岡山地方裁判所倉敷支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人を懲役十月及び罰金五万円に処する。
ただし、この裁判が確定した日から三年間右の懲役刑の執行を猶予する。
右の猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
右の罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
警察において押収された粳玄米百三十九石八斗及び粳精米三石の換価代金百二十八万三十九円及び紙袋七百十四枚は、これを没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和二十七年より岡山県総社市総社九百六十四番地において雑穀商を営み、主として麦類及び豆類の販売を業としていたものであるところ
第一 法定の除外事由がないのに、営業の目的をもつて売り渡すため、いずれも前記自宅において
一、(一) 昭和三十三年六月上旬頃、政府以外の者である川上権太郎から粳玄米八斗を代金八千八百円で
(二) 同月上旬頃、政府以外の者である秋庭房夫から粳玄米二斗を代金二千三百円で
(三) 同月中旬頃、政府以外の者である藤田勇から粳玄米八斗を代金八千八百円で
(四) 同月中旬頃、前記秋庭房夫から粳玄米二斗を代金二千三百円で
(五) 同月下旬頃政府以外の者である在間一夫から粳玄米四斗を代金四千四百円で
それぞれ買い受け
二、妻岡崎登美子と共謀の上
(一) 同年二月中旬頃、政府以外の者である近藤宰一から粳玄米八斗を代金九千二百円で
(二) 同月中旬頃、右近藤宰一から粳玄米八斗を代金九千二百円で
(三) 同月下旬頃、政府以外の者である渡辺菅男から粳玄米八斗を代金八千八百円で
(四) 同月下旬頃、政府以外の者である国光若之進から粳玄米二斗を代金二千三百円で
(五) 同年三月上旬頃、右国光若之進から粳玄米二斗を代金二千円で
(六) 同年四月下旬頃、前記渡辺菅男から粳玄米六斗を代金六千六百円で
それぞれ買い受け
第二 法定の除外事由がないのに、前記自宅から同市総社百一の一番地日本通運株式会社倉敷支店西総社営業所八号倉庫まで(約一、五キロ)、別表記載のとおり昭和三十二年十二月一日頃から同三十三年六月二十日頃までの間前後十回にわたり、米穀合計百四十二石八斗を、情を知らない岡山県貨物運送株式会社総社営業所に輸送方の委託をして、これを輸送し
たものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
被告人の本件行為中、第一の点は食糧管理法第九条第一項、第三十一条、同法施行令第七条、同法施行規則第四十条(第一、二の点については刑法第六十条をも適用)に、第二の点は食糧管理法第九条第一項、第三十一条、同法施行令第十一条、同法施行規則第四十七条に当り、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるが、情状により食糧管理法第三十四条を適用して懲役及び罰金を併科するのを相当と認めるので、懲役刑については刑法第四十七条本文、第十条により犯情の最も重いと認める第二別表8の罪の刑に法定の加重をした刑期、罰金刑については同法第四十八条第二項により各罪について定められた罰金の合算額の各範囲内において被告人を懲役十月及び罰金五万円に処するが、情状特に憫諒すべきものがあるので、同法第二十五条第二項本文に従いこの裁判が確定した日から三年間右の懲役刑の執行を猶予し、同法第二十五条ノ二に則り右の猶予の期間中被告人を保護観察に付し、同法第十八条に従い右の罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、警察において押収された粳玄米百三十九石八斗及び粳精米三石の換価代金百二十八万三十九円は本件第二の犯罪の組成物件の換価代金、紙袋七百十四枚は本件第二の犯行の用に供したものであつて、いずれも被告人以外の者に属しないから、同法第十九条第一項第一号、第二号、第二項によつて、これを没収することとする。
(弁護人の主張について)
弁護人は、本件第二の事実につき「食糧管理法第九条第一項は、主要食糧の移動すなわちその買受、売渡、輸出、移出等主要食糧の支配ないし所有権の移動を制限する趣旨であり、従つて同法施行規則第四十七条にいわゆる「輸送」も主要食糧についてその主体の変更がある場合のみを指し、主体の変更を伴わない場所の移動は単なる「運搬」に過ぎず、同法はかかる「運搬」をも罰するものではない。本件第二の事実は、被告人がその買い受けて所有する米穀を自宅から使用権限のある倉庫まで単に「運搬」したものに過ぎないのであるから同法施行規則第四十七条に規定された「輸送」をした場合に該当せず、従つて犯罪を構成しない」旨主張している。
しかしながら、食糧管理法第九条第一項が主要食糧の「譲渡その他の処分」の外特に「移動」を規定していること、同法施行規則第四十七条が旅行者、転居者等自家消費のためのみにする主要食糧の移動をも制限していること(第一項第四号)等の点から考えると、同条に規定された「輸送」が主要食糧の支配ないし所有権の移動を伴う場合のみに限られるものとは到底解することができない。
従つて、同条列挙の事由の存しない限り、たとえ主要食糧の所有者が自己消費のためにこれを「輸送」する場合であつても犯罪の成立を妨げるものではないと解すべきところ、本件の如く米穀の所有者である被告人が、前記第二の事実に対応する各証拠によつて認められるとおり、その値上りを待つて他人に売り渡す目的をもつて貯蔵するため日通倉庫までこれを「輸送」した場合に犯罪が成立することは明白である。なお、弁護人の引用する判例(昭和二十七年十一月二十八日東京高等裁判所判決、昭和二十七年(う)第一八〇七号)は、生産者が自家に収納するため又は自家の食糧に充てる精米のため主要食糧を運搬する場合に関するものであるが、かかる行為は、食糧管理法令の目的とする主要食糧の公正な配給を確保することを阻害する虞は少しもないのみならず、主要食糧の生産に当然附随する行為であるから、本件の如き場合とはその内容を異にするものというべきである。従つて弁護人の右の主張は、これを採用することができない。
そこで主文のとおり判決する。(昭和三三年一一月四日岡山地方裁判所倉敷支部)
(別表は省略する。)