岡山地方裁判所 昭和61年(ワ)620号 判決 1990年12月27日
原告
後藤房江
被告
立花徹
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(原告)
一 被告は原告に対し一八〇〇万円及びこれに対する昭和五八年八月一八日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行宣言
(被告)
主文同旨
第二主張
(請求の原因)
一 昭和五八年八月一七日午後七時一五分頃岡山市今四丁目四番三七号先道路上において、被告運転の普通乗用自動車(岡三三な六八三〇、以下被告車という。)と原告運転の原動機付自転車(岡山市ね三二一八、以下原告車という。)が衝突し、原告は右大腿骨骨幹部骨折などの傷害を受けた。
二 被告は被告車の運行共用者である。
三 本件事故による損害は次のとおりである。
1 治療経過
原告は昭和五八年八月一七日以降二七八日間入院し、三七九日間通院(通院実日数四七日)して治療を受けたが、自賠法後遺障害別等級表一〇級に該当する後遺障害がある。
2 治療費 三〇〇万円
3 付添費 一五万円(一日五〇〇〇円の割合による三〇日分)
4 入院雑費 二七万八〇〇〇円(一日一〇〇〇円の割合による二七八日分)
5 交通費、雑費など 五〇万円
6 休業損害 三二九万三七六〇円
原告は本件事故当時住友生命保険相互会社に勤務し、一か月一五万〇四〇〇円の賃金を得ていたところ、前記入通院期間六五七日について三二九万三七六〇円の損害を受けた。
7 慰謝料 五七二万四〇〇〇円
前記入通院分二五〇万円、後遺障害分三二二万四〇〇〇円(一〇級の自賠責後遺障害保険金四〇三万円の八割相当額)が相当である。
8 後遺障害による逸失利益 一三三九万一八六二円
原告は前記後遺障害により症状固定時から四三年間月額収入一八万二八〇〇円の二七パーセントを失つたことになるから、中間利息を控除すると前記金額になる(182,800×12×0.27×22.611)。
9 過失相殺
2ないし8の合計は二六三三万七六二二円となるが、本件事故については、原告にも一割の過失があるから、一割を減じると二三七〇万三八五九円となる。
10 損害の填補
本件については、二五四万円の損害の填補があるので、これを控除すると右9の残額は二一一六万三八五九円となる。
11 弁護士費用 二〇〇万円
本件についての原告の弁護士費用の損害は右額が相当である。
四 よつて、原告は被告に対し、前項10、11の合計二三一六万三八五九円のうちの一八〇〇万円及びこれに対する本件不法行為の日の翌日である昭和五八年八月一八日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(請求の原因に対する認否)
一 請求原因第一、二項は認める。
二 同第三項については、二五四万円の損害の填補は認めるが、損害の主張は争う。
(抗弁)
一 本件事故は、後記のとおり、原告の一方的過失によつて発生したものであり、被告に過失はなく、被告車に構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。
二 本件事故現場は、幅約四メートルのセンターラインのない直線道路である。被告は被告車を運転し、時速約三五キロメートルで、道路中央寄りを進行してきたところ、原告がやはり道路中央寄りを対向進行してくるのを認めたので、減速しながら道路左に寄つたところ、原告が被告車の動静を無視して漫然と道路中央を進行してきたので、危険を感じ、急制動したが及ばず、原告車が被告車の右前部に衝突してきたものである。本件事故は、原告が、左側運行していれば、十分被告車とすれちがえたにもかかわらず、前方不注視、または、ハンドル操作不十分のため、道路中央より右側を進行した過失によつて発生したものであり、被告は原告を認めて道路左側に回避する措置をとつており、なんら過失はない。
(抗弁に対する認否)
一 被告の抗弁については、否認する。
二 原告は道路左側を進行していたところ、被告は前方不注視のため原告の進行に気づかず、道路中央を進行し、原告車に衝突したものであり、本件事故は被告の過失によつて発生したものであり、過失割合は、被告が九以上であるのに対し、原告は一以下である。
なお、事故後に作成された実況見分調書は被告の説明のみによつて記載され、正確なものではない。衝突地点は、実況見分調書記載の地点より更に一・一七メートル南であり、かつ、三・二二メートル東方の地点であり、原告は道路左側を進行していたものである。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載とおりである。
理由
一 請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。
二 成立に争いのない乙第一号証、被告本人尋問の結果及び原告本人尋問の結果の一部、検証の結果と弁論の全趣旨によると次の事実が認められる。
1 本件事故現場は西方卸センター方面から東方大元方面に通じる見通しの良い平坦な市道上であり、付近の中央部は幅員約三・六メートルのアスフアルト舗装された車道となり、その北側には白線の外側線があり、その北は幅員約〇・七メートルの路側帯となつている。付近の道路両側には人家が並んでいる。本件事故現場付近は時速三〇キロメートルの速度規制がある。
2 被告は被告車(長さ四・七六メートル、幅一・六九メートル、高さ一・四二メートル)を運転し、時速約三五キロメートルで、西方から道路中央寄りを進行してきたところ、約四一・九メートル前方に原告が原告車(長さ一・五一メートル、幅〇・六一メートル、高さ〇・九三メートル)を運転し、時速約二五キロメートルで道路中央寄りを対向進行してくるのを認めたので、減速しながら道路左に寄つて約一五メートル進行したところ、原告が依然として道路中央付近を進行してきたので、原告車との距離が約一〇・六メートルとなつた地点で危険を感じ、急制動したが及ばず、被告車の右前部先端から約〇・五メートルの部分と原告車の前部が衝突した。衝突地点は前記外側線から約一・五メートルの車道内であつた。衝突後、被告車は約六・五メートル進行して停止し、原告車は衝突地点から約八・一メートル東方で、前記外側線から約〇・六メートルの車道内に転倒し、衝突地点から原告車の転倒地点を結ぶ線上には、衝突後原告車によつてできたタイヤ痕及び擦過痕が残つていた。衝突時には、他の通行車両はなく、被告車の南側は約一・六メートル程度の幅の範囲で原告車が通行可能であつた。
以上のとおり認められるところ、原告は、原告は道路左側を進行していたところ、被告において前記認定より道路中央を進行し、衝突地点も前記認定の衝突地点より一・一七メートル南方で、かつ、三・二二メートル東方地点である旨主張し、証人山口攻の証言とこれによつて真正に成立したと認められる甲第三号証、第四号証の一ないし四、弁論の全趣旨によつて成立の認められる甲第五号証の一ないし三、原告本人尋問の結果中には右主張にそうかのような部分があるが、前掲各証拠と対比して(原告の主張では、前記認定の衝突地点と原告車転倒地点間の原告車によるタイヤ痕及び擦過痕を矛盾なく説明することができない。)措信できないところである。
以上の事実関係によると、原告は前方を注視していれは、十分被告車とすれちがえたにもかかわらず、前方不注視、または、ハンドル操作不十分のため、道路中央より右側を進行したものであり、本件事故は原告の右過失によつて発生したものであり、被告は原告を認めて道路左側に回避する措置をとつており、なんら過失はないものというべきである。前掲乙第一号証と弁論の全趣旨によると被告車には構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたものと認められるから被告の免責の抗弁は理由があることになる。
三 以上の次第で、原告の請求は、その余の判断をするまでもなく、理由がないから棄却することとし、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 梶本俊明)