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岡山地方裁判所 昭和58年(行ウ)3号 判決 1987年1月30日

岡山県倉敷市玉島中央町一丁目六番三六―二〇四

原告

株式会社玄場建築設計事務所

右代表者代表取締役

玄場年秋

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

同県同市玉島阿賀崎二丁目一番五〇号

被告

玉島税務署長

丹下甲一

右指定代理人

宮越健次

山本武男

藤川哲

山口光男

佐下勝義

藤江義則

高地義勝

福島光明

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の法人税につき昭和五六年一二月二五日付でした。

(一) 原告の昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの事業年度分に関する更正処分のうち所得金額一一八万一一一六円を超える部分、

(二) 同昭和五四年六月一日から昭和五五年五月三一日までの事業年度分に関する更正処分のうち所得金額一七〇万九〇二三円を超える部分、

(三) 同昭和五五年六月一日から昭和五六年五月三一日までの事業年度分に関する更正処分のうち所得金額一一九万二七一一円を超える部分、

(四) 右三事業年度の各重加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件各処分の経緯等

(一) 原告は、建築設計業を営む株式会社であって、法人税につき青色申告の承認を受けている。

(二) 原告は、昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日まで(以下「昭和五四年五月期」という。他の年度についてもこれに準じる。)、昭和五四年六月一日から昭和五五年五月三一日まで及び昭和五五年六月一日から昭和五六年五月三一日までの各事業年度(以下、右の三事業年度を合せて「本件各事業年度」という。)の法人税につき、青色申告書をもって、別表1「課税経過表」の確定申告欄各記載のとおり確定申告をした。

(三) 被告は、右確定申告に対し、昭和五六年一二月二五日付で、同表の更正及び賦課決定欄各記載のとおり更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び重加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。これと本件各更正処分とを合わせて「本件各更正処分等」という。)をした。

(四) 原告は、昭和五七年二月二二日、国税不服審判所長に対し、本件各更正処分等について審査請求をしたが、同所長は昭和五八年四月二五日付をもって、原告の右審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、同年五月九日付をもって原告に裁決書謄本を送付した。

2  本件各更正処分等の違法性

しかし、本件各更正処分は、原告の支払った外注費を損金に計上することを認めなかった点において原告の所得金額を過大に認定した違法があり、また、本件各賦課決定処分は、原告が所得を隠ぺいするために積極的に不正行為をしたものと認めた点において課税要件の認定を誤った違法がある。

3  よって、原告は被告に対し本件各更正処分等のうち、本件各更正処分については、昭和五四年五月期につき課税所得金額一一八万一一一六円を超える部分、昭和五五年五月期につき課税所得金額一七〇万九〇二三円を超える部分、昭和五六年五月期につき課税所得金額一一九万二七一一円を超える部分(別表2「本件各事業年度の所得金額及び税額の計算明細」参照)及び本件各賦課決定処分のそれぞれの取消を求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  被告の認否

(一) 請求原因1の各事実はいずれも認める。

(二) 同2及び3の主張は争う。

2  被告の主張

(一) 本件各更正処分の適法性

(1) 原告の本件各事業年度の課税所得金額は、別表2の被告の主張する金額欄記載のとおり、原告申告の所得金額に、調査による加算額と減算額の差引額を加算した金額である。

(2) 右の加算額のうち

ア 設計料収入脱漏額(以下「本件脱漏額」という。)の詳細は別表3「設計料収入脱漏額等の明細」記載のとおりである。

イ 受取利息(以下「本件受取利息」という。)は、原告が備前信用金庫邑久支店に開設していた株式会社玄場建築設計事務所玄場年秋名義の簿外普通預金口座に係る預金利息である。

