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広島地方裁判所 平成5年(行ウ)13号 判決 1999年1月26日

広島県芦品郡新市町大字新市一〇三五番地

原告

俵原一男

右訴訟代理人弁護士

服部融憲

木山潔

吉本隆久

林隆義

広島県府中市鵜飼町五五五番四〇

被告

府中税務署長 瀬島愼司

右指定代理人

勝山浩嗣

山﨑保彦

吉岡隼夫

小笠原建治

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告が平成三年三月一二日付けでした原告の昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年分の所得税についてした各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和六二年分については平成五年五月二四日付け審査裁決による一部取消後のもの)のうち、総所得金額(事業所得の金額)が昭和六二年分については一九二万六八〇〇円、昭和六三年分については二〇二万四二〇〇円、平成元年分については二八〇万五四〇〇円をそれぞれ超える部分をいずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因(処分)

原告は、広島県芦品郡新市町新市において「俵原プレス」の名称で主に高圧プレス機械による繊維受託加工業を営み、妻を事業専従者とする白色申告者である。

原告の昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年分(以下、総称する場合、「本件各係争年分」という)の所得税の確定申告、更正、異議申立て、異議決定、審査請求及び審査裁決の経緯は、別表一1乃至3のとおりである(以下、本件各係争年分の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(但し、昭和六二年分については平成五年五月二四日付け審査裁決による一部取消後のもの)を総称する場合、「本件各処分」という)。

本件各処分のうち、総所得金額(事業所得の金額)が昭和六二年分については一九二万六八〇〇円、昭和六三年分については二〇二万四二〇〇円、平成元年分については二八〇万五四〇〇円をそれぞれ超える部分は、いずれも違法なものであるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因第一、第二段の事実は認める。

三  抗弁(適法性)

1  推計

本件各処分は、所得税法一五六条の推計の方法により、被告が原告の取引先を調査して把握し得た収入金額(別表二の「<1>収入金額」欄のとおり)を基礎数値とし、これに原告と業種、業態及び事業規模が類似する同業者(以下「類似同業者」という)の算出所得率(収入金額に値する青色申告者に限り認められている必要経費を控除する前の所得金額の割合)の平均値(同表の「<2>平均算出所得率」欄のとおり)を乗じて得た算出所得額(同表の「<3>算出所得の金額」欄のとおり)から、事業専従者控除額(同表の「<4>事業専従者控除額」欄のとおり)を控除して事業所得額(同表の「<5>事業所得の金額」欄のとおり)を算出して為したものである。

2  推計の必要性

原告提出の本件各係争年分の所得税の確定申告書には、「専従者控除」欄及び「所得金額」欄に数額の記載があるのみで、「収入金額」欄及び「必要経費」欄に記載はなく、また、所得税法一二〇条四項所定の「総収入金額及び必要経費の内容を記載した書類」の添付もなかった。被告の係官は、原告の所得金額を実額計算により把握しようとして、平成二年八月二一日から平成三年一月一六日まで数回にわたり臨場及び電話により帳簿書類の提示を求めるなどし、調査に対する協力の要請をしたが、原告はこれを拒否し、調査日の取決めにすら応じない態度に終始して調査に全く協力せず、このため、調査は不可能となった。

したがって、推計はやむを得ないところであり、その必要性が存する。

3  推計の合理性

<1> 収入金額(推計の基礎数値)

被告は原告の取引先を調査し、原告の本件各係争年分の収入金額が少なくとも別表二の「<1>収入金額」欄を下回らないことを把握した。

その根拠明細は別表三のとおりであり、正確なものである。

<2> 平均算出所得率(類似同業者の抽出による)

被告は、原告の類似同業者として四業者(別表4の1乃至3の「類似同業者」欄のとおり)を抽出した。

右四業者のそれぞれの本件各係争年分における収入金額、必要経費の額、算出所得金額(収入金額から必要経費を控除した金額)、算出所得率(算出所得金額を収入金額で除した割合)、その平均値(平均算出所得率)は、別表四の1乃至3のとおりである。

右抽出は、広島国税局長の発した通達により、業者の事業所所在地を管轄する府中税務署を含む広島国税局管内及びこれに隣接する岡山国税局管内の各税務署(合計二九税務署)が保有する納税者の確定申告書の職業欄、青色申告の決算書の業種名及び部内資料に基づいて、本件各係争年分の所得税の確定申告において所得寺営業法一四三条の承認を受けて青色申告書を提出している者で、かつ次のa乃至dの基準にすべて該当する者を機械的に選び出す方法によった。

a 本件各係争年分を通じ、継続して主にプレス機械による繊維受託加工業を営んでいる者で、その中途において、開廃業、休業又は業態の変更をしていない者

b 更正又は決定処分を受けた者にあっては、国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間が経過している者又はこれらの争点が係属していない者

c 事業に係る収入金額が、昭和六二年分につき二〇八七万八〇〇〇円以上八三五一万五〇〇〇円以下、昭和六三年分につき二三〇九万一〇〇〇円以上九二三六万六〇〇〇円以下、平成元年分につき二四一二万一〇〇〇円以上九六四八万五〇〇〇円以下(右は原告の本件各係争年分の収入金額(推計の基礎数値)の約二分の一以上、二倍以下に該当する)の範囲内である者

d 本件各係争年分とも妻が事業に専ら従事している者

右抽出の方法は、各税務署が保有する納税者に関する内部資料等を用いて、機械的に一定の抽出基準に該当する者を選び出したものであり、恣意の介入する余地はない。また、青色申告者(申告額の信憑性が高く、資料内容の正確性が担保され、事業形態も確認しやすい)の中から、原告と業種、事業の継続、非継続の別について同一で、地域、事業規模、事業形態について近似するなどの類似性を追求したものであり、合理性がある。

