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岡山地方裁判所笠岡支部 昭和32年(わ)66号 判決 1960年5月23日

被告人 山本寅市

大三・一一・二二生 金融業

主文

被告人は無罪。

理由

第一、被告人に対する公訴事実は

「被告人は昭和二十三年頃より笠岡市北木島町三千八百二番地に事務所を有する北木島町農業協同組合(組合長奥野茂喜)の参事として、組合長を補佐し事実上同組合の為め預金、貸付、現金保管等の業務に従事して居たものであるが、別紙犯行一覧表記載の様に昭和三十二年八月十四日頃から同月十七日頃までの間前後十一回位に亘り、前記組合事務所に於て、同市北木島町七千八百九十五番地竹本胸一外七名に対し、自己名義を以て約束手形の割引、小切手による支出、現金立替等の方法により、擅に自己が業務上保管に係る右組合所有の現金合計九十五万円を右竹本胸一等に支出して貸与し、以て費消横領したものである。」

というにあるものである。(別紙犯行一覧表は末尾に添付する。)

第二、右公訴事実に対し、被告人並に弁護人は横領事実を否認しその理由として

一、被告人が本件公訴事実の如く約束手形の割引、小切手による支出、現金の立替をした事実はこれを認めるが、被告人の本件行為は参事の資格に於て、組合員の為めになした正当行為であつて、被告人には不法領得の意思がないものである。

二、参事は商法第三十八条第四十二条の規定の準用を受け、支配人と同一の権利義務を有するものである。従つて被告人は法律上組合長と同一の権限を有していたものである。

三、そもそも本件事案に見られる手形割引行為は本来の組合業務ではないが、総組合員の為め組合長奥野茂喜の発案により為されたもので、これについては組合役員は勿論組合総会に於ても、暗黙の承認が与えられ、且つ組合員役員共にこの手形割引制度を利用し来たものである。

四、被告人が起訴を受けた本件事案の真相は、被告人が参事の資格に於て依頼を受けた手形割引、小切手による支出、現金の立替合計百三十八万円は、未整理の儘一時決済として現金を支払つたが、その代りとして組合に於て従来「ビラ金」と称して取扱われて来た紙片に支出金額を記入したものを金庫の中に納め、急務の為め二、三日被告人が出張の留守中、組合長の帳簿の閲覧を受けて問題化したものである。

五、被告人は二百万円以上の銀行預金と時価百万円以上の不動産を有しているものでその経済状態からしても、横領する情況は窺われないものである。

六、本件の手形割引した約束手形中には、被告人に対し振出されたものがあるが、これは手形未整理で出張中組合職員の中傷により組合長奥野茂喜から捜査を受け、同人から組合宛に処理することが拒否された為め、やむなく被告人宛に振出されたものとして処理されたもので、被告人が保管中の組合の金員を横領してその金員により手形を割引いたものではない。そのことは所謂「ビラ金」を合算すれば組合の収支計算は一銭の間違がなかつたことに徴して明瞭である。

七、尤も被告人が組合員の為め割引いた本件約束手形中には当時旧盆で組合員の取引が急迫し手形の割引を懇望せられたが、手形割引の裏付となる組合の富士銀行に対する定期預金の余裕がないので、やむなく被告人が同銀行に対する定期預金を裏付けとする手形割引をしてやり、これを更に組合に対し手形処理するつもりのものであつたが、これ又手形未整理の儘であつた為め、恰も被告人が利鞘を稼いだが如き外観を呈するものが一、二あつたことはこれを認める然しながら被告人としては、被告人の私財を裏付けとして組合員の為め、引いては組合経営の安全なる運営を図つたもので、私利私慾の為めにしたものでない。そのことは前項の手形と同様に手形に代る「ビラ金」を合算すれば組合の経理に何等誤算のなかつたことから明白である。

と主張するものである。

第三、被告人並に弁護人のこれ等の主張に対する検察官の論告の要旨は次の通りである。

一、被告人の本件貸付について、組合員側は手形割引と称し、組合役員側は手形の立替と称するが、その実体は農業協同組合の法定の貸付業務に違反する違法行為であつて、本件事件の発覚により県の監査機関によりこの種貸付業務は厳重に禁止されたところである。

二、被告人の本件貸付行為は、その実体が違法業務であるのみならず、正規の組合の金銭貸付は担保物件があつても十万円を限度とするのに対し、組合員が手形を所持してこれが手形割引の形式を執りさえすれば、無制限の貸付を受けることができることになり、組合の財政の基礎を危くする危険が甚だ大きいのである。

三、然るが故に、組合長は自己の独断に於て組合資金との兼ね合いから手形割引の限度を左右していたのであつて、この点組合長自身に背任的行為があつたことが明らかであるが、これが被告人の放漫な処置によつて更に危険が拡大され、組合の財政基礎が最も危くなつた昭和三十二年八月当時被告人は小切手や融通手形までも貸付の対象とし、甚しきは現金そのものを無担保で貸付ける違法を敢て犯しているものである。従つて本件は貸付方法自体が組合の違法業務であることを前提として事案を考察する必要がある。