(3) 右の減算額である事業税は、前事業年度の増差所得金額に対する事業税が未納付であるからその金額を計算して所得金額から減算するものである。

その計算方法の詳細は別表4「事業税の計算明細」記載のとおりである。

(4) 外注費九九〇万円の不存在

ア 原告は、右減算額(損金)中に次のとおり外注費(別表2の原告の主張する金額欄の外注費欄(<6>)参照)を算入すべきであるという。

昭和五四年五月期 三〇〇万円

昭和五五年五月期 四四〇万円

昭和五六年五月期 二五〇万円

計 九九〇万円

つまり、原告と訴外株式会社総社産業(以下「訴外総社産業」という。)とは緊密な取引関係にあるので、原告は、訴外総社産業との間において、その専属の土工、配管工、電気工等を自由に指図し、また資材を持ち出して下請工事を施工させ、後日訴外総社産業に対してその下請代金を清算するという決済方法をとっており、かつ右下請代金の支払次期についても、原告の都合のいい時にするという状況であった。ところで別表3記載の訴外国立療養所邑久光明園(以下「邑久光明園」という。)の工事に関し、これを受注していた訴外松賀建設株式会社(以下「松賀建設」という。)が工事を遅延したため、その設計監理を依頼されていた原告は、右工事の施工を応援すべく、訴外総社産業に対して前示の形態で同工事の下請をさせた。そこで原告は、その下請代金として同社に対し、

昭和五五年六月二〇日 五〇〇万円

同 年七月二九日 三五〇万円

同 年九月 三日 一〇〇万円

同 年一〇月二日 四〇万円

計 九九〇万円

を支払った(以下「本件外注費」という。)。したがって、これらの支払は、本件脱漏額に対応する支出であり、かつ、その支払い義務発生時期からすると、原告の本件各事業年度につき前記のとおり損金として算入されるべきである、以上のように原告はいう。

イ しかしながら、原告が訴外総社産業に対し外注費計九九〇万円を支払ったのは、別表3記載の工事に関する下請工事代金債務履行のためではなく、原告の代表者である訴外玄場年秋個人が訴外吉川清美との間で吉川邸新築工事を請負いその工事を訴外総社産業に対し下請に出した結果支払うべき下請工事代金債務の履行としてなされたものである。したがって右外注費の支払は、本件脱漏額に対応する支出ではない。以下のウないしカにおいて詳述する。

ウ 松賀建設(邑久光明園)関係の応援工事は存在しない。

(ア) 受注先

原告は松賀建設から邑久光明園関係の工事につき設計料収入一一件八九〇万〇九〇〇円(別表3番号<1>ないし<10>及び<20>)を得ているが、これはいずれも正味の設計料であり、原告の工事施工に対するものでない。

(イ) 外注先

a 原告が支払ったとする金額に対応する訴外総社産業の提供した役務の内容は全く不明である。

b 原告が主張する応援工事に係る本件外注費は、訴外総社産業(法人税法二一条一項の承認を受けている青色申告法人である。)においては収入金に計上すべきものであるが、同社の会計記録によれば、本件各事業年度とも原告の主張する内容の収入金の計上は存しない。

c 本件各事業年度分の本件外注費九九〇万円を昭和五六年五月期中に支払ったと原告は主張するが、業界の常識上、また、商慣習上本件のような外注費施工割合に応じ、又は下請契約に近接して支払われるのが普通であり、特に本件の如き人件費的性格の顕著なものはなおさらである。

しかるに、原告が訴外総社産業に下請工事を施工させた初期は、昭和五三年一〇月ころと推認されるところ、原告の主張する本件外注費の初回の支払は昭和五五年六月二〇日の五〇〇万円で、工事着工から約一年半も過ぎたのちに支払が開始されており、また、その最終回の支払は同年一〇月二日であって、その後の工事に関する外注費の支払は、前渡金として支払われたことになる。

そうすると、ある外注費は長年月にわたり支払が放置され、またある外注費は工事請負契約が存在しないか、もしくは工事請負収入を受けていない時期に支払われたこととなるので、不自然である。

エ かえって原告が訴外総社産業へ支払った前記外注費は、原告代表者個人が訴外吉川清美と工事請負契約をした吉川邸新築工事を、訴外総社産業が原告の計算見積により原告代表者から受注し施工したことによる工事代金であり、原告主張の本件脱漏額に対応する外注費ではないことが明らかである。

オ 本件脱漏額の使途について

原告は被告のした原告の法人税調査時(昭和五六年一〇月二六日)において、右使途の点につき、昭和五三年に原告代表者個人が新築した従業員住宅の建築資金の借入金返済等に充てたと自認する確約書を提出している。なお原告はその後右確約書が説明不十分ないし誤りがあった旨弁解するが、いずれも失当である。