4  まとめ

以上のように、前記推計にかかる業者の本件各係争年分の事業所得の金額は、昭和六二年分については裁決を経た後の更正処分における事業所得の金額と同額であり、昭和六三年分及び平成元年分についてはいずれも各更正処分における事業所得の金額を上回っているから、本件各係争年分の更正処分は適法である。

また、別表一の1乃至3のとおり原告が本件各係争年分の確定申告を過少に行ったことについて、国税通則法六五条四項所定の正当な理由は存在しないから、本件各係争年分の過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

四  抗弁に対する認否

抗弁はいずれも争う。

1  推計の不必要性

被告の係官は、僅か一か月弱の間に三回(平成二年八月二一日、同年九月三日及び同月一〇日頃)にわたり、事前の連絡もなく、突然原告の作業所を訪問し、一方的に調査への協力や調査期日の即答を求めた。これに対し、原告は、仕事の都合を理由に直ちには応じられない旨返答したものの、いずれ調査に応じる意思はあり、特に被告の係官の三回目の来訪の際には一週間以内には調査に応じる旨申し入れた。ところが、被告の係官は、これを無視して一方的に反面調査に入ったものである。

したがって、実額計算による課税は十分可能であったものであり、推計の必要性は存在しなかった。

2  推計の不合理性

<1> 収入金額(推計の基礎数値)

原告の本件各係争年分の収入金額は、多くとも別表二の「<1>収入金額」欄を上回ることはない。原告の取引先は別表三のとおりであり、これ以外にはない。

<2> 平均算出所得率(類似同業者の抽出による)

被告による類似同業者の抽出は、次のとおり不合理なものである。

ア 不開示

被告が抽出した類似同業者(以下「抽出同業者」という)がいかなる業者であるのか、原告には全く不明である。

イ 業態、規模等の差異

抽出同業者の収入金額は、原告のそれと相当な開きがある上、抽出同業者間でも格差があり、はたして業種、業態及び事業規模が原告と類似しているといえるのかは甚だしく疑問である。また、原告はプレス機械による加工を行っている業者であるが、抽出同業者中にはプレス機械による加工を主にしつつ、手動アイロンによる仕上げ作業をも行っている業者が含まれている可能性があるから、推計には合理性がない。

ウ 経費率

原告の事業実態は、相当数の従業員を抱えその給与の支払と、機械のために設備投資を要して借入金利息等の出費を要するというものであり、主に外注に依存している業者に比較して経費率が高いにもかかわらず、被告は推計に当たって右事業実態を何ら考慮していない。

エ 所得率

原告の過去六年(昭和五三年分乃至昭和五五年分及び昭和五七年分乃至昭和五九年分)の所得率は平均〇・〇八六であり、また、原告の計算による昭和六二年分の所得率は〇・〇五九七である。これに対し、被告の抽出による類似同業者の平均所得率は、昭和六二年分〇・二三七、昭和六三年分〇・二五三、平成元年分〇・二八〇であり、原告の前記所得率とは大きくかけ離れている。

オ 調査不足

被告は、類似同業者の抽出に当たり、「主に」プレス機械による作業を行う業者であるか否かにつき、単に確定申告書の職業欄、青色申告の決算書の業種名及び部内資料のみにより判断しており、従業員数、プレス機械の台数、外注の有無、内容及びその程度等の営業実態を、訪問や電話での聞き取りにより調査していない。プレス業には手動アイロンによるプレス業もある上に、外注に依存していることもあり得るから、具体的な営業実態を調査しなければ「主に」プレス機械によるか否かの判断は不可能であり、抽出の正確性を欠く。

カ 抽出件数及び所得偏差

本件各係争年分において抽出された同業者数はいずれも四名であり、しかも、この四業者の所得率を比較すると、平成元年分においては、最大で約一・五倍もの差があるから、かかる平均値に統計的意味を見出すことはできない。

キ 実額との乖離

原告が後記五において主張する事業所得の実額と、被告が推計により算出した原告の事業所得の金額とが大きくかけ離れていることにも、抽出同業者の業態が原告のそれとかけ離れていることが示されている。

したがって、類似同業者の抽出は不合理なものであり、この抽出同業者により得られた平均算出所得率もまた不合理なものである。

五  再抗弁(実額)

