岡山地方裁判所 昭和56年(ワ)76号 判決 1982年12月03日
原告
戸田義治
被告
黒崎隆
主文
一 被告らは原告に対し、各自金一七一万一二九六円及びこれに対する昭和五三年五月一五日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告らは原告に対し、各自金三三九万一四九七円及びこれに対する昭和五三年五月一五日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
旨の判決並びに仮執行の宣言。
二 被告両名
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
旨の判決並びに被告岡山双葉車両有限会社において予備的に担保を条件とする仮執行逸脱の宣言。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生
(一) 日時 昭和五三年五月一五日午前八時五分ごろ
(二) 場所 岡山市津島東二丁目七番二〇号先県道
(三) 加害車両 普通貨物自動車(岡四四の五四〇五)
(四) 加害運転者 被告黒崎隆
(五) 被害車両 ミニサイクル自転車
(六) 被害者 戸田義治
(七) 事故の態様 前記事故発生場所の信号機のない交差点を、原告が被害車両に乗つて、北方方面から岡山大学方面に横断したところ、被告黒崎が制限速度時速三〇キロメートルの場所にもかかわらず、時速六〇~七〇キロメートルのスピードで、三軒屋方面へ進行し、前方不注視の過失により、被害車両に衝突し、原告が転倒した。
(八) 被害程度 右下腿骨々折、右大腿開放性骨折、右前頭骨線状骨折
2 責任
被告会社は加害車両を保有し、被告黒崎は自己所有の車両の修理中の代車として加害車両を、被告会社から借り受けて使用し、それぞれ運行の用に供していたものであるから、被告両名はいずれも自賠法三条により、損害を賠償する責任がある。
3 損害 四九五万九一〇八円
(一) 治療費 一二八万〇八八二円
(1) 昭和五三年五月一五日から同年八月二九日まで川崎病院に入院
(2) 昭和五三年八月三〇日から昭和五四年七月一五日まで川崎病院に通院
(3) 昭和五四年七月一六日から昭和五四年七月二八日まで川崎病院に入院
(二) 附添費 九万六〇〇〇円
3,000×32(日)=96,000
(三) 入院雑費 七万四九〇〇円
700×107(日)=74,900
(四) 通院交通費 四〇〇〇円
原告は前記病院へ通院のため片道二〇〇円を要した。
200×2×10(日)=4,000
(五) 傷害・後遺症による慰謝料 三二〇万三三二六円
本件事故により原告は、高校入学直後入院約四か月、通院約一年を要する重傷を負い、通学日数の不足により、一年間の留年を余儀なくされ、更に体(特に足)が不自由なため体育・実習科目の授業が受けられず、翌年には定時制に編入し、遂には高校を退学せざるを得なくなつた。
現在原告の足は短くなつており、そのためびつこをひいて歩いており、現在でも冬など寒い時期には、痛みを感じるという後遺症がある。
(六) 弁護士費用 三〇万円
4 損害填補 一五六万七六一一円
原告は被告黒崎より一五六万七六一一円を受領した。よつて原告は被告ら各自に対し、前記3の損害額合計四九五万九一〇八円から、前記4の填補額一五六万七六一一円を控除した残額三三九万一四九七円、及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五三年五月一五日から完済に至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する被告黒崎の認否
1 請求原因1(一)ないし(六)の事実は認める。
同1(七)の事実は否認する。原告と被告黒崎が衝突した地点は、別紙図面のとおり、原告主張の信号機のない交差点から西方へ約二六・五メートル進んだ地点であり、この地点で原告が突如右折したため本件事故が発生したものであるから、被告黒崎には前方不注視の過失はない。
同1(八)の事実は不知。
2 同2の事実中、被告黒崎が加害車両を、代車として被告会社から借り受け、使用していたことは認め、被告会社に関する部分は不知、その余は争う。
3(一) 請求原因3(一)の事実は認める。
(二) 同3(二)の附添費については七万六八〇〇円の限度で認める。
(三) 同3(三)の雑費については、五万三五〇〇円の限度で認める。
(四) 同3(四)の事実は認める。
(五) 同3(五)の慰謝料としての相当額は、一二〇万円が限度である。原告が留年したことに伴う損害は、本件事故と因果関係が認められない。
(六) 同3(六)の事実は不知。
4 同4の事実は認める。
三 請求原因に対する被告会社の認否
1 請求原因1(一)ないし(六)の事実は認める。
同1(七)の事実は否認する。
2 同2の事実中、被告会社が加害車両を所有しており、運行供用者であることは認める。
3 同3(一)ないし(五)の事実は否認する。
同3(六)の事実中、弁護士報酬契約の成立は認めるが、被告らに負担させるべき金額は争う。
4 同4の事実は認める。
四 被告両名の抗弁
原告は自転車に乗車した者として、進路を変えあるいは道路を横断する場合、後方の安全を確認し、後続車両に進路変更あるいは横断する合図などして警告を与えるなどし、もつて事故発生を未然に防止すべき義務があるのにこれを怠り、突然幹線道路を右横断しようとしたのは過失があつたものというべく、右過失と本件事故との間には相当因果関係があり、仮りに被告らに損害賠償義務があるとしても、損害額の算定にあたつては、原告の右過失を斟酌して過失相殺すべきである(なお被告黒崎は、右過失の割合は、原告三〇パーセントに対し被告黒崎七〇パーセントと主張している)。
五 抗弁に対する認否
抗弁事実は否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一 請求原因1(一)ないし(六)の事実(本件事故発生の日時場所、当事者等)は当事者間に争いがない。
