岡山地方裁判所 昭和52年(行ウ)3号 判決 1979年5月30日
原告 株式会社岡山ゆりや
被告 岡山東税務署長
代理人 河村幸登 森義則 滝本嶺男 宇都宮猛 長安正司 ほか二名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し、昭和五〇年三月二八日付岡東法第七八号をもつてした、法人税の青色申告承認の取消処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張 <略>
第三証拠 <略>
理由
一 請求原因1、2および5の事実(原告の地位、本件取消処分の存在、これに対する異議申立及び審査請求の経緯等)はいずれも当事者間に争いがない。そこで本件取消処分の適否について判断する。
1 青色申告承認の制度は、納税者が自ら所得金額及び税額を計算し自主的に申告して納税する申告納税制度のもとにおいて、適正課税を実現するために不可欠な帳簿の正確な記帳を推進する目的で設けられたものであつて、適式に帳簿書類を備え付けてこれに取引を忠実に記載し、かつ、これを保存する納税者に対して特別の青色申告書による申告を承認し、青色申告書を提出した納税者に対しては、推計課税を認めないなどの納税手続上の特典及び種々の所得計算上の特典を与えるものである(最判昭和四九年九月二〇日参照)。
そして、右制度の趣旨・目的に照応して法人税法は、内国法人が大蔵省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録し、かつ、当該帳簿書類を保存することをもつて青色申告承認の前提とし(同法一二三条一号)、右承認を受けた法人の義務とし(同法一二六条一項)、かつ、これが行われていないときは、右承認を取り消すことができる旨を定めている(同法一二七条一項一号)。すなわち、帳簿書類の備え付け等は、青色申告制度の基本的前提をなすものであり、これを欠くことは、同制度とは根本的に相容れないものというほかはない。
2 <証拠略>を総合すると、税務署員が昭和四九年九月下旬ごろから翌五〇年二月二七日ごろにかけて行つた原告会社の法人税調査(設立一、二期分)に際して、原告会社は右各法条に定める帳簿書類等を全く備え付けていなかつたことが認められる。そして、<証拠略>によれば、原告代表者が右帳簿書類を預託したと説明する右北田は、税務署員の調査に対し、これをすでに原告会社に返還したと述べ、また、原告代表者が右北田から交付を受けたのではないかと推測する秋田豊実は、税務署員に対しその事実を否定し、結局右いずれからも当該帳簿書類の提出を得られなかつたことが認められる。
このような状況のもとで、原告はなお、法人税法一二七条一項一号該当の事実はないと主張するのであるが、同号にいう「備え付け」とは、帳簿書類を当該法人の占有・管理下におき、調査に際しては速やかに提示し得る状態にあることを指すと解せられるから、原告の右主張はあたらず、同号に該当することは明らかである。
3 もつとも、同条は、一号該当の場合においても、青色申告承認を取消すか否かにつき所轄税務署長の判断の余地を残しており、原告は本訴においてその判断の誤りを主張する趣旨と解されないでもない。しかし、前述したところに照らせば、その裁量の範囲は必ずしも広いものではなく(一号においては同条二、三号のような行為の態様、程度についての判断を容れる余地が乏しい)、精々帳簿書類の一部を欠くに過ぎない場合(本件はこれにあたらないこと前認定のとおりである)や、これを備え付けていないことが当該法人の責に帰し得ない特段の事由に基づく場合等に限るべきものと考えられる。
4 そこで、このような事由があつたか否かについて検討するに、
(1) <証拠略>によれば、原告代表者は、昭和四六年四月の設立当初から、北田税理士を原告会社のいわゆる顧問税理士として委任し、諸帳簿や伝票類の整理等を依頼し、右事務に必要な場合これらを同税理士の事務所に持帰つて処理することを承諾していたこと、すなわち同税理士による帳簿書類等の帯出は、原告代表者の同意に基づくものであつたことが認められる。
(2) その際、原告代表者が同税理士に対し、右帳簿等が訴外秋田の手に渡ることのないよう、特に注意、指示していたような事情も窺うに足りない。
(3) 同税理士との委任契約は、昭和四八年五月頃、意見の対立から同税理士からの申出により解約されるに至つた。その際原告代表者は、帳簿書類が返還ずみか否かを確認し、預けたままのものは直ちに返還を求めて確保することができたと思われるが、そのような措置をとつたとは認められない。
右の事情に照らすと、原告会社が帳簿書類を備え付けていなかつたことが、その責に帰し得ない事由に基づくものとは到底言い難い。仮に帳簿等の返還に関し、何らかの問題があつたとしても、右は原告会社と同税理士との間で私法上解決さるべき事柄であると言うほかはない。
5 なお、被告税務署長は、原告会社から即時帳簿書類の提出がないことをもつて直ちに本件取消処分をしたものではなく、原告代表者の説明するところに基づき、訴外北田、秋田その他関係者らの調査を経たうえ、結局右説明に表われた何人からも提出されない状況にあると判断して本件取消処分をするに至つたことは前認定のとおりである。
二 以上の事実関係によれば、本件取消処分には何ら違法の点はないと言うべく、したがつて、その取消を求める本訴請求は理由がない。よつてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 田川雄三 浅田登美子 小島浩)