大判例

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岡山家庭裁判所 昭和45年(少)2389号・昭45年(少)2627号

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

一、昭和四五年八月一一日午後四時頃島根県○○郡○○町大字×町字△△△××の××○梨○男方墓地内において、草刈中の○梨○○子(四六歳)を認めるや、同女を強いて裸にする等猥褻な行為をしようと企て、いきなり同女の頭部を後方に突いて仰向けに倒し、馬乗りとなり、手挙で同女の顔面を数回殴打し、さらに「殺してやる。」と言いながら同女の首をしめる等の暴行・脅迫を加えたうえ、同女が着用していたモンペを脱がそうとしたが、同女が大声で助けを求めたので、犯行の発覚をおそれ、その目的を遂げるに至らなかつたが、右暴行により、同女に対し全治一〇日間を要する両眼部打撲傷、左背部、両肘部擦過傷の傷害を負わせ

二、同月一三日午前一〇時頃○町大字○○××××番地○○寺御堂内において、○地○ツ(七四歳)が御経をとなえているのを発見するや、同女を強いて姦淫しようと思い立ち、同女の上衣ブラウスの後襟を捉まえて後方に引き倒したのち、同女のズロースを剥ぎとり、馬乗りになつて平手で同女の顔面等を数回殴打し、さらに同女の両手を紐で後手に縛りつけたうえ、日本手拭で猿ぐつわをかまそうとする等の暴行を加え、抵抗する同女に対し、「騒ぐな、殺してやる。」「いうことをきかぬと谷川に漬けて石でたたき殺してやる。」等と言つて、同女の反抗を抑圧したうえ、同女を強いて姦淫しようとしたが、同女が強く抵抗して逃げる気配を示したので、さらに木製サンダルで同女の顔面や肩を数回殴打し、逃げようとして御堂からころげ落ちた同女を殴つたりひきずつたりしながら同境内の小屋に連れ込み、再び馬乗りとなつて、同女の顔面等を数回殴打する等の暴行を加えたが、人の気配がしたので、犯行の発覚をおそれ、姦淫の目的を遂げるに至らなかつたが、右暴行により同女に対し全治約二ヵ月を要する顔面打撲傷、左上腕骨外科頸骨折および左下腿挫創等の傷害を負わせ

たものである。

(処遇)

少年の知能はIQ六二と極めて低く、その性格は非社交的、偏屈で、対他感情は暖かみに欠け、極度に防衛的で、児童期から無気力、内気で閉鎖性が強く、適応力が乏しかつたが、中学を卒業した頃から次第にその偏りを強め、被害念慮を抱いて厭人的であり、独り家にこもり、何をしても面白くないといつた抑欝、不快な感情、気分に支配されており、積極的な適応の意欲もなく、唯漠然と日を過しているが、他からの抑圧や攻撃には激しく興奮して、乱暴したり反抗したりする傾向がある。

少年は、中学を卒業した後、直ちに就職したが長続きせず、その後二・三度短期間就職したほかは、勤労意欲もなく、無為のうちに過していたものであるとこう、昭和四四年三月一〇日仕事が長続きせず、いらいらする等の理由で神経科の医師の診断を受け、接枝性精神分裂病(破瓜型)であるとの判断のもとに昭和四五年四月まで継続的に通院しては投薬治療を受けていたが、同年四月に他の病院に一時入院した(父親が入院させ、母親が翌日退院させた。)後、同年七月八日中学時代の友達に「高校に入れなかつた。」と悪口を言われたことを苦にしていたが、翌日昼頃突然包丁を持ち、「死んでやる。」と言つて家を出たので、保護者の連絡で警察に保護され、同日夜から精神病院に入院(任意)させられた。入院時少年には関係妄想的発言があり、やはり接枝性精神分裂病(初期の段階)と診断され、投薬治療がなされ、その後小康状態となつたが、なお継続して治療する必要があつたにも拘らず、少年の保護者は、精神病に対する無理解から転地療養を強硬に主張して同月三一日少年を退院させ、同年八月八日から本件第二の犯行現場である○○寺に通わせて精神修養させることにした(少年も神の問題については関心を抱いていた。)。

