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岡山地方裁判所津山支部 昭和61年(ワ)163号 判決 1988年9月20日

原告

下山翠

被告

安東清子

主文

一  被告は、原告に対し、金七七万二九三五円及び内金七二万二九三五円に対する昭和六〇年七月三一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金四五二万四〇〇六円及びうち金四一一万四〇〇六円に対する昭和六〇年七月三一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに第1項につき仮執行宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

左記交通事故(以下「本件事故」という)により、原告は後記傷害を受けた。

(一) 日時 昭和六〇年七月三一日午後五時二〇分ころ

(二) 場所 津山市池ケ原六五一―一先国道

(三) 加害車両 岡山五〇く九三八三普通乗用自動車(被告運転。以下「被告車」という)

(四) 被害車両 津山市い四三一三原付車(原告運転。以下「原告車」という)

(五) 事故の態様 原告車が右折のため、一旦中央線に寄り、中央線上で対向車線上の対向車両を確認の上、中央線から対向車線上に入つたところ、原告車の右後部に後方から進行してきた被告車の左前面もしくは左側面部が衝突した。

2  責任原因

本件事故は、被告の前方不注視等の過失によつて発生したものであるから、被告は不法行為者として、原告に発生した損償を賠償する責任がある。

なお、スリプ痕の位置及び長さから考えて、被告は中央線にかなり接近して、制限速度を相当超過して走行していたと思われる。

3  傷害

原告は、本件事故により、頸部捻挫、腰部打撲、右肩打撲、腰椎捻挫、両上下肢麻痺等の傷害を受け、昭和六〇年七月三一日から同年一一月九日までの一〇二日間入院治療し、退院後通院治療し、現在も通院治療を継続中である。

4  損害

(一) 治療費 一〇〇万一七二〇円

但し、自賠責千代田火災から支払い済みの一二〇万円を除いてあり、通院治療継続中のため、概算である。

(二) 治療器具代 二二〇〇円

(三) 入院雑費 一〇万二〇〇〇円

但し、一日当り金一〇〇〇円の一〇二日分

(四) 通院交通費 三〇万〇〇〇〇円

但し、通院治療継続中のため、概算である。

(五) 休業損害 一三五万八〇八六円

(計算式)

1,106,477円÷365日×448日≒1,358,086円

但し、昭和六〇年八月一日から同六一年一〇月二二日までの期間分。

なお、原告は、昭和六〇年一一月九日退院しているが、本来は入院治療継続の必要が存し、ただ治療費未払いのため退院を余儀なくされ、退職後も自宅療養を続け、ために、昭和六一年三月一〇日、勤務先の美作繊維株式会社から退職を勧告され、退職している。現在も就労不能の状態である。

(六) 入通院慰謝料 一三五万〇〇〇〇円

但し、入院四月、通院一二月として、東京三弁護士会交通事故処理委員会編損害賠償額算定基準昭和六一年版一八頁の別表Ⅱによつた。

(七) 弁護士費用 四一万〇〇〇〇円

よつて、原告は、被告に対し、第4項記載の損害合計額金四五二万四〇〇六円及び弁護士費用を除くうち金四一一万四〇〇六円に対する事故日である昭和六〇年七月三一日から支払い済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項のうち、(一)及至(四)は認め、(五)は争う。

2  同第2項のうち、被告にある程度の責任があることは認めるが、その余は争う。原告にもかなりの落度がある。

3  同第3項のうち、原告が負傷したことは認めるが、その程度などは争う。

4  同第4項は争う。

三  被告の主張

1  過失相殺

本件事故は、直進走行中の被告車に右折しようとした原告車が衝突したものであり、原告が右折の際後方を十分確認しなかつたことと被告の前方不注視によつて惹起されたものであるから、原告の過失割合五〇%を主張する。

2  損害内容

原告は、現在なお治療中であるも、病名・症状などからみて本件事故による相当因果関係の範囲内の損害如何が問題となるし、事故以来二年六ケ月を経過していることからみると、早い段階で症状固定していると考えるべきであろう。

