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岡山家庭裁判所 昭和49年(家)448号 審判 1974年12月11日

申立人 矢野厚子(仮名)

相手方 村上国義(仮名)

事件本人 矢野敏子(仮名)

(昭四四・四・一三生)

主文

本件申立を却下する。

理由

第一申立の要旨

申立人と相手方との間の離婚等調停事件(当庁昭和四七年家イ第二五四号)につき、昭和四七年一〇月九日成立した調停において定められた事件本人の養育料月額一五、〇〇〇円では、家賃と物価の値上りのため生活できないので、相手方において申立人に対し養育料を月額三〇、〇〇〇円に増額して支払うべき旨の調停を求める。

第二本件調停の経過

申立人が昭和四九年五月二一日になした本件調停の申立に基づき、同年六月五日に第一回調停期日が開かれたが、結局本件調停は同日不成立に帰し、本件調停の申立は、家事審判法二六条一項により、本件調停の申立の時に審判の申立があつたものとみなされることになつた。

第三当裁判所の判断

一  本件事件記録、および上記離婚等調停事件の記録によれば、以下のような事実を認めることができる。

(1)  申立人と相手方とは、昭和四一年一〇月一日に同居を開始して、事実上の婚姻生活に入り、昭和四三年一二月一日婚姻届をし、昭和四四年四月一三日には両者の間の長女である事件本人をもうけたが、相手方とその先妻との間の長男である文男(昭和三七年六月二一日生)に対する申立人の養育態度から紛争が生じ、昭和四七年六月二三日申立人から申立てられた離婚等調停事件(当庁昭和四七年家イ第二五四号)において、昭和四七年一〇月九日申立人と相手方との間で、つぎのような内容の調停が成立した。

「一 申立人と相手方は本調停により離婚する。

二  当事者間の長女敏子(昭和四四年四月一三日生)の親権者を申立人と定め申立人において今後監護養育する。

三  相手方は申立人に対し前記敏子の養育料として昭和四七年一〇月より敏子が満一八歳に達する迄の間毎月金一五、〇〇〇円宛毎月一〇日限り申立人住所に送金又は持参して支払う。

四  相手方は申立人に対し従来の相手方名義の中華そばの営業許可を申立人名義に移転することとし、右中華そば営業用の什器、備品及び暖簾等営業権を本日限り譲渡する。

五  調停費用各自弁。」

(2) 申立人は、肩書住所地で事件本人とともに生活しているが、居住家屋は一階二階の床面積がともに九・八坪の借家で、階下には申立人の営む中華そば屋の営業用店舗と風呂場、便所があり、二階には居間二間がある。申立人の収入は、その営業の性質上毎月一定しているわけではないが、昭和四九年一〇月においては、総売上げが二一〇、〇〇〇円あり、これに対し、そば、米、野菜等の材料の仕入総額が一〇万一、五七〇円であり、また、洗剤、ポリ袋という消耗品費として二、〇〇〇円、電話代に八、一二五円、水道、ガス、電気代として合計一万四、八五一円、テレビ受信料として九三〇円、家賃として三万円を支出したことが認められる。上記支出のうち仕入費用はもとより消耗品費、電話代もその全額を営業経費と認めて差支えないが、水道、ガス、電気代は生活費としてのそれも含まれているので、営業経費としてはその八割の一万一、八八〇円と認めるのが相当であり、また、テレビ受信料は、テレビが店舗に設置されているので、営業経費と認めてよいが、これは二ヵ月分であるから一ヵ月の費用は四六五円ということになり、家賃は、上記認定のような建物の構造をも考慮すると、そのうちの二万円が営業経費に該当すると認めるのが相当である。そうすると、申立人の昭和四九年一〇月における収入は、六万五、九六〇円ということになる。なお、家賃については、家主から近く月額四万円に増額したいという意向が伝えられているが、現在のところは、従前どおり、月額三万円のままである。

(3) 相手方は、肩書住所地で、アパートを借りて、文男とともに生活し、○○株式会社に岡山出張所長として勤務しているが、その月収は手取り約九万円であり、夏冬のボーナスは大体同額で、手取り各約一九万円である。そこで、ボーナスも各月に平均して、相手方の一ヵ月当たりの収入を算出すると、一二万一、六六六円となる。なお、アパートの家賃は月額二万円である。

