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岡山地方裁判所津山支部 昭和35年(ワ)154号 判決 1962年12月03日

判   決

原告(反訴被告)

牧野源治郎

右訴訟代理人弁護士

柴田治

被告(反訴原告)

玉木寮治

被告(反訴原告)

藤原伝蔵

被告(反訴原告)

手槌虎雄

右三名訴訟代理人弁護士

前田修

右当事者間の損害賠償請求事件((ワ)第一〇五号)および立替金求債、損害賠償反訴請求事件((ワ)第一五四号)について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

反訴被告は、反訴原告玉木に対し金一四万九五五六円および内金一万四〇〇〇円に対する昭和三二年一一月九日以降、内金一二万五二二〇円に対する昭和三五年一二月一三日以降、内金一万〇三三六円に対する昭和三六年九月一二日以降各完済にいたるまで年五分の割合による金員を、反訴原告藤原に対し金一五万〇六三六円および内金一万四〇〇〇円に対する昭和三二年一一月九日以降、内金一二万六三〇〇円に対する昭和三五年一二月一三日以降、内金一万〇三三六円に対する昭和三六年九月一二日以降、各完済にいたるまで年五分の割合による金員を、反訴原告手槌に対し金一四万八〇三六円および内金一万四〇〇〇円に対する昭和三二年一一月九日以降、内金一二万三七〇〇円に対する昭和三五年一二月一三日以降、内金一万〇三三六円に対する昭和三六年九月一二日以降各完済にいたるまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払らえ。

反訴原告らのその余の請求をを棄却する。

訴訟費用は本訴反訴を通じて原告(反訴被告)の負担とする。

事実

原告(反訴被告以下原告という)代理人は「被告三名は連帯して原告に対し金五七万一、五五〇円およびこれに対する昭和三五年九月二五日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払らえ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、反訴請求に対し「反訴各請求を棄却する。反訴訴訟費用は反訴原告の負担とする。」との判決を求め、

請求の原因として

岡山県苫田郡奥津町箱字水落一一七番山林一町一七歩の地盤は原告の所有であるが、同山林地上に生立していた杉檜立木は、原告と訴外牧野喜次、同牧野寿子、同牧野公徳、同牧野忠康の共有であり、また右一一七番山林に隣接する同所一一八番山林(地目畑)一反四畝二〇歩は地盤立木とも原告の所有である。

原告および訴外牧野喜次ら四名は、昭和三二年三月二三日被告玉木に対しその共有にかかわる前記一一七番山林地上の杉檜立木を被告手槌の仲介によつて代金一一五万円で売渡す仮契約を締結し原告は同日契約金一五万円を受領し、同年四月三日金額一〇〇万円の小切手を受領して右売買の本契約を締結した。しかし右売買契約書は右小切手金の取立ができる予定の同年四月五日に作成することとし、中国銀行から右小切手金の取立ができた旨通知があつたので同日甲第一号証の売買契約書を作成した。なお立木伐採の許可申請手続は買主がする約定であつた。

しかるところ原告が同年一一月一日本件山林の現地を見に行つたとき、原告が売却していない前記一一八番山林地上の杉檜立木も全部伐倒されていたが、調査の結果被告藤原において右伐倒をしたことが判明した。そこで原告は同年一一月五日付書留内容証明郵便を以て被告玉木、同藤原の両名に対し右一一八番山林地内への立入禁止、同地内伐倒木の搬出禁止を通告した。しかるに、右通告は無視され、右伐倒木は全部搬出されてしまつた。

原告はその後被告玉木、同藤原に対し二回にわたり書面で交渉したが誠意ある回答がなく、昭和三三年三月二日被告玉木方へ赴き右一一八番山林地上の立木が伐採された経緯を詰問したところ、被告藤原が関係書類を所持しており同被告が他出不在中との理由でこれまた誠意ある回答がえられなかつた。

しかして原告がその後調査したところによれば右一一八番山林立木の伐採許可申請手続は被告手槌がしたことが判明したが、同被告は前記一一七番山林立木売買の仲介人であつて、一一八番山林立木が売買から除外されていることをよく知つていたものである。しかるに被告手槌は一一八番山林立木についても伐採許可の申請手続をして被告藤原にこれを伐採せしめたものであつて、結局被告ら三名が共謀して原告所有の一一八番山林立木を不法伐採したことが判明した。

右不法伐採は被告ら三名の共同不法行為であるから、被告らは連帯して原告に対し因て原告の蒙つた損害を賠償すべき義務があるところ、右損害額は次のとおりである。

伐採された杉檜立木 三五五本

(約六〇年生のもの二五五本 約三八年生のもの一〇〇本)

右立木の材積 三五五石

伐採時の石当り単価 金一六一〇円

損害額の合計金 五七一、五五〇円

よつて被告ら三名に対し右損害金およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和三五年九月二五日以降右完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の連帯支払らいを求める。と述べ

