広島地方裁判所 平成元年(ワ)1407号 判決 1994年2月17日
原告
馬場ハツミ(X1)
同
馬場武男(X2)
同
馬場節子(X3)
右原告三名訴訟代理人弁護士
胡田敢
同
我妻正規
被告
国
右代表者法務大臣
三ケ月章
右指定代理人
富岡淳
同
佐下勝義
同
永谷進
同
河上芳範
同
永岡健治
被告
広島県
右代表者知事
藤田雄山
右訴訟代理人弁護士
江島晴夫
右指定代理人
小田哲夫
同
川崎裕展
同
森紀之
同
藤田肇
同
高橋紀夫
同
倉迫由美子
被告
広島市
右代表者市長
平岡敬
右訴訟代理人弁護士
宗政美三
右指定代理人
山村博信
同
叶谷計治
同
久保田一生
同
伊達秀宣
同
吉原靖樹
同
長敏伸
同
松田幸登
理由
一 まず、原告ら主張の固定資産税等の過剰徴収額及び過剰納付相続税を国家賠償法に基づき損害として賠償請求できるかについて判断する。
国家賠償法に基づく請求と右過剰徴収の課税処分の取消訴訟及び過剰納付相続税の更正請求とはその効果において実質的に同一の面があるが、右両者はその目的、要件を異にしており(この点において不当利得に基づく過誤納金の返還請求と異なる。)、また、国家賠償法に基づく請求は、行政処分の法的効力を問題とするものではないから、行政処分の公定力に抵触するものではなく、さらに、行政処分の取消訴訟とは右のように目的、要件を異にする別個の訴訟であるから、取消訴訟の出訴期間を潜脱するものであるということはできず、右取消訴訟の提起等及び固定資産評価審査委員会に対する審査の申出ができたか否かにかかわらず、右国家賠償法に基づく請求は許されると解するのが相当である。
三 そこで進んで、右過剰徴収及び過剰納付について被告らに責任があるかについて判断する。
(被告県について)
1 被告県が右土地分筆の代位登記の嘱託をした行為は、土地の買主として私人と同じ立場でしたものであるから、公権力の行使ということはできず、右違法行為を理由に国家賠償法に基づき損害賠償を求めることはできない。
(被告市について)
〔中略〕
ところで、固定資産課税台帳に登録する土地の評価額を求める場合に用いる地積は、原則として、土地登記簿に登記されている地積によるものとされている(昭和三九年一二月二八日自治省告示第一五八号固定資産評価基準)が、これは登記地積は一応正しいと考えられるからであり、右地積の記載が誤っているのではないかと疑われる場合においても、何ら調査することなく右地積に基づいて評価額を決定すべき旨を定めたものでないことは明らかである。右認定事実によれば、登記所から通知を受けた高陽町の課税担当者は、その通知は土地分筆に伴う地積の変更通知であったから、固定資産課税台帳に従前記載の二五九・四〇平方メートルが右通知書には八五七・五二平方メートル(二五九・四〇坪)と記載されていたことに疑問を抱き、いずれが正しいかについてそれ以前の固定資産課税台帳を調査するなり登記所に照会してその疑問を解決し、正しい地積を右台帳に記載すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然と右通知書記載の地積を右台帳に記載したことに過失があるというべきであり、右記載行為は違法である。
そして、被告市(高陽町を含む。)は右台帳に記載した誤った地積を基に本件土地の固定資産税評価額を求め、その評価額を右台帳に登録し、前記のように固定資産税等を過剰徴収したからこれを賠償する責任がある。
2 次に、被告市が本件土地の固定資産課税台帳に右のように誤った評価額を登録したことと原告ら主張の相続税過剰納付との間に相当因果関係があるかについて判断する。
相続税は納税者が課税価格、相続税額等を記載した申告書を所轄税務署長に提出して納付する税であり、相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年四月二日付国税庁長官通達、〔証拠略〕)によれば、相続により取得した土地の価額の算定は、課税時期における実際の面積について、原則として、市街地的形態を有する地域にある宅地は路線価方式、それ以外の宅地は倍率方式(固定資産税評価額に国税局長が定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する方式。)によって行うものとされている。そして、成立に争いがない甲第五号証(ただし、書き込み部分を除く。)