原告の昭和六二年分及び昭和六三年分の収入金額は、多くとも別表二の「<1>収入金額」欄の各該当年分の金額のとおりであり、これを上回ることはなく、右各該当年分の経費は、別表五、六の各2「経費」欄のとおりである。

したがって、原告の昭和六二年分及び昭和六三年分の事業所得金額の実額は、それぞれ収入金額から経費を控除した残額であり、昭和六二年分は一八二万五二八二円、昭和六三年分は七一七万九一六一円となる。

以上によれば、昭和六二年分及び昭和六三年分につき、被告が本件各係争年分の基礎とした所得金額は、原告の真実の所得金額を上回っていることになる。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁はすべて争う。

原告は、収入金額について、被告が推計のために把握した基礎数値をそのまま援用するのみで、自ら何ら主張立証することなく、経費のみを実額主張する。

しかし、所得税法三七条一項が「所得の計算上必要経費の額に算入すべき金額は、所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする」旨規定していることに照らせば、原告は、その主張にかかる収入金額が総ての取引先からの総ての取引についての捕捉漏れのない総収入金額であり、かつ、その収入と対応する必要経費が実際に支出され、当該事業と関連性を有することを合理的な疑いを容れない程度にまで主張立証しなければならないというべきである。

しかるに、原告は、被告主張の収入金額に争いはないとするのみで、右総収入金額を立証するに足る証拠を何ら提出していないのであるから、必要経費のみによる実額主張は失当である。

第三証拠関係

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  処分

請求原因第一、第二段の事実は当事者間に争いがない。

二  適法性

1  推計

抗弁1の事実は、乙第一乃至第四六号証、証人山本龍男、同西村章及び同柳澤康雄の各証言並びに弁論の全趣旨によって認めることができる。

2  推計の必要性

乙第一号証、証人俵原節子及び同山本龍男の各証言、原告本人尋問の結果(一部)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告は、本件各係争年分の所得税について、いずれも法定申告期限内に確定申告書を提出したが、右確定申告書には「専従者控除」欄及び「所得金額」欄に数額の記載がなされれているだけで、「収入金額」欄及び「必要経費」欄の記載はなく、また、所得税法一二〇条四項所定の収支内訳書の添付もなかった。そこで、被告は、山本龍雄国税調査官(以下「山本調査官」という)をして、原告の申告に係る所得金額が正しいか否かの調査を開始させることとした。

山本調査官は、平成二年八月二一日午前九時四〇分ころ、同僚の森川祥司事務官(以下「森川事務官」という)と共に、本件各係争年分に係る所得税調査のため原告の作業所に赴き、原告に対し、税務調査のため来訪した旨告げ、本件各係争年分の帳簿書類の提示を求めた。これに対し、原告は、事前の連絡がないこと及び仕事の都合を理由として求めに応じず、翌週連絡してほしい旨を述べたため、山本調査官は、これに従うこととし、調査の際には第三者の立会いのないよう要請しつつ、翌週には連絡を入れる旨告げて作業所を辞去した。なお、原告に対しては、昭和六〇年頃にも調査を行ったが、その際には、原告による調査期日延引により、結論を出すまでに長期間を要したことがあった。

翌週に当たる平成二年八月二七日、森川事務官は、電話で原告に対し、週が明けたので調査期日の取決めのため連絡した旨を告げたところ、原告は、月末で多忙なので月が明けてからにしてほしい旨述べた。これに対し、森川事務官は、前回の調査の二の舞にならないよう、原告にはっきりした期日を指定してほしい旨繰り返し要請したが、原告は、月が明けてからにして欲しい旨繰り返したあげく、電話を一方的に切ってしまった。同日、山本調査官は、森川事務官から右電話の内容の報告を受け、原告には具体的な調査期日の取決めに応じようとする気がないのではないかと考えた。

月が明けた平成二年九月三日午後一時頃、山本調査官は、森川事務官と共に原告の作業所に赴き、月が明けたので原告の方から調査期日を指定するよう繰り返し求めたが、原告は、「わからん」、「こっちにも都合がある」、「お前ら何回言っても分からんのか。連絡してから来い」などと挑戦的な態度で応対し、調査期日の取決めに応じなかった。このため、山本調査官は、原告に対し、このような状態では調査が進行しないので、今後は税務署で単独に調査を行わざるを得ない旨告げ、同時に、原告の方で都合がつけば、いつでも連絡するように告げた。これに対し、原告は、「勝手に調べえや」などと言い残し、一方的に話を打ち切って作業所の奧へ立ち去った。山本調査官は、これ以上調査は不可能と判断し、原告の作業所を辞去した。以後、原告から山本調査官らに対して何らの連絡もなかった。

山本調査官は、原告に対する調査の実施は不可能との判断の下に、上司である統括官と相談の上、原告の取引先等の調査(いわゆる反面調査)を開始することとした。

被告は、右反面調査により把握した原告の収入金額を基礎数値とし、これに税務署の内部資料等により把握した原告と業種、業態及び事業規模等の類似する同業者(類似同業者)の平均所得率を乗じる方法により、原告の本件各係争年分の事業所得の金額を推計したところ、ほぼ本件各処分において認定した金額(別表一の1乃至3の各「更正」欄の「総所得金額」欄を参照)が算出され、右算出額に比べて、原告の申告所得金額はいずれも過少であると認められた。