反訴答弁として

反訴原告(被告以下被告という)主張事実中、森林組合に対する販売手数料(金額は不知)を被告玉木が支払つたこと、原告が被告玉木、同藤原を津山区検察庁検察官に森林法違反として告訴し右告訴事件が河原区検察庁に移送され、同庁において犯罪の嫌疑なしとの理由で不起訴処分となつたこと、原告が被告ら三名を相手方として被告ら主張の訴を提起し、被告らが前田弁護士に訴訟代理を委任したこと、および原告の本訴主張に符合する点はこれを認めるか、その余の事実は全部否認する。被告三名は相当な木材業者である旨を主張しているが、被告手槌は木材業者ではなく被告玉木、同藤原の補助的存在に過ぎない。被告玉木、同藤原は木材業者のようであるが、右取引による納税をしておらず、取引額も僅少のものである。と述べ

証拠(省略)

被告三名代理人は、本訴請求に対し「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、反訴請求として

(一)  原告は被告三名に対しそれぞれ金一万四〇〇〇円宛およびこれに対する昭和三二年一一月九日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払らえ。

(二)  原告は被告三名に対しそれぞれ金一万〇三三六円宛およびこれに対する昭和三六年九月一二日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払らえ。

(三)  原告は被告玉木に対し金一九万七二四二円、被告藤原に対し金二〇万一七八二円、被告手槌に対し金一九万五七八二円および右各金員に対する昭和三五年一二月一三日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払らえ。

(四)  訴訟費用は原告の負担とする。との判決ならびに仮執行の宣言を求め、

本訴の答弁として

原告主張事実中原告主張の一一七番山林の地盤、一一八番山林の地盤および立木がいずれも原告の所有であつたこと、被告三名が右一一八番山林の杉檜立木を昭和三二年一一月一日以前に伐倒しその後伐倒木を搬出したこと、被告玉木、同藤原が原告名義の書留内容証明郵便による通告書一通を受領したこと、および原告が昭和三三年三月頃被告玉木方へ来訪したことはいずれもこれを認めるが、原告が昭和三二年一一月一日頃一一八番山林の調査をしたか否かは知らない、その余の事実を全部否認する。

被告三名は昭和三二年三月一、二日頃訴外友保義朝の仲介によつて原告から原告主張の一一七番、一一八番各山林地上の杉檜けやき立木全部を代金二五八万円で買受けた。そして同月五日被告玉木同手槌は訴外友保立会のうえで内金一三八万円を原告方へ持参支払らい、同年四月二日被告三名は現金二〇万円と金額一〇〇万円の小切手(鳥取銀行山郷支店振出)とを原告方へ持参して残代金全額を支払つたのである。したがつて被告らが右一一七番、一一八番山林地上の杉檜立木を伐採搬出したことに何等の不法はない。

原告主張の昭和三二年四月五日付立木売買契約書(甲第一号証)を被告らが作成交付したのは、前記売買代金額を表面に出すと薬局営業の所得と綜合課税され税額が多額となるから、右売買代金を表面上一一五万円にしてくれとの原告の懇請により已むなくこれに応じ作成したもので仮装の契約書である。原告が昭和三三年三月頃被告玉木方へ来た用件は税務署の調査があるときは売買代金が一一五万円である旨を証言してくれと念を押しに依頼するためであつた。本件立木の伐採許可の手続は原告がするということであつたが、被告らが伐採に着手しようとしてこの手続が未了であることが判明した。そこで被告らは苫田郡泉村森林組合で伐採許可申請書を作成して貰い、これに原告の押印をえて所要の手続を了したものである。と述べ

反訴請求の原因として被告らはいずれも木材売買業者であるが、本訴の答弁において主張しているとおり訴外友保の仲介によつて原告から前記一一七番一一八番各山林地上の杉立木五五九本、檜立木三一七本、けやき立木一〇本を代金二五八円万円で買受け、昭和三三年三月五日および同年四月二日の二回に右代金全額を支払つたのである。しかるところ原告は前記売買契約にあたり、訴外友保を通じ或は直接被告らに対して税金の関係から表面上の売買代金を一二〇万円にしてくれと申入れ、被告らもこれを了承していた。ところが被告らが残代金支払らいのため同年四月二日原告方へ赴いたとき、原告が用意していた書面には表面上の売買代金をさらに減額した一一五万円としており、買主の一人である被告手槌を立会人ということにして作成されたのが甲第一号証である。すなわち甲第一号証の立木売買契約書は原告が脱税するため当事者双方が通じてなした虚偽の内容を記載した書面であるから無効であり、このことは原告自身もよく知悉していることである。しかるに原告は不法にも後記のとおり被告らを告訴し、また本件訴訟を提記したものであつて、その責任の一切は原告が負うべきである。

