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広島地方裁判所 平成7年(ワ)997号 判決 1998年2月16日

原告

井口紀之

原告

井口真名美

原告ら訴訟代理人弁護士

関元隆

足立修一

被告

右代表者法務大臣

下稲葉耕吉

右指定代理人

橋本昌純

外八名

主文

一  被告は、原告井口紀之に対し、金八五四万九九〇五円及びこれに対する平成六年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告井口真名美に対し、金八一八万九九〇五円及びこれに対する平成六年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれ棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が、原告らそれぞれのために各五〇〇万円の担保を供するときは、各原告について右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告井口紀之に対し、四一五六万四〇〇三円及びうち三六八六万四〇〇三円に対する平成六年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告井口真名美に対し、四〇三六万四〇〇三円及びうち三六八六万四〇〇三円に対する平成六年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第1、第2項について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  当事者

(一) 原告井口紀之(以下「原告紀之」という。)は、亡井口貴誠(昭和六二年五月二五日生。以下「貴誠」という。)の父であり、原告井口真名美(以下「原告真名美」という。)は、貴誠の母である。

(二) 被告(建設大臣)は、河川法所定の一級河川である旧太田川(本川。以下「本件河川」という。)の管理者であり、広島城内堀の水質改善のため広島市中区基町一番二〇地先に設置された河川水の取水施設(以下「本件施設」という。)の管理を建設省中国地方建設局太田川工事事務所(以下「太田川工事事務所」という。)にさせていたものである。

2  本件事故の発生

貴誠は、平成六年一一月一九日午後三時ころ、本件施設の取水口(以下「本件取水口」という。)付近において、友人二名と遊び、流れ着いたボールを取ろうとしていたところ、滑って本件河川の本件取水口前に転落し(以下「本件事故」という。)、同日午後三時三〇分ころ、溺死した。

3  本件施設の設置又は管理の瑕疵

(一) 本件取水口付近は周辺の川岸と比較して急激に深くなっているが、その深みは本件施設の設置のためにできたものである。そして、本件河川の堤防には遊歩道が整備されているところ、右遊歩道から本件取水口付近までには斜階段もあり、また、なだらかな斜面であるため、子供でも簡単に本件取水口付近まで心理的な抵抗感なく進入できる構造になっており、現に、本件施設設置後は、子供が流れ着くボール等を取ろうと遊びに来るようになっていた。

なお、本件施設の捨石天端は本件河川の干満の関係で水面下にあることも多いが、干潮時には干上がることから、少し注意すれば歩ける状態にあった。

(二) しかるに、被告は、平成五年一〇月に地元の基町小学校PTA会長安食正英(以下「安食」という。)から本件取水口付近の危険性の改善の申出があり、さらに、平成六年一月に同PTA役員会から本件施設の安全対策に関する要望があったにもかかわらず、施設天端に切石三つを並べたのみで、本件取水口付近の深みを放置し、かつ、安全柵を設置したり看板を立てたりする等の危険防止の措置をとっていなかった。

ちなみに、被告は、本件事故後、本件施設付近にロープを張り、その後、仮柵を設置し、さらに、本件施設の中小段に石柱を設置し石柱間を鉄鎖で連結するなどの措置をとっているが、これは、本件事故前に同様の危険防止措置をとり得たことの証左である。

(三) したがって、公の営造物である本件施設の設置又は管理に瑕疵があったものであり、被告は、国家賠償法二条一項に基づき、貴誠ないし原告らが本件事故により被った損害(次項)を賠償すべき責任がある。

4  損害

貴誠等が本件事故により被った損害は、次のとおりである。

(一) 逸失利益(原告ら二分の一ずつ相続)五三七二万八〇〇六円

原告らは、貴誠の教育に熱心であり、将来は貴誠を大学に進学させる意向であり、貴誠もそのつもりであったので、平成四年賃金センサスによる産業計男子労働者大学卒全年齢平均年収六五六万二六〇〇円に基づき、貴誠の満二二歳から満六七歳までの逸失利益を、生活費控除割合を五割とし、中間利息の控除について新ホフマン式計算法により算定すると、左のとおり、五三七二万八〇〇六円になる。