四、被告人から本件貸付を受けた組合員は、当初組合長に手形割引を依頼して断わられ或は組合長不在の為め組合長の承認が得られなかつたという経緯を経て、被告人から貸付を受けているのであるから、単純素朴な感情としては、被告人の斡旋で組合から貸付を受けたと考えて居り、被告人が個人の計算に於て組合の金を流用したものとは考えていない。

五、然しながら、被告人が本件貸付を自己の計算に於て、換言すれば不法領得の意思をもつて組合の金を流用し、以つて横領したものであることは次の事実からして明瞭である。則ち

(1)  本件の手形割引に於ては被告人が個人名義をもつて手形の裏書をしている事実。

(2)  被告人が司法警察員検察官に対し、利鞘稼ぎが目的であつたことを自供し且つ本件貸付が組合長に発覚することを恐れて、帳簿上の整理をしなかつたものであると自供している事実。

(3)  被告人は組合参事の職務職限を逸脱して、組合長の違法貸付行為を踏襲したのみならず、既に相当以前から個人の手形割引によつて私財の蓄積を図つている事実。

(4)  本件が組合長に発覚した当時被告人の不合理且つ不可解な言動があつた事実。

六、被告人の本件手形割引した手形の裏書に関し、被告人は本件個人名の裏書は本件が組合長に発覚した後に組合長の要請により富士銀行笠岡支店長立会の下に裏書したものである旨弁解し、それまでは手形が未整理のため裏書はなかつたと主張する。然しながら、組合長奥野茂喜の司法警察員に対する供述によれば、本件発覚当時被告人は違法貸付百三十八万円の中組合名義の裏書のある手形のみを組合長に差出し、その他の手形は言を左右にして遂に組合長にさえ見せなかつた事実が認められるのみならず、同人の検察官に対する供述によるも、被告人の個人名義の裏書が本件発覚後に為されたと認むべき状況は何等存しないのである。

被告人主張の如く、手形が未整理状態にあつたのであれば直ちに組合長に呈示して自己の行為を弁明できた筈である被告人の右主張事実は証人城戸赴(当時の富士銀行笠岡支店長)によるも認めることができない。

七、被告人は公判初期の段階では、本件個人名義の裏書につき自己は裏付私財が豊富であつたから組合に手形不渡の危険を及ぼさない為めに個人裏書にしたとも弁解している。然しながら、被告人の二転三転する供述の変遷は後に至る程措信できないのみならず、右弁解の如き事情があるにせよ、一職員が組合の金を貸付するのに個人裏書をすべき理由は些かもないし、結局は自己の計算に於て処理したことに変りはなく、且つ結果的にはこれによつて被告人は利益を挙げているのである。

八、被告人が本件手形割引により利鞘を稼いだことについては、手形の割引を受けた次の組合員から現実に受領した。

(1)  竹本胸一から金五百円

(2)  山本一男から金八百円

(3)  畑中文恵から金千八百円

(4)  松岡光夫から金千百円

合計金四千二百円

右金額が被告人の得た利益である。右組合員の一部のものが被告人に謝礼を出したと供述していることは本件手形割引の実体を知る上に重要である。

九、以上要するに、本件は単に公訴事実のみを見るのでは、本件々案の実相を把握できない。即ち、被告人は本件事件により組合退職後貸金業を営んでいるが、過去に於て被告人が組合の地位を利用し、その権限を擅にして内職的に組合員の手形を個人の計算に於て割引してやり、内容的には現在の貸金業と同じような営利行為を継続していた事実との関連に於て、本件を把握するに於ては本件は業務上横領罪が成立するものである。

第四、被告人並に弁護人は前記無罪の理由として主張した事実の外、右論告に対し、更に

一、被告人から本件事件を見れば、予て被告人に対し敵意を抱いて被告人を参事の地位から失脚せしめんとしていた組合書記河田美代治が、被告人が帳簿並に手形を整理しない儘数日間連日出張していた留守を狙つて、被告人を罪に陥し入れんとする奸策により、本件事件が摘発され、被告人に帳簿、手形の未整理なる職務の怠慢があつた為め、組合長奥野茂喜は被告人の弁解を信用せず直ちに未整理の百三十八万円の弁償を迫られたので、本件起訴の関係のものは勿論一応組合名義で手形割引してあつたものでも、未整理のものは全部被告人の個人名義に書換え全部弁償して解決したものである。

二、本件事件後、北木島に於ける唯一の金融機関である組合は手形割引、小切手による金融方法は勿論、金銭の貸出を停止し、一方北木島に於ける主要産業である採石業の不況とが相重なり、北木島の不景気は深刻のものがあつた。その為め被告人に対し金融を懇請せられる人が相当多数あるので、被告人は北木島の発展の為め、正規の手続を受け最低の利で手形割引等の金融業をしているものである。

