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岡山地方裁判所津山支部 昭和26年(ワ)7号 判決

原告 野上富男

被告 野上保

一、主  文

岡山県勝田郡勝間田町大字畑屋四百九十九番地戸主野上富治郎が昭和二十一年二月十五日死亡したのによつて開始した家督相続の家督相続人は原告であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文同趣旨の判決を求め、その請求の原因として、次の通り陳述した。

一、原告は岡山県勝田郡勝間田町大字畑屋四百九十九番地戸主野上富治郎の長男野上要一郎の長男である野上天猪介の長男であるが、右要一郎が大正十四年十二月三日死亡し、次で右天猪介が昭和二十年七月二十二日死亡したので、旧民法第九百七十四条により右富治郎の家督相続人となつたものである。仍て右富治郎が昭和二十一年二月十五日死亡したのによつて開始した家督相続の家督相続人は原告である。

二、然るに右富治郎の三男である被告は富治郎の死亡によつて開始した家督相続の家督相続人は被告であるとして、昭和二十一年三月十四日その旨家督相続届をなし、同届出は受理せられ富治郎の戸籍は抹消せられ富治郎の家督相続人として被告の戸籍が編製せられているので、原告は家督相続届をすることが出来ない。

三、仍て原告はその家督相続回復請求のため本訴を提起する。尚被告訴訟代理人の抗弁に対する再抗弁として、旧民法九百七十四条による家督相続人がその母の戸内婚姻によつて家族たる叔父の嫡出子たる身分を取得したからとてその家の家督相続人たる地位を喪うものではなく、且家督相続権と遺産相続権とが同時に併存しても違法ではないと述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、原告の請求原因事実につき次の通り答弁した。

原告請求原因第一項中原告が富治郎の家督相続人となつたものであること及び原告が家督相続人であることはこれを否認し、その余の事実はこれを認める。

その抗弁として次の通り述べた。

一、被告は昭和三年九月十四日その実兄にして父富治郎の法定の推定家督相続人であつた亡要一郎の妻たりしつねと戸内婚姻をしたものであるから、それと同時に当時家を同じくしていた右亡要一郎とつねとの間に生れた亡天猪介は、旧民法第七百二十八条により被告との間に継父継子の関係を生じ親子間におけると同一の親族関係を生じ被告の嫡出子たる身分を取得したものであるから、右天猪介は父要一郎の代襲者として富治郎の家督相続人たる地位(相続権)を失い被告の相続人たる地位を取得したものである。

二、仍て天猪介が右地位を失つた以後である昭和十八年八月一日出生した原告が富治郎の家督相続人たる地位を取得する理由がなく、富治郎の家督相続人はその直系卑属である被告であることが明かである。原告が旧民法第九百七十四条により富治郎の家督相続人たり得るためには、その父天猪介が前記被告の継子となつたときに出生しておらなければならないのみでなく、若し原告の主張通りとするなら同一人が二個の嫡出子たる身分を取得するに至る矛盾を生ずるから原告には本件家督相続権はない。<立証省略>

三、理  由

原告は岡山県勝田郡勝間田町大字畑屋四百九十九番地戸主野上富治郎の長男野上要一郎の長男である野上天猪介の長男であり、右要一郎が大正十四年十二月三日死亡し、右天猪介が昭和二十年七月二十二日死亡し、右富治郎が昭和二十一年二月十五日死亡したこと、右富治郎の三男である被告が富治郎の死亡により開始した家督相続の家督相続人は被告であるとして昭和二十一年三月十四日その旨家督相続届をなし、その届出が受理せられた結果富治郎の戸籍が抹消せられ同人の家督相続人として被告の戸籍が編製されていることは真正に成立したと認め得られる甲第一、二号証に依つて之を認めることができる。次に右甲第一号証第二号証によると被告は昭和三年九月十四日に父富治郎の法定の推定家督相続人であつた実兄亡要一郎の妻であつたつねと戸内婚姻をしていること、原告の父天猪介は被告の継子となつていること、原告は昭和十八年八月一日出生し被告と同一戸籍内に記載されていることが夫々認められる。そこで本件家督相続については勿論旧民法を適用すべきであり、右認定の事実を旧民法第九百七十四条に充ると原告の父亡天猪介は亡戸主富治郎の法定の推定家督相続人であつた亡要一郎の代襲相続人であつたと解すべきであるが、被告訴訟代理人は右認定した事実のように右天猪介は被告と継親子関係を生じ、その嫡出子たる身分を取得したから天猪介はその時代襲相続人たる地位を失うに至つたものである、と抗争するのでこの点につき先ず考えるに、天猪介は旧民法第七百二十八条により被告との間に継父継子の関係を生じ親子間におけると同一の親族関係を生じ被告の嫡出子たる身分を取得したことは所論の通りである。然しながら旧民法第七百二十八条には「継父母と継子との間においては親子間におけると同一の親族関係を生ず」とあり養子と養親との関係につき同第七百二十七条が「養子と養親及びその血族との間においては血族間におけると同一の親族関係を生ず」と規定しているのと趣を異にしている。右条文を比較考察すると継子と継親の血族との間には養子と養親の血族との間における関係と異り、血族におけると同一の親族関係を認めていないことが明かに看取出来る。従つて継子天猪介は継父である被告の父富治郎との間には血族におけると同一の親族関係は生じないものと謂わなければならない。それ故右天猪介は依然としてその父要一郎を通じて富治郎との間にその嫡孫である血族関係を保有しているものと解せられるから、天猪介が被告と継親子関係を生じその嫡出子たる身分を取得したからと言つて同人が右富治郎の法定の推定相続人であつた亡要一郎の代襲相続人たる地位を失うに至つたとの所論はこれを採用出来ない。然りとせば原告は天猪介の長男であり同人の死亡前出生して居り、富治郎の死亡の際同人と家を同うしていたことは前記により明かな事実であるから、戸主野上富治郎が昭和二十一年二月十五日死亡したのによつて開始した家督相続の家督相続人は同人の曾孫である原告であると謂わなければならない。然るに被告は右富治郎の死亡により開始した家督相続の家督相続人は被告であるとして昭和二十一年三月十四日家督相続をなしているのであるから、原告が被告に対し富治郎の家督相続人としてその家督相続の回復を請求する本訴は洵に至当である。

仍て原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 西本仁信 高橋文恵 井上一男)

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