1、立替金の求償請求

原告は泉森林組合の地域内に前記一一七番、一一八番の山林を所有しており、その地上立木を被告らに売却したので右組合が認定した売買代金一四〇万円の百分の三にあたる金四万二〇〇〇円を手数料として右組合に納付すべき義務を負うものであるところ、原告が右支払らいをしなかつたので被告らは右組合の要請により昭和三二年一一月九日右手数料を右組合に対し原告のため立替支払らいをした。右について被告らの負担部分は平等であつたから、被告らは原告に対し右手数料の三分の一である金一万四〇〇〇円宛およびこれに対する右支払日以降完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払らいを求める。なお甲第一号証には森林組合に対する負担は買主の負担とする旨の記載があるが、同証は前記のとおり通謀虚偽表示に基く書面であるから右特約を証しうるものではない。

2、けやき立木不法伐採による損害賠償請求

前記のとおり被告らはけやき立木一〇本をも買受けたのであるが、原告は本件山林の地盤を他へ売却するまでけやき立木だけは存置しておいてくれといつた。ところが被告らが昭和三六年五月六日現地に行つて見たところ、原告は被告らに無断でけやき一〇本を伐採処分していることが判明した。甲第一号証にはけやきは土地売買解決後に話合いのうえ円満に解決するとの記載があるが、これは被告らがけやきを買受けたことを否定するものではない。右けやき立木一〇本の伐採時の価額は金三万一〇一〇円であるから被告らは原告の右不法行為によつて同額の損害を受けた。よつて被告らはそれぞれ右損害金の三分の一にあたる金一万〇三三六円宛およびこれに対する昭和三六年九月一一日付請求の趣旨変更申立書が送達(同日の口頭弁論において陳述)された日の翌日以降完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払らいを求める。

3、誣告による損害賠償請求

原告は昭和三五年一月二二日付告訴状を以て被告玉木、同藤原が共謀のうえ買受けていない前記一一八番山林地上の立木を伐採窃取した旨虚偽の事実を記載して、右被告両名を津山区検察庁検察官に告訴した。被告手槌は右告訴状に被告訴人として表示されていなかつたが、本件立木を伐採搬出したのは被告三名であつたから告訴不可分の原則により同被告も被疑者の地位に立たされたのである。しかして右告訴事件は昭和三五年三月二〇日河原区検察庁検察官に移送され、被告らは被疑者として取調を受けたのであるが、慎重なる捜査の結果同年五月二五日犯罪の嫌疑なしとの理由により不起訴処分となつた。しかして被告らは右誣告の結果次のとおり損害を蒙つた。

(イ)  被告らは鳥取区検察庁へ三回宛出頭を命ぜられ出頭したが、これに要したバス運賃、汽車賃は一人分が次のとおりである。

福原智頭間 バス片道運賃 四〇円

智頭鳥取間 汽車片道運賃 八〇円

片道計 一二〇円

三往復のバス賃汽車賃 七二〇円

また出頭当日の日当は各被告の年間収入を勘案して次のとおりとする。

被告玉木、手槌の分 一日一〇〇〇円

三日分三〇〇〇円

被告藤原の分 一日二〇〇〇円

三日分六〇〇〇円

(ロ)  被告玉木は自己の正しいことを立証する事実調査のため苫田郡奥津町へ一回赴いた。

福原智頭間 バス片道運賃 四〇円

智頭津山間汽車片道運賃 一一〇円

津山箱間 バス片道運賃 八〇円

片道計 二三〇円

一往復運賃 四六〇円

ほかに日当一日分 一〇〇〇円

(ハ)  被告三名は河原区検察庁へ一回出頭を命ぜられ出頭したが、そのバス運賃は次のとおりである。

福原智頭間 片道 四〇円

智頭河原間 片道 七五円

計 一一五円

ほかに(イ)と同様被告らの日当一日分

(ニ)  被告らが河原区検察庁へ出頭当日訴外友保義朝も参考人として呼出を受け出頭していたが、同検察庁において同人に旅費日当を支給しなかつたので被告らがこれを負担し、同人と共に鳥取方面に行くの已むなきにいたつた。

訴外友保の分

河原鳥取間バス代 二五円

昼食代 三五〇円

鳥取駅旅館間タクシー代往復 一六〇円

旅館代 二〇〇〇円

鳥取津山間汽車賃 一八〇円

計 二七一五円

被告ら各自負担一人分 九〇五円

被告らの分

河原鳥取間バス代 二五円

鳥取智頭間汽車賃 八〇円

智頭福原間バス代 四〇円

計 一四五円

ほかに被告らの二日目の(イ)の割合による日当一日分

(ホ)  被告らは未だかつて警察、検察庁の取調を受けたことはなく木材業者として同業者間に信頼がある。被告玉木は理事、消防団長、青年団長等の経歴を有し、被告藤原は居村の収入役、村会議員、財産区議会議員、消防団長、青年団長、木材協同組合理事長、部落長等の経歴を有し、被告手槌は部落長の経歴があり、いずれも社会的に相当の信望がある。しかるに原告の不法な告訴によつて被告らは前記のとおり被疑者として検察庁に出頭し、取調を受け、そこで知人に会つたこともあり、被告らの名誉は傷けられ精神的に多大の打撃を受けた。よつて被告らの精神的苦痛に対する慰藉料は各自五万円宛と見積るを相当とする。