と弁解するものである。

第五、裁判所の判断

一、参事の職務権限について

(一)  北木島町農業協同組合長奥野茂喜は「組合としては富士銀行笠岡支店へ本年八月十日頃には定期預金が千四十万円ありまして、これによつて約束手形の割引をしているのであります。八月十日頃迄は旧盆で組合員が金がいるので約束手形の割引を頼むので、千四十万円の内四百万円は富士銀行から借入金がありますので、残六百四十万円位が割引の出来る限度でありますが、その頃約五百万円位割引をしたので、資金も百万円位があるだけなので、これ以上割引してはいけないと思い、私としては、山本寅市や他の職員に対して、もうこれ以上手形の割引は差控える様指示していたのであります。でありますから山本寅市が勝手に頼まれても、組合名義で割引してはならないのであります。」と供述し、更に同人は検察官に対し「この組合の参事をしていた山本寅市が、本年八月十四日頃から十八日頃迄の間に、約束手形の割引や小切手等で組合の金百三十八万円位を勝手に処分した事について、その事情は警察官に申しておる通りであります。組合の運営方針として、組合員に対する手形割引は今まで営業方針としてやつて居りました。然し今度山本がやつたのは、組合長である私に無断で組合名義で裏書し、又は山本個人で裏書したりして、手形を割引或は小切手で組合の金を他人に融通してやつたりしたわけで、この様な事は山本が独断でやれるべき行為ではありません。」と供述している。

(二)  然しながら、農業協同組合法第四十二条第三項によれば参事には商法第三十八条第一項第三項及び第三十九条乃至第四十二条の規定が準用され、従つて参事は支配人と同様に組合に代りて其の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為を為す権限を有するものである。又右法律の規定を承けて右組合の定款(被告人の司法警察員に対する昭和三十二年九月十九日附供述調書の添付書類)第三十八条第二項に「参事は理事会の決定により組合の名に於て行う権限を有する一切の業務を誠実に善良なる管理者の注意をもつて行わなければならない。」と規定しているものであるから、法律上参事は、組合長の代行機関でなく、独自の権限を有する代表機関であるから、参事が組合長の指示に反した業務を執行した一事により業務上横領罪が成立する訳がない。即ち処分行為が行為者の一般的抽象的の権限の範囲内のものであれば、処分行為自体は合法であつて業務上横領罪を構成しないと云うべきである。

二、組合の貸付業務について

(一)  農業協同組合法第十条第一項第一号に「組合員の事業又は生活に必要な資金の貸付」の規定があり、又前記組合の定款第二条第一項第一号にも同様の規定がある。そうすると組合に於て貸付業務ができることは勿論である。而して、定款第四十三条第五号に総会の議決事項として一組合員に対する貸付金の最高限度の規定があり、その規定に基いて組合総会に於て無担保の場合は二万円以内有担保の場合五万円以内貸付ができる旨の議決があることは証人河田美代治の証言(第三回公判調書)により窺知できるところである。(尤も被告人の供述によれば、本件貸付当時有担保の貸付限度は金十万円であつたことが窺われる。)

(二)  組合に於て従来手形立替の名称のもとに一種の手形割引がなされて来たことは、前記奥野茂喜の供述調書に窺われるところであり、又前記河田証人も組合の所謂手形割引について、組合員には石材商が多く従つて石材の代金として手形を受取ることが多く銀行より手形割引を受けることを組合に委託するので、組合がこれに裏書して組合の取引銀行より手形割引を受け、これを組合員に貸付けるのであるが、組合員が現金化を急ぐときは、銀行よりの手形割引を待たないで直ちに組合が手形を受取ると同時に手形の割引を受ける額と同額の現金を立替払をして来たものであり、小切手についても同様の取扱をして来た旨を証言している。

そうすると、被告人も参事として当然組合の為めに手形割引、小切手の立替の方法による貸付業務を執行する職務権限を有するものと云はなければならない。仮令斯くの如き業務の執行が法令に基いてする行政庁の処分に違反する行為であり、その責任を追及されることがあつても、その行為が当然横領罪を構成するものではない。

三、被告人の起訴事実について

(一)  奥野茂喜の司法警察員に対する供述調書によれば、同人が昭和三十二年八月十八日頃書記河田美代治に命じて総勘定元帳と現金の有高を調査させたところ、現金が百三十八万円不足していることを発見したものである。即ち現金が七十九万八千百九十八円、見做現金百七万七千百円合計百八十七万五千二百九十八円、この外仮払金として計上している三百五十万円があり、これが見做現金と同性質のもので、約束手形を割引したものであるから合計四百五十七万七千百円に相当する手形が存在しなければならないものである。然るに当時組合に保管してあつた割引した約束手形は合計三百十九万七千百円に過ぎなかつたので、差引百三十八万円が現金不足して居つたので被告人に尋ねると、同人は銀行にも自宅にも約束手形があるので、これを整理すれば金額が合うと云つたので、八月二十一日に被告人と共に富士銀行笠岡支店に行つて、取調べた際、組合長名義で裏書した奥田常吉、岡田一行、松岡光夫、北木石材、三吉俊蔵、小松清の各振出しの合計四十二万八千八百九円の約束手形六通を差出したが、この約束手形については、自分は全然割引を依頼されたこともなく、従つて裏書することを知らないので、組合長としては裏書を認めないと云つて銀行に於て組合長名義の裏書を抹消させた。被告人は組合として認めてもらえねばやむを得ないから、自分が引受けると云つた。手形はこれ以外は自分には見せなかつた旨供述している。

