岡山地方裁判所倉敷支部 昭和51年(ワ)209号 判決 1979年11月15日
原告
遠藤資郎
被告
九鉄産業株式会社
主文
一 被告は、原告に対し、金五、二六〇、八七七円及び内金四、七八〇、八七七円に対する昭和五一年一二月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その六を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一申立
一 原告
1 被告は原告に対し、金一二、九一八、四四四円及びこれに対する昭和五一年一二月五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
原告は、次の交通事故により受傷した。
(一) 発生時 昭和四九年五月一日午前九時五〇分頃
(二) 発生地 岡山県浅口郡里庄町、里庄駅前交差点(国道二号線上)
(三) 加害車 大型貨物自動車(福岡一一か二四三三号)
運転者 訴外進好鋭
(四) 被害車 二トン積貨物自動車
運転者 原告
(五) 態様 原告車が国道二号線を鴨方町方面から笠岡市方面に向け西進中、前記交差点の信号が黄色になつたので停止したところ、後進してきた加害車に追突された。
(六) 受傷 原告は、右事故により、頸部挫傷の傷害を受け、昭和四九年五月一日から同五〇年一月一〇日まで宇根本病院に入院し(入院期間二五五日)、同月一一日から同五一年五月三一日まで同病院に通院した(通院期間五〇七日間、うち治療実日数一七四日)。その間聴力障害を併発し、昭和五〇年四月一日から同五一年三月一一日まで安原病院に通院した(通院期間三四六日、うち治療実日数九九日)。
(七) 後遺症 聴力障害により自賠法施行令別表等級九級七号(両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの)相当、頸部捻挫により同等級一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)相当。
2 責任
進好鋭は、被告の被用者であり、被告の業務に従事中、前方不注視、必要車間距離不保持の過失により、本件事故を惹起した。被告は、民法七一五条により使用者責任を負う。また、被告は、加害車を業務用に使用し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任を負う。
3 損害
(一) 治療関係費
(1) 治療費 一二九、七〇八円
(宇根本病院九六、九四四円、安原病院三二、七六四円の合計)
(2) 通院費(バス) 六一、五〇〇円
(宇根本病院一七四日×一六〇円=二七、八四〇円、安原病院九九日×三四〇円=三三、六六〇円の合計)
(3) 入院付添費(近親者付添)
一日一、三〇〇円×七日=九、一〇〇円
(4) 入院中諸雑費 六〇、〇〇〇円
(三〇〇円×九〇日=二七、〇〇〇円 二〇〇円×一六五日=三三、〇〇〇円の合計)
(5) 安原病院診断書料 四、〇〇〇円
(二) 休業損害 三、六五六、八三八円
(1) 月収 株式会社西山商店に勤務し、月収一四三、九八〇円(過去三か月平均)を得ていた。(一日四、七九九円)
(2) 休業期間 昭和四九年五月一日から同五一年五月三一日まで七六二日間
(3) 休業損害
四、七九九円×七六二日=三、六五六、八三八円
(三) 治療期間中の慰藉料
一、五〇〇円×七六二日=一、一四三、〇〇〇円
(四) 後遺症による逸失利益 四、八〇一、七五〇円
(1) 後遺症害 九級七号
(2) 労働能力喪失率 三五%
(3) 就労可能年数 一〇年(原告は、一九二三年―大正一二年―三月一日生の男子)
(4) ホフマン係数 七・九四四
(5) 年収 一、七二七、〇〇〇円
(6) 逸失利益
一、七二七、〇〇〇×〇・三五×七・九四四=四、八〇一、七五〇円
(五) 後遺症に対する慰藉料 三、一三〇、〇〇〇円
(六) 損害の填補 一、〇七七、四五二円
(自賠責保険から七七七、四五二円、被告から三〇〇、〇〇〇円)
(七) 弁護士費用 一、〇〇〇、〇〇〇円
4 結論
よつて、原告は被告に対し、損害賠償金一二、九一八、四四四円とこれに対する訴状送達の翌日(昭和五一年一二月五日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)ないし(五)は認め、同1(六)は不知、同1(七)は争う。
2 同2につき、訴外進の過失及び被告の運行供用者責任は認める。
3 同3(一)ないし(五)、(七)は不知、同3(六)は認める。
三 抗弁
1 弁済
請求原因3(六)記載の弁済のほかに、自賠責保険から治療費二二、五四八円と後遺症害補償金三七〇、〇〇〇円が支払われている。
2 消滅時効
(一) 原告は、「被告は原告に対し、金九、三六八、六九五円とこれに対する訴状送達の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え」との請求をしていたが、昭和五四年四月二五日請求の趣旨を拡張し、「被告は原告に対し、金一二、九一八、四四四円とこれに対する訴状送達の翌日から完済まで年五分の割合の金員を支払え」との請求をなすに至つた。
(二) ところで、本件事故が発生したのは昭和四九年五月一日であり、後遺症害の症状固定日は同五〇年一二月二五日である。