(ヘ)  以上による被告らの損害の合計は

被告玉木の分が 五万八三四五円

同 藤原の分が 六万一八八五円

同 手槌の分が 五万六八八〇円

であるところ、右は原告の故意または過失による不法な告訴に基因して被告らが蒙つた損害であるから、被告らは右損害金およびこれに対する反訴状送達の翌日である昭和三五年一二月一三日以降右完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払らいを求める。

4、濫訴による損害賠償請求

前記のとおり被告らは一一八番山林地上の立木をも買受けているものでこのことは原告のよく知悉していることである。しかるに原告は不実虚構のことを主張して昭和三五年九月一七日被告らに対し本件訴訟を当裁判所に提起し、被告らをして応訴の已むなきにいたらしめ、被告らの名誉、感情を著しく傷けた。そのため被告らは勝訴の場合当然認容さるべき訴訟費用のほかに次のとおり損害を蒙り、または損害を蒙ることが予想される。すなわち被告らは鳥取市に赴き右応訴のため弁護士に訴訟代理を委任し、その費用は被告らの平等負担としたが、右に伴う被告らの損害は次のとおりである。

(イ)  鳥取までの往復旅費一人分 二四〇円

ほかに日当一日分(前記3のイの割合による)

(ロ)  弁護士に支払つた着手金 五万円

(ハ)  第一審判決言渡後弁護士に支払う報酬金を五万円と約定したが、判決言渡までの期間を一年と予想し年五分の割合による中間利息を控除した金四万七五〇〇円

(ニ)  弁護士が各期日に出頭する日当を三〇〇〇円、宿泊料を一泊二〇〇〇円と約定したが、判決言渡まで口頭弁論期日を一〇回と予想し、日帰り宿泊を半分宛と予定するとその合計は六万五〇〇〇円となり、これから中間利息を控除した六万一七五〇円

(ホ)  被告らの社会的地位は前記のとおりであるが、原告は本訴の提起において再び被告らが立木を盗伐した旨を主張するにいたつた。右により被告等の名誉感情は著しく傷つけられたのであるがこれにより原告らの受けた精神的苦痛に対する慰藉料は被告ら各自に対し金五万円宛と見積るを相当とする。

(ヘ)  以上による被告らの損害の合計は

被告玉木の分が 一〇万四三二三円

被告藤原の分が 一〇万五三二三円

被告手槌の分が 一〇万四三二三円

となるところ、右は原告の故意または過失による不法な濫訴に基因するものであるから、被告らはそれぞれ右金員およびこれに対する反訴状送達の翌日である昭和三五年一二月一三日以降完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払らいを求める。

5、反訴提起費用の損害賠償請求

被告らが1ないし4により反訴として請求している訴額は計五五万三〇八四円(けやき立木の価額を二万円として)となるが法律的知識に乏しく訴訟の経験がない被告らは弁護士に訴訟代理を委任して右反訴を提起するの已むなきにいたつた。このため要しまたた要すべき費用は次のとおりである。

イ  弁護士に支払つた着手金六万円

ロ  第一審判決言渡後勝訴判決の場合弁護士に支払うべき報酬金は六万円と約定しているが、判決言渡までの期間を一年と仮定し年五分の割合による中間利息を控除すると、右報酬金の現在価値は五万七〇〇〇円である。

ハ  反訴請求中前記1の求償金四万二千円、2 のけやき立木の価額二万円(後にこの価額を三万一〇一〇円に変更)計六万二〇〇〇円は、被告らの反訴提起の原因とする原告の不法行為と直接の因果関係がないのでこれを前記訴額から控除し、その割合によつてイ、ロの費用合計額を按分算出すると一〇万三七〇三円となり、これが原告の不法行為により前記の反訴請求をするについて正規の訴訟費用のほかに被告らの蒙りまたは蒙るべき損害である。被告ら間の右費用分担の割合は平等であるから、被告らは原告に対し右損害の三分の一宛の金三万四五七四円およびこれに対する反訴状送達の翌日である昭和三五年一二月一三日以降右完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払らいを求める。と述べ

証拠(省略)