本件各犯行は以上のような経過の後になされたものであるが、少年は、第一の犯行の動機については、見知らぬ土地へ独りで来て、誰か話相手が欲しいと思つていると被害者に会つたが、未知の人であるので声をかけるのをためらつているうちに、恥かしい思いをさせてやろうという気になつて裸にしようとしたと述べ、第二の犯行については、精神修養に行つたのに誰も神のことについて教えてくれず、被害者に尋ねても答えてくれなかつたので、恥かしい思いをさせてこらしめてやろうと思つて被害者を姦淫しようとした、と述べているが、さしたる動機もなく本件各犯行がなされたこと、その方法が残虐であることおよび前記少年の精神分裂病罹患の事実から考えて、本件各犯行は、接枝性精神分裂病の影響のもとになされたもので、犯行当時少年が心神喪失の状態にあつた可能性が大であると認められる。

ところで少年法第三条第一項第一号は審判に付すべき少年として「罪を犯した少年」を挙げており、これに、構成要件に該当する違法な行為をしたが行為当時心神喪失の状態にあつた者が含まれるか否かについては争いのあるところであるが、当裁判所は、これを肯定するのが相当であると考える。けだし、保護処分は、非行に対する少年の責任を問う趣旨のものではなく、少年の非行性を除去して社会への適応を図ることを目的とするものであるから、そのための要件を規定する少年法の前記条項もこの見地から解釈すべきであつて、少年が構成要件に該当する違法な行為をなし、且つ、そのまま放置されたときは、将来再び非行をくりかえす可能性がある限り、その非行性を除去するために、少年を保護処分に付する必要性があることは明らかであり、少年が当該非行時に心神喪失の状態にあつたことを理由に、これをそのまま放置しておくことは少年保護の趣旨に沿わないものというべきだからである。このことは、少年法が刑事上の責任無能力者である一四歳未満の者に対しても保護処分を加えうるものとしていることに徴しても明瞭である。ただこのように解すると、成人であれば責任無能力者の行為として(少くとも司法手続上は)そのまま放置されるのに対し、少年であるが故に場合によつては施設収容されることにもなつて著しく権衡を失するようにも見えるが、このことは虞犯少年についてもいえることであつて、少年法が虞犯少年を保護処分に付しうることとしていることが、いわゆる国親思想から、かかる少年をそのまま放置することなく、可塑性に富む少年のうちにこれを矯正することが、結局少年の将来にとつても利益になることだとして正当づけられていることから判断すれば、同様のことは心神喪失による責任無能力者たる少年についても妥当することであつて、独り後者の場合のみを成人の場合と同一に取扱うべき理由を見出し得ない。

ところで、心神喪失者とりわけ本件少年の如き精神分裂病罹患者については、他に精神衛生法上の強制的措置をとりうる場合があり、そのような場合にはその措置に委ねることによつて、保護処分に付する必要性が消滅することも多いと考えられるが、本件の如く、未だかかる措置がなされていず、且つ、精神分裂病が初期の段階にあり、適切な治療によつて比較的早期に寛解状態になることが期待できるが、他に精神薄弱という負因があり、仮りに精神分裂病が寛解状態になつたとしても、未だ充分な社会適応性に欠けるものと認められる場合には、単に精神分裂病の治療のみを目的とする精神衛生法上の措置に委ねるだけでは少年に対する保護としては充分ではなく、その治療と併行して、生活訓練、職業指導等社会適応性を涵養するための教育が施される必要性があるものというべく、このためには、少年を医療少年院に収容することが不可欠となる。

本件各犯行は、接枝性精神分裂病の影響により、心神喪失の状態においてなされた可能性が大であるが、以上の理由により、少年を医療少年院に送致することが相当であると認め、主文のとおり決定する。

(適条)

非行事実一につき刑法第一八一条、第一七六条

同二につき刑法第一八一条、第一七九条、第一七七条前段

保護処分につき少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条第五項

(裁判官 瀬戸正義)

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