二 事件本人の養育料については、上記認定のとおり、昭和四七年一〇月九日に成立した調停によつて、相手方が申立人に対して月額一万五、〇〇〇円を支払うということに定められているのであるが、その後当事者間に事情の変更があれば、当事者の一方からその金額の増減を請求することも可能であると解すべきである。そして、上記調停が成立した当時と現在とを比較した場合、諸物価が著しく高騰していることは公知の事実であり、したがつて、事件本人の生活費もそれにつれて増大しているであろうことは容易に推認しうるから、相手方に負担能力がある限り、申立人の養育料増額の請求は、許容されるものというべきである。

三 ところで、申立人および相手方は、いずれも事件本人の親として、事件本人に対して、いわゆる生活保持の義務を負担しているのであるが、この義務の程度は、申立人および相手方のそれぞれの家庭における事件本人の生活程度を算定した上、そのうちのいずれかより豊かな方の生活程度の消費金額を基準にして、これを申立人および相手方の収入額に比例して按分負担させるという方法により定めるのが相当である。

四  そこでまず、申立人および相手方のそれぞれの家庭における事件本人の生活程度を算定することとするが、この算定に当たつては、厚生大臣の定める「生活保護基準」(生活保護法八条一項)に準拠して、それぞれの家庭の最低生活費、および事件本人がその家庭で占める消費量の割合を算出した上、申立人または相手方の月収にこの消費量の割合を乗じるという方法を用いることとする。(なお、「生活保護基準」の金額は、昭和四九年一〇月一日から適用される厚生省告示同年第二七二号によることとする。)

(1)  申立人の家庭の生活程度

ア、申立人の月収 六万五、九六〇円

上記認定のとおり、申立人の収入は一定しているわけではないが、他に適当な資料がないので、申立人の昭和四九年一〇月の収入をもつて申立人の月収と認めることとする。

イ 申立人家庭の最低生活費

第一類 申立人(二八歳女子)一万一、五六〇円。 事件本人(五歳女子)八、五一〇円

第二類 九、七九〇円

母子加算額 六、五〇〇円

家賃 一万円

以上を合計した四万六、三六〇円が申立人家庭の最低生活費と認められる。

ウ、事件本人の占める消費量の割合

第二類で世帯人員が一人増えたために加算される金額一、二二〇円

(8,510+1,220+6,500)÷46,360 ≒ 0.350(小数点第4位以下四捨五入)

したがつて、申立人家庭の生活費を一とした場合に、事件本人の占める消費量の割含は、〇、三五〇ということになる。

エ、申立人家庭における事件本人の生活程度二万三、〇八六円

65,960×0.350 = 23,086

(2)  相手方の家庭の生活程度

ア、相手方の月収 一二万一、六六六円

イ、相手方家庭の最低生活費

第一類 相手方(三八歳男子)一万三、六六〇円。 文男(一二歳男子)一万三、八九〇円。事件本人(五歳女子)八、五一〇円

第二類 一万一、〇一〇円

準母子加算額 七、三〇〇円

家賃 二万円

以上を合計した七万四、三七〇円が相手方家庭の最低生活費と認められる。

ウ、事件本人の占める消費量の割合

第二類で世帯人員が一人増えたために加算される金額一、三一〇円

準母子加算額で児童一人増えたために加算される金額八〇〇円

(8,510+1,310+800)÷74,370≒0.143(小数点第4位以下四捨五入)

したがつて、相手方家庭の生活費を一とした場合に、事件本人の占める消費量の割合は、〇、一四三ということになる。

エ、相手方家庭における事件本人の生活程度一万七、三九八円

121,666×0.143 = 17,398

五  そうすると、事件本人は、父である相手方の家庭で生活するよりも、母である申立人の家庭で生活する方がより豊かな生活を送れることになるから、事件本人が申立人の家庭で生活した場合の消費金額一ヵ月二万三、〇八六円をもつて、事件本人の一ヵ月に要する養育費とするのが相当である。そこでつぎに、これを申立人および相手方の収入額に按分比例して申立人または相手方の負担額を算出すると、申立人につき、八、一一五円、相手方につき、一万四、九七〇円となる。

23,086×{65,960÷(65,960+121,666} = 8,115

23,086×{121,666÷(65,960+121,660)} = 14,970

六  以上認定のとおり、相手方は事件本人の養育費として、一万四、九七〇円を負担すべき義務があることになるが、そうすると、申立人および相手方の現在の収入を前提とする限り、上記調停の際に定められた養育料月額一万五、〇〇〇円は、現在においてもなお相当な額と解すべきことになるから、これ以上に、相手方に対し養育料の負担を命ずべき理由は見出しがたいといわねばならない。

第四結論

以上の次第で、申立人の本件申立は⑩理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 喜多村治雄)

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