(二)  本件の起訴事実は、前記不足金百三十八万円の中、組合長名義で裏書されていた合計四十三万円(前記奥野茂喜は合計四十二万八千八百九円と供述しているが、これは割引金額であつて手形金額の合計は四十三万円であることは、被告人の昭和三十二年九月十九日附司法警察員に対する供述調書添付の別表1組合長名義裏書割引約束手形の合計額に徴して明白である。)を控除した九十五万円についてである。

而して、起訴状によると被告人は自己名義を以て約束手形の割引、小切手による支出、現金立替等の方法により擅に自己が業務上保管に係る組合所有の現金九十五万円を竹本胸一等に支出して貸与し、もつて費消横領したものとして起訴されたものである。

(三)  起訴事実中被告人が個人名義で約束手形の割引をしたとして起訴されたのは、起訴状の犯行一覧表によると竹本胸一、山田一枝、畑中文恵、山本一男、松岡光夫の五名に対するものである。この中竹本胸一は死亡した為め証人として尋問されなかつたが、山田一枝、畑中文恵、山本一男、松岡光夫の四名は証人として尋問され、孰れも被告人に依頼し、組合から手形割引を受けたもので、被告人個人から融通を受けたものでない旨を証言しているものである。

(イ) 山田一枝、松岡光夫の両名は司法警察員に対しても同趣旨の供述をして居るものである。

(ロ) 畑中正は司法巡査に対しては、被告人個人から手形の割引を受けたが如く供述しているが、証人畑中文恵同畑中正の各証言によると被告人に交渉して手形割引を受けたのは畑中正でなく、その妻畑中文恵であることが明白であるので、畑中正自身が直接被告人に交渉したものゝ如く供述している司法巡査に対する供述調書の供述記載は措信できない。

(ハ) 山本一男は司法警察員に対しては、被告人個人より手形割引を受けた旨を供述しているものであるが、その供述調書記載と証人尋問調書の供述記載とを対比するとき後者より特に前者の供述を信用すべき情況がないので前者を措信しない。

(ニ) 竹本胸一は死亡した為め証人として尋問できないものであるが、同人の司法警察員に対する供述調書によれば、同人は昭和三十二年八月十四日頃、被告人に依頼して振出人天野隼人額面五万円の約束手形の割引を組合長奥野茂喜に依頼したが、同人から割引の枠がない理由で断られたので、被告人に依頼して個人名義で割引して貰つた。次に同月十七日頃振出人松岡光夫額面五万円の約束手形の割引を前記組合長に依頼したが同人から前同様割引の枠がない理由で断られたので、又被告人に依頼し、今度は組合長名義で割引して貰つた旨を供述しているものであるが、同人の供述調書の証明力については後で検討することにする。

(四)  被告人が小切手による支出をしたとして起訴されたのは、起訴状の犯行一覧表によると藤井保秀、山本一男、神原菊之の三名に対するものであつて、同人等は孰れも証人として被告人に頼んで組合より小切手金の立替を受けた旨を証言し、司法警察職員に対しても略同趣旨の供述をしているものである。

(五)  被告人が現金の立替をしたと起訴されているものは、起訴状の犯行一覧表によると天野富三に対するものである。同人は証人として尋問された際、記憶が薄らいだ理由により殆ど要領を得ない証言をして居るが、司法巡査に対する供述調書によれば、組合事務所に於て、被告人から十万円を無証書で借受け、約一ヶ月後組合に返済した旨を供述しているものである。

四、本件の発覚より弁償までの経過

(一)  前記の如く組合長奥野茂喜の司法警察員に対する供述によれば組合長が金庫の現金と総勘定元帳の現金有高に百三十八万円の差額のあることを発見したのが昭和三十二年八月十八日頃で、当日被告人は笠岡に出張していたので、その帰りを待つて組合長が被告人に尋ねたところ同人は銀行にも自宅にも約束手形があるから、整理すれば合うと云うので、それでは銀行に行つて調べることになり八月二十一日に組合長と被告人の二人が笠岡の富士銀行笠岡支店に赴いて調べたところ、銀行にはなく、被告人が自宅から持つて来た組合長名義で裏書した約束手形六通を差出したが、組合長としてはその裏書を認めないと云うて、銀行に於て抹消させた、そこで被告人は、組合として認めて貰えねばやむを得ないから自分が引受けると云つて、結局百三十八万円を組合に弁償することになり、同日被告人は自分の預金六十万円を同銀行から引出して、組合の当座に払込んで弁償し、尚その翌日被告人は組合に於て本人或は家族名義等の預金七十八万円を引出して全額の弁償をしたものである。

