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岡山地方裁判所 昭和62年(ワ)607号 判決 1988年9月30日

原告

磯本恵理

被告

山根浩美

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して原告に対し、金一八九一万五三二二円及び内金一七一一万五三二二円につき昭和五九年四月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを七分し、その四を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告に対し、金四四五二万六四九円及び内金四〇五二万六四九円につき昭和五九年四月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言(被告太田のみ)。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和五九年四月二三日午後六時二〇分ころ

(二) 場所 岡山県備前市穏浪二五四三番地の六先国道

(三) 加害車両 被告山根運転の普通乗用車及び被告太田運転の普通乗用車

(四) 被害車両 原告運転の原動機付自転車

(五) 事故状況 被告山根車と被告太田車が出合頭に衝突し、このため被告太田車が右斜め前方に進行して対向車線に進入し、折から東進中の原告車と衝突して原告に傷害を負わせた。

2  責任

被告山根は前方及び右方を注視し、被告太田は前方を注視してそれぞれ自車を運転する注意義務があるのに、漫然と運転した過失により、被告ら車両を互いに衝突させ、これにより被告太田車が自車を対向車線に進入させて、本件事故を発生させたものであり、被告らには民法七一九条の共同不法行為責任がある。

3  原告の傷害

原告は、本件事故により、右下腿開放性骨折、骨盤骨折、両大腿骨骨折、恥骨結合離開、右脛骨上端部骨折の傷害を受け、事故当日、出血大量シヨツク状態で武田整形外科医院から岡山川崎病院整形外科へ救急車で転送され、以後、昭和五九年四月二三日から昭和六一年一二月四日までの間、同病院において、治療を受けた(なお、昭和五九年四月二三日から同年一二月二二日、昭和六〇年六月三日から同年八月四日、昭和六一年八月四日から同月一二日までは入院、その他は通院。)。

4  損害

(一) 休業損害 五一八万六〇五九円

原告は昭和五九年三月に岡山県立操山高校を卒業し、同年四月一日に日生町役場に就職し、通常であれば、給料として、昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日まで月額一〇万三六〇〇円、同年四月一日から昭和六一年三月三一日まで月額一一万三二〇〇円、同年四月一日から昭和六二年三月三一日まで月額一二万一六〇〇円、期末勤勉手当として、六月期に給料、扶養手当の一・九か月分、一二月期に二・五か月分、三月期に〇・五か月分の収入を得るはずであつた。そうすると、原告の休業損害は、昭和五九年四月二三日から昭和六〇年三月三一日までが一六七万五九六六円、昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までが一九一万三〇八〇円、昭和六一年四月一日から同年一二月二二日までが一五九万七〇一三円(合計五一八万六〇五九円)となる。

(二) 入院付添費 六五万五〇〇〇円

原告は、前記傷害のため入院を余儀なくされ、その間の昭和五九年四月二三日から同年八月三一日(一三一日間)まで付添看護を要した。その看護料は一日五〇〇〇円として六五万五〇〇〇円である。

(三) 入院雑費 三七万九二〇〇円

原告は、川崎病院に三一六日間入院をした。その入院雑費は一日一二〇〇円として三七万九二〇〇円となる。

(四) 慰籍料 五〇〇万円

原告は本件事故により三回の手術を余儀なくされ、昭和五九年四月二三日から昭和六一年一二月四日までの間に入退院を繰返した。第一回目は、事故直後の右大腿骨骨折、右下腿骨骨折、左大腿骨骨折等の手術であるが、原告は出血大量のためシヨツク状態で運ばれ、集中治療室で手術をし、一命をとりとめた。第二回目は、昭和五九年九月四日、左下腿上部の創状態が悪化し、植皮術を行つた。第三回目は、昭和六〇年六月四日、観血的整復術後、外反変形が生じ、内反骨切り術を施行した。原告は、県立操山高校専攻科を卒業後、将来は保母になることを夢見て日生町役場へ採用され、仕事にはげんでいたものであり、事故当日も、保母検定の最後の試験科目であるピアノの練習をし、帰宅途中であつた。本件事故については、原告に全く過失はなく、被告らの一方的な事故により、これから女性として公的にも私的にも最も充実した人生を送ることのできる期間を一瞬にして失つてしまつたもので、入通院の二年九か月間は、原告の人生でとり返すことのできない重要な期間だつたのである。また、本件事故により、原告の母は、原告を介護するため、勤務していた保育園の給食婦の仕事を辞めざるを得なくなつたうえに、一人娘である原告の傷害により、原告の成長、将来の幸福を祈つていた両親の精神的苦痛は計り知れないものであつた。これらのことを考慮すると、原告の慰籍料は、五〇〇万円が相当である。