カ したがって、本件外注費の支払は、本件脱漏額のどれとも対応するものではない。

(5) 以上により、原告申告の所得金額に、(2)の加算額を加え、(3)の減算額を差引くと、原告の本件各事業年度の課税所得金額は別表2の被告の主張する金額欄の課税所得金額欄各記載のとおりであるから、これに対する原告の法人税額は、別表1の更正及び賦課決定欄記載の各税額のとおりであって、本件各更正処分は適法である。

(二) 本件各賦課決定処分の適法性

原告は、設計料収入金の一部(別表3記載のとおり)を公表帳簿に計上せず、そのうちには同表の摘要欄記載のごとく、備前信用金庫邑久支店の株式会社玄場建築設計事務所玄場年秋名義の簿外普通預金に預入れたり、小切手受領にかかるものの一部を架空人名等で裏書した後に、簿外現金で保有したりするものであって、収入金の一部を除外し、右除外部分を除いた収入金額を基礎として所得金額を過少に計算し、確定申告をなしたものである。右事実は、国税通則法六八条に規定する課税標準等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところによって課税標準等を計算し、その計算に基づいて過少に申告を行ったものというべきであり、重加算税の課税要件を充足する。

したがって、被告は、本件除外額を加算して行った法人税の更正による増差税額を基礎として同法所定の規定に基づいて正当に計算したところにより重加算税を賦課決定したものであるから、右処分にも違法は存しない。

三  被告の主張に対する認否等

1(一)  被告の主張一(1)の事実のうち、別表2中被告の主張する金額欄記載の原告申告の所得金額に同加算額と減算額(但し昭和五五年五月期及び昭和五六年五月期の事業税額は除く。)を加減しなければならないことは認める。

しかしながら、その他に同表中原告の主張する金額欄記載のとおりの外注費(<6>)をも損金として減算すべきところ、被告はこれを行っていないので、原告の課税所得金額については、昭和五四年五月期につき一一八万一一一六円、昭和五五年五月期につき一七〇万九〇二三円、昭和五六年五月期につき一一九万二七一一円を超える部分をいずれも否認する。

(二)  同(2)の各事実は認める。

(三)  同(3)の事実のうち、事業税の損金算入についての計算方法は認めるが、昭和五五年五月期及び昭和五六年五月期の各事業税額(減算額)については、算出の基礎となるその直前年度の所得金額を争う関係上、否認する。

(四)(1)  同(4)アのとおり原告は主張する。

(2) 同(4)イの事実は否認する。

(3)ア 同(4)ウアの事実は否認する。

イ 同(4)ウイの事実中、aは否認し、bは不知、cは、外形的・客観的事実を認め、その余を否認する。

訴外総社産業の工事台帳によると、次表のとおり、原告の主張と符号する工事代金受入の記載(但し、昭和五五年一〇月二三日欄の金額二〇万円を除く。)が存する。

<省略>

(4) 同(4)エの事実は否認する。被告主張の吉川邸の新築工事は、訴外小幡定夫が請負ったものである。しかるに同訴外人が建築業者としての登録を受けていなかったので、原告代表者は個人として名義を貸したことがある。そのため、契約書、官庁、公社等への申請書等には玄場年秋個人の氏名が現れるわけである。

(5) 同(4)オの事実中、原告がその主張どおりの確約書を提出したこと、原告が後日右確約書の内容に誤りがあった旨訂正の申立をしていることはいずれも認め、その余は争う。

昭和五三年に原告代表者個人が新築した従業員住宅の建築資金は、施工業者及び岡山信用金庫からの借入金で賄ったものであり、被告主張の工事収入代金を右借入金の返済に充てたことはない。

(6) 同(4)カの主張は争う。

(五)  同(5)の主張は争う。

2  同(二)の事実については認めるが、原告が意図的に収入を隠ぺいしたとの点は否認する。

原告は設計業務だけを営んでおり、得た設計料収入を収入として記帳していたが、例外的に工事等を請負いこの工事を下請に出した場合には、受注先からの請負代金の受取及び下請先への外注費の支払をそれぞれ会社の収入及び支出として記帳せず、設計料収入同様実質収益になる右の差益だけを収入として記帳する会計処理を行ってきた。そのような次第で、別表3記載の受注先からの請負代金受領の場合にも同様原告の収入として記帳しなかったものにすぎない。したがって原告は、このような会計処理が適正でなかったことは認めるが、意図的にその所得を隠ぺい仮装するために積極的に不法行為を行っていたわけではない。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因について