原告と被告会社との間においては、成立に争いがなく、原告と被告黒崎との間においては、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一号証の一ないし一八、原告及び被告黒崎各本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。
被告黒崎は事故発生の日時ころ、加害車両を運転して、事故発生場所を通過している県道を、三軒屋方面から岡北中学校方面に向つて、時速約六〇キロメートルで進行中、右事故発生場所の交差点にさしかかつた際、右県道左端の歩道上を被害車両に乗つて同一方向に進行中の原告が、右交差点を右折し交差道路を西進しようとして、被告黒崎の進路前方に出てきたのを、約一六・五メートル前方に発見、同被告は急制動の措置をとつたが及ばず、原告と衝突した。
右事故発生場所付近は、毎時三〇キロメートルの速度制限がなされ、また右交差点は、信号機等によつて交通整理がなされてはいなかつた。
このように認められ、被告黒崎本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
右事実によれば、被告黒崎には制限速度遵守義務違反、もしくは走行速度に相応する前方注視義務違背の過失があつたものと認定できる。
また成立に争いのない甲第一ないし五号証によれば、請求原因(八)の事実(傷害の程度)が認められる。
二 原告と被告会社との間では、被告会社が加害車両を所有し、自賠法三条の運行供用者であることは、争いがない。
また原告と被告黒崎との間においては、被告黒崎が加害車両を代車として被告会社から借り受け使用していたことは、争いがなく、被告黒崎本人尋問の結果によれば、同被告が加害車両を運転して出動途中、本件事故を惹起したことが認められ、結局同被告も自賠法三条の運行供用者であるということができる。
三1 請求原因3(一)の事実(入通院の期間、及び治療費として一二八万〇八八二円を要したこと等)は、原告と被告黒崎との間で争いがなく、原告と被告会社との間では、成立に争いのない乙第六ないし一一号証によつて右事実を認めることができる。
2 前掲甲第一、二号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は入院中の昭和五三年五月一五日から同年六月一五日まで、附添看護を必要とし、その間原告の母や祖母が附添看護にあたつたことが認められる。しかして右費用としては一日当り三、〇〇〇円、右三二日間で九万六〇〇〇円と認定するのが相当である。
3 入院雑費については、原告主張の一日当り七〇〇円、計七万四九〇〇円を要したものと認めるのが相当である。
4 成立に争いのない甲第四号証、甲第一〇号証、甲第一一号証によれば、原告は昭和五三年九月一日、五日、二六日、同年一一月六日、同年一二月五日、昭和五四年四月二日、同年六月二一日、同年七月一〇日の計八回、川崎病院に通院したことが認められる。
また前記三1の事実によれば、原告は昭和五三年八月二九日右病院を退院し、昭和五四年七月一六日右病院に入院し、同月二八日同病院を退院したことが認められる。そして原告法定代理人戸田孝義本人尋問の結果によれば、原告の自宅から川崎病院までは、国鉄津山線とバスを利用するのが通常であり、バスの運賃は当時片道二〇〇円を下らなかつたことが認められる。してみると、原告の前記通院及び入退院のためのバス運賃として少くとも三八〇〇円を要したことが認められる。
(算式は、200×2×8+200×3=3,800)
原告は通院が一〇回に及ぶとして通院交通費を請求しているが、通院の回数は前記のとおり八回までしか証拠上認定できない。
5 原告本人及び原告法定代理人本人戸田孝義の各尋問の結果によれば、請求原因3(五)の事実、及び右足が約一・五センチメートル短くなつたことが認められ、右事実によれば、傷害及び後遺症による慰謝料として三〇〇万円が相当である。
以上1ないし5の各損害を合計すると、四四五万五五八二円となる。
四 前掲乙第一号証の四、原告及び被告黒崎各本人尋問の結果に、前記一認定の事実をあわせ考えると、原告が前記交差点を右折し、西進しようとした交差道路は、被告黒崎が進行してきた県道にくらべ、あきらかに狭い道路であること、しかるに原告は右折に際し、後方の車道を進行してくる車の有無を確認するなどの安全確認の措置をとることなく、右県道左端の歩道からいきなり交差点内に入つてきたことが認められ、被告黒崎本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用しない。
右事実によれば、原告には右折に際し安全確認を怠つた過失があるというべく、前記一認定の被告黒崎との過失の割合は、原告三〇パーセントに対し被告黒崎七〇パーセントと認めるのが相当である。
従つて前記三の損害中、被告らが負担すべき額は、三一一万八九〇七円となる。
五 被告黒崎が原告に対し、賠償金の内金一五六万七六一一円を支払つたことは当事者間に争いがない。そこで前記四の損害額から右支払額を控除すると、残額は一五五万一二九六円となる。
六 前記五の金額にかんがみると、被告らが負担すべき弁護士費用としては、一六万円が相当である。
七 よつて被告らは各自、本件事故による損害賠償として一七一万一二九六円、及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五三年五月一五日から完済に至るまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、原告の本訴請求は右の限度で理由があるので認容し、その余の部分は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して(被告会社の仮執行宣言の逸脱の申立については、相当でないからこれを却下する)、主文のとおり判決する。
(裁判官 大濱惠弘)
別紙図面
<省略>