岡山地方裁判所勝山支部 昭和63年(ワ)17号 判決 1989年8月16日
原告
山本敏明
被告
浅野産業株式会社
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して金一七四万二六五〇円及びこれに対する昭和五七年七月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、連帯して金七〇〇万円及びこれに対する昭和五七年七月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件事故の発生について
別紙表示のとおり
2 責任原因について
本件事故は被告野田耕二(以下「被告野田」という。)の安全運転義務違反などに基づいて発生したもので、被告野田は民法七〇九条の不法行為責任を、被告浅野産業株式会社(以下「被告会社」という。)は本件加害車両の保有者として自賠法三条の運行供用者責任を、それぞれ負うものである。
3 傷害について
原告は、本件事故により、左大腿骨々折、右膝蓋骨開放性粉砕骨折、右膝外側々副靱帯損傷、右肘関節部挫創、骨盤打撲の傷害を受け、次のとおり総合病院落合病院で治療を受けた。
(1) 昭和五七年七月五日~同年一二月三日 入院
(2) 昭和五七年一二月四日~昭和五八年七月一七日 通院
(3) 昭和五八年七月一八日~同年七月二三日 入院
(4) 昭和五八年七月二四日~昭和五九年七月二六日 通院
(5) 昭和五九年七月二七日~同年八月七日 入院
4 損害(1)について
(1) 治療費 (被告ら実費負担)
(2) 附添看護費 金一六万三三二五円
(3) 入院雑費 金一六万九〇〇〇円
(4) 物的損害(眼鏡代) 金四万三五〇〇円
5 損害(2)について
原告の本件事故当時の状況及びその後の経過については次のとおりである。
原告は、昭和五七年三月一日広島県立安古市高校卒業後、合格していた摂南大学工学部への入学を断念し、希望大学である芝浦工業大学へ再度チヤレンジするため、同年四月岡山進研予備校へ入学し、受験浪人をしていたものである。
しかるに、原告は、本件事故のため、前述のとおり長期間の入院生活を余儀なくされ、昭和五八年度入試を受けることができず、その後自宅にて受験勉強を再開したものの、昭和五九年度入試においては芝浦工業大学の受験を断念し、昭和五七年に合格していた摂南大学工学部を再度受験して同大学に合格、昭和五九年四月より大学生としての生活を始めた。しかしながら、その後も治療のため、大学の授業を十分に消化しきれず留年を余儀なくされ、昭和六三年四月現在、四年次に在学しているものである。
以上のように、原告は、本件事故により、受験浪人を一年余分にしたものであり、かつまた、治療のため、大学へ入学してからも一年間の留年を余儀なくされたものである。また、本件事故は、大学受験期という最も重要な時期に発生したもので、原告の受けた苦痛は計り知れないものがある。
したがつて、損害は次のとおりとなる。
(1) 就労遅延損害 金四九四万八八〇〇円
(大学卒年齢別平均年間給与 昭和六一年度賃金センサス二〇歳~二四歳・金二四七万四四〇〇円)
(2) 一年間の予備校授業料等 金三四万円
(3) 慰藉料 金二〇〇万円
6 損害(3)について
弁護士費用(判決時支払約束) 金五〇万円
以上の損害合計は金八一六万四六二五円となる。
7 結論
よつて、原告は、被告らに対し、連帯して右損害金内金七〇〇万円及びこれに対する不法行為の日である昭和五七年七月五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 1は認める。
2 2は認める。
3 3のうち、原告が負傷治療を受けたことを認め、その程度は争う。
4 4乃至6の損害は争う。
三 被告の反論
1 損害について
(一) 原告は、本件事故による負傷治療に基因して大学進学の遅延及び入学後の留年があつたとして就労遅延損害金を請求しているも、被告は、相当因果関係がないと考える。けだし、大学進学については予備校に進学していなくても勉学できるし、治療中も努力次第で勉学できる筈であるうえ、何よりも本人の能力等に基因するところが大であつて、本件事故による負傷治療が唯一の要因ではないからである。
しかも、原告は、本件事故による治療が昭和五九年八月七日症状固定となつて打ち切られているのに、大学入学後の治療(主に通院治療であるし、昭和五九年四月入学である。)によつて留年を余儀なくされたとはいい難く、相当因果関係がないと考える。
(二) 原告の病名・症状・治療内容などからみて、慰謝料金二〇〇万円は高額過ぎるし、入院雑費も一日当たり金五〇〇円(昭和五七年発生の交通事故である。)が相当である。
2 損害の填補
被告は、原告に対し、治療費実費及び付添看護費金一六万三三七二円、眼鏡代金四万三五〇〇円を支払済みであるし、交通費内払金一〇万円、予備校授業料金二五万五〇〇〇円、さらに仮払金六〇万円、以上合計金一一六万一八七二円の支払をしているので、右金員につき損害の填補を主張する。
3 過失相殺
本件事故は右折中の被告車両と左折中の原告車両が側面衝突した事故であるから、原告にも安全運転義務違反等の落度があり、少なくとも二〇パーセント位の過失相殺を主張する。
四 被告の反論に対する認否
1 1は争う。
2 2は認める。
3 3は争う。
第三証拠
記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1及び2並びに同3のうち原告が本件事故により負傷し治療を受けたことは当事者間に争いなく、また、成立に争いない甲三乃至五号証並びに原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告主張の治療が本件事故と事実的かつ相当因果関係あるものであることが優に肯認出来る。