(二)  証人河田平松、同河田基一の各証言によると組合長奥野茂喜は前記百三十八万円の差額を発見すると被告人並に関係組合員について詳細な事実の調査は何等することなく、又理事監事等の役員にも何等諮らず、組合長と被告人との間に極く秘密裡に全額を被告人に弁償せしめて解決していたところ、昭和三十二年八月二十五、六日頃に至り、組合長並に山本が組合の金を多額に横領している趣旨のビラが張り出されて島内が騒然となり、組合に対し取付が始まつて収拾がつかなくなり、組合員大会が開かれる形勢となつて初めて組合長は前記両名の理事に対してのみ被告人に前記百三十八万円を弁償させて解決した趣旨の報告をしたにとゞまり、その事件の詳細な報告もせず、その後組合としては何等調査もしなかつたことが窺われるものである。

(三)  奥野茂喜は前記の如く本件起訴に係る被告人の個人裏書約束手形は八月二十一日銀行で見なかつたと司法警察員に対し供述するが、富士銀行笠岡支店送付に係る手形貸付元帳写によれば、本件起訴の関係の手形は総て同日同銀行に於て割引されているものであるから、被告人が同日組合長と共に富士銀行笠岡支店に赴いた際、右手形を所持して同銀行に対し手形割引の手続をしたものであることは、証人篠崎実、同城戸赴の各証言から認められるところである。奥野茂喜が右手形を見なかつたのは同人が見ることを欲しないで提出を求めなかつたか、或は見ることを拒否したによるものと思われる。

(四)  奥野茂喜の司法警察員並に検察官に対する各供述調書に、被告人の個人裏書によつて貸付けた者の氏名並に小切手による支出現金立替等の方法の貸付について何等の供述記載がないことゝ、前記河田平治、河田基一両名の証言とを綜合すると、組合長奥野茂喜は被告人をして組合に対し百三十八万円の弁償させることのみを眼中に置き、殆ど被告人の弁明も聞かず、又関係組合員について一々貸付の事情について詳細な調査もせず、被告人に対しひたすら全額弁償を迫り、急遽前記の方法により弁償させたものであることが窺われるところである。

五、結論

(一)  被告人の為した手形割引、小切手による支出が農業協同組合法第五十二条の二の規定による政令に違反し行政庁の禁止する貸付方法であつたとしても、従来理事会に於て決議し、総会に於て承認して来た義務の執行である以上、違法である一事により業務横領罪が成立する訳のものではない。このことは手形割引、小切手による支出による貸付が仮令組合に於て規定されてある貸付金額の制限に違反するものであつても同様である。

参事として、これ等の貸付方法による業務の執行が、農業協同組合法第九十四条の規定する業務又は会計状況の検査を招来し、その結果同法第九十五条に規定する行政庁の措置を受けることになり、ひいては解任の処分を受ける場合のあることは当然であるが、参事の権限の範囲内である以上、単に違法なる貸付方法であることだけでは業務上横領罪が成立しないものである。

(二)  組合の手形割引の方法による貸付業務は組合長自身がなし、同人の司法警察員並に検察官に対する供述によれば、手形割引をしてやると否とは恰も組合長の専権の如き観を呈し、被告人の手形割引は組合長の承認を経ないものであるから横領罪となると云う前提に立つものの如くであるが、参事は既に認定した如く、法律上組合長の隷属機関でなく、独自の権限を有するものであるから、仮令組合長が承認しない手形割引をしたからと云つて、横領罪が成立するものではない。況んや証人河田美代治並に同河田基一の証言によると、組合に於ては昭和三十二年度に於て手形割引料を手形取立斡旋料の名目で事業計画に年間六十万円の収入に計上していたものであることが窺われるところである。又証人河田基一は自己は手形割引を受けたことはないと証言するけれども、組合に於て同証人が支払人の手形が割引かれていることは富士銀行笠岡支店送付の同銀行の組合に対する手形割引内訳表記載に徴して明白である。(勿論組合に対して何人によつて同証人が支払人となつている手形の割引が依頼されたかと云うことは右記載によつては判断できないが、同人か或は同人と密接なる取引関係にある者から組合に手形割引を依頼したものであることは推認することができる。)

(三)  本件起訴に係る手形割引、小切手による支出、現金の立替等の方法による貸付に於て、孰れの方法によりても貸付を受けた相手方の組合員が、組合より貸付けたものの意思を有する以上、特に明白な反証がない限り、組合と組合員との間に当然貸借関係が発生し、横領罪が成立する余地がない。(尤もこの場合背任罪が成立するかどうかは別個の立場から検討すべき問題であつて、横領罪の成立と関係はないものである。)

(四)  検事は本件の手形割引に於ては被告人が個人名義をもつて手形の裏書をしている事実を挙げる。

然しながら、被告人が昭和三十二年八月二十一日富士銀行笠岡支店に於て手形割引を受けた際、本件起訴関係の約束手形に被告人の個人名義の裏書のあつたことは事実である。このことは篠崎実の司法警察員に対する供述調書により明かである。(組合長名義の裏書のあつたものは被告人が同日は持帰り被告人個人名義のものに書換えて同月二十六日持参して手形割引を受けたものであることは、篠崎実の右調書並に富士銀行笠岡支店送付の被告人に対する手形貸付元帳写の記載に徴して明白である。)然しながら、この一事をもつて、直ちに被告人が組合に於て手形割引をした際、個人裏書で手形割引をしたものであるとは即断できないところである。即ち