山本調査官は、平成三年一月一六日午後一時四五分頃、原告の作業所を訪れ、原告に対し、前記算出に係る原告の本件各係争年分の事業所得の金額を示し、「納得されれば、一月二三日までに修正申告書を提出してください」と述べて修正申告の慫慂(傍らから誘いすすめること)を行うとともに、「自分で収支計算しているのであれば、内容のわかる書類を持って税務署に来てください」と述べ、再度帳簿書類の提示を要請したところ、原告は、「お前が勝手に決めたんじゃろうが、大バカが帰れ」などと言い残して作業所の奧へ立ち去った。その後、原告から山本調査官らに対して何らの連絡もなかった。

以上のとおり認められる。

ところで、原告は抗弁に対する認否1のとおり主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが、右認定に供した証拠関係に照らし、採用の限りでなく、他に右認定を左右する証拠はない。原告が被告の係官の調査に真摯に応じる意思を有していた形跡はうかがわれない。

右認定事実によれば、原告は、被告側係官が再三調査への協力を求め、調査期日の取決めのため、都合の良い期日を指定するよう依頼したのに対し、言を左右にして右依頼に応じようとせず、被告がやむなく反面調査を行った後も、更に修正申告の慫慂を行うなどして調査への協力を要請したにもかかわらず、これを拒否したものというべきである。このような状況下では、もはや原告の協力の下にその所得金額を実額で把握することは困難と認められ、被告側が独自の調査(反面調査)による推計の方法によって原告の本件各係争年分の所得金額を算出するのもやむを得なかったものであり、推計の必要性があったものと解される。

3  推計の合理性

<1>  収入金額(推計の基礎数値)

抗弁3<1>の事実は、乙第一号証、第三二乃至第三八号証、証人山本龍男及び同俵原節子(一部)の各証言、原告本人尋問の結果(同)並びに弁論の全趣旨によって認めることができる。

<2>  平均算出所得率(類似同業者の抽出による)

抗弁3<2>の第一乃至第三段(a乃至dを含む)の事実は、乙第二乃至第三一号証、第四〇号証、証人西村章及び同柳澤康雄の各証言並びに弁論の全趣旨によって認めることができる。

ところで、所得税法一五六条は、税務調査に対する納税者の非協力や帳簿書類の不備等によって、納税者の所得金額を直接資料によって把握することができない場合に、課税を放棄することは租税の公平負担の見地から許されないため、代替手段として推計により得られた蓋然的近似値を基に課税することを是認した趣旨と考えられ、そのような場合に、税務署長が入手し又は容易に入手し得る推計のための基礎事実及び統計資料等を用いて、納税者の実際の所得との近似値を求めうる推計方法を採用することをも是認するものというべきである。他方、推計課税は、それが認められること自体において、推計が近似値的なもので足りることを予定し、実額とのある程度の乖離が生じることもやむを得ないものとして許容されているものといえ、推計の基礎事実や統計資料等が得られにくい事例において、実額課税の場合と同程度の合理性又は立証の程度を要求するものではないというべきである。また、基礎事実や統計資料等を得るために通常以上に多くの時間と労力を要する事例において、税務署長に対し、これを克服してまで、推計の基礎事実や当該納税者に極めて類似する同業者等を探知してくるよう要求することは、本来の実額課税の代替手段として推計課税を認めた所得税法一五六条の法意に反するというべきであり、相当ではない。租税の公平負担の見地からも、一部納税者の非協力や不備等が必要以上に徴税事務の負担増を来し、引いては徴税事務全体が停滞混乱に陥ることを容認すべきものではない。

したがって、推計は、税務署長が入手し又は容易に入手し得る推計の基礎事実及び統計資料に照らし、その方法が一応の合理性を有するものと認められ、かつ、当該納税者の所得につき近似値を求めうると認められる程度のものであれば足りるというべきである。

このような観点からすると、前記認定の事実によれば、被告が設定した類似同業者の抽出基準は、業種及び業態の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等からして、原告との類似性を判別する要件としては一応の合理性を有するものであり、その抽出に当たり使用した資料は、いずれも帳簿書類の整っている青色申告者の決算報告書で、内容について納税者と各税務署長との間で争いのないものであるから、その信頼性乃至正確性は高いものというべきである。さらに、抽出作業は恣意の入らない機械的な方法でなされており、四件という抽出件数も、原告の業種、業態、事業規模等に鑑みれば、一応各同業者の個別性を平均化するに足りるものというべきである。

したがって、右により抽出された同業者の平均算出所得率を基礎に算定された原告の本件各係争年分の事業所得金額の推計には、特段の事情がない限り、合理性があると認められる。

