円値下げされたことは明らかであるけれども、右差額全額をもつて直ちに被告の(イ)号製品の安売り販売行為と相当因果関係のある損害と認めることはできず、原告製品の長野農業資材以外の販売代理店における小売販売価格(以下「通常小売販売価格」という。)からその製造原価を控除した販売利益額(これは卸による販売利益額と小売によるそれとの合計額を意味する。)のうち原告の卸による販売利益額の占める割合を算出したうえ、長野農業資材において合理的に相当とみられる小売販売価格(以下「合理的値下げ小売販売価格」という。)からその製造原価を控除した販売利益額に右割合を乗じて得られる価格をもつて長野農業資材に対する合理的かつ相当な卸販売価格(以下「合理的値下げ卸販売価格」という。)というべく、したがつて、通常卸販売価格から合理的値下げ卸販売価格を控除した額をもつて、被告の(イ)号製品の安売り販売行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
以上の理解の下に、その損害額を検討するに、<証拠>を総合すると、昭和五一年度及び昭和五二年度における原告製品の通常小売販売価格、通常卸販売価格、製造原価及び卸販売利益の占める割合は、別表(六)の損害額計算式に記載のとおりであると認められる。この点に関し、<証拠>には、昭和五二年度における製造原価(但し、運賃を除く。)は昭和五一年度と同一価格である旨の記載があるけれども、一方、<証拠>によると、通常卸販売価格について昭和五二年度は昭和五一年度より一〇円高くなつていることが認められるのであるから、昭和五二年度における製造原価(運賃を含む。)は一六五円と認めるのが相当であり、他に前認定を覆すに足りる証拠はない。次に、合理的値下げ小売販売価格についてみるに、前認定に係る昭和五一年度及び昭和五二年度における(イ)号製品の販売価格、(イ)号製品及び原告製品の各販売形態に、<証拠>によつて窺われるところの、長野県下における葉たばこ懸吊器の需給状況、原告及び被告を含む各製造販売会社の販売状況等一切の事情を考慮すると、合理的値下げ小売販売価格は昭和五一年度においては二二〇円、昭和五二年度においては二三〇円と認めるのが相当であり、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右によれば、(イ)号製品の値下げによつて原告の被つた損害は、昭和五一年度においては二二一万円、昭和五二年度においては四一万二五〇〇円となり(計算式は別表(六)のとおり)、結局、合計二六二万二五〇〇円となる。
3 右1及び2によれば、被告の侵害行為によつて原告の被つた損害額は七一三万七一二九円となる。
四結論
以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し七一三万七一二九円及びこれに対する実用新案権侵害行為の後であることが弁論の全趣旨により明らかな昭和五二年一一月二一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があ<る。>
(白石嘉孝 安藤宗之 豊澤佳弘)
図面及び同説明書
一 図面の簡単な説明
第一図支杆の端面図
第二図支杆の端面図
第三図支杆の斜面図
第四図支杆の斜面図
第五図 挾圧子の正面図
第六図 使用状態を示す端面図
二 構造の説明
支杆は、スチール製で、断面コ字型に屈曲するとともに、その上下面11′の端部をほぼ直角に屈折して補強面22′を設け、その垂直面3の中央に、長手方向に一列に、ほぼ三角形状の多数の大舌片4を打ち抜き、切抜孔4′をうがつとともに、大舌片4を起立列設し、その大舌片4の列の両側に、ほぼ平行にそれぞれ一列に多数のほぼ三角形状の小突片55′を、大舌片4の間の位置に交互に打ち抜き起立列設させるとともに切抜孔5''5'''を設けている。
支杆は、スチール製で、断面コ字型に屈曲するとともに、その上下面66′の端部をほぼ直角に屈折して補強面77′を設け、その垂直面8の中央に、長手方向にV字溝9を設けている。
挾圧子は、金属製で、両脚部1010′を有し、その先方は凸曲部1111′をなし、両脚部は円形状の弾力部12で結合している。