(1) 手形割引を受けた山田一枝、畑中文恵、山本一男、松岡光夫等は孰れも組合から手形割引を受けたもので被告人個人から手形割引を受けたものでないから、被告人の個人裏書を受けた事実はない旨の証言をしていることは、既に判示した通りである。又本件発覚当時それ等の手形が整理されてなかつたことは、前記奥野茂喜の供述調書によりても窺われるところである。且つ組合長たる奥野茂喜も、そこまで具体的の調査をしない儘被告人に全額弁償させて解決したものであるから、個人名義で裏書してあるからと云つて、最初から個人名義が記入されてあつたとは速断できない。寧ろそこが空欄となつていたものは、被告人が百三十八万円を弁償することになつてから記入したものがあるかも知れないことは、容易に想像のできるところである。

(2) 手形割引を受けたものゝ内、竹本胸一は司法警察員に対し、一通の約束手形は被告人個人名義で裏書して貰つて手形割引を受け、他の一通は組合長名義で裏書をして貰つて手形割引を受けた旨を供述していることは既に判示した通りである。

そこで被告人は竹本胸一に対する手形割引をした際被告人の個人裏書をしたのは組合の銀行に対する資金が不足すると組合長の宛名では不渡りとなる恐があるので被告人の個人裏書とした訳で、当時被告人の預金が富士銀行にあつた為め組合の為めに不渡手形を出してはいかんと思つてやつたことであるが、このことについて別に理事会の決議は経ていない旨供述している。富士銀行笠岡支店送付に係る組合に対する手形貸付元帳写によると同銀行の組合に対する手形貸付額が八月九日現在千二万三百七十七円、八月十三日現在九百六十九万四千百円、八月十六日現在九百二十六万百円となつている。又前記奥野茂喜の司法警察員に対する供述によると、組合は同銀行に対する千四十万円の定期預金を担保として手形貸付を受けていたものである。そうすると、この限度額と前記貸付金額を対照すれば被告人が竹本胸一の依頼によつて手形割引するに当り八月十四日頃にしたものは被告人の個人名義の裏書にし、同月十七日頃にしたものは組合長名義の裏書にした理由があながち被告人の強弁とは云い難く、一応の理由はあるものと云わなければならない。即ち、前記組合の銀行の手形割引額と被告人が本件起訴に係る手形割引並に組合長名義の裏書による手形額とを勘案し手形割引の限度額に迫り余裕がない場合に被告人名義の裏書をしその余裕がある場合に組合長名義の裏書をしたことは一理あることである。斯る経理の方法が正当なものでないことは勿論であるが、依頼者の竹本胸一が組合の理事であり(河田美代治の司法警察員に対する昭和三十二年九月五日附供述調書参照。)同人に対しては従来組合に於て相当多数回に亘り多額の手形割引をして来て居た事実(第四回公判調書の被告人の供述並に富士銀行笠岡支店送付の組合に対する手形割引内訳表参照)に徴すれば、不渡手形を出さないため己むを得ない手段であつたと云い得るものである。

(五)  被告人が従来手形割引等の方法により組合員を含む多数人に対し金銭の貸付行為をして来たことは、被告人の自認するところであり、又富士銀行笠岡支店送付の同銀行の被告人に対する手形貸付元帳写並に同人に対する手形割引内訳表によつても明白である。勿論参事である被告人は個人として金銭の貸付行為をすることは農業協同組合法第四十二条の準用する商法第四十一条により組合の許諾がない以上できないことであるが、この義務違反即ち横領行為とは即断できない。

(六)  検察官は本件が組合長に発覚した当時被告人に不合理不可解な言動があつたと云うが、寧ろ組合長奥野茂喜にも被告人以上に不合理不可解な言動があつたものと云わなければならない。即ち、既に指摘した如く、組合長は何故に被告人の弁明をよく聞き、被告人から貸付を受けた組合員につきよく貸付を受けた事情の調査をしない儘で、組合長と被告人間に於て他の理事にも諮らないで、秘密裡に百三十八万円を弁償させたか、本件事件を不正行為として公正なる処置をするには、組合長は尠くも組合の理事監事立会のもとに、事実を糾明すべき責任があるにも拘らず、八月下旬組合員間に組合長並に被告人に多額の不正行為がある旨の流言が飛び島内が騒然となり多数の組合員が一時に預金の払戻を求める取付騒ぎが発生した際に於ても、組合長は二、三の理事に被告人が百三十八万円を弁償した結果を報告するにとゞまり、詳細な具体的事実は遂に報告しなかつた事実によつてこれを見れば被告人の言動以上に組合長の言動は不可解極るものであると云わざるを得ない。(証人河田平松、同河田基一の証人尋問調書参照)