理由

一、本訴請求について

原告はその主張のとおり一一七番山林地上の杉檜立木のみを被告玉木に代金一一五万円で売却したと主張し、被告らはその主張のとおり被告ら三名が一一七番、一一八番各山林地上の杉、檜、けやき立木を代金二五八万円で買受けたと主張するのでまずこの点について検討する。(証拠―省略)および検証の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると(一)一一七番山林と一一八番山林とは接続しており二筆を合せて通称寺の奥の山と称されていたもので原告は右両山林の杉檜立木には一連の通し番号を付していたが、被告ら三名は訴外友保義朝の仲介によつて昭和三二年三月初頃二筆ということを知らず右両山林地上の杉、檜、けやき立木全部を代金二五八万円で買受けたこと(二)右契約締結の際原告に対し右契約金として被告藤原振出の金額六〇万円の小切手を交付したのであるが、原告が現金払を希望したのでその数日後被告らは現金一三八万円を原告方へ持参支払らい右小切手の返還を受け、さらに同年四月初頃銀行振出の金額一〇〇万円の小切手および現金二〇万円によつて残代金一二〇万円を完済したこと(三)原告が立木伐採の手続をしていなかつたので被告らは所轄泉森林組合から注意を受け、同組合で所要事項、届出人、山林所有者の氏名を記入した昭和三二年六月一日付の伐採届書(乙第二七号証)を作成して貰い、これに原告の押印を受け提出したのであるが、伐採届書には一一七番、一一八番の両山林が表示されていること、(四)しかるに樹令の関係で伐採許可手続を要するとの県係員の指示があつたので森林組合は伐採届書と同日付とした伐採許可申請書(甲第三号証)を前同様所要事項その他を記入して作成し同年六月一七日頃これを届出人となつていた被告手槌に送り、被告らはこれに原告の押印をえたうえ所要の伐採許可手続をなし、右許可があつた後本件立木を伐採したこと、以上のような事実を認めることができる。

原告は伐採届書(乙第二七号証)に押印したことを認めながら記載事項は押印後に記入されたというが、弁論の全趣旨によれば原告が記載事項の完備しない書類に押印をするとは認めえないのみならず、山野証人の証言(一、二回)によると森林組合の係員たる同人が組合の台帳に基き右届書に所要事項、氏名をも記入したうえ被告らに押印して提出するよう交付したものであり、原本を見るに定型的事項は活字印刷となつていて所要事項や原告、被告手槌の各氏名はカーボン紙で記入されており、原告の右主張は虚構といわざるをえない。この場合森林組合係員が原告の名「源治郎」を「源次郎」と誤記したことは異とするに足りない。

原告は伐採許可申請書(甲第三号証、乙第五号証の添付書面)の成立を否認するもののようである。(乙第五号証添付の伐採許可申請書に原告名「源治郎」を「源次郎」と訂正されているが、原本には原告名を伐採届書と同様にカーボン紙で記入され右訂正はない)甲第三号証の原告名下の印影と、乙第二七号証の原告名下の印影とは異なるが、これは原告が被告らから甲第三号証に押印を求められた際、故意か偶然か別異の印章を使用したによるものと認められる。甲第三号証に使用の印章が原告方にあるものであることは、甲第一号証の牧野喜次名下にこれが押印されていることを原告が認めることによつて明らかである。甲第三号証の印影も乙第二七号証の印影も同じ「牧野」と表示した認印であつて、原告が原告方にある認印を押印した場合、甲第三号証と乙第二七号証との原告名下の印影が相違していても、その効果に差異のあるべき筋合はなく、原告が甲第三号証の成立を否認することは不可解である。甲第三号証は森林所在欄が訂正され、その訂正箇所には被告手槌の押印のみがあるが、山野証人の証言(一、二回)によれば右は書損じ用紙を使用したによるのである。しかも右は訂正というも不要抹消事項の箇所に押印したに過ぎず、訂正によつてその前後に意味を異にする関係となるものではない。伐採許可申請書にも一一七番、一一八番の両山林が表示されており、右書面は伐採届書を樹令の関係で手続的に改めたに過ぎないものであるが、伐採届書、伐採許可申請書によるも原告が一一七番、一一八番両山林地上立木を売買の目的としていたことが明らかである。甲第一号証(乙第二三号証)の立木売買契約書には原告外四名の者が被告玉木に対し一一七番山林地上の杉、檜、けやき立木を代金一一五万円で売買した旨が記載されているが、前認定事実および弁論の全趣旨によれば、これは原告が課税の軽減を企図して被告らに要請し作成したものと認められ、(山林立木の取引にこのような事例の多いのは公知の事実である。)これによつて一一八番山林の立木が本件売買の目的外であつた証拠となるものではない。甲第七号証(立木売買仮契約書)第八号証は被告らの否認するところであるのみならず、その記載内容書証としての提出時期などから考えて真正に成立した書面とは認めえない。