(三) 従つて、原告が請求の趣旨を拡張したのは、事故発生日はもとより、前記症状固定日から三年を経過している。被告は、本訴において、右時効を援用する。
四 抗弁に対する認否
抗弁1は認め、同2は争う。
理由
一 請求原因1(一)ないし(五)は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲一ないし九号証によると、同1(六)を認めることができる。
二 請求原因1(七)(後遺症)につき検討する。
成立に争いのない乙二号証、岡山労災病院に対する鑑定嘱託の結果によると、原告には頸部捻挫により自賠法施行令別表等級一四級一〇号の後遺症害の存することが認められる。成立に争いのない甲七ないし九号証、岡山労災病院及び倉敷中央病院に対する各鑑定嘱託の結果、証人古本雅彦、原告本人の各供述によると、原告は、本件事故後から耳鳴を感じ、軽度の難聴を自覚し、昭和五〇年四月難聴が増強したため安原病院で受診しており、その後の聴力検査の結果は、
(検査日) (病院) (右聴力) (左聴力)
50・6・4 安原病院 五〇デシベル ほぼ通常
50・12・25 右同 三四・一〃 二七・五デシベル
52・3・31 岡山労災病院 七七〃 四九〃
52・6・1 右同 七二〃 三三〃
54・2・27 倉敷中央病院 六四〃 五〇〃
であることが認められる。右事実から、原告の難聴は本件事故による頸部捻挫に起因するものと推認される。
しかしながら、原告は、事故時五一歳であり、年齢からくる耳の機能の衰えがあつたことは推察するにかたくないこと、原告には両耳とも耳管狭窄の傾向があつたこと(倉敷中央病院に対する鑑定嘱託の結果)、本件事故発生は昭和四九年五月一日であり、右耳の難聴の訴えが事故後一一か月後であり、左耳の難聴は事故後約三年経過してから検査上あらわれたものであること、前認定の各病院での検査結果は区々であり、時間的推移により難聴の程度が増悪ないし改善したこともあろうが、検査に人為的要素が加わることは否定できず、検査結果は不確実なものであること、いわゆる鞭打ち症(頸部捻挫)から難聴となることは稀なケースであること(証人古本雅彦の供述)などの諸事情に照らすと、原告の難聴の程度は、自賠法施行令別表の一一級の三の三に該当し、かつ、右難聴に対する本件事故の寄与度は六五%程度とみるのが相当である。
三 請求原因2(被告の運行供用者責任)については当事者間に争いがない。
四 よつて、原告が本件事故により被告に請求しうる損害額は別紙のとおりである。
なお、本件では頸部捻挫による治療期間が、入院二五五日、通院期間五〇七日(実治療日数一七四日)と長びいており、これは被害者の心因性によるところが大であると考えられるので、事故と相当因果関係のある治療期間は、入院六月、通院五月程度と認めるのが相当である。従つて、別紙の計算は、右を前提としている。
五 消滅時効の抗弁について
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が損害及び加害者を知つた時から進行するのであつて、事故発生日が時効の起算点となるわけではない。また、被告は後遺症の症状固定日が昭和五〇年一二月二五日であると主張するが、これを認めるに足る証拠はない。消滅時効の抗弁は失当である。
六 以上によると、被告は、原告に対し、五、二六〇、八七七円とうち弁護士費用を控除した四、七八〇、八七七円に対する事故発生の後である昭和五一年一二月五日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
よつて、原告の請求を右の限度で認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 池田勝之)
(別紙)
以下、本件事故と相当因果関係のある頸部捻挫の治療期間(宇根本病院)を入院6月、通院5月程度とみて、計算する。
1 治療関係費
(1) 治療費 宇根本病院分 22,548円(甲4の分のみ認める。甲5.6の分は認めない。)
安原病院分(診断書料も含む) 32,764円(甲8.9)×0.65=21,296円
(2) 通院費 宇根本病院分 160円×5か月×15日=12,000円
安原病院分 340円×99日×0.65=21,879円
(以上原告本人供述、これにより成立の認められる甲14)
(3) 入院付添費 7日×1,300円=9,100円(経験則、弁論の全趣旨)
(4) 入院雑費 180日×300円=54,000円(経験則、弁論の全趣旨)
2 休業損害
月収 143,980円(過去3か月平均)(1日4,799円)
(証人西山数雄供述、これにより成立の認められる甲10ないし12)
休業期間 330日(昭和49年5月1日から同50年3月26日までの限度で認める)
損害額 4,799円×330日=1,583,670円
3 治療中慰藉料 900,000円
4 後遺症による逸失利益
後遺症 11級
労働能力喪失率 20%
事故の寄与度 65%
就労可能年数 15年
ホフマン係数 10.9808
年収 1,727,760円
計算 1,727,760円×0.2×0.65×10.9808=2,466,384円
5 後遺症による慰藉料 1,160,000円
6 填補 1,470,000円(争いない―請求原因3(六)及び抗弁1)
7 1+2+3+4+5-6=4,780,877円
8 弁護士費用 480,000円
9 7+8=5,260,877円
以上