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岡山地方裁判所 昭和61年(行ウ)9号 判決 1988年12月21日

原告

水川美子

右訴訟代理人弁護士

石田正也

達野克己

被告

地方公務員災害補償基金岡山県支部長長野士郎

右訴訟代理人弁護士

甲元恒也

右訴訟復代理人弁護士

梶田良雄

中野惇

塚本義政

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五九年一〇月九日付でした地方公務員災害補償法による公務外認定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  水川泰造(以下「泰造」という。)は、昭和二四年五月一八日出生し、昭和四三年四月一日付で倉敷市役所職員として採用された。

2  泰造は、昭和五九年六月六日夕方、倉敷市西阿知町西原地内高梁川河川敷西原広場において行われた倉敷市職員文化体育祭(倉敷市・倉敷市職員厚生会主催)ソフトボール大会(市民・衛生局ブロック大会、以下、右大会を「本件ソフトボール大会」といい、泰造が右大会において参加した競技を「本件ソフトボール競技」という。)に出場中発症し、同日午後八時四〇分、医療法人誠和会倉敷紀念病院(倉敷市中島八三一番地所在、以下「倉敷紀念病院」という。)において急性心筋梗塞で死亡した。

3  そこで、泰造の配偶者である原告は、泰造の死亡が公務に起因するものであるとして、被告に対し、地方公務員災害補償法四五条による認定請求をしたところ、被告は、原告の死亡が公務に起因するものとは認められないとして、原告に対し昭和五九年一〇月九日付でこれを公務外の災害と認定する処分(以下「本件処分」という。)をした。

原告は、本件処分を不服として、地方公務員災害補償基金岡山県支部審査会に対し審査請求をしたところ、同審査会は、昭和六〇年六月七日付で審査請求を棄却する旨の裁決をしたので、原告は、さらに地方公務員災害補償基金審査会に対し再審査請求をしたが、同審査会は、昭和六一年六月二五日付で再審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決書謄本は同年八月七日頃原告に対し送達された。

4  しかし、泰造の死亡は、以下のとおり、公務上死亡した場合に該当するから、本件処分は違法である。

(一) 泰造は、昭和五九年六月六日通常勤務終了後、本件ソフトボール大会に参加するため、午後五時三二分頃高梁川河川敷西原広場に到着し、準備体操、練習等の予備運動をせずに、午後六時一〇分頃から、所属チームの六番打者・捕手として本件ソフトボール競技に出場した。

泰造は、六回裏に内野安打で初めて一塁に出塁し、次打者の二塁ゴロで全力で二塁に走ってそこに進塁し、休む間もなく、次々打者の三塁ゴロで三塁手が一塁に悪送球する間に、二塁から本塁まで一気に駆け抜けた。

泰造は、右走塁のため、七回表(最終回)の守備においても精彩を欠き、午後七時〇五分頃の競技終了時には顔色は非常に悪くなっており、自軍のベンチに戻り腹部を押さえ顔面蒼白になって、気分が悪い旨訴えていたが、そのままベンチで唸り出したため、同僚職員が泰造を自動車で倉敷紀念病院に搬送したところ、同人は、一時意識を回復したものの、午後八時四〇分に急性心筋梗塞で死亡した。

(二) 泰造は、倉敷市倉敷社会福祉事務所のケースワーカーとして、もともと精神的負担の大きい生活保護受給等の業務についており、その中でも特に困難な地域を担当していたので、同人には、精神的負担の蓄積があった。泰造は、この精神的負担の蓄積に加えて、日頃運動をしたことがなかったにもかかわらず、公務として行われた本件ソフトボール競技において突然過度に運動量を増大させたことが原因となって、死亡したもので、右死亡が公務に起因することは明らかである。よって、原告は被告に対し、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、泰造が昭和五九年六月六日午後八時四〇分に倉敷紀念病院において急性心筋梗塞で死亡したことは認め、その余は否認する。泰造は、本件ソフトボール競技終了後に発症した。