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件各更正処分の違法性

1  被告は、本件各更正処分において、その課税所得を、別表2の被告の主張する金額欄記載のとおり、原告申告の所得金額(番号<1>)に、収入として設計料収入脱漏額(同<2>)及び受取利息(同<3>)を加算し、損金として事業税(同<5>)を減算して算出するところ、原告も右算出(但し昭和五五年五月期及び昭和五六年五月期の各事業税額を除く)は争わないが、さらに損金として同表の原告の主張する金額欄記載の各外注費(同<6>、計九九〇万円)を減算すべきであるという。

ところで右昭和五五年五月期及び昭和五六年五月期の各事業税額は、その算出方法自体については当事者間に争いがないため、その直前年度である昭和五四年五月期及び昭和五五年五月期の各所得金額が確定すれば、自動的にこれを算出することができる。

したがって本件各更正処分の適法性の判断は、原告主張の右各外注費の存否・額の認定にすべてかかっていることになる。

そこで唯一の争点である右各外注費の点について検討する。

2  外注費計九九〇万円の不存在について

原告は別表3記載の本件脱漏額に対応する簿外経費として訴外総社産業に対する外注費(乙第四号証の二ないし五参照)があると主張するので、以下において、まず、松賀建設(邑久光明園)関係(同表記載番号<1>ないし<10>、<20>)に、原告主張の応援工事(被告の主張(一)(4)ウ)等につき、次に、右外注費が、被告主張のごとく吉川邸新築工事に伴うものにすぎないのか(被告の主張(一)(4)エ)につき、さらに、原告代表者供述のその余の外注費の存在につき、順次検討し、最後に、その結論について述べることとする。

(一)  松賀建設(邑久光明園)関係の応援工事の存否について、

原告は、前記外注費(乙第四号あの2ないし五)は、邑久光明園の工事を受注した松賀建設が工事を遅滞したため、その設計監理を依頼されていた原告が電気・水道工事施工の応援を訴外総社産業に行わせたことによる外注費の支払であり、別表3記載の設計料収入脱漏額(同表記載番号<1>ないし<10>、<20>)のうちには、右支払済み分の工事施工料も含まれているというが、被告はかかる応援工事の存在を全面的に否定し、簿外外注費の存在を認めない。そこで案ずるに、成立に争いのない乙第二〇号証、証人樋口武の証言によって真正に成立したものと認められる乙第一一号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三〇ないし第三三号証、第四一号証、右証人の証言及び原告代表者尋問の結果(但し後記措信しない部分を除く)に弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 原告が自己の受注先であるという松賀建設の代表取締役訴外松賀正義は、広島国税局大蔵事務官の質問に対して、光明園関係の工事に関して原告から施工応援を受けたことはなく、したがってもとより松賀建設の請負工事帳にも原告に右工事代金を支払った旨の記載がない、右工事にかかる電気工事等については同建設が依頼している特定の業者がおり、右の工事を三〇年間続けている同建設としては、原告や訴外総社産業から施工応援を受ける必要がない旨答述し、同人の妻で同建設の経理担当者でもある訴外松賀富子も右大蔵事務官に対してこれと符号する答述をしていること

(2) 右工事現場の担当者である邑久光明園営繕課班長は、前記大蔵事務官の質問に対し、右工事の下請業者は松賀建設から提出された名簿で分るが訴外総社産業が入っていた記憶がない旨述べるとともに、工事完成までの施工監理の点についても、現場での工事の管理は光明園の営繕課が行っており、原告は完全な設計図を作成しただけで工事についての管理責任は負っていなかった旨述べていること

(3) 原告が下請先であるという訴外総社産業の経理担当者である訴外津神佳子は、前記大蔵事務官の質問に対して、光明園の工事に関し原告から工事等の依頼を受けたり、電気工とか水道工を勝手に連れ出されたりしたことは一切なく、また同社には電気工事、水道工事等のできる従業員もいないし、その資材の在庫もない旨答述していること

そして右訴外総社産業(法人税法二一条一項の承認を受けている青色申告法人である。)においては原告主張の応援工事に関する本件外注費は収入金として計上されるものであるのに、同社の会計記録上には、本件各事業年度のいずれにも原告が主張する内容の収入金が計上されていないこと