従つて、休業損害・慰謝料なども逓減的に認定されるべきと考える。

3  損害の填補

原告は、いわゆる自賠責保険から傷害部分の金一二〇万円につき被害者請求により取得しているし、いわゆる労災保険から、補償金として合計金一〇三万二三二六円の給付をうけているうえ、治療費のうち金四七万五九八八円の五〇%にあたる金二三万七九九四円を労災保険よりの求償分として支払い済みであるから、以上合計金二四七万〇三二〇円の損害の填補を主張する。

第三証拠

記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  昭和六〇年七月三一日午後五時二〇分ころ、津山市池ケ原六五一―一先国道上で、被告運転の普通乗用自動車(岡山五〇く九三八三。以下「被告車」という)と原告運転の原動機付自転車(津山市い四三一三。以下「原告車」という)が衝突し、原告が負傷したこと(以下「本件事故」という)は、当事者間に争いがない。

二  本件事故の態様について検討する。

1  原告本人尋問の結果及びこれにより成立が認められる甲五四、五五号証、成立に争いない甲五六号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙二及至六号証によれば、少なくとも以下の事実が明白である。

(一)  本件事故時の天候は晴れで、道路は、最高速度時速四〇キロメートルの交通規制がなされ、原、被告車進行方向の津山市方面から勝央町方面へ向け進行方向右側に緩いカーブになつており、路面はアスフアルト舗装で平坦であり、乾燥していたこと、また、原、被告双方からの見通しは良好であつたこと

(二)  原告車は、被告車に先行して進行し、右折のため道路左端から斜めに前進してセンターライン付近に進出したこと

(三)  本件事故現場には、被告車のスリツプ痕が、右側は衝突地点付近まで、なおそこでやや右にカーブする形で九・九メートル、左側は衝突地点の少し手前で消失する形で六・一メートル印象されていたこと

(四)  原告車と被告車は、前記センターライン付近(別紙交通事故現場図(以下「現場図」という)<×>地点付近)で、原告車の右後部と被告車の左側面部が接触する形で衝突したこと

(五)  被告車は衝突現場で停止することなく、さらに、約一三・五メートル右斜め前方に走行して、被告車の進行方向右側の路外田圃(現場図<停>地点)へ突入して停止したこと

以上の事実が明白である。

2  しかして、右のスリツプ痕の状況、路面の状況、さらに被告車が衝突後なお停止しなかつたこと等からして、経験則上(乾燥アスフアルト道路・摩擦係数〇・七)、被告車の制動初速度は時速四〇キロメートルを超える速度であつたと推認できる。してみると、被告は、いわゆる空走距離を考慮すると、スリツプ痕の印象され始めた地点から相当程度津山市寄りで危険を感知した(具体的には原告車を認めた)ものと推認できる。

3  ところで、被告は、捜査段階において、被告車の速度は時速四〇及至五〇キロメートルで、本件事故現場に差しかかる直前、道路が少し右カーブしていたところから現場図<1>地点で遠方の対向車両<甲>に視線が行き、同<2>点に至つて初めて<ア>地点に右折しようとする原告車を認め、危険を感じて急制動の措置を取り、衝突直前右にハンドルを切つたが、被告車左側面部が原告車に衝突し、あわてていたためブレーキが弛んでさらに走行して<停>地点でようやく停止した旨の供述をしている(前記乙五、六号証)。しかして、この供述は、大要において、前記証拠上明白な事実及至これから合理的に推認できる事実と符号するものと認め得、さらに、原告の捜査段階の供述(前記乙四号証)とも一致し、概ね措信しうるものといえる。

4  一方、原告は、原告本人尋問の結果等において、要するに、自己が右折のためセンターライン付近で停止して対向車の様子を見るなどした後、右折を始めたところが、後方から被告車に衝突された、自分の捜査段階の供述調書は気分が優れないときに作成されたもので真実ではないなどという。しかしながら、本件事故現場付近の道路が被告車の進行方向右側に緩いカーブとなつていること先にみたとおり明らかなところ、原告のいうとおり原告車がセンターライン付近で対向車両待ちのため停止していたとすれば、後続の被告に視認されないはずがないこと、また、原告車がセンターライン付近で停止していたとすれば、被告はその後ろ横をすり抜けるなり左方向にハンドルを転把するなりして衝突を回避しようとしたはずであり、本件事故現場のスリツプ痕の状況からも明らかに認められるようなハンドルを右転把する措置を取るはずがない(みすみす原告車に向かつていくようなものである)と考えられること、さらに、原告が捜査段階から前記のとおり認識していたとすれば、当然警察官にもその旨供述したはずであり、かつ、そうであれば、原告が被害者であることからすると警察官も当然その供述どおりの調書を作成したはずであると考えられることなどからすると、原告のいうところはたやすくは措信しがたいというほかない。