ところで、原告は、抗弁に対する認否2<2>ア乃至キのとおり、被告による類似同業者の抽出が不合理である旨主張するので、以下検討する。

ア 不開示

原告は、抗弁に対する認否2<2>アのとおり主張するが、被告による類似同業者の抽出の合理性については前記説示のとおり既に充足されているものというべきであり、所得税法二四三条、国家公務員法一〇〇条一項により、税務職員には自己が職務上知り得た秘密を守ることが法令上義務付けられている以上、類似同業者を特定し得るような事項を秘密にすることはやむを得ないところであり、その結果、類似同業者の具体的な営業実態等を原告が知り得ないとしても、右事情は類似同業者抽出の合理性を失わせるものとはいえない。

イ 業態、規模等の差異

原告は、抗弁に対する認否2<2>イのとおり主張する。

しかし、前記説示のように、所得税法上の推計課税は、納税者の責に帰すべき事由により納税者の所得金額を直接資料によって把握することができない場合に、税負担公平の見地から、代替手段として合理的推定により得られる蓋然的近似値により課税することを是認する趣旨のものであるから、推計の方法としていわゆる同業者の平均値を用いる場合には、納税者と類似同業者との個別的な営業条件にある程度の差異があるのはむしろ当然のこととして予定されていると解される。

また、ことの性質上、類似時もとの類似性を厳格に要求し、細部にわたる個別的な営業条件を抽出条件に取り入れれば、抽出件数が新しく減少又は皆無となる結果、原告との類似性を追求するための抽出条件が無意味となってしまうから、業種及び業態の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の基本的な要因において、類似同業者の抽出が合理的であれば、同業者間に通常存在する程度の個別的な営業条件の差異は、それが所得率等に影響を及ぼすことが明らかで、当該平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度の顕著なものでない限り、その平均値を算出する過程で捨象されるべき性質のものであり、これを斟酌することを要しないものというべきである。

さらに、抽出条件が右のような基本的合理性を有するものであれば、結果として得られた抽出同業者間の収入金額等の数値の偏差は、推計を不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、斟酌することを要しないというべきである。

ところで、被告による抽出同業者については、別表四の1乃至3の算出所得率(平成元年分については最も高い業者と最も低い業者との間には約一・五倍の開きがある)からして、その営業実態には種々のものが存在することが推認され、原告主張のように、プレス機械による加工を主にしつつ、手動アイロンによる仕上げ作業を行っている業者が含まれているとしても(なお、原告本人尋問の結果によれば、原告においても、部分的に手動アイロンを用いていることが認められる)、右事情が推計を不合理ならしめる程度に顕著なものであることについては、これを認めるに足りる証拠はない。

別表二、四の1乃至3の原告及び抽出同業者間の比較において、収入の金額が最も大きい業者と最も小さい業者との間の差は、昭和六二年分及び昭和六三年分では約一・三倍、平成元年分では約一・二倍にすぎず、右偏差が推計を不合理ならしめる程度に顕著なものであることについては、これを認めるに足りる証拠はない。

ウ 経費率

原告は、抗弁に対する認否2<2>ウのとおり主張するが、個々の納税者固有の営業形態に係る事情については、前記類似同業者間の個別的な営業条件の差異と同様、それが所得率等に影響を及ぼすことが明らかで、当該平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度の顕著なものでない限り、これを斟酌することを要しないものというべきであるところ、前記のとおり、被告が採用した抽出基準には、業種及び業態の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の基本的な要因において合理性が認められ、原告主張の事情(従業員の給与の支払、設備投資のための借入金利息等の出費)が、経験則上所得金額(所得を構成する売上げ、仕入れ、経費等の金額)の多寡や所得率に影響することが決定的であるとき、同業者率の平均化の過程で捨象されない顕著な特殊事情であるとまで認めるに足りる証拠もない。

エ 所得率

原告は、抗弁に対する認否2<2>エのとおり主張するが、本件各係争年分と過去の特定の年分との間で所得率に相異が生じているからといって、所得率は事業内容、規模、業態、業界の経済状況等により変化して然るべきものであり、これのみをもって、前記説示の被告による類似同業者の抽出の合理性を覆すに足りる事情とも解しがたい。

オ 調査不足

原告は抗弁に対する認否2<2>オのとおり主張するが、類似同業者の抽出作業は、客観的資料に基づき、できる限り恣意が介在する余地のない方法で、機械的に行われるべきであるが、実額課税の代替手段として推計課税を認めた所得税法一五六条の法意からして、一部納税者の非協力や不備等ゆえに必要以上に徴税事務の負担増を来すことは容認されるところではなく、被告に対し、類似同業者について訪問或いは電話等により業種、業態等を具体的に調査することまで要請されているとはいえない。

カ 抽出件数及び所得偏差

原告は抗弁に対する認否2<2>カのとおり主張する。

しかし、同業者の類似性を厳格に要求すればするほど、抽出件数は少なくならざるを得ない(原告本人尋問の結果中には、府中税務署管内において従業員数が一〇名乃至一二名の同業者(個人)がいない旨の供述部分があり、証人俵原節子の証言中には、芦品郡新市町、府中市や神石郡において、原告と同規模の高圧プレス機械による繊維受託加工業者(個人)がいない旨の供述部分があり、このことからも、原告と業種、業態、事業規模等が細部にわたり類似する同業者を抽出することが極めて困難であることが窺える)ほか、前記のとおり、被告による原告の類似同業者の抽出方法自体に一般的合理性が認められる以上、結果的に得られた抽出件数が少ないからといって、このことが直ちに推計の合理性を失わせる事情となるとはいえない。原告の業種、業態、事業規模等に鑑みれば、四件という抽出件数も、一応各同業者の個別性を平均化するに足りるものであるといえる。また、原告主張の所得率の偏差(最大約一・五倍)も、未だ平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度の顕著なものであるとは認められない。