(五) 治療費 二三六万二七八五円

武田整形外科医院分 三万五一二〇円

川崎病院分 二三二万七六六五円

(六) 後遺症による損害 合計三三五五万三八四〇円

(1) 後遺症による逸失利益 二三五五万三八四〇円

原告は、昭和六一年一二月二二日に症状が固定し、骨折による右下肢の股関節と膝関節の運動制限、骨折による右下肢短縮、骨折による骨盤変形の後遺傷害が残つた。右後遺症によつて、膝関節の屈伸制限、関節痛、右下肢短縮、骨盤のずれ等から日常の何でもない動作が大変苦痛であること、趣味のスポーツが全くできなくなつたこと、膝の屈伸ができないため、和式便所での排泄ができなくなつたこと、筋力低下、膝関節の痛み等から階段の昇降が困難になり、手すりを必要とすること、膝関節の運動制限のため家事労働が困難になつたこと、畳の上での正座が不可能になつたこと、入浴時に深い和式の浴槽では手すりが必要となつたこと、手術痕や右膝下の傷跡が血行障害により青紫色に変色し、突き刺すような痛みがあるため、蒸しタオルやカイロ等で温湿布を行なつていること、スカート着用時に右膝下の傷跡が目立ち、恥ずかしい思いをしていること、骨折のため足がX脚状態となり、現在でも両膝を合わせると、かかとが一〇センチメートル前後開いてしまうことの各日常生活上の障害があるほか、骨盤変形のため出産の可能性について不安がある。原告は、昭和三八年一二月二二日生れであり、症状固定日である昭和六一年一二月二二日現在二三歳であつたから、就労可能年数は四四年間であり、新ホフマン係数は二二・九二三となる。また、原告の昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの年収は二〇五万五〇四〇円であり、労働能力喪失率は、前記後遺障害の程度からすると、五〇パーセントを相当とする。したがつて、原告の逸失利益は二三五五万三八四〇円となる。

(2) 後遺症による慰藉料 一〇〇〇万円

前記のとおり、原告は、日常生活上の障害のみならず、女性としての機能も障害を受けており、その慰藉料は一〇〇〇万円が相当である。

(七) 弁護士費用 四〇〇万円

原告は、弁護士大石和昭に本件訴訟を委任し、請求損害額の約一〇パーセントに相当する四〇〇万円を報酬とする約束をした。

5  損益相殺

原告は被告らから六六一万六二三五円の支払を受けた。

6  よつて、原告は被告らに対し連帯して、本件交通事故による損害賠償金として四四五二万六四九円及び内金四〇五二万六四九円につき不法行為の日である昭和五九年四月二三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告らの主張

1  請求原因に対する被告山根の認否

(一) 請求原因1の事実は認める。

(二) 同2は争う。

(三) 同3、4の各事実は不知。

(五) 同5の事実は認める。

(五) 同6は争う。

2  請求原因に対する被告太田の認否

(一) 請求原因1の(一)ないし(四)の各事実は認める。

(二) 同2は争う。

(三) 同3の事実は不知。

(五) 同4の(一)ないし(六)の各事実は不知。同4の(七)の事実のうち、原告と弁護士大石和昭との間で本件訴訟について弁護士報酬契約が成立したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(五) 同5の事実は認める。

(六) 同6は争う。

3  被告山根の主張

(一) 休業損害について

原告は、本件事故の翌日である昭和五九年四月二四日から日生町役場を欠勤したが、同年七月三一日までは給与全額の支払を受けている。また、昭和五九年八月一日からは休職扱いとなり、昭和六〇年一月一〇日付で免職になるまでの間は、給与の八〇パーセントの支払を受けている。なお、原告の後遺障害の症状固定日は昭和六一年一二月二二日である。したがつて、原告の休業損害は、次の(1)、(2)を合計した四〇〇万二〇八四円となる。