原告は昭和三二年一一月初頃一一八番山林の立木が不法伐倒されたことを知つたというのであるが、成立に争のない乙第五号証(告訴状)、第二〇号証によると昭和三五年一月一一日頃津山税務署は原告に対し本件山林の売買所得について更正決定をしており、原告は右更正決定があることを察知した頃の同年一月二日付告訴状を以て被告玉木、同藤原を森林窃盗として告訴している。そして右告訴事件が昭和三五年五月二五日不起訴処分となつた後本訴を提起するにいたつたのである。原告の不法伐採の主張が事実であれば、原告が右のように告訴を遅らせたこと、本訴提起まで裁判上の救済を求めようとしなかつたことは奇異といわざるをえない。もつとも原告は甲第二号証の昭和三二年一一月五日付催告状なるものを被告玉木、同藤原に送つているのである。もし税務署が所得の更正決定をしなかつたならば、原告は右告訴をしなかつたのではないか、また原告は甲第一号証が前記事由で形式上作成されているものを奇貨として甲第二号証を一応出しておき、後日被告らとの折衝において何程かの利得をうることを企図していたのではないかなど推測されなくはない。本件の真相は原告自身がよく知るところであるが前認定に反する証人牧野喜次一回証言、原告本人の供述(一、二回)は措信できないし原告の全立証によるも、被告らが原告主張のように一一八番山林の杉檜立木を不法伐採した事実は到底これを肯認しえないし、他にこれを認めるに足る証拠も存在しない。したがつて原告主張の損害額の点を審究するまでもなく本訴請求は理由がないと認める。

二、反訴請求について

1  立替金の求償請求

(証拠―省略) を総合すると、立木売買の場合山林所有者は手数料として売買価額の一〇〇分の三を泉森林組合に支払う定めとなつており、一一七番、一一八番各山林は原告の所有名義となつていたので右立木が売買された場合は一般の例により原告が右手数料を支払うべきものであつて、被告らがこれを負担することの特約はなく、森林組合は取引額を金一四〇万円と認定しその一〇〇分の三にあたる金四万二〇〇〇円を支払うよう原告に催告したのであるが、原告が右支払らいをしなかつたため、被告らは森林組合の迷惑を慮り森林組合の要請に応じ、昭和三二年一一月九日右手数料金四万二〇〇〇円を原告のため森林組合へ立替支払らいをしたものであり、被告ら間のその負担割合は三分の一宛である事実を肯認しうる。原告は一一七番山林の立木は原告のほか四名の共有であると主張するが、立木登記によつて右共有が明確にされていたわけではなく、一一七番山林の地盤は原告の所有であるから、その地上立木は原告の所有と推定すべきであるのみならず、成立に争のない乙第四号証(原告の供述調書)によれば原告は一一七番山林の立木も原告の所有であり、ただその売買代金の一部を他の者に分配してやることになつていたと供述しているのであつて、森林組合に対する前記手数料の支払義務者は原告であると認められる。甲第一号証の記載はすでに認定したところにより措信しない。しかして被告らが債権者たる森林組合の要請に応じて前記手数料を支払つた場合、被告らは債権者に代位して原告に対し右求償をなしうべきは当然であり、この場合原告は立替支払らい日以降完済にいたるまで民法所定の遅延損害金をも併せ支払う義務を免れえないのである。そうすると被告らが原告に対し立替金一万四〇〇〇円宛およびこれに対する昭和三二年一一月九日以降完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払らいを求める請求は理由があると認める。

2、けやき立木不法伐採による損害賠償請求

本訴請求において認定したとおり、被告らは一一七番、一一八番両山林地上のけやき立木をも買受けていたのである。このことは税金を軽減するため原告が作成していた甲第一号証に売買の目的としてけやき立木を掲記していたことからみて原告も認めていたことが明らかである。しかして原告本人の供述(一回)によれば、原告は昭和三三年四、五月頃右けやき立木全部を六、七万円で他人へ売却し伐採せしめたというのであるが、右は原告が一旦被告らへ売却していたけやき立木を他へ二重売りしたもので被告らに対する不法行為を構成することはもちろんであり、原告は被告らに対し右不法行為に因る損害賠償の責を免れえないのである。鑑定人村山武鑑定の結果によれば、けやき立木は一一七番地上に四本あつてその価額は計八八九二円でありまた一一八番地上に六本あつて、その価額は計二万二一六円であり、合計一〇本三万一〇〇八円となつている。被告らが右鑑定価額を基準とした損害金三万一〇一〇円を昭和三六年九月一一日原告に対し請求したことは本件記録上明らかであつて、前記原告本人の供述によると原告は鑑定価格よりも相当高額に処分しているのである。被告らが本件立木を共同で買受け、その負担割合が平等であつたことはすでに認定したとおりであるから、右損害金の三分の一にあたる金一万〇三三六円宛およびこれに対する昭和三六年九月一二日以降完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払らいを求める請求は理由があると認める。

3、誣告による損害賠償請求

原告が昭和三五年一月頃被告玉木、同藤原を原告所有の一一八番山林地上の立木を盗伐したものとして津山区検察庁検察官に告訴し、右事件が河原区検察庁に移送され、同年五月二五日犯罪の嫌疑なしとの理由で不起訴処分となつたことは当事者間に争がない。しかして成立に争のない乙第五号証(告訴状)によれば、被告手槌は被告訴人として掲起されていないが、原告が右告訴をした趣旨は原告所有の一一八番山林地上の立木を盗伐した者の刑事処分を求めるというにあるから、前認定のとおり被告手槌も本件立木の買主であつて、伐採に関与している以上同被告も被疑者として取調を受けることは告訴不可分の原則上必然であり、原告の当然予見しうべきことである。原告は前認定の事情により甲第一号証の売買契約書が形式上作成されているのを奇貨とし、これを有力なる資料として右告訴をしたもののようであるが、弁論の全趣旨によれば、右告訴事実が虚構であることは原告自身のよく知るところと認むべきであり、したがつて原告は被告らに対し右誣告に伴う一切の損害を賠償すべき責を免れえないと認める。