(4) 原告が受注し下請に出したという工事ないし役務の具体的内容、受注発生の具体的形態等が判然としないこと

(5) 原告がいう、訴外総社産業に対し下請工事を施工させた最初はおおよそ昭和五三年一〇月ころとみられる(別表3記載番号<1>参照)のに、原告が主張する本件外注費の初回の支払は昭和五五年六月二〇日の五〇〇万円で、工事着工からおおよそ一年半ころも過ぎた後であり、また下請工事を施工させた最終はおおよそ昭和五六年三月ころとみられる(同表記載番号<20>参照)のに、原告が主張する本件外注費の最終回の支払は昭和五五年一〇月二日の四〇万円であって、右下請工事に関する外注費の支払は前渡金として支払われた可能性が強いことになる。そうだとすれば、原告主張の如き人件費要素の多い右外注費につき、このような施工時期・割合を無視した支払がなされることは、この種業界では商慣習上通常行われないものであるから、原告が主張する外注工事の存在自体に疑問の余地が生ずること

以上の認定事実によれば原告のいう松賀建設(邑久光明園)関係の応援工事、ひいては、同外注工事の存在自体を認めることができない。

乙第一二号証、第一八号証、証人津神忠一の証言及び原告代表者尋問の結果中右認定に反する部分は、前記冒頭の各証拠に照らしいずれもにわかには措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  中国四国地方医務局(以下「中四国医務局」という。)関係の工事の設計又は施工に関する外注について

乙第一二号証、第一八号証及び原告代表者尋問の結果中には、本件外注費中に、別表3記載の中四国医務局関係の工事(同表記載番号<11>ないし<13>、<15>ないし<19>)に関し原告がその設計或いは工事の施工を受注して訴外総社産業に外注に出したことによる分が含まれている旨述べる部分が存在する。

しかしながら右各証拠によれば、原告代表者の右供述自体、必ずしも明瞭でなく、かつ一貫性を欠き信用力が低いし、前掲乙第三二号証、成立について争いのない乙第一六号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第四〇号証、証人樋口武の証言を総合すれば、原告が別表3記載の前記工事につき請負ったものは、設計図の完成までであり、工事の施工監理を含まず、また右設計につき訴外総社産業に対し外注したこともないと認められ、原告代表者尋問の結果中右認定に反するその余の部分は措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(三)  本件外注費計九九〇万円と吉川邸新築工事外注費の関係について

被告は、本件外注費は、別表3記載の設計料収入脱漏金に対応する支払(損金)ではなく、原告代表者個人が訴外吉川清美から請負った吉川邸新築工事を訴外総社産業に下請させて支払ったものにすぎないと述べ、他方原告はこれを争い、吉川邸新築工事の点については訴外亡小幡定夫が請負ったものであり、原告代表者個人は右訴外人が建築業者としての登録を受けていなかったので名義を貸しただけであり、本件外注費を右工事のために支払ったことはないという。

よって案ずるに、前記乙第三二号証のほか、成立について争いのない乙第五号証の三、四、第九、一〇号証(以上いずれも原本の成立及び存在を含む。)第三四号証、証人樋口武の証言によって原本の成立と存在が認められる乙第六ないし第八号証、いずれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三六ないし第三九号証の各一、二、証人樋口武、同吉川清美の各証言及び弁論の全趣旨によると、

(1) 原告が別表3記載の本件脱漏額に対応する簿外経費であるという本件外注費(乙第四号証の二ないし五の領収書写参照)は、訴外総社産業が広島国税不服審判所に任意提出した同社の工事台帳(工事名玄場設計、発注者玄場年秋・乙第五号証の三)記載の受入現金に符号し、その工事明細は同社の工事原価明細表(同乙第五号証の三)に記載されているところ、それは同社の総勘定元帳の未成工事支出金(乙第五号証の四)と合致し、右未成工事支出金欄には、それが吉川邸の工事に関するものであることが明示されていること

(2) 訴外総社産業の監査役でかつ経理担当者である前記訴外津神佳子は、広島国税局大蔵事務官に対して、昭和五四年一一月に訴外玄場年秋から右吉川邸工事を依頼され、右工事を約一〇〇〇万円で下請した、原告のいう訴外亡小幡定夫なる人物は知らないと答述していること