(1) 給料 合計二七三万四七八六円

昭和五九年八月一日から昭和六〇年一月三一日まで

103,600円×0.2×6か月=124,320円

昭和六〇年二月一日から同年三月三一日まで

103,600円×2か月=207,200円

昭和六〇年四月一日から同年六月三〇日まで

107,500円×3か月=322,500円

昭和六〇年七月一日から昭和六一年三月三一日まで

113,200円×9か月=1,018,800円

昭和六一年四月一日から同年一二月二二日まで

121,600円×8か月+121,600円÷30日×22日=1,061,966円

(2) 期末勤勉手当 合計一二六万七二九八円

昭和五九年六月期

(84,168円+30,060円)-(84,168円+20,040円)=10,020円

昭和五九年一二月期

(190,380円+60,120円)-91,382円=159,118円

昭和六〇年三月期

103,600円×0.3か月=31,080円

昭和六〇年六月期

113,200円×1.9か月=215,080円

昭和六〇年一二月期

113,200円×2.5か月=283,000円

昭和六一年三月期

113,200円×0.3か月=33,960円

昭和六一年六月期

121,600円×1.9か月=231,040円

昭和六一年一二月期

121,600円×2.5か月=304,000円

(二) 入院付添費について

原告の付添看護は原告の母親がしているが、同女は宗教法人西念寺日生保育園に勤務して月額一〇万四九〇〇円収入を得ていた。したがつて、原告の母親は付添看護をした一三一日間について右収入を失つたのであるから、入院付添費としては四五万八一〇七円が相当である。

(三) 入院雑費について

入院雑費については、一日八〇〇円の三一六日分である二五万二八〇〇円が相当である。

(四) 慰藉料について

入院三一六日、通院実日数二八日を斟酌すると、二〇〇万円が相当である。

(五) 後遺症による損害について

(1) 後遺症による逸失利益について

原告の後遺症障害を実質的に考慮すれば、自賠法施行令等級表の第一〇級相当であり、右等級表の喪失率表による喪失は二七パーセントとされているが、右等級表は主として肉体的労働者を対象とするものであるところ、原告は本件事故前に日生町役場で事務職として働いており、将来も事務職としての仕事は可能である。このような事情から、原告の労働能力喪失率は、当初一〇年間は二七パーセント、その後二〇年間は二〇パーセント、その後一四年間は一四パーセントと考えるのが妥当である。そして、原告の後遺障害症状固定時の年収(二〇五万五〇四〇円)に新ホフマン係数を適用すると、後遺症による逸失利益は次のとおり合計九九六万一五八一円となる。

当初一〇年間

2,055,040円×0.27×7.945=4,408,369円

その後二〇年間

2,055,040円×0.2×10.034=4,144,605円

その後一四年間

2,055,040円×0.14×4.896=1,408,607円

(2) 後遺症による慰藉料について

原告の自賠法施行令後遺障害等級は第九級であるが、右等級は第一二級七号、第一二級五号、第一〇級八号が併合繰上げされて第九級となつたものであり、原告の実質的機能障害を考慮すると、四〇〇万円が相当である。

(六) 損害の填補について

被告は原告に対し、原告主張の六六一万六二三五円の他に、二六〇万円を支払つている。

第三証拠

本件記録中の証拠目録記載のとおり。

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の事実は原告と被告山根との間において争いがない。

請求原因1の(一)ないし(四)の各事実は原告と被告太田との間において争いがなく、原告と被告太田との間において成立に争いのない甲第一、第二号証によれば請求原因1の(五)の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  責任

請求原因1(交通事故の発生)の事実によれば、被告らは原告に対して本件事故につき民法七〇九条、七一九条による損害賠償義務がある。

三  原告の傷害

成立に争いのない甲第三号証の一ないし一〇、第四号証、第五号証の一ないし一二、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、請求原因8の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  損害