(七)  更にこゝで所謂ビラ金のことについて判断を加えることにする。

(1) 所謂ビラ金は、看做現金とも当時組合の理事者職員間に於ては云い、組合の経理に使用していたものである。組合長奥野茂喜は司法警察員に対し看做現金について「約束手形の割引したものを見做現金として紙片に書いて現金代りに入れているのでありまして、これだけの見做現金に代る割引した約束手形が組合になければならないのであります。」と供述している。尚河田美代治、河田一恭の各司法警察員に対する供述調書中に看做現金についての供述が散見しているが、問題は組合に於て必ず看做現金に相当する約束手形の存在が必要であるかの点である。

(2) 証人奥野益美の証言によると、前記奥野茂喜の説明する部類以外に職員が一時組合の金を自己の用途に使用し、その代りに有合せの紙片に金額を記入して領収書と合せて綴ぢて金庫に入れ置きこれをビラ金と称して現金と同様の取扱をしていたことが窺われるところである。尚、河田美代治の証言によると、看做現金票はビラ金の名称で現金立替、一時整理の為め作成した紙に金額を記載したものを現金と看做すもので、本件発覚当時そのビラ金と現金を合せると帳尻は合つていたものであることも窺知できるところである。

(3) 然れば本件は組合の従来の取扱によれば、何等問題がない訳であるが、何故に問題になつたかに付ては、一に看做現金の裏付となるべき約束手形が存在せず、又一部存在するものは組合長たる奥野茂喜の事前の承認を受けないものであると云うことからである。この点について、被告人は第四回公判廷に於て、ビラ金は手形、小切手を整理して帳簿に移記する前現金に代る金員を記載した紙片で、当時百三十八万円相当のビラ金があつて、そのビラ金に基く帳簿への転記が未整理の儘出張して留守中閲覧を受け問題となつたが、収支には一銭の誤算もなく、従つて不正なる支出はしていないもので、手形、小切手は当時未整理の儘机その他に保管していたものであるが、未整理のものは認められないから買取れと云われて、全部買取つて自分のものとした旨を供述している。

(4) さきに被告人は百三十八万円を組合に弁償したものであることを説示したが果して弁償したものと法律上云い得るか疑なきを得ない。既に指摘した如く本件処理についての組合長奥野茂喜の行動態度は被告人の本件行為を犯罪行為である前提の許に判断する限りに於ては奇怪であると云わなければならない。然しながら組合長は被告人の本件行為を商法第四十一条第二項の場合と逆の場合として処理したものであるとすると、当然の行動であると云わなければならない。即ち組合長は前記百三十八万円について被告人が組合名義で組合員に対する貸付として整理することを拒否して、被告人の組合に対する預金を引出して、これを個人の資格で貸付けた形式を執ることを強要し、被告人もこれを承諾して全部被告人個人名義で処理したものであるとすると蓋し当然の処置と云わねばならない。果してそうであるとすると、組合長は既に組合長名義で裏書してあるものを抹消させるだけで、その余のものについては、貸付けた組合員の氏名、貸付金額、貸付けた事情等の究明は無用で、要は被告人の預金その他から百三十八万円を回収して、組合が損失を蒙らないことにあつた。それで組合長が他の理事にも諮らず急遽被告人と共に八月二十一日富士銀行笠岡支店に赴いて、同行に於て、六十万円を被告人の口座から組合の口座に移させ、更にその翌日被告人の組合に対する預金中より金七十八万円を引出させて組合に交付せしめた理由が了解できるところである。

(5) 既に指摘した如く昭和三十二年八月十五日乃至同月二十日当時富士銀行笠岡支店の組合に対する手形貸金額はその限度額に迫り組合の手形割引のできる余裕は極めて僅少で看做現金百三十八万円の裏付けである本件約束手形並に既に組合長名義で裏書しあつた約束手形を総て組合のものとして加算するときは、殆ど限度額に達するので、組合長が焦慮して被告人個人名義で処理せしめたものであるが、秘密裡にした組合長並に被告人の行動が却つて一般の疑惑を招き、遂に組合の取付騒ぎとなり組合の機能を失うに至つたものである。

(6) 奥野茂喜を初め本件関係者並に被告人の司法警察職員に対する供述を通観するに、看做現金に相当する約束手形が存在すべきであるに拘らず、それが存在しないのは、被告人が横領したものであるとの前提のもとに、捜査が進められ、又その観点から供述が求められていることが窺われる。而して看做現金百三十八万円が総て被告人の個人貸付として処理されていることがその裏付の証拠となつているものであるが、その内既に組合長名義の裏書のしてあつた約束手形六通の額面合計四十三万円を控除した金九十五万円について本件は起訴されているものであることは既に指摘した通りである。

(7) 然しながら、被告人の個人貸付として処理されたのは、前記の如き事情によるものであるから、手形に被告人個人の裏書のあることは必ずしも最初から被告人が個人貸付をした証拠とすることはできないものであり、仮令その中に最初から被告人の個人裏書をしたものがあるとしても、その一事により直ちに被告人に組合の金を横領する意思があるものとは断定できない特殊の事情があつたものである。即ち既に説明した如く当時組合に於ては手形割引の余力が殆どなく、さりとて旧盆前で組合員の金融は急迫した状態であつて、被告人が組合の金を組合員に貸付け、組合員より受取つた約束手形を組合長名義で裏書して富士銀行笠岡支店より手形割引を受けることができず、一時個人名義で手形割引を受けざるを得ないやむを得ない事情のあつたことが認められるところである。

