広島地方裁判所 平成2年(わ)1107号 判決 1991年5月14日
本店の所在地
広島市南区的場二丁目一番五号
法人の名称
広島特価図書販売有限会社
代表者の住居
同市安佐北区可部四丁目六番二一-三号
代表者の氏名
荒砂誠
本籍
広島県神石郡三和町大字光末四七八番地
住居
広島市中区中島町一〇番二二号
藤和平和公園前コープ一一〇一号
会社役員
光末洋一
昭和一九年一〇月三〇日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官矢本忠嗣出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人広島特価図書販売有限会社を罰金三五〇〇万円に、被告人光末洋一を懲役一年に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人広島特価図書販売有限会社は、広島市南区的場町二丁目一番五号に本店を置き、書籍及びビデオソフトの販売等を営むもの、被告人光末洋一は、被告人会社の実質的経営者としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人光末洋一は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、簿外の仮名預金として蓄積するなどの方法により所得の一部を秘匿した上
第一 昭和六〇年一一月一日から昭和六一年一〇月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が二億五七六九万三一二九円で、これに対する法人税額が一億九六九万二二〇〇円であつたにもかかわらず、同年一二月二二日、同市南区字品東六丁目一番七二号所在の広島南税務署において、同税務署長に対し、所得金額が六〇七万九四〇円で、これに対する法人税額が九七万六九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告人会社の右事業年度における法人税一億八七一万五三〇〇円を免れ
第二 昭和六一年一一月一日から昭和六二年一〇月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が五一九七万七四八〇円で、これに対する法人税額が一九八五万九〇〇〇円であつたにもかかわらず、同年一二月二四日、前記広島南税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一三七万二三二円で、これに対する法人税額が零円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告人会社の右事業年度における法人税一九八五万九〇〇〇円を免れ
第三 昭和六二年一一月一日から昭和六三年一〇月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三四五三万七〇〇五円で、これに対する法人税額が一三四七万五八〇〇円であつたにもかかわらず、同年一二月六日、前記広島南税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七〇八万二六五〇円で、これに対する法人税額が一四五万四六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により、被告人会社の右事業年度における法人税一二〇二万一二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人光末の当公判廷における供述
一 被告人光末の検察官及び大蔵事務官(検55号、57号、72号、74号を除く二〇通)に対する各質問てん末書
一 佐々木正昭の検察官に対する供述調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書
一 久保田虎雄の大蔵事務官に対する質問てん末書三通
一 大蔵事務官作成の売上高調査書、期首商品たな卸高調査書、仕入高調査書、期末商品たな卸高調査書、従業員給料調査書、租税公課調査書、受取利息調査書、事業税認定損調査書
一 押収してある法人税決議書綴一綴(平成三年押第三六号の1)判示冒頭の事実につき
一 被告人光末の大蔵事務官に対する質問てん末書(検55号)
一 商業登記簿謄本
判示第一の事実につき
一 被告人光末の大蔵事務官に対する質問てん末書(検74号)
一 一森武及び髙岡豊文(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の福利厚生費調査書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検24号)
判示第二及び第三の各事実につき
一 木曽久嘉(検45号を除く二通)及び荒砂富夫(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
判示第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の寄付金の損金不算入額調査書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検25号)
判示第三の事実につき
一 被告人光末の大蔵事務官に対する質問てん末書(検72号)
一 髙山光徳の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検26号)
(法令の適用)
被告人らの判示各所為はいずれも各事業年度ごとに法人税法一五九条一項(被告人会社につき、更に同法一六四条一項)に該当するところ、被告人会社については情状により同法一五九条二項を適用し、被告人光末については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により判示各罪の罰金を合算し、被告人光末については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の懲役刑に法定の加重をし、右の金額及び刑期の各範囲内で、被告人会社を罰金三五〇〇万円に、被告人光末を懲役一年にそれぞれ処することとする。
(量刑の理由)
書籍及びビデオソフト等の販売等を目的とする被告人会社を昭和五五年に設立して以来その実質的経営者の地位にあつた被告人光末は、昭和五八年一二月に東京地方裁判所で猥褻図画販売目的所持の罪により懲役一年(執行猶予三年)の有罪判決を受けたことがありながら、猥褻図画であるいわゆる特殊本や特殊ビデオを取り扱うことによる利益が大きいことなどから、右判決後も被告人会社において特殊本や特殊ビデオの仕入れ販売を継続していたものであるところ、本件は、被告人光末が右特殊本等の売上げの全部又は一部を除外するという方法によつて被告人会社の法人税を免れた脱税事犯であるが、本件起訴にかかる三事業年度分の合計で一億四〇〇〇万円余りの法人税を免れており、逋脱率は通算して九八パーセントを超える極めて高いものであつて、それのみをとつてみても大胆かつ重大な事案である上、本件起訴分のうち、判示第一についての逋脱行為及び犯行自体並びに判示第二についての逋脱行為の一部はいずれも前記判決の執行猶予期間中に敢行されたものであつて、被告人光末の遵法精神の希薄さを示すものとして犯情まことに悪質といわざるをえない。なるほど、本件についての査察調査から公判に至るまでの間被告人光末は本件犯行につき自白し、捜査にも協力してきているとはいえ、当公判廷においては、被告人会社における特殊本等の取扱い等について被告人光末以外の名目的な代表者の行ったものであるとして、自らの関与と実質的経営者たる地位を否定するがごとき供述をしてみたり、脱税の動機や手口等についても、ほんの出来心からの犯行にすぎない旨の弁解に汲々としている有り様であつて、本件犯行について真摯に反省悔悟しているとは到底認めがたい。しかして、脱税事犯は、単に国家の課税権を侵害してその限りでの租税収入を減少させるというにとどまらず、国民に課せられた納税義務の公平な負担を損い、他の誠実な納税者の間に不公平感を醸し出すことによつて、ひいては我が国が採用している申告納税制度の根幹をも揺るがしかねない反社会性、反倫理性の大なる犯罪なのであつて、脱税発覚後逋脱した本税及び付帯税を納付しさえすれば事足りるといつた性格のものでないことはいうまでもないところである。
以上のような諸事情にかんがみれば、被告人光末の本件刑事責任にはゆゆしきものがあると断ぜざるをえず、本件起訴分を含めてこれまでの脱税分につき修正申告を行い、本税及び付帯税の大部分をすでに納付済みであり、残余についても納付できる状況にあること、被告人光末が一応反省の言葉を洩らし、被告人会社の経理監査体制についても改善を図つていることや被告人の家庭の状況等本件記録上窺われる被告人光末に有利な事情を十分斟酌しても、被告人光末に対しては実刑をもつて臨むこともやむをえないと考えられるので、被告人光末を懲役一年に処するとともに、前記諸事情を総合勘案して、被告人会社に対しては主文掲記の罰金刑を科するのが相当であると思料した次第である。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 豊澤佳弘)