キ 実額との乖離

原告は抗弁に対する認否2<2>キのとおり主張するが、後記のとおり、原告主張の実額についてはその立証があったとはいえないから、右主張はその前提を欠き、理由がない。

以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、被告が類似同業者の平均所得率を用いて原告の本件各係争年分の事業所得の金額を推計したことは合理的と認めるのが相当である。

4  まとめ

以上によれば、原告の本件各係争年分の推計による事業所得の金額は、昭和六二年分が九二九万六四一六円、昭和六三年分が一一〇八万四二四六円、平成元年分が一二七〇万七八七九円であり、昭和六二年分については裁決を経た後の更正処分における事業所得の金額と同額であり、昭和六三年分及び平成元年分についてはいずれも更正処分における事業所得の金額を上回っている。

また、別表一の1乃至3のとおり原告が本件各係争年分の確定申告を過少に行ったことは明らかであるところ、国税通則法六五条四項所定の正当な理由があった形跡はない。

三  実額

1  立証責任

推計課税は、税負担の公平の見地から、実額課税に代替する手段として近似値に基づく課税を容認するものであるが、現実の所得が明らかになれば、一旦推計課税を行っても、これを撤回し、本来の原則に戻り、実額による課税を行うべきものである。

但し、その際、現実の所得金額(実額)の主張立証責任は納税者側にあるものというべきである。なぜなら、当初の推計課税は、調査への非協力等納税者に原因があった上、課税標準である所得を算定する要素である総収入金額及び必要経費は、納税者の支配領域内における事柄であり、その具体的内容は、納税者の最もよく知り得るところであり、納税者にとってその主張立証は容易であり、当該責任を負わせても、納税者に過酷な負担になるはずがないからである。

したがって、原告が被告による推計課税に対して実額課税を主張するのであれば、現実の総収入金額からこれを得るために要した必要経費を控除して得た所得金額を、細かく言えば、その主張する収入金額が当該年度の総ての取引から生じた総ての収入金額を下回らないこと、その主張する必要経費が実際の必要経費を上回らないこと及び収入と必要経費が対応することの三点を、合理的な疑いを容れない程度に主張立証しなければならないものというべきである。

ところで、原告は再抗弁のとおり主張し、その中で、総収入金額については、被告が原告の取引先を調査して把握し得た収入金額(別表二の「<1>収入金額」欄のとおり)をそのまま援用し、何らの立証もせず、必要経費についてのみ詳細な主張をし、立証を試みているので、以下検討する。

2  収入の金額

原告が再抗弁で自らの収入金額として援用する被告の反面調査結果としての収入金額(別表二の「<1>収入金額」欄のとおり)は、被告の主張自体から明らかなように推計上の想定下限額にすぎない。推計課税の場合、課税庁が反面調査等によって把握し得る収入金額の範囲には自ずと限界があり、実際には相当の補足漏れがあることも十分予測されるから、課税庁が推計課税上採用する基礎数値としての収入金額は、納税者の実際の総収入金額がこれを下回らない趣旨を表しているにすぎず、本来の実額課税上の収入金額、すなわち、納税者が主張する収入金額が当該年度の総ての取引から生じた総収入金額を上回らないことを保障しているものではな。

したがって、原告が被告主張の推計上の基礎数値としての収入金額を援用したからといって、右金額が原告の総収入金額として当事者間に争いのない事実になるものではなく、被告主張の基礎数値に補足漏れのないことが明らかであると認められる場合を除いては、原告が実額計算上の総収入金額の具体的な主張立証を免れ得るものではない。

原告本人尋問の結果及び証人俵原節子の証言中には、原告には被告が反面調査により把握した取引先(別表三のとおり)以外の取引先はなく、被告主張の推計上の基礎数値としての収入金額が原告の総収入金額である旨の供述部分がある。

しかし、乙第三二乃至三八号証によれば、被告が調査対象とした原告の取引先の中には、本件各係争年分における原告との取引の一部につき確認できない旨の回答を行った者があることが認められ、しかも、証人俵原節子の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告の売上先の中には、継続的でなく単発の取引先もあり、その売上げの決済を現金で行っているところもあったことが認められ、また、昭和六二年四月二五日に佐々木繊維から広島銀行新市支店の原告名義口座へ振り込まれた六万一六六〇円については、被告が把握した昭和六二年分の売上から漏れている疑いが残り、これらの事情からすれば、被告が反面調査により把握した原告の本件各係争年分における収入金額には補足漏れの可能性があることがうかがえる。