1  休業損害 四〇一万六八七四円

成立に争いのない甲第四号証、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし三、原本の存在及び成立につき争いのない乙ア第二号証、第三号証、弁論の全趣旨によれば、原告は昭和五九年四月一日に日生町に臨時職員として採用され、本件事故のために同年八月一日から休職となり、昭和六〇年一月一〇日に本件事故によりやむを得ず退職したが、その間、給与として昭和五九年四月分から同年七月分につき月額一〇万三六〇〇円が支給され、また、休職以後の同年八月分から昭和六〇年一月分につき月額一〇万三六〇〇円の八割に相当する八万二八八〇円が支給されたこと、また、日生町では期末勤勉手当のうち、六月期については各月に支給される給与と扶養手当を合算した額の一・九か月分、一二月期については二・五か月分、三月期については〇・五か月分がそれぞれ支給されていること、原告は期末勤勉手当として昭和五九年六月期につき一〇万四二〇八円、同年一二月期につき九万一三八二円をそれぞれ支給されたが、右期間中に本件事故による病気休暇、休職がなかつたとすると、昭和五九年六月期分として一一万四二二八円、同年一二月期分として二五万五〇〇円のそれぞれ支給を受けていたこと、原告が日生町を退職せず通常の勤務を続けていたとすると、原告に支給されたであろう給与は、昭和六〇年四月一日から一〇万七五〇〇円、同年七月一日から一一万三二〇〇円、昭和六一年四月一日から一二万一六〇〇円であつたこと、本件事故による原告の傷害の症状が固定したのは昭和六一年一二月二二日であることの各事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告が日生町から給与、期末勤勉手当を支給されている昭和六〇年一月までの分については、原告が休職等をせず通常の勤務をすれば支給されたであろう金額から現実の支給額を控除した二九万三四五八円が本件事故によつて生じた損害と認められる。さらに、右認定事実によれば、原告は本件事故によりやむを得ず日生町を退職したものであるから、右退職後の昭和六〇年二月から原告の傷害の症状が固定した日までの分については、原告が本件事故により休職等をせず通常の勤務をすれば支給されたであろう三七二万三四一六円(但し、昭和六一年一二月分の給与及び同月期の期末勤勉手当については、それぞれ対応する期間につき日割計算する。)が本件事故により生じた損害と認められる。そうすると、本件事故による休業損害は合計四〇一万六八七四円が相当である。

2  入院付添費 五二万四〇〇〇円

前記甲第三号証の一ないし一〇、第四号証、第五号証の一ないし一二、証人磯本正美の証言、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告が前記三(原告の傷害)で判示した入院期間のうち、昭和五九年四月二三日から同年八月三一日までの間(一三一日間)は付添看護を要する病状であつたこと、右期間中は原告の母親が付添看護をしたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定事実によれば、入院付添費は五二万四〇〇〇円(一日あたり四〇〇〇円)と解するのが相当である。

3  入院雑費 三一万六〇〇〇円

前記三(原告の傷害)で判示したとおり、原告の入院期間は三一六日間であり、その間の入院雑費は三一万六〇〇〇円(一日あたり一〇〇〇円)と解するのが相当である。

4  慰藉料 三〇〇万円

前記三(原告の傷害)で判示したとおり、原告は本件事故によつて重傷を負い、本件事故日から約二年半にわたつて治療を受け、その間三回にわたり入院(合計三一六日間)して手術を受けるとともに、右入院期間を除く期間についても通院(実日数約二八日間)して治療を受けているのであり、また、前記一(交通事故の発生)によれば、本件事故は被告らの一方的過失によるものであることをも合わせ考慮すると、傷害による慰藉料としては、三〇〇万円が相当である。

5  治療費 七万七三〇円

前記甲第五号証の一ないし一二、弁論の全趣旨によれば原告は本件事故の治療費として、武田整形外科医院に三万五一二〇円、川崎病院に三万五六一〇円を支払つたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定事実によれば、原告が支払つた治療費は合計七万七三〇円となる。

