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岡山地方裁判所 昭和54年(わ)566号 判決 1982年5月28日

主文

被告人を罰金一三万円に処する。右罰金を完納することができないときは、金二、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

被告人から押収にかかるタクシーチケット二枚(昭和五六年押第七八号の一)を没収し、金七、三八〇円を追徴する。

公職選挙法二五二条一項の選挙権及び被選挙権を有しない期間を三年に短縮する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五四年一〇月七日施行の衆議院議員総選挙に際し、岡山県第一区の選挙人であるが、同年九月一日ころ、岡山市幸町九番一号幸町会館において、右選挙に逢沢英雄が同選挙区から立候補の決意を有することを知る蒲生清水から、右逢沢に当選を得させる目的のもとに、同人のため投票ならびに投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として供与されるものであることを知りながら金額制限五、〇〇〇円のタクシー乗車券一〇枚の供与を受けたものである。

(証拠の標目)<省略>

被告人及び弁護人は、本件英会の会合は、逢沢英雄後援会の集まりであり、そこで被告人が受取つたタクシー乗車券は、同後援会活動の交通費の実費弁償に過ぎないと主張する。

しかし、前掲証拠を綜合すれば、次のような事実を認めることができる。

(1)  昭和五四年八月には、衆議院議員総選挙が一〇月に行なわれることが国民の間に確実視され、逢沢英雄もこの総選挙に二回目の当選を果すべく判示選挙区で立候補の決意をし、被告人を含む右逢沢の支持者もこのことを知つていたが、当時、逢沢陣営は、他の立候補者に比し、地盤作りにおくれをとり、苦戦が予想されていたこと、

(2)  右逢沢の後援会事務所は、岡山市麿屋町にあつたが、昭和五四年七月に判示総選挙に備え、これを地の利のよい同市幸町に移し、公示と同時にここを選挙事務所とする予定にしていたこと、

(3)  岡山市内には各町内会があり、その上部組織として学区毎に連合町内会があり、それぞれに会長がおかれていたが、この連合町内会長の中で逢沢英雄の支持者が右逢沢の後援会の下部組織として英(はなぶさ)会を組織し、前回(昭和五一年)の総選挙の時には英会の会員は二五名くらいであつた。この英会には、会則がなく、会員から会費を徴収することもなく、前回の総選挙で右逢沢が当選して後は、平常の会合をするのでもなく、何らの活動もしていない状態であつた。被告人は御休学区連合町内会長であつて、昭和五二年ころ自由民主党に入党し、前回の総選挙時にはすでに英会員であつた。英会の会長には田野金三郎、副会長格の世話役には蒲生清水がそれぞれ当たつていたが、連合町内会長は地元の有力者で発言力・影響力が強く、これが右逢沢のため動いてくれれば、かなりの票が集まるところから、本件総選挙が近づいたことでもあり、前回の総選挙後新たに連合町内会長となつたもののうち五人が英会に入会したので、これを含めて、本件総選挙における選挙運動のすゝめ方について会員と相談すべく、蒲生清水は同年九月一日に英会の会合をすることを計画し、全員に出席方を要請したこと、

(4)  蒲生清水は、右逢沢の支持者に対したゞで動けと言つても難しく、タクシー乗車券を渡せば頼みよいし、票集めのためには実費もいるし、お礼も必要であるとの考えから、英会の会合を開くに当たつて、右逢沢の有力な支持者である久山松秋及び右逢沢の私設秘書である直原紀生と相謀り、交通費の名目で金額制限五、〇〇〇円のタクシー乗車券を英会員に一律に一人一〇枚宛を渡すことを決意し、その準備をしたこと、

(5)  かくして、昭和五四年九月一日午前一一時過ぎころから判示幸町会館において英会が開かれ、被告人も出席要請を受けてこれに出席した。右の開会に当たり、前示田野金三郎・蒲生清水から、来るべき総選挙は、他の陣営に較べて立ちおくれていることもあつて、逢沢英雄にとつてきびしい情勢にあり、苦戦が予想されるので、同人の当選に向けて頑張つて貰いたく、選挙運動のすゝめ方について相談したいという趣旨の挨拶があつたのち、逢沢後援会申込用紙が配布されたり、英会員と後援会地区担当連絡員の紹介があり、個人演説会に関する打合せや、選挙情勢についての相談もなされた。もつとも被告人は、本件英会に定刻よりおくれて出席したためすでに主宰者側の挨拶が終つていたが、出席者の間の、逢沢英雄の選挙情勢がきびしく、同人の当選のため頑張らねばならないという話から、この会合が同人の選挙に向けての会合であることがわかつたこと、

(6)  被告人は、右の会合の終るころ、蒲生清水から本件タクシーチケット一〇枚の供与を受けたが、右供与に際し、その使途について特段の制限もなかつたし、使用結果について報告を要求されてもおらず、このタクシーチケットは後援会事務所へ出入する際の交通費のみならず、来るべき総選挙に際し逢沢英雄への投票並びに投票取りまとめ等の運動を依頼する謝礼の趣旨で渡されたものと理解し、使用する考えのもとに受取つたこと、

(7)  被告人は、本件総選挙に際し逢沢英雄候補のため推せん葉書を出し、応援演説をする等の選挙運動をしたこと、本件供与を受けたタクシーチケット一〇枚のうち二枚(昭和五六年押第七八号の一、チケット番号一四及び一九)を使わないまゝに所持していたこと、一枚(同押号の三のうちのチケット番号一六)を被告人が同年九月末ころ、本件選挙とは無関係に、求められるまゝに知人小山慎一にやり、同人からこれを貰つた根本智子において同年一〇月三日私用に使い、その料金額が二、六九〇円となつたこと、一枚(同押号の三のうちチケット番号一三)は被告人において同年一〇月九日、同僚市会議員のアメリカ視察旅行壮行会に出席した際、帰途に使用し、その料金額が二、七四〇円となつたこと、一枚(同押号の三のうちのチケット番号一五)は被告人において同年一〇月二日岡山市内で使い、その料金額が二九〇円となり、また、一枚(同押号の五、チケット番号一一)は被告人において同年一〇月二三日岡山市内で使い、その料金額が五四〇円となつたこと、残りの四枚は、いずれも被告人において逢沢候補の選挙事務所へ往復するのに使用し、その具体的な料金額は不明であるが、少くとも一枚の最低料金額が二八〇円を下らないこと、

このようにして、本件タクシーチヶット一〇枚のうち八枚は、逢沢後援会の活動だけに限定して使用されたものとはいえないこと、

以上の事実を認めることができる。

そうしてみると、本件の英会の会合は、弁護人が主張するような、後援会活動にとどまるものではなく、これに藉口して逢沢英雄の本件総選挙での当選を目的とし、同人に投票を得させるための選挙人たる英会員を対象とし、これに投票並びに投票取りまとめ等を依頼する趣旨を含む選挙運動にほかならないものといわなければならず、右選挙運動の相手方となつた被告人が、本件タクシーチケットを前叙のような経緯・趣旨のもとに受け取つたことは公選法二二一条一項四号の受供与罪に当たること明白であり、そうである以上、本件タクシーチケットが逢沢英雄後援会に寄付されたものであつて、その受入と支出が政治資金規正法の定めに従つて昭和五四年分収支報告書に記載されて岡山県選挙管理委員会に報告されていたとしても、右の認定には何らの消長を来たさない。

(法令の適用)<省略>

よつて主文のとおり判決する

(渡邊宏)

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