3  同3の事実は認める。

4  同4(一)の事実のうち、泰造が昭和五九年六月六日通常勤務終了後、本件ソフトボール大会に参加するため、午後五時三二分頃高梁川河川敷西原広場に到着し、午後六時一〇分頃から、所属チームの六番打者・捕手として本件ソフトボール競技に出場したこと、泰造は、六回裏に内野安打で初めて一塁に出塁し、次打者の二塁ゴロで二塁に走ってそこに進塁し、次々打者の三塁ゴロで三塁手が一塁に悪送球する間に二塁から本塁に生還したこと、泰造が、午後七時〇五分頃の競技終了後自軍のベンチに戻り腹部を押さえ顔面蒼白になって、気分が悪い旨訴えていたが、そのままベンチで唸り出したため、同僚職員が泰造を自動車で倉敷紀念病院に搬送したところ、同人は一時意識を回復したものの、午後八時四〇分に急性心筋梗塞で死亡したことは認め、その余は否認する。

同4(二)の事実のうち、泰造が倉敷市倉敷社会福祉事務所のケースワーカーとして生活保護受給等の業務についていたこと、本件ソフトボール競技が公務として行われたことは認め、その余は否認する。

三  被告の主張

1  泰造の死因である心筋梗塞は、冠動脈血流の急激な途絶、すなわち冠動脈の閉塞によって発生し、その多くは動脈硬化、動脈内腔の狭窄を基盤とし、その部位に何らかの原因で急激に血栓を生じることによって発生するとされている。もっとも、一部の事例では、動脈硬化が殆ど認められないものや、血栓さえ認められないものがあるとされているが、これらの場合の正確な原因は不明である。

そして、心筋梗塞という疾病を公務上の災害と認定するためには、一般的には、泰造の従事していた業務に関する諸般の事情が原因となって、その発症を招いたことが明らかに認められなければならず、具体的には、通常その発生前において、心筋梗塞発病の原因とするに足りる、業務に関連する強度の身体的努力又は精神的緊張があったこと等が医学的に認められなければならない。

2  ところで、泰造が従事していた日常の業務の内容やその状況は、特に過激又は異常なものとは認め難く、それによって過度の精神的、肉体的負担が生じていたとは考えられない。また、本件ソフトボール競技も、広く一般市民の間にレクリエーションとして行われている性質のもので、格別過激なものではない。

したがって、泰造が従事していた日常の業務、本件ソフトボール競技のいずれについても、心筋梗塞の一般的な発症の原因となり得たとは考えられない。なお、泰造に対し、病理解剖がされていないので、死因に関係する生前の素因の程度は不明であるが、過去に心臓疾患に関する病歴もなく、定期健康診断の結果も異常がないので、同人が死因に結びつく基礎疾患を有していたとも認められない。

4  そうすると、泰造の死亡と公務との間に相当因果関係があるということはできないので、泰造の死亡が公務に起因するものということはできない。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1、3の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、泰造の死亡に至るまでの経過について判断する。

泰造が昭和五九年六月六日通常勤務終了後、本件ソフトボール大会に参加するため、午後五時三二分頃高梁川河川敷西原広場に到着し、午後六時一〇分頃から、所属チームの六番打者・捕手として本件ソフトボール競技に出場したこと、泰造は、六回裏に内野安打で初めて一塁に出塁し、次打者の二塁ゴロで二塁に走ってそこに進塁し、次々打者の三塁ゴロで三塁手が一塁に悪送球する間に二塁から本塁に生還したこと、泰造は、午後七時〇五分頃の競技終了後自軍のベンチに戻り腹部を押さえ顔面蒼白になって、気分が悪い旨訴えていたが、そのままベンチで唸り出したため、同僚職員が泰造を自動車で倉敷紀念病院に搬送したところ、同人は一時意識を回復したものの、午後八時四〇分急性心筋梗塞で死亡したことは、当事者間に争いがない。

(証拠略)