(イ)(ロ)(ハ)被告ら本人の供述(一回)と成立に争のない乙第七号証ないし第一〇号証、第一三号証の一、第一五号証を総合して考えると、被告らは昭和三五年三月頃右告訴事件について取調を受けるため鳥取区検察庁へ三回以上、河原区検察庁へは一回出頭しており、また被告玉木は奥津町の友保義朝方へ事情取請のため一回出頭しており、右に要したバス運賃汽車賃は次のとおりであると認められる。

鳥取へ出頭の分三往復 一人分 七二〇円

河原へ出頭の分一往復 一人分 一九〇円

奥津町へ出頭一往復 被告玉木の分 四二〇円

なお右出頭当日被告らが稼働しえないための得べかりし利益の喪失(日当)があつたことは当然であるが、成立に争のない乙第二四号証ないし第二六号証を勘案して右日当を一日につき被告藤原の分を金一五〇〇円、被告玉木、同手槌の分を各金一〇〇〇円と見積るを相当とする。

(ニ) 被告らは訴外友保が河原区検察庁へ出頭し、その後で取鳥へ赴いたための旅費、宿泊料等を請求するが、これは被告らの好意的に出たものと認めるを相当とし、被告らが友保と共に鳥取へ赴いたことは被告らの任意であつてこれらを本件誣告に伴う損害として請求することは理由がないと認める。

(ホ) 被告らは本件誣告に伴う慰藉料五万円宛を請求するが、被告ら本人の各供述(一回)および弁論の全趣旨を総合して右慰藉料は金三万円宛とするを相当と認める。

(ヘ) 以上により本件誣告に伴う被告らの損害金は

被告玉木の分 三万六三三〇円

被告藤原の分 三万六九一〇円

被告手槌の分 三万四九一〇円

となり被告らが右損害金およびこれに対する反訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和三五年一二月一三日以降完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は正当と認められるが、その余の請求は理由がないと認める。

4、濫訴による損害賠償請求

被告らは原告の本訴提起を以て濫訴に出たものとして、その主張のとおり反訴により損害賠償を請求するのであるが、一般の場合起訴者の請求が理由があるか否かは終局判決の確定をまたねば判明しないことであり、仮りに起訴者が敗訴しても証拠の不十分とか、訴訟技術の拙劣に因る場合もあつて、起訴者の訴提起自体を以て濫訴に出たものとはなし難いであろう。しかしながら起訴者が不実虚構のことを主張して訴を提起したため、これにより応訴を余儀なくせられたとする者は、反訴によつて起訴者に対し損害賠償を請求しうると解すべきである。けだしこの場合本訴の防禦方法と反訴請求の証拠方法とは牽連し反訴提起の要件を具えるのみならず、必らず本訴の終局をまつて別訴を提起すべきであるとすることは、迂遠であり訴訟経済に合致する所以でないからである。本件の場合原告は前認定のとおり自己が売却し代金を受領している山林立木を被告らが不法伐採したと主張して本件損害賠償請求の訴を提起したものであり原告に権利存在の蓋然性はなく明らかに濫訴に出たものと認むべきであるから、原告は被告らに対し損害賠償の責を負うべきである。しかして本件訴訟において被告らが弁護士に訴訟代理を委任することは社会通念上当然と認められ、この種費用が反訴または別訴において請求するほかないことは現行法上明らかであり、また原告が本件訴訟を昭和三五年九月一七日当裁判所に提起し、被告らが鳥取市在住の前田弁護士に右応訴および反訴提起の訴訟代理を委任していることは本件記録上明らかである。

そこで被告ら主張の損害金について検討するに被告本人らの各供述(一回)によれば、被告らは原告から本訴が提起されて後前記費用で鳥取市へ赴き、前田弁護士に訴訟代理を委任し、着手金として妥当と認められる金五万円を支払らい、一審において勝訴判決をえた場合は妥当と認められる報酬金五万円を支払う約定をしていること、なお同弁護士が口頭弁論期日に出頭する場合の日当宿泊料は所定により別に負担すること、被告ら間の右負担割合は平等であることなどの事実が認められる。

右認定事実により被告ら主張の各損害金を検討すると次のとおりである。

(イ)  鳥取までの被告らの往復運賃 一人分 二四〇円

日当(前認定による)

被告藤原の分 一五〇〇円

同 玉木の分 一〇〇〇円

同 手槌の分 一〇〇〇円

(ロ)  弁護士支払らいの着手金 五万円の三分の一宛

(ハ)  弁護士に支払うべき報酬金 四万七五〇〇円の三分の一宛

被告らが第一審において勝訴後弁護士に支払らいを約定しているのは金五万円であるが、被告らは中間利息を控除して右金員を請求するのであり、右は将来の給付請求として理由があると認める。