こうして支杆の垂直面3と支杆の垂直面8の間に、葉タバコ13の葉柄14を挾み、支杆の大舌片4が支杆のV字溝9にはめ合わされるようにし、支杆の補強面22′の中間空間部と支杆の補強面77′の中間空間部に、挾圧子の両脚の先の凸曲部1111′がはめ合わされるように、複数個の挾圧子にて、両支杆の外側から挾圧子のバネ12により挾圧するようにして、葉タバコを両支杆の間に挾持する。
別表(一)
原告主張の(イ)号製品販売及び推定損害
昭和年度
(当該年3月1日から
翌年2月末日まで)
49
50
51
52
販売数(組)
25,340
55,358
43,965
11,800
販売総額(円)
200
〃
〃
〃
1組当たりの
製造原価(円)
143
〃
〃
〃
1組当たりの
純利益(円)
57
〃
〃
〃
損害額(円)
1,444,380
3,155,406
2,506,005
672,600
損害額合計 7,778,391円
別表(二)
原告主張の原告製品の販売及び値下げ損害
昭和年度
(別表(一)と同じ)
原告製品の
販売数(組)
1組当たりの
値引額(円)
値下げによる
損害額(円)
49
22,000
30
660,000
50
0
51
70,000
50
3,500,000
52
12,500
50
625,000
53
10,000
40
400,000
損害額合計 5,185,000円
別表(三)
被告主張の(イ)号製品販売関係
昭和年度
(別表(一)と同じ)
販売数
(組)
1組当たりの
販売価格(円)
1組当たりの
製造原価(円)
販売利益額
(円)
49
0
50
50,833
200
162
1,931,654
51
43,965
200
147
2,330,145
52
11,800
230
158
849,600
販売利益合計 5,111,399円
別表(四)
当裁判所認定の(イ)号製品販売関係及び推定損害
昭和年度
(別表(一)と同じ)
販売数
(組)
1組当たりの
販売価格(円)
1組当たりの
製造原価(円)
1組当たりの
販売利益(円)
総販売利益額
(円)
50
55,358
200
149
51
2,823,258
51
43,965
200
150
50
2,198,250
52
11,800
7600組につき230
4000組につき220
200組につき200
158
7600組につき72
4000組につき62
200組につき42
795,200
総販売利益額合計 5,816,708円
(注)昭和52年度の販売期間は、昭和52年3月1日から同年11月21日までである。
別表(五)減価償却費計算書
一 鉄板ロール機械
(1) 昭和49年度
2,470,000(円)×0.175=432,250(円)
(2) 昭和50年度
2,039,775(円)×0.175=356,961(円)
(3) 昭和51年度
1,682,814(円)×0.175=294,492(円)
(4) 昭和52年度
1,388,322(円)×0.175=242,956(円)
二 プレス型(昭和49年度購入分)
(1) 昭和49年度
300,000(円)×0.175=52,500(円)
(2) 昭和50年度
247,500(円)×0.175=43,313(円)
(3) 昭和51年度
204,187(円)×0.175=35,733(円)
(4) 昭和52年度
168,454(円)×0.175=29,479(円)
三 プレス型(昭和51年度購入分)
(1)昭和51年度 52,500(円)
(2)昭和52年度 43,313(円)
(円未満4捨5入)
別表(六)損害額計算式
(通常小売販売価格をa、通常卸販売価格をb、製造原価をc、卸販売利益の占める割合をd、合理的値下げ小売販売価格をe、合理的値下げ卸販売価格をf、原告製品1組当たりの値下げによる損害額gとするとd、f、gは次のとおり求められる。(e−c)×d+c=f、b−f=g。よつて、昭和51年度及び同52年度における損害額は次のとおりである。)
1 昭和51年度
g=230−197=33 33(円)×70,000(組)=2,210,000(円)
2 昭和52年度
g=240−207=33 33(円)×12,500(組)=412,500(円)