1(一)  泰造は、昭和五四年五月一日倉敷市市民局福祉部倉敷社会福祉事務所福祉課勤務を命ぜられ、生活保護ケースワーカーとして、被保護世帯、民生委員宅及び指定医療機関等で生活保護世帯の実態調査を行い、右調査結果を福祉事務所内で記録し、又は保護の開始・変更・廃止等の手続事務、その他福祉五法関係、法外援護業務等の事務に従事していた。なお、泰造は死亡当時、中庄団地地区を担当して三年目であったが、同地区には処遇困難なケースが多かった。

泰造の勤務時間は、午前八時三〇分から午後五時までで、休憩時間は午前一二時から午後一時までと定められていた。泰造の死亡前三か月間における時間外勤務実績はなく、右期間における被保護世帯の実態調査等のための出張時間数は、昭和五九年三月は二九時間四〇分(出張日数は一一日)、同年四月は二五時間(同八日)、同年五月は四一時間一〇分(同一四日)であった。泰造の死亡前一週間の業務状況は、昭和五九年五月三〇日(水曜日)には、午前八時三〇分から同九時三〇分までの間に庁内で通常業務、同九時三〇分から同一二時までの間に日本赤十字社の社費徴収のため市内へ出張、午後一時から同五時までの間に庁内で通常業務にそれぞれ従事し、同月三一日(木曜日)には、午前八時三〇分から同一二時までの間に庁内で通常業務及び厚生省による生活保護法施行事務監査のための準備、午後一時から同五時までの間に右監査にそれぞれ従事し、同年六月一日(金曜日)には、午前八時三〇分から同一二時までの間に庁内で通常業務、午後一時から同三時三〇分までの間に右監査、同三時三〇分から同五時までの間に庁内で通常業務にそれぞれ従事し、同月二日(土曜日)には、午前八時三〇分から同一二時までの間に庁内で通常業務に従事し、同月四日(月曜日)には、午前八時三〇分から同九時三〇分までの間に庁内で通常業務、同九時三〇分から同一一時までの間に民生委員会に出席のため市内へ出張、同一一時から同一二時までの間に庁内で通常業務、午後一時から同五時までの間に庁内で通常業務にそれぞれ従事し、同月五日(火曜日)には、午前八時三〇分から同一二時までの間に庁内で通常業務、午後一時から同四時三〇分までの間に新規申請処理のために市内へ出張、同四時三〇分から同五時までの間に庁内で通常業務にそれぞれ従事した(なお、同月二日以外の日については、午前一二時から午後一時までの間が休憩時間であった。)。

(二)  泰造は、死亡当時満三五歳で、毎年定期健康診断(血圧測定、胸部レントゲン検査、尿検査)を受診していたが、それによると、血圧測定の結果は、昭和五五年度において、最高値が一三六mmHg、最低値が七八mmHg、昭和五六年度において、最高値が一四〇mmHg、最低値が八二mmHg、昭和五七年度において、最高値が一五二mmHg、最低値が九四mmHg、昭和五八年度において、最高値が一四〇mmHg、最低値が八八mmmmHg、昭和五九年度において、最高値が一三六mmHg、最低値が八六mmHgであり、その他の検査結果は異常がなかった。泰造には、死亡前に心臓疾患の病歴はなく、外見上は健康体であった。また、泰造は、一日にタバコ(マイルドセブン)を一五ないし二〇本吸っていた。

2(一)  泰造は、死亡当日(水曜日)には、午前八時三〇分から同一二時までの間及び午後一時から同五時までの間、庁内で通常業務に従事した(なお、午前一二時から午後一時までの間が休憩時間であった。)後、いったん帰宅したが、本件ソフトボール大会に参加するため、自宅を出て、午後五時三二分頃高梁川河川敷西原広場に到着した。泰造は、本件ソフトボール競技が開始されるまでベンチで同僚職員と雑談をしていた。

(二)  午後六時一〇分に本件ソフトボール競技が開始され、泰造は、所属チームの六番打者・捕手として出場した。泰造は、六回裏の第四打席では内野安打で初めて一塁に出塁し、次打者の二塁ゴロで二塁に進み・次々打者の三塁ゴロを三塁手が一塁に悪送球する間に二塁から本塁に生還した。七回表(最終回)の守備に付いた際、主審をしていた同僚職員から「おめでとう。」と言われたが、泰造は返事をしなかったので、右同僚職員は、泰造が疲れていると思った。

