岩国簡易裁判所 事件番号不詳 決定
主文
一、(前略)、被告人滝野道助、(中略)を各罰金二万五千円に、被告人(中略)、同神尾徹生、(中略)を各罰金二万円に処する。
二、右罰金を完納することができない場合には金二百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
三、但し、被告人等に対し本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
四、被告人(中略)、同神尾徹生、(中略)から各金五千円を追徴する。
五、訴訟費用は証人倉内道治、村本梅雄、日野賢、田中太一郎、林雅樹、米本忠雄、及び笠原音五郎に支給した部分は被告人等に連帯して負担させ、(中略)、証人末広昇二に支給した部分は被告人神尾徹生に、(中略)夫々負担させる。
六、被告人藤田信夫及び同相良新はいづれも無罪。
理由
犯罪事実
(前略)、被告人滝野道助は日興土木株式会社常務取締役に各就任し、(中略)、被告人神尾徹生は共栄産業株式会社顧問、(中略)に各就任し、(中略)、自己又はその所属事業体はいづれも昭和二十四年五月二十六日に山口県玖珂郡和木村役場に於て施行せられた同村立新制中学校の新築工事の競争入札指定者となつたものであるが、被告人等は共謀の上同年五月二十五日午後九時頃、岩国市大字今津の金子旅館こと金子静生方で、右工事入札に関し公正の価額を害し、且つ、不正の利益を得る目的を以て、一定の者を落札者にする為親札を三百六十万円と協定し、いわゆる「せり出し」の方法で最高額の談合金六十万円の入札をした明楽工業株式会社を前記工事の落札者とすることに定め、他の入札指定者等は親札より高く入札をして落札者とならないよう申合せ(被告人田中、以下省略)「談合」をしたものである。
証拠の標目(省略)
法令の適用
判示認定の事実に法律を適用すれば、被告人等の判示所為は各刑法第九六条の三第二項第一項第六〇条(被告人田中、以下省略)に該当するので被告人等に対し各罰金刑を選択し罰金等臨時措置法第二条第三条を適用しその所定罰金額の範囲内で主文第一項掲記のとおり各量刑処断し、罰金を完納することができない場合の労役場留置については刑法第一八条により主文第二項掲記のとおり各その期間を定め、なお、情状右刑の執行を猶予するを相当と認めるので同法第二五条により主文第三項掲記のとおり刑の執行猶予の宣告をし被告人岡村繁太郎を除くその余の被告人等が明楽工業株式会社から収受した各金五千円は被告人等の本件犯罪行為の報酬として得たものであつてその全部を没収することができないので同法第一九条の二、第一九条第一項第三号によりこれを主文第四項のとおり追徴すべく、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項第一八二条により主文第五項のとおりそれぞれその負担を命ずべきものとする。
次に、本件公訴事実中(中略)主文第六項のとおり無罪の言渡をすべきものとする。而して、弁護人等の各主張は大同小異であるが、究極に於て被告人等が判示日時判示金子旅館において公訴犯罪事実とされた本件工事入札に関し、工事入札金額を金三百六十万円と推算協定したことは、当時の岩国地方の土建界における経済市場の諸般の動向と、被告人等業者の職業的知識経験による採算として観察するときは、毫も公正な価額を害すべき数字でなく、且つ、被告人等がその合意により判示工事における和木村当局との工事請負契約当事者を明楽工業株式会社と定め、同会社をして判示金額を以て落札させることの申合をしたことは、被告人等二十数名の工事入札指定者の殺倒入札による無益な競争を避けるための職業的正当手段であつて、この被告人等の行為は、何等刑法第九六条の三第二項に牴触する競売入札妨害罪の構成要件の充足に不可欠の公正な価額を害し、又は、不正な利益を得る目的の下になされた合意でないばかりでなく、その行為の本質において同罪を構成すべき違法性の認識を欠いでいたものであるから無罪であると主張するが、そもそも、被告人等は本件工事入札当時における被告人等により組織された岩国地区建設協会なる業者団体の事業活動圏内である岩国及びその周辺地域の土建経済市場の工事発注状況その他諸般の土建景気に精通し、当時の状勢下においては、二十数名の工事入札指定者が、一の発注工事に当面して各自が真に落札しようと努力して正当な競争入札を試みるときは、落札者を除くすべての入札指定者は悉く結果に於て不測の損失を招くことあるを内心考慮して、判示の如く工事入札予算額を金三百六十万円と付値し、該金額中から、被告人等が分配を受けるための差益最高金額の提供者を落札者に特定する方法として、判示「せり出し」によりこれを選出することを合意したことは、和木村当局が、村の工事予算額の範囲内で入札指定者の健全な競争入札の結果により公正な工事請負価額を形成しようとする既定方針の遂行を実現不能に導入することに帰着するは勿論、その意図するところ右差益金分配なる不正の利益を得ることを目的とした犯行であること挙示の各証拠により十分これを認めることができるので、右無罪の主張はいづれも公訴犯罪事実の否認と認める外なくこれを採用することはできない。
よつて主文のとおり判決する。(昭和二六年一二月二〇日岩国簡易裁判所)