したがって、原告は、具体的な資料を示して、自ら主張する収入金額(実額)が原告の本件各係争年分の総収入金額に合致することを合理的疑いを容れない程度に立証すべきであるところ、原告は、本人尋問において、「売上帳は付けておりました」、「売上帳というのはあります」と明確に供述しつつも、その売上に関する帳簿書類を全く提出していないから、右立証を尽くしたものとはいえない。

したがって、原告の再抗弁は、総収入金額についての立証がなされていない点において既に失当である。

3  経費

前項説示のとおり、原告の再抗弁は既に失当であるが、原告は、再抗弁において、昭和六二年分及び昭和六三年分についてのみ必要経費の主張立証を試みているので、以下、補足的に検討する。

原告は、必要経費について納品書、請求書、領収書、給与支払帳などを提出するのみで、現金出納帳や経費帳といった帳簿は一切提出していないため、取引の実態を性格に把握することは困難であるほか、その主張のうち、少くととも次に掲げる各項目については、昭和六二年分及び昭和六三年分の必要経費としての的確な認定が困難である。

<1>  租税公課のうち昭和六二年分五万三三〇〇円、昭和六三年分二〇万九〇一五円

ア 自動車税

原告主張に係る自動車税中、昭和六三年分一一万八五〇〇円については、その支払事実を認めるに足りる証拠がない。

イ 固定資産税

原告主張に係る固定資産税中、昭和六三年分六万〇八一五円については、その支払事実を認めるに足りる証拠がない。

ウ 府中民主商工会費

原告主張に係る右経費主張について、甲第一一、第六〇号証(いずれも領収書)によれば、右経費のうち、昭和六二年分につき五〇〇円、昭和六三年分につき五〇〇〇円が過剰に計上されているものと認められるほか、右領収書に斗争資金、共済会費及び新聞代として記載されているもの(昭和六二年分五万二八〇〇円、昭和六三年分二万四七〇〇円)は、原告の事業との関連性が疑わしく、経費と認めることはできない。

<2>  水道光熱費及び通信費合計 昭和六二年分一七三万六五六六円、昭和六三年分一九二万九五九五円

原告主張に係る右経費主張について、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があり、甲第三乃至第五号証(銀行口座通帳)を提出するが、裏付けに乏しく、直ちには採用しがたい。

<3>  接待交際費のうち昭和六二年分三一万二七五〇円、昭和六三年分二六万二三五〇円

ア あそう府中店(中元、歳暮)

原告主張に係る株式会社あそう府中店への昭和六二年分の中元、歳暮代金一二万六〇〇〇円の支払中、請求書(甲第二〇号証の一)、納品書(甲第二〇号証の二)及びこれに対応する領収書(甲第六六号証)による裏付けのある四万三〇〇〇円を除く部分(八万三〇〇〇円)については、その支出事実を裏付けるに足る証拠がない。

イ 藤本酒店

原告主張に係る藤本焦点への昭和六二年分二二万三七五〇円、昭和六三年分二六万二三五〇円の支払については、甲第一二、第一〇一号証(証明書)が存するが、いずれも本件訴え提起後に作成され、しかも、具体的な取引内容の記載がないから、これをもって、原告がその事業に関連してその主張する額を支出したことの裏付けとするには足りない。

ウ 山香園

原告主張に係る株式会社新生互助センター葬儀部山香園への供花料六〇〇〇円(昭和六二年分)の支払については、甲第一六号証(領収書)に領収日付の記載がなく、これをもって、当該年度におけるその支出事実の裏付けとすることはできない。

<4>  損害保険料のうち昭和六三年分四万一八五〇円

原告主張に係る昭和六三年分の損害保険料(新市農業協同組合へ自動車損害賠償保険料等)一八万二四〇〇円の支払のうち、甲第七四乃至第七八号証(領収書)による裏付けのある一四万〇五五〇円を除く部分(四万一八五〇円)は、その支出事実を認めるに足りる証拠がない。

<5>  修繕費のうち昭和六二年分三二万七〇〇〇円、昭和六三年分二六万四〇〇〇円

ア 森田電熱工業所

原告主張に係る森田電熱工業所への修繕費の支払(昭和六二年分三一万〇五〇〇円、昭和六三年分二六万五〇〇〇円)については、甲第四四、第四五号証、甲第九三、第九四号証、乙第四六号証、原告本人尋問の結果によれば、右支払のうち、昭和六三年一月の中古バキュームポンプ二台分の代金五〇万円のうち一台分二五万円が架空に計上されており、昭和六三年一一月三〇日の二一万六〇〇〇円の支払(甲四五の三一)及び同年一二月二日の四万八〇〇〇円の支払(甲四五の三四)は、原告が昭和六二年一二月に取得した中古バキュームポンプの設置に直接関連した費用であり、減価償却資産の取得価額に算入すべきものであることが認められ、少なくともこれらの金額については、原告の事業に関連する修繕費であるとはいえない。