また、訴外総社産業は、昭和五五年五月二六日に倉敷税務署長に提出した同社の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度の確定申告書に添付したたな卸資産の内訳書の未成工事支出金欄に、「吉川邸新築工事・四七六万九二四円」と記載していること

(3) 訴外総社産業の前記工事原価明細表ないし総勘定元帳(未成工事支出金)に記載されている同社の右工事に関する外注先ないし材料納入者について、前記大蔵事務官が調査したところ、訴外有限会社茅原建具代表者茅原重夫は、訴外総社産業から右工事に係る建具工事を受注した旨、訴外木山工業所こと木山佳吾は、訴外総社産業から右工事に関して階段の手直しの注文を受けた旨、訴外有限会社西野興業代表者西野久夫は、右工事の鉄骨階段を受注した旨、訴外アサノ木材産業株式会社監査役浅野けいこは、訴外総社産業から注文を受けて右工事現場へ木材を運搬した旨それぞれ答述するとともに、右四名は、原告が右工事を施工したと主張する前記小幡定夫とは面識もなく同人から注文を受けたこともない旨一致して述べ、右各社の訴外総社産業に対する請求明細書控え、納品書控えの各写し等右答述に符号する書類を右係官に対して提出していること

また前記工事原価明細表ないし総勘定元帳(未成工事支出金)中に訴外岡山瓦斯株式会社に対し訴外総社産業が「ガス工事、岡山瓦斯、五万四〇〇〇円」を支払った旨の記載があるので、これにつき広島国税不服審判所の担当者が当ったところ、同ガス会社から、工事名として「キッカワキヨミ」と記載した訴外総社産業宛の領収書の控えが提出されたこと

(4) 前記工事の発注者である訴外吉川清美及びその妻である吉川津代は、広島国税不服審判所の担当官の電話に対して、それぞれ、右工事は訴外総社産業にしてもらった旨答述していること

(5) 訴外吉川清美が保管する右工事についての工事請負契約書、及び見積書によると、右見積書の作成者は原告、右契約書上の請負者は訴外玄場年秋、工事施工者は訴外総社産業となっていること

(6) 岡山市役所建築指導課に保管されている右工事の建築確認申請書に添付されている建築計画概要書によると、右工事の建築主は岡山市妹尾三〇〇〇の二訴外吉川清美、設計者は原告、施工者は訴外総社産業となっていること

以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、本件外注費計九九〇万円は、原告の代表者である訴外玄場年秋個人が訴外吉川清美との間で契約した吉川邸新築工事について訴外総社産業に工事を発注し、同社がこれを施工したことに対してその工事代金として支払われたものと認められる。右認定に反する原告代表者尋問の結果及び証人津神忠一の証言はいずれも措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(四)  原告代表者の、本件脱漏額に対応する外注費についてのその余の供述について

原告代表者は、被告等の調査、広島国税不服審判所の審査並びに本件訴訟中において、前記(一)及び(二)に触れた事実のほか、その余の、本件脱漏額に対応する外注費の存在を種々主張する。そしてそれは本件外注費計九九〇万円の内容に関するものにとどまらず、それ以外の外注費の存在にまで及ぶものである。例えば原告代表者は、本件訴訟における尋問の際、本件脱漏額のうち別表3記載番号<14>を除いた脱漏額一三二七万四七〇〇円に対応する損金として、本件外注費計九九〇万円以外に、さらに、訴外株式会社新建設備設計事務所に対し電気・機械設備設計等を下請に出したその設計料として昭和五四年五月一〇日一〇〇万円、同五五年四月一五日一五〇万円、同五六年四月三〇日一〇〇万円、合計三五〇万円を支払ったし、訴外小幡定夫が松賀建設の光明園の工事に関して石とか砂などの材料を運んだその材料、運賃込みの費用として同人に対して四〇〇万円を支払ったし、また同建設の右工事についての施工応援のために訴外総社産業から渡り職人を連れ出し、右職人に対しては、訴外総社産業を通さず原告が直接に資金を支払ったりしたと供述しているが如きである。