、原告らと被告国との間において成立に争いがなく、これにより被告市との間においても真正に成立したものと認められる甲第一九号証によれば、原告らは、相続税申告書添付の相続税がかかる財産の明細書に本件土地について数量欄に八三二・四八平方メートル、固定資産税評価額の欄に一九二四一・九四二と記載してその金額を一・六倍して本件土地の価額を求めたこと、山林二筆については固定資産税評価額に、実際の面積を分子、固定資産課税台帳上の面積を分母にした割合を乗じて得た金額に一定の倍率を掛けて右山林二筆の価額を算定したことが認められる。以上の相続税の納税の方式によれば、倍率方式により価額を求める算出方法は次のとおりとなる。
<省略>
そして、納税者が実際の面積と固定資産課税台帳上の面積が一致していると考えれば、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて土地の価額を算出することになる。このように相続税算定の基礎となる土地の価額は納税者が固定資産課税台帳上の面積と実際の面積とが一致するか否かを検討したうえで算出する仕組みになっており、固定資産課税台帳上の面積が誤っていて実際の面積と違っていても、右算出方法による限り右土地の価額が誤った金額になることはないのである。
したがって、被告市が本件土地の固定資産課税台帳に誤った評価額を登録したことと原告ら主張の相続税過剰納付との間に相当因果関係はないというべきである。原告らが相続税申告書の作成を税理士に委任し、固定資産税・都市計画税課税証明書(〔証拠略〕)に記載された本件土地の地積を見なかったり、或いは相続する土地の筆数が多いため本件土地の実際の地積を知らないで漫然と登記地積或いは固定資産課税台帳上の地積は正しいものと考えて、誤った固定資産税評価額にそのまま借率を掛けて本件土地の価額を算出したとしても、それは相続税の申告書作成の際原告らが当然になすべき右課税台帳上の地積と実際の地積との対比を怠った結果であり、これによって原告ら主張の相続税過剰納付の損害が発生したというべきである。
右のように右損害については相当因果関係がないので、被告市はこれについて賠償の義務はない。
(被告国について)
1 登記官が分筆登記の際本件土地の登記簿に誤った地積を記載したことについて面積の単位を誤認した過失があることは明らかである。
2 そこで、登記官が右登記簿に誤った地積を記載したことと被告市が本件土地の固定資産課税台帳に右誤った地積を記載しこれを基に本件土地の価格を算定して登録したこととの間に相当因果関係があるかについて判断する。
前記(被告市について)の1で認定した事実を基に考えると、右のように地積の単位を誤認してなされた分筆登記に伴う地積の変更通知を登記所が高陽町長にした際、同町課税担当者は、本件土地の固定資産課税台帳に記載の従前の地積と右通知書記載の地積とが著しく相違していることに容易に気付くことができたのであり、そしてこれに気付けば、適正な課税処分がなされるように課税事務を遂行すべき職責を有する右担当者は当然にその原因を調査して右通知書記載の地積が誤っていることを知ることができるから、登記所から本件のような誤った地積の通知がなされれば、高陽町の課税担当者は通常その誤った地積をそのまま固定資産課税台帳に記載するものであるとはいえないから、前記の間に相当因果関係はないというべきである。右課税台帳に誤った地積の記載がなされたのは前記説示のように高陽町の課税担当職員の過失によるものということができる。
七 以上によれば、被告市は原告ハツミに対し請求の趣旨1の金員及び弁護士費用の損害一五万円及びこれに対する被告市に対する訴状送達の日の翌日である平成二年一月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、右の限度で同原告の被告市に対する請求を認容し(なお、仮執行の宣言は相当でないので付さない。)、その余は理由がないので棄却し、同原告の被告県及び同国に対する請求並びに原告武男、同節子の被告ら三名に対する請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について、民訴法八九条、九二条、九二条但し書、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉岡浩)