(三)  本件ソフトボール競技は午後七時〇五分頃終了したが、競技終了時の挨拶の後、泰造は、疲れた旨訴え、うつむき加減にベンチに戻ったが、その際顔色が非常に悪かった。泰造は、その後ベンチで腹部を押さえ顔面蒼白になり、同僚職員が容態を尋ねたところ、泰造は、気分が悪い旨訴えたので、同僚職員が約三ないし四分間泰造の背中をさすっていたが、同人は、唸り出し、相当気分が悪い様子であったため、同人をベンチに寝かせたが、同人は、その後再び唸り出し、手もひきつり出したので、同僚職員が同人を自家用車で倉敷紀念病院に搬送した。泰造は、自動車に乗車する頃には、意識ははっきりしていなかったが、自動車に乗車して三ないし四分間経過した頃には意識を回復し、同病院に到着した午後七時二〇分頃には、一人で自動車から降り、同病院の洗面所で水を飲んだりもした。しかし、泰造は、同病院の伊丹仁朗医師(以下「伊丹医師」という。)が診察を開始した頃に全身痙攣を起こしたため、同医師が心肺蘇生術、酸素吸入等を実施したところ、同人は、一時意識を回復したが、再び胸痛発作を起こし、同医師が心マッサージ、カウンターショック等を実施したものの、同人は、午後八時四〇分に急性心筋梗塞で死亡した。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  そこで、泰造の死亡が公務に起因するものということができるか否かについて判断する。

(証拠略)

(一)  心筋梗塞は、冠動脈の閉塞により血行が途絶するために起こる心筋の虚血性壊死であり、その原因又は基礎疾患は様々であり、若年者で原因不明の場合や、冠動脈の塞栓、炎症、手術、ショック等から続発することもあるが、大部分は、冠動脈の粥状硬化による冠動脈内腔の狭窄を基盤とし、この部位に急激に血栓を生じることにより発生する。また、一部の例として、冠動脈が異常に収縮して心筋の虚血を来たす冠動脈スパスム(攣縮ともいい、冠動脈壁の平滑筋が何らかの刺激によって収縮し、冠動脈内腔を狭くする機能的狭窄のことを指す。)が血栓形成の原因になったり、また強いスパスムが長時間持続するときは、血栓の形成がなくても心筋梗塞の原因になる。血栓の形成や冠動脈スパスムについては自律神経の関与を初め多くの因子が挙げられているが、現在の段階では定説がない。

心筋梗塞の発生促進因子(危険因子)としては、男性であること、高齢であること、高脂血症、高血圧、肥満、喫煙、糖尿病、ストレス、運動量が少ないこと、心電図異常(左心室肥大、非特異的ST・T異常、心室内ブロック)、虚血性心疾患の既応歴、経口避妊薬の服用等がある。

心筋梗塞は、かなりの割合で心臓に異常な負荷のない時期に発症しており、この理由としては、完全な冠動脈の閉塞を起こすには若干の時間的経過を要することが多いからではないかと考える説もある。

心筋梗塞の発症時の症状としては、激しいしかも長時間続く胸部の絞扼感、胸痛等が特徴とされているが、個々の例ではその症状は様々である。心筋梗塞は、全く突然に出現することもあるが、症例の一〇ないし五〇パーセントは何らかの前駆症状を有するとされており、前駆症状としては、胸痛の他に、動悸、全身倦怠感、めまいがあり、胸痛が前駆症状である場合には、一日ないし数日前から起こることが多い。心筋梗塞を臨床的に診断するためには、胸痛等の自覚症状の他に、心電図(心電図所見としては、虚血期(第一度障害)においてT波逆転、傷害期(第二度傷害)においてST上昇、壊死期(第三度障害)においてQ波がみられる。)、血清酵素活性値の測定、心筋シンチグラムが有用であり、さらに確定診断するためには、冠動脈造影が必要である。

