岡山地方裁判所津山支部 昭和61年(ワ)74号 判決 1988年10月12日
原告(反訴被告)
沢田美恵
被告(反訴原告)
右手孝子
主文
一 昭和六〇年一一月二八日発生の交通事故に基づく原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する損害賠償債務は反訴認容額(主文第三項)を超えて存在しないことを確認する。
二 原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。
三 原告(反訴被告)は被告(反訴原告)に対して、一五〇万円及びこれに対する昭和六〇年一一月二八日以降支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
四 被告(反訴原告)のその余の反訴請求を棄却する。
五 訴訟費用は本訴について生じた部分はすべて原告(反訴被告)の負担とし、反訴について生じた部分はこれを五分し、その一を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)の各負担とする。
六 この判決は、被告(反訴原告)勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一双方の申立て
(以下原告・反訴被告を単に原告と、被告・反訴原告を単に被告という)
一 原告
本訴については、「原告が被告に対して、昭和六〇年一一月二八日発生した交通事故による損害賠償債務を負担していないことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。
反訴については、「被告の反訴請求を棄却する。反訴費用は被告の負担とする。」との判決と原告敗訴の場合は担保を供することを条件に仮執行の免脱宣言を求める。
二 被告
本訴については、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。
反訴については、「原告は、被告に対して、九三一万九五四八円及びこれに対する昭和六〇年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。反訴費用は原告の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求める。
第二双方の主張
一 本訴請求原因
昭和六〇年一一月二八日午後三時二五分頃、鳥取県八頭郡河原町大字長瀬四五番地一六所在の駐車場内で原告運転の普通乗用自動車が後退中、被告の乗用していた普通乗用自動車の左後部ライト附近に軽く追突した。
右事故によつて被告には何らの人的損害も発生していないのに被告が慰謝料等の請求をするので、原告は被告に対して前記交通事故による損害賠償債務の存在しないことの確認を求める。
二 本訴請求原因に対する認否
原告主張の事故発生の事実は認めるが、事故の態様は争う。被告は右事故によつて外傷性頭頸部症候群などの傷害を受けた。
三 反訴請求原因
1 事故の発生
原告主張の日時、場所で、原告の運転する軽貨物自動車が後退中、被告の乗用していた普通乗用自動車に衝突し、被告は外傷性頭頸部症候群、左肩外傷性関節炎の傷害を受けた。
2 原告の責任
原告は原告車の運行供用者である。
3 治療の経過など
被告は本件事故による傷害のため、事故当日は板倉整形脳外科医院で、また、その翌日から昭和六二年五月三一日までの間、西川整形外科医院に通院(実日数二三七日)して治療を続けたが、その頃、左肩関節の機能傷害を残して症状も固定した。
4 損害
(一) 治療費 一一万五四八〇円
(二) 通院交通費 五万六八八〇円
(三) 休業損害 三四七万三二五〇円
被告は、事故当時、五五歳の主婦であつたから同年代の女性の平均賃金をもとに前記通院期間中の休業損害を算出すると頭書の金額となる。
(四) 慰謝料 三〇〇万円
本件事故によつて被告の受けるべき慰謝料の額は傷害によるものとして一三〇万円、後遺症によるものとして一七〇万円の合計三〇〇万円が相当である。
(五) 逸失利益 二九七万三九三八円
被告は本件事故による後遺症のため労働能力の一四パーセントが滅退したので、その稼働期間中の逸失利益の現在額を求めると頭書の金額となる。
(六) 損害相殺
被告は本件事故による損害として自賠責保険から八〇万円の給付を受けたから前記の損害からこれを差し引くと残りの損害額は八八一万九五四八円となる。
(七) 弁護士費用 五〇万円
5 結び
よつて被告は、原告に対して右損害金九三一万九五四八円及びこれに対する事故発生の昭和六〇年一一月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