しかしながら、先に前記(一)ないし(三)の各所において述べた批判のほか、成立について争いのない乙第一、二号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一二号証及び第一八号証、証人樋口武の証言、原告代表者尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、原告代表者の前記調査、審判、訴訟段階での各供述は、具体性を欠いたり、あいまいであったり、供述にその都度つじつまを合わせたような矛盾、転変が目だったり、裏付証拠を欠いたり、もしくは信憑力ある関係人の供述や客観的事実と相反したり、供述内容自体不合理で、その不合理な点について納得しうる理由が述べられなかったりするので、到底措信できないものである。

その他に原告の右供述を裏付けるごとく見える甲第一号証の一ないし三、乙第四二、四三号証、証人津神忠一の証言も、右各証拠自体を詳細に検討し、さらに前掲各証拠に、成立について争いのない乙第二三ないし第二五号証(これらの本件各事業年度における原告の確定申告書中には相当高額の一般管理費が既に計上されている。)、第四五号証の一、二、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第四四号証及び第四六号証並びに弁論の全趣旨を総合してみると、いずれも原告の右供述を裏付けるには足りないものと認められる。

してみれば、本件脱漏額に対応する前記一二以外の外注費もまた存しないものと認めることができる。

(五)  以上の(一)ないし(四)の検討結果によれば、本件外注費計九九〇万円は本件脱漏額に対応するものではなく、その他の本件脱漏額に対応する外注費も存在しないものと認められる。

3  昭和五五年五月期及び昭和五六年五月期の各事業税額について

先に1の冒頭で述べたごとく、事業税の算出方法自体は当事者間に争いがなく、直前年度である昭和五四年五月期及び昭和五五年五月期の各所得金額は、前記2に示したところにより、被告主張どおりと確定されたので、右各事業税についても被告主張の額(別表4)をもって相当とする。

4  してみれば、本件各事業年度における原告の課税所得金額は被告主張のとおりであるから、被告のなした本件各更正処分は適法であり、原告主張の違法は存しない。

三  本件各賦課決定処分の違法性

本件各賦課決定処分の前提である本件各更正は右二で認定したとおり所得を過大に認定していないし、また、被告の主張(二)の、別表3記載番号<1>ないし<20>の設計料収入を公表帳簿に計上せず、そのうち番号<3><9><10>の小切手受領分は架空人名等を使って裏書し、同<11>ないし<20>の振込分は簿外預金口座に入金したりし、収入金の一部を除外していたことは当事者間に争いがなく、右事実は本件各事業年度の法人税の課税標準の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺい又は仮装したものにあたるものと認められる。

原告代表者は、後者の点につき意図的に隠ぺい、仮装したものではない等種々弁疎するが、いずれも前記二の各所で触れたごとく、原告代表者の供述にはその都度つじつまを合わせたような矛盾、転変が目だつ等の事情があって措信しがたい。

してみれば本件各賦課決定処分もまた同法六八条一項の課税要件を充足し適法であり、原告主張の違法は存しない。

四  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笠井達也 裁判官 郷俊介 裁判官 玉置健)

事業税の損金算入については、昭和四四年五月一日付直審(法)25(例規)「法人税基本通達」(昭和55年12月25日付改正直法2-15(例規)法人税基本通達等の一部改正についてにより改正後のもの)9-5-2(事業税の損金算入の時期の特例)により、「当該事業年度の直前の事業年度分の事業税の額については、・・・当該事業年度終了の日までにその全部又は一部につき申告、更正又は決定がされていない場合であっても、当該事業年度の損金の額に算入することができるものとする。・・・当該損金の額に算入する事業税の額は、直前年度の所得又は収入金額に標準税率を乗じて計算するものとし、・・・。」と取扱うこととしている。

また、右事業税の標準税率は地方税法72条の22(事業税の標準税率等)に掲記してあり、原告の場合は、<1>所得のうち年350万円以下の金額は100分の6、<2>所得のうち年350万円を超え年700万円以下の金額は100分の9、<3>所得のうち年700万円を超える金額は100分の12の標準税率が摘要されることとなる。

別表1

課税経過表

<省略>

別表2

本件各事業年度の所得金額及び税額の計算明細

<省略>

※1 その詳細は別表3のとおりである。

※2 その計算明細は別表4のとおりである。

別表3

設計料収入脱漏額等の明細

<省略>

別表4

事業税の計算明細

<省略>

※1 ※2 国税通則法118条1項にもとづき1000円未満の端数金額は切り捨てる。

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