5  してみると、本件において、原告車及び被告車の動静は概ね被告の捜査段階の供述のとおりとみるべく、しかして、これによつても、被告が対向車両に気を取られるなどすることなく進行方向左前方をよく見ていれば、より早い段階で原告車を発見し得、本件事故を回避し得たと認められる。その意味では、被告の不法行為責任は免れ難い。

三  原告の損害について検討する。

成立に争いない甲二及至五三号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると

1  原告は、本件事故により頸部捻挫、腰部打撲等の傷害を受け、昭和六〇年七月三一日から同年一一月九日までの一〇二日間入院治療し、その後も少なくとも後記休業期間中通院治療したこと

2  その間の治療費として二二〇万一七二〇円を要したこと

3  治療器具代として二二〇〇円を要したこと

4  入院雑費として六万一二〇〇円を要したこと

(一日当たり六〇〇円が相当と認める)

5  通院交通費として三万二四七〇円を要したこと

6  休業損害として一三五万八〇八六円を蒙つたこと

(昭和六〇年八月一日から昭和六一年一〇月二二日までの四四八日分

計算式

1,106,477円÷365日×448日≒1,358,086円)

が認められる。

なお、原告の病状については心因的なものが或る程度存することが窺われないではないものの、少なくとも右治療期間、休業期間等については、これが本件事故によるものとして不相当なものと判断するに足りる証拠はない。

また、入院通院慰謝料として、治療期間等を考慮し、一三五万円が相当と認める。

四  過失相殺について検討する。

前記二検討のとおりの本件事故態様に鑑みると、そもそも、国道上で原告が本件において採つたような道路を斜め横断するような方法で右折しようとする場合には、四囲の安全を充分に確認して行うべきであるにも拘らず、原告は、右後方の安全を充分確認することなく、安易に後続車より先に右折進行できるものと軽信して走行した過失があるものといわざるを得ない。しかして、本件事故におけるその過失割合は五割とみるのが相当というべきである。してみると、被告は、原告に生じた前記三検討の各損害の二分の一を賠償する責任がある。

五  損害の填補について検討する。

1  治療費

被告の賠償すべき金額は、前記三2の半額の一一〇万〇八六〇円であるところ、原告がいわゆる自賠責から治療費として一二〇万円の支払いを受けていることは当事者間に争いないので、結局、この分の被告の賠償責任はなきに帰する。

2  休業損害

被告の賠償すべき金額は、前記三6の半額の六七万九〇四三円である。

しかして、弁論の全趣旨により成立が認められる乙七号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙八及至一〇号証によれば、原告は、昭和六〇年八月四日から昭和六一年一〇月二二日までの休業補償として、労災から八四万一六六二円の支払いを受けていることが認められる(労災受給については、原告の明確な認否がなかつたが、本人訴訟でもあり、明らかに争わないとも断じ難いので、証拠により認定した)。

計算式

乙8……………S60.8.4~S60.11.9 188,748円―<1>

乙9……………S60.11.10~S61.6.30 433,350円―<2>

乙10……………S61.7.1~S61.10.31 236,898円

(123日)S61.7.1~S61.10.22

(114日)

236,898円÷123日×114日=219,564円―<3>

<1>+<2>+<3>=841,662円

したがつて、結局、この分の被告の賠償責任もなきに帰する。

六  以上検討の結果からすると、被告が支払うべき賠償額(弁護士費用を除く)は、前記三3乃至5の各損害及び慰謝料合計の半額七二万二九三五円となる。

七  本件事故と因果関係ある弁護士費用については、本件の事案の態様、認容額、弁護士らが途中で解任されたこと等を考慮し、五万円が相当と認める。

八  よつて、本訴請求は、金七七万二九三五円及び内金七二万二九三五円に対する本件事故当日である昭和六〇年七月三一日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤拓)

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