四 反訴請求原因に対する認否
反訴請求原因1の事故発生の事実は認めるが、その態様は争う。被告の受傷内容は知らない。同2の事実は認める。同3の事実は不知、同4の損害は被告が自賠責保険から八〇万円の給付を受けていることは認めるが、その余は不知。
第三証拠関係
本件記録中の証拠関係目録記載のとおり。
理由
第一本訴請求について
原告は、本件事故によつて被告には何らの人的損害も発生していないとして損害賠償債務が存在しないことの確認を求めるけれども、右債務の存否に関しては、反訴請求についての判断のとおりであつて、結局、原告の本訴請求は、右認定判断の範囲を超える債務の存在しないことの確認を求める限度では理由があるが、その余は失当として排斥を免れない。
第二反訴請求について
一 事故の発生と被告の受傷
原告主張の日時、場所で本件事故が発生したことは当事者間に争いがなく、右事故によつて被告がその主張のような傷害を受けたことは成立に争いのない乙第一一、一二、一三号証、被告本人尋門の結果に弁論の全趣旨を総合すると優に肯定できるところであり、甲第一、二号証の写真は必ずしも右認定の妨げとはならず、他にこれに反する適切な証左はない。
二 原告の責任
原告が原告車の運行供用者であることは当事者間に争いがないので、原告は本件事故によつて被告の受けた損害を賠償する責任を免れない。
三 治療の経過など
成立に争いのない乙第二ないし六号証、乙第一一、一三号証に弁論の全趣旨を総合すると反訴請求原因3の事実が認められ、これに反する証左はない。
四 損害
本件事故によつて被告の受けた損害は各掲記の証拠によつて次のとおりこれを認める。
1 治療費 一一万五四八〇円
(乙第七ないし一〇号証、一二号証)
2 通院交通費 五万六八八〇円
(乙第一三号証と弁論の全趣旨)
3 休業損害 一〇〇万円
被告は専業主婦であるが(被告本人尋門の結果)、当裁判所はさきにみた傷害の内容、程度とその治療経過及び被告の年齢をもとに統計資料を参照してその休業損害を頭書の金額と認定判断する。ちなみに叙上の認定については損害算定の基礎に不確定要素があつてその数値自体が数字的正確性をもつものではないから、求めた数額も端数を切り捨て算定した。
4 慰謝料 二五〇万円
本件に顕われた一切の事情を勘案し、被告の受くべき慰謝料の額は頭書の金額が相当であると認める(なお、逸失利益の項の説示参照)。
5 逸失利益
本件事故による被告の逸失利益の総額が幾らになるかは本件全立証によつてもこれを適確に把握するのは困難であり、従つてこの点はさきの慰謝料額の算定に当たり斟酌した。
6 過失相殺の類推適用
本件事故による傷害によつて、被告には、一応、さきにみたような損害の発生していることが認められるところ、他方、弁論の全趣旨によると被告の訴えている症状ひいてはその損害のうちには被告の心因的要因が寄与している面も多分にあるものと推認され、こうした場合、裁判所は公平の理念に照らし、過失相殺の規定を類推して被告に生じた損害のうち原告に賠償を命ずべき損害の額を限定できるものと解するのが相当である。そして当裁判所は弁論の全趣旨などからみて本件事故による損害につき、原告が負担すべき賠償額は上記損害額の約五五パーセントに当たる二〇〇万円が相当であると認定判断する。
7 損益相殺
被告が自賠責保険から八〇万円の給付を受けていることは当事者間に争いがないので、前記損害からこれを差し引くとその残損害は一二〇万円となる。
8 弁護士費用 三〇万円
本件に顕われた一切の事情を総合すると原告に賠償を命ずべき弁護士費用の額は頭書の金額が相当である。
五 結び
以上の次第であつて、結局、被告の反訴請求は一五〇万円とこれに対する事故発生の昭和六〇年一一月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は失当として排斥を免れないこととなる。
第三結論
以上判示してきたとおりであつて、原告の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも全認定の範囲で各一部理由があるから右の限度でこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用は本訴について生じた部分は一部敗訴した原告にそのすべてを、反訴について生じた部分は各一部敗訴した原、被告に主文掲記の割合でこれを負担させ、被告の申立てによりその勝訴部分につき仮執行の宣言を付し、原告の仮執行免脱宣言の申立は相当でないからこれを却下することとして主文のとおり判決する。
(裁判官 磯部有宏)