(二)  泰造については、男性であること、高血圧(特に、昭和五七年度の定期健康診断の結果、血圧は、最高値が一五二mmHg、最低値が九四mmHgである。)、喫煙(マイルドセブンを一日一五ないし二〇本程度喫煙)、ストレス(日常の業務による精神的負担)などが心筋梗塞の発生促進因子と成り得るが、これらが素因となるほどのものといえるか不明であり、また、仮に、これらが素因となるとしても、そのいずれの比重が高かったか不明である。

泰造が本件ソフトボール競技の七回表の守備に付き、主審をしていた同僚職員から「おめでとう。」といわれたにもかかわらず返事をしなかった時点で心筋梗塞の発作又は前駆症状が開始していた可能性があり、同人が競技終了後ベンチで苦しみ始め、手をひきつり始めた時点で第一回目の発作によりショック症状に陥ったと考えられる。泰造の倉敷紀念病院入院時の二枚の心電図をみると、それぞれST上昇、ST降下がみられるので、心筋虚血又は心筋傷害が疑われるが、心電図に記録した時点では、既にショック状態になっており、右心電図所見から心筋梗塞部位等の詳細な診断を下すことは困難であり、また、発症から死亡に至るまでの時間が短かったため、心筋梗塞を診断するのに有効なその他の検査は実施されておらず、死後の病理解剖も実施されていないので、心筋梗塞部位、その原因等を確定診断することは極めて困難であり、泰造は比較的若年であること等から、心筋梗塞の発症には、冠動脈スパスムの関与が推測される程度である。

以上のとおり認定判断することができ、これを覆すに足りる証拠はない。

右認定判断によれば、本件ソフトボール競技に出場したことによる負荷が、単独で又は日常の業務による精神的負担と共働して泰造にその死因である心筋梗塞を生じさせた可能性がないとはいえないものの、右負荷がなければ泰造は死亡しなかったということすらできないのであって、右負荷が単独で又は日常の業務による精神的負担と共働して右心筋梗塞を生じさせたと認めるには至らないというべきである。

もっとも、この点につき、(証拠略)井谷徹岡山大学医学部助教授(衛生学教室)の意見として、泰造の死因である心筋梗塞は、基礎疾患としての冠動脈硬化、日常の業務による精神的負担、本件ソフトボール競技において捕手という重要な役割を担当したことによる精神的負担、心筋梗塞発症後の不安感などがその発症又は増悪に関与した可能性もあるが、直接的には、本件ソフトボール競技中の疾走による肉体的負担が原因となったものと考えられる旨記載されているが、右意見は、その根拠として、冠動脈硬化が進行していた可能性、日常の業務による精神的負担が心筋梗塞の原因の一つとなった可能性、本件ソフトボール競技において捕手という重要な役割を担当したことによる精神的負担及び心筋梗塞発症後の不安感が心筋梗塞の症状を増悪させる要因として作用した可能性、本件ソフトボール競技中の疾走が単独又は既存の冠動脈と共働して右心筋梗塞を発症させた可能性を指摘しているに過ぎず、右意見のように解する根拠を十分に説明しているとはいえないので、右意見を採用することはできない。また、(証拠略)泰造の診療に当たった伊丹医師の意見として、本件ソフトボール競技における負荷が心筋梗塞を誘発した旨記載されているが、右意見も、右のように解する根拠としては、本件ソフトボール競技に出場したことによる負荷が通常の業務によるそれを上回るものであると指摘するのみで、右意見のように解する根拠を十分に説明しているとはいえないので、右意見を採用することもできない。他に、本件ソフトボール競技に出場したことによる負荷が単独で又は日常の業務による精神的負担と共働して泰造にその死因である心筋梗塞を生じさせたと認めるに足りる証拠はない。

2 そうすると、泰造の死亡と公務との間に相当因果関係があるということはできないので、泰造の死亡が公務に起因するものということはできない。

したがって、本件処分には、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の違法はないというべきである。

四  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石嘉孝 裁判官 安原清蔵 裁判官 中村也寸志)

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