(8) 被告人は個人として手形貸付をする際は自己宛の手形の振出を受け、これに被告人が裏書をして富士銀行笠岡支店に送付して割引を受け、その金を貸付けていたものであると供述している。

検察官は被告人が利鞘を稼ぐ為め個人名義で裏書して組合の金を貸付けたと主張するが、若しその意思があるのなら、総て個人裏書による手形割引を先にして、自己の手形割引の余力がなくなつて然る後に組合長名義の裏書による手形割引を後にしているべきである。被告人の昭和三十二年九月十九日附司法警察員に対する供述調書添付の別表(1)組合長名義裏書割引約束手形と別表(2)山本寅市個人裏書割引手形の記載とを比較するに竹本胸一に貸付けた個人名義の分の割引が八月十四日で組合長名義の分の割引は八月十七日であり、畑中正に貸付けた個人名義の分の割引は八月十六日であるが組合長名義の分は八月十五日であり、又山田一枝に貸付けた個人名義の分も又組合長名義の分も孰れも八月十五日であること並に組合長名義によるものは八月十五日から同月十七日、個人名義によるもの同月十四日から同月十七日であることの二つの事実から見れば被告人が仮令最初から組合長名義の裏書、被告人名義裏書と区別していたとしても、単なる利鞘稼ぎの目的で斯る区別をしたものでなく、他の何等かの理由によるものと云わなければならない。

(9) 更に当時被告人には本件組合の金を横領せねばならない事情は見出すことはできない。既に説明した如く被告人は組合長の請求により昭和三十二年八月二十一日富士銀行笠岡支店に於て金六十万円を自己の預金口座より組合の預金口座に移して弁償し、更に翌二十二日組合に於て自己の組合に対する預金より金七十八万円の払戻を受けて本件百三十八万円の全額の弁償を済ませたばかりでなく、尚十万円を組合に支払つたことは被告人の司法警察員に対する供述により窺はれるところで、この点からして当時被告人が経済的に困窮して組合の金を横領したものとは断ずることができない。

(10) 更に被告人が私慾の為め所謂浮貸したものと見ることができるかと云うと一部被告人が利子を自己の所得とした趣旨の供述が、被告人の司法警察員、検察官に対する供述調書にあるが、これは既に説明した如く、被告人が組合長の要求により百三十八万円全額を個人の貸付として処理した当然の結果であつて、このことから逆に被告人に不法領得の意思があると断定することはできない。

(八)  以上要するに組合長奥野茂喜は被告人に対し本件貸付行為に付て整理するの余裕を与えないで、組合長名義の裏書のあつた約束手形額面合計四十三万円をも含む看做現金合計百三十八万円全額について、被告人の個人貸付として処理することを要求した結果、被告人はこれを承諾し被告人の組合に対する関係に於ては被告人の預金を引出してこれを個人的に貸付けたことにして整理したものと見るべきものであることは既に判示した通りである。斯る処理の方法は表面を糊塗したもので、実際は被告人が組合の金を自己の利益を図る目的で個人名義の金銭貸付の為めに擅に流用したものであることは、本件について取調べた各証拠によつては未だもつてこれを認めるに足りないことも既に判示した通りである。

されば被告人に対しては刑事訴訟法第三百三十六条に則り無罪の言渡をすべきものである。

よつて主文の如く判決する。

(裁判官 則井登四郎)

被告人山本寅市業務上横領犯行一覧表

番号

現金支出年月日

貸与者住居氏名

金額

方法

場所

1

昭和三十二年八月十四日頃

笠岡市北木島町七八九五

竹本胸一

五〇、〇〇〇

約束手形割引

北木島町農業協同組合事務所

2

右同日

同市北木島町七八九九ノ一

藤井保秀

一〇〇、〇〇〇

小切手

右同所

3

同月十五日頃

同市北木島町九〇五四

山田一枝

一〇〇、〇〇〇

約束手形割引

右同所

4

右同日頃

右同人

五〇、〇〇〇

右同

右同所

5

右同日頃

同市北木島町九七二四

山木一男

一〇〇、〇〇〇

小切手

右同所

6

同月十六日頃

同市北木島町九六六一

畑中文恵

一〇〇、〇〇〇

約束手形割引

右同所

7

右同日頃

同市北木島町九七二四

山本一男

五〇、〇〇〇

右同

右同所

8

右同日頃

同市北木島町八二二六

神原菊之

一〇〇、〇〇〇

小切手

右同所

9

同月十七日頃

同市北木島町六四〇九

松岡光夫

一〇〇、〇〇〇

約束手形割引

右同所

10

右同日頃

右同人

一〇〇、〇〇〇

右同

右同所

11

右同日頃

同市北木島町三二二六の二

天野菊三

一〇〇、〇〇〇

現金立替

右同所

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