二 成立に争いない甲三、一〇及び一二号証並びに原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因4の損害の発生を認めることができる(ただし、入院雑費は170日×500円=85,000円の限度で認める。)。
三 成立に争いない甲八及び九号証並びに原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五七年三月高校を卒業し、そのときには摂南大学に合格していたが、これが本来の志望大学ではなかつたため、浪人して岡山市内の予備校に通い始めたこと、右予備校への出席状況は良好であつたこと、しかし、本件事故による同年七月五日から同年一二月三日までの入院生活及びそれ以後の通院治療のため受験勉強が充分にできず、昭和五八年度入試は断念したこと、そして、昭和五九年度入試においては、結局右志望大学を諦めて、前記当初合格していた大学を受験し、これに合格して入学したことが認められる。
しかして、右によれば、原告の入院期間は受験勉強の中期約五ケ月に及ぶものであつて、これが原告の受験勉強の進捗に深刻な影響を与えたであろうことは推測に難くない。本件事故なかりせば、原告は、予定された受験勉強を終えて、昭和五八年度入試にはいずれかの大学に合格して学生生活に入つたであろうことは充分に推認される。
しかしながら、原告が右就学した大学において一年留年したことについては、入学後の入院期間が一二日と僅かなものであることや(この点は当事者間に争いがない。)、原告の治療が入学した年である昭和五九年八月七日に症状固定として打ち切られていること、さらに、その際神経症状の自覚症状が認められているものの、後遺障害等級の事前認定においては結局非該当とされていることにも照らすと(以上の点は、成立に争いない甲五乃至七号証により認められる。)、本件事故による傷害と原告の留年との間に事実的にも因果関係を肯定することは困難である。
してみると、原告の就労遅延による損害は、結局、昭和六三年四月から一年間の勤労収入が得られなかつたことであると認めるのが相当である。しかして、昭和六二年度賃金センサス・産業計企業規模計男子労働者新大卒二〇~二四歳の平均給与額は金二五四万七〇〇〇円であることは顕著な事実であるところ(なお、昭和六三年度賃金センサスは判決作成時点で未発行である。)、原告が独身であることを考慮して生活費割合を五割と認めて、結局、就労遅延の実損害については少なくとも金一二七万三五〇〇円は認めるべきものと考えるのが相当である。
また、成立に争いない甲一一号証によれば、原告は、一年分の予備校授業料として金三四万円支払つていることが認められるが、原告が本件事故により右授業を受けられなかつたのは本件事故後の九カ月と認められるので、これに相当すると認むべき金二五万五〇〇〇円の損害を蒙つたというべきである。
慰謝料については、負傷状況、治療状況(入院日数、実通院日数等)その他諸般の事情に鑑み、金一〇〇万円と認めるのが相当である。
四 被告が、原告に対し、治療費実費、付添看護費(原告の主張額を僅かに超える)金一六万三三七二円、眼鏡代金四万三五〇〇円、予備校授業料金二五万五〇〇〇円、仮払金六〇万円を支払つていることは当事者間に争いない(交通費内払の点については、原告が右費用を請求していないので考慮できない。)。
したがつて、原告の本件損害残額は、前記入院雑費金八万五〇〇〇円、就労遅延損害金一二七万三五〇〇円及び慰謝料金一〇〇万円の合計額金二三五万八五〇〇円から右仮払金六〇万円を控除した金一七五万八五〇〇円となる。
五 成立に争いのない甲一及び一五号証並びに原告本人尋問の結果によると、本件事故は、被告野田運転の大型貨物自動車が交通整理の行われていない交差点を時速約三〇キロメートルで右折進行するに当たり、右方の交通の安全確認不十分のまま漫然右小回りして対向車線内に進入したため、対向方向から左折してきた原告運転の自動二輪車に衝突したものと認められるのであるから、被告野田の過失が多大であることは明らかである。もつとも、原告車両の本件左折時の速度が時速三〇乃至四〇キロメートルというのは(原告本人尋問調書七丁表)、右のような場合徐行が法律上要求されていることからしても妥当な走行方法であつたとは言えず、これが損害の発生拡大にある程度寄与していることは否めないものと思料される。したがつて、損害の公平な分担という観点から一〇パーセントの過失相殺を認めるのが相当である。
してみると、原告の本件損害額は金一五八万二六五〇円となる。
六 弁護士費用については、本件事案の態様、認容額等に鑑み、金一六万円が相当である。
七 以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らに対し連帯して金一七四万二六五〇円及びこれに対する本件事故の日である昭和五七年七月五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤拓)
(別紙) 本件事故の表示
(一) 日時 昭和五七年七月五日午後二時〇五分ころ
(二) 場所 久米郡旭町一〇八三の一先道路上
(三) 加害車両 大型貨物自動車(岡八八は一八七九)
(四) 加害者 被告野田 保有者被告会社
(五) 被害車両 自動二輪車(一岡く二九八五)
(六) 被害者 原告
(七) 事故態様
右日時場所において、被告野田運転走行中の加害車両が原告運転の被害車両に接触したものである。