(ニ)  弁護士支払らいの日当宿泊料 六万一七五〇円の三分の一宛

被告らは前田弁護士に支払うべき日当を三〇〇〇円、宿泊料を二〇〇〇円とし一〇回の期日を想定し、宿泊、日帰りを半分宛とした総額六万五〇〇〇円(この計算は五万五〇〇〇円となる)から中間利息を控除して右金員を請求するが、右日当、宿泊料は妥当な額と認められ、本件記録によれば被告ら訴訟代理人は昭和三五年一一月七日の第一回期日以来昭和三七年八月二七日の第一二回期日まで毎回出頭しており、ほかに検証現場に出頭しておるので被告らはすでに右請求額以上を負担していると推認され、右請求は理由があると認める。

(ホ)  被告らは原告が本訴において再び盗伐を主張したことによる慰藉料五万円宛を請求するが、被告らは別に誣告による慰料を請求しているのであり、本件訴訟は誣告事件の延長に過ぎないと認められるから、右慰藉料請求は理由がないと認める。

(ヘ)  以上濫訴による被告らの受けた損害金の合計は(円未満四捨五入)

被告玉木の分 五万四三二三円

被告藤原の分 五万四八二三円

被告手槌の分 五万四三二三円

となり、被告らが右各損害金およびこれに対する反訴状が送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和三五年一二月一三日以降完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払らいを求める請求は正当と認められるが、その余の請求は理由がないと認める。

5、反訴提起費用の損害賠償請求

被告らはその主張のとおり反訴提起費用の損害賠償を請求するのであるが、その訴旨は被告ら主張の立替金の求償請求、けやき立木不法伐採による損害賠償請求を除外して誣告および濫訴による損害賠償を反訴請求するについての弁護士に支払つた着手金および第一審において勝訴の場合支払うべき報酬金の賠償支払らいを求めるというにあるから、結局原告の誣告および濫訴により被告らが損害を受けたとするにあることに帰するのである。すなわち前認定の3の損害金が原告の誣告により被告らが直接蒙つた損害、4の損害金が原告の濫訴に対し被告らがこれに応訴を余儀なくされた直接の損害金であるのに対し、ここに請求するものは34の各損害賠償を反訴請求する費用の賠償支払らいを求めるというのである。原告が誣告をなさず、濫訴に出なかつたならば、被告らは右反訴請求の必要がないのであるから、被告らの反訴請求と原告の誣告および濫訴との間には相当因果関係があるものというべきである。原告が被告らを誣告したこと、原告の本訴提起が濫訴と認められることはすでに認定したとおりであるが、被告らが反訴請求に伴う損害賠償を請求する場合これを弁護士に委任するほかないことは社会通念上当然であつて、被告らが勝訴しても正規の訴訟費用に弁護士費用を含まない現行法のもとではこれら費用は別に訴求するほかない。しかしてこの場合被告らが反訴において反訴費用の賠償請求をすることも当然許されるものと解すべきである。

ところで被告ら本人三名の供述(一回)によれば、被告らは前田弁護士に右反訴提起を委任し着手金として金六万円を支払らい、第一審において勝訴した場合報酬金六万円を支払う約定をしており、被告ら間の負担部分は平等である事実が肯認される。被告らが本訴に対し応訴のため支払つた着手金は前認定のとおり五万円であり、その報酬金は前認定のとおり五万円と約定されているのであるが、本訴の防禦方法と反訴の攻撃方法とが大部分共通であるとしても、本件訴訟の複雑性からみて反訴請求に対する右着手金の支払らいおよび報酬金の約定は妥当な額と認められる。被告らは右着手金報酬金を反訴請求中立替金の求償請求、けやき立木の不法伐採による損害賠償請求と、その他の反訴請求との訴額によつて按分し、なお報酬金については将来の給付請求としてその中間利息を控除して、原告が誣告をしたこと、濫訴に出たことの損害賠償を反訴請求するための弁護士に支払らいまたは支払うべき費用として合計金一〇万三七〇三円の三分の一宛を請求するのである。前認定のとおり反訴請求中に一部認容しないものがあるが、弁論の全趣旨からみて被告らの右費用の請求は認容すべきを相当とし、被告らが右三分の一三万四五六七円(円未満切捨反訴状に三万四五七四円とあるは誤記と認める)宛およびこれに対する反訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和三五年一二月一三日以降右完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払らいを求める請求は理由があると認める。

三、以上の次第であるから、原告の本訴請求は失当と認めこれを棄却し、被告らの反訴請求は主文掲記の限度で正当としてこれを認容し、その余は失当と認めこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴八九条、九二条を適用し、仮執行宣言の申立は不相当と認めこれを却下し、主文のとおり判決する。

岡山地方裁判所津山支部

裁判官 富 田 力太郎

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