イ 中国電気工事株式会社

原告主張に係る昭和六二年分の中国電気工事株式会社への修繕費(配線工事代)七万七〇〇〇円の支払については、甲代三六号証(領収書)が存するものの、工事内容が不明であり、家事上の支出か事業に関連する支出か確認できず、また、仮に右支払が事業に関する支出であったとしても、右配線工事が事業施設の設置に関する電源工事であるとすれば、減価償却資産の取得価額に算入すべきものであるから、いずれにしても、原告の事業に関連する修繕費と認めるには足りない。

<6>  福利厚生費のうち昭和六二年分五一万三〇一〇円、昭和六三年分七九万八〇一〇円

原告主張に係る福利厚生費としての桑木給食株式会社への昭和六二年分五一万三〇一〇円、昭和六三年分七九万八〇一〇円の支払について、原告本人尋問の結果中には、右支払が新年会、忘年会、花見の弁当代や従業員全員に対する昼の弁当代であったとする供述部分がある。

しかし、証人俵原節子の証言中には、桑木給食の弁当のうち一部は、原告の妻節子及び原告の子らも一緒に食べていたとの供述部分があるほか、甲第九九、第一〇二、第一〇三号証及び証人俵原節子の証言によれば、原告は昼食用の弁当代の一部を従業員の給料から控除していたことが認められ、右認定事実によれば、右控除した弁当代は雑収入として事業所得の金額に加算するか、福利厚生費の額から減算すべきものであるから、右主張の福利厚生費の支出に業務との関連性や業務遂行上必要性があったとはいえない。

<7>  雑費のうち昭和六二年分二万〇七二〇円、昭和六三年分六〇〇円

原告主張に係る雑費のうち工場くみ取り料(昭和六二年分)二万〇七二〇円及び安全協会(昭和六三年分)六〇〇円については、その支出事実を認めるに足りる証拠がない。

<8>  給料賃金 昭和六二年分二一八二万八九八三円、昭和六三年分二二三三万四八三四円

原告主張に係る給料賃金については、甲第九九、第一〇〇、第一〇二号証(給料支払帳)、証人俵原節子の証言及び原告本人尋問の結果中にはこれに沿う部分があるが、これら証拠関係を対比するに、第一〇二号証の提出経緯や、原告本人尋問では原告が給料支払帳の個々の記載内容につき満足に説明できないこと、証人俵原節子の証言中に説明のある各種手当等について給料支払帳には項目の明示がないことのほかに、原始資料としての給与明細書や受領書等の書類は一切提出されていないことなどからすると、右主張をそのまま採用することはできない。

<9>  減価償却費 昭和六二年分三五四万五九六六円、昭和六三年分三六六万三四九九円

原告主張に係る減価償却費については、その取得資産の取得年月日及び取得金額を証明する請求書及び領収書は全く提出されていないので、必要経費であることの立証がなされたとはいえない。

<10>  地代家賃 昭和六二年分一四万四〇〇〇円 昭和六三年分一四万四〇〇〇円

原告主張に係る地代家賃(車庫代)については、その支払事実を認めるに足りる証拠はない。

<11>  利子割引料 昭和六二年分二三九万一一五五円、昭和六三年分二一六万九七四〇円

原告主張に係る利子割引料については、乙第三九、第四六号証、新市農業協同組合に対する調査嘱託の結果及び原告本人尋問の結果によれば、右主張額には原告の事業用に使用されていない土地を購入するための借入金の利息が含まれていることが認められるから、業務との関連性及び業務の遂行上の必要性の範囲についての的確な立証に欠ける。

4  まとめ

以上のとおり、原告主張の収入金額及び必要経費のいずれの面においても立証に問題があり、再抗弁は採用できない。

四  結論

よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

平成一〇年八月一八日口頭弁論終結

(裁判長裁判官 矢延正平 裁判官 橋本眞一 裁判官 名越聡子)

別表一の1

課税処分等経過表(昭和六二年分)

<省略>

別表一の2

課税処分等経過表(昭和六三年分)

<省略>

別表一の3

課税処分等経過表(平成元年分)

<省略>

別表二

原告の事業所得の金額の算出経過表

<省略>

別表三

収入金額の内訳表

<省略>

別表四の1

類似同業者の所得率表(昭和六二年分)

<省略>

別表四の2

類似同業者の所得率表(昭和六三年分)

<省略>

別表四の3

類似同業者の所得率表(平成元年分)

<省略>

別表五

昭和六二年分所得について

1、収入 金四一七五万七〇三〇円

原告は、被告の調査した取引先以外からの収入はなく、被告主張の収入金額に争いはない。

2、経費 金三九三三万一七四八円

<省略>

3、専従者控除前の所得金額 金二四二万五二八二円

4、所得金額 金一八二万五二八二円

償却資産計算集計表(1)

<省略>

償却資産計算集計表(2)

<省略>

別表六

昭和六三年分所得について

1、収入 金四六一八万二八六五円

原告は、被告の調査した取引先以外からの収入はなく、被告主張の収入金額に争いはない。

2、経費 金三八四〇万三七〇四円

<省略>

3、専従者控除前の所得金額 金七七七万九一六一円

4、所得金額 金七一七万九一六一円

償却資産計算集計表(1)

<省略>

償却資産計算集計表(2)

<省略>

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