6  後遺症による損害 合計一八四〇万三九五三円

(一)  後遺症による逸失利益 一二四〇万三九五三円

前記四の1(休業損害)で認定した事実と前記甲第三号証の一ないし一〇、第四号証、第五号証の一ないし一二、成立に争いのない甲第一二号証、原告本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したと認める甲第七号証、弁論の全趣旨及びこれによつて真正に成立したと認める甲第一一号証、証人磯本正美の証言によれば、原告は本件事故により前記三(原告の傷害)で判示した傷害を負い、これによつて、右膝有痛性可動制限、右膝外傷後変形性関節症、右下肢短縮(三センチメートル)、恥骨結合離開状態、両股介排制限の各障害、症状があり、このため具体的には、日常生活における軽い動作にも痛みを伴うほか、膝の屈伸を必要とする正座や和式便所の使用ができず、階段の昇降には手すりが必要であり、また、走れないためスポーツができなくなつていること、手術痕や右膝下の傷跡については、血行障害による痛みがあるため、温湿布をする場合があること、右下肢の骨折によつて、足がX脚状態となり、両膝を合わせると、かかとが一〇センチメートル前後開いていること、右下肢には醜状痕(四センチメートル×一六センチメートル)があり、スカートを着用すると右傷跡がかなり目立ち、ズボンを着用すると布地との摩擦で痛みがあること、原告は昭和三八年一二月二二日生れであり、備前高校を卒業後、保母の資格を取得するため操山高校専攻科を卒業し、日生町の臨時職員として働きながら保母になるための受験準備をしていたが、本件事故によつて保母になることができなくなつたこと、原告の傷害が将来ある程度安定してくれば、事務系の仕事に従事できる余地はあること、原告の傷害の症状が固定した昭和六一年一二月二二日の時点における原告の得べかりし年収(給与、期末勤勉手当)は二〇五万五〇四〇円(月額一二万一六〇〇円の一六・九か月分)であること、右症状固定日以降の原告の就労可能年数は四四年間であることの各事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右に認定した原告の後遺症の内容、程度によれば、原告の労働能力喪失率は、右症状固定時から最初の一〇年間が三五パーセント、次の二〇年間が二五パーセント、最後の一四年間が一五パーセントと解するのが相当である。そして、原告の後遺症による逸失利益を算定するについては、右症状固定時における得べかりし年収額二〇五万五〇四〇円に中間利息の控除の方法として新ホフマン方式を適用すべきである。そうすると、原告の後遺症による逸失利益は次(1)ないし(3)を合計した一二四〇万三九五三円となる(円未満切捨て)。

(1) 最初の一〇年間 五七一万四四八〇円

2,055,040円(年収)×0.35(喪失率)×7.9449(新ホフマン係数)=5,714,480円

(2) 次の二〇年間 五一八万九六一円

2,055,040円×0.25×10.0844=5,180,961円

(3) 最後の一四年間 一五〇万八五一二円

2,055,040円×0.15×4.8937=1,508,512円

(二)  後遺症による慰藉料 六〇〇万円

原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故による傷害によつて結婚の可能性に不安を抱いているほか、骨盤の変形による出産への悪影響についても心配していることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定事実及び前記6の(一)(後遺症による逸失利益)で判示した事実を総合すれば、原告の本件事故の後遺症による慰藉料としては六〇〇万円が相当である。

7  弁護士費用 一八〇万円

原告が本訴の提起、追行を原告代理人に委任したこと(この点につき、原告と被告太田との間では争いがない。)は本件記録から明らかであるところ、原告の請求額、前記認容額、その他本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、一八〇万円が相当である。

五  損益相殺 九二一万六二三五円

原告が被告らから六六一万六二三五円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。さらに、弁論の全趣旨及びこれによつて真正に成立したと認める乙ア第四号証によれば、原告は被告山根が加入していた日生町信用農業協同組合の自動車共済保険から昭和六三年一月一八日に二六〇万円を受領していることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定事実及び前記当事者間に争いがない事実によれば、原告が本件事故に関して被告らから九二一万六二三五円の支払を受けたものと解される。

六  よつて、原告の被告らに対する請求は主文記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、なお、仮執行免脱の宣言についてはその必要がないものと認めこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 安原清蔵)

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