6,562,600×0.5×(27.355−

10.981)≒53,728,006

(二) 慰謝料(前同)

二〇〇〇万円

(三) 葬儀費用(原告紀之支出)

一二〇万円

(四) 弁護士費用(原告ら二分の一ずつ支出予定) 七〇〇万円

5  要約

よって、原告らは、被告に対し、国家賠償法二条一項に基づき、原告紀之について、四一五六万四〇〇三円及びうち三六八六万四〇〇三円に対する本件事故発生の日である平成六年一一月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告真名美について、四〇三六万四〇〇三円及びうち三六八六万四〇〇三円に対する右同日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は知らない。

3(一)  請求原因3の主張は争う。

(二)  本件取水口付近には、斜階段があり、これを利用して水辺に行くことが予想された構造になっているものの、斜階段を降りたところに設置された捨石天端は、感潮区間のため、本件河川の水位がTP(東京湾中等潮位)0.1メートル以下にならないと進入できない場所である上、その石積状態は不整形で隙間が存在しており、この捨石天端を一般人が通行することまでは予定していない。このことは、斜階段までの自由使用を予定したものとは明らかに異なる構造、形状等からも明白である。しかも、本件事故当時は、満潮から干潮へ移りつつある時間帯であり、捨石天端も湿って滑りやすい状態にあったから、一見して本件取水口付近に接近する危険性を認識できたはずである。

貴誠は、本件事故当時、小学校一年生であり、自らの意思と判断に基づき行動できる能力を有していたのであるから、このことを十分認識し得たものであり、また、日ごろから、原告ら及び学校から川遊びに注意するよう指導を受けていた。

したがって、貴誠が本件取水口付近に接近することは、河川管理者たる被告として予見不可能な異常な行動と言い得る。

(三)  被告が本件施設に安全柵、看板等を設置しなかったのは、本件施設周辺が、基町環境護岸として、修景及び自然環境の保全が阻害されることがないよう配慮し整備された場所である上、右(二)のとおり、構造等から捨石天端は通行が予定されていないことが明らかであり、それゆえ、危険周知機能も有していたと判断されたためである。

また、安全柵の設置については、洪水時に上流からの流木等がこれにかかって乱流を生じて護岸の洗掘を招き、ひいては破堤の原因になるなど治水上好ましくなく、柵が流失して下流の橋脚等に当たりこれを破損することにもなりかねない(現に、昭和四七年の集中豪雨の際、広島市内の太田川(放水路)にかかる庚午橋の橋脚に筏がかかり、橋脚が曲がったことがある。)し、水防活動の支障にもなる。このような危険は、洪水時のみならず高潮時にも考えられる。

さらに、このような安全柵、看板等が設置されていたとしても、貴誠は、原告ら等からの注意にもかかわらず本件取水口付近に近づいたものであり、いずれにせよ本件事故の回避可能性はなかったというべきである。

なお、被告は、危険防止措置として、危険予知とベンチの効用を兼ねて本件施設の天端に切石三つを設置していた。また、本件事故以前には、太田川工事事務所に対し、本件取水口に関する安全対策について付近住民から電話での問い合わせはあったものの、本件取水口への転落事故防止のための設備の設置を求める要望、陳情等はなかった。

また、被告は、本件事故後、地元の要望をくんで、本件施設からの転落防止及び斜階段から先の危険予知のため中小段に石柱及び鉄鎖を設置したが、これは治水及び水防活動への支障を考慮しながら、本来の計画にはないものを行政的措置として設置したものであり、かつ、これとて物理的に本件取水口付近への接近を防止できるものではない。さらに、被告は、本件事故後、本件施設周辺のロープを張り仮柵を設置したが、これらは、本件事故前後五回にわたりとった本件施設の施設天端両端の法面の芝生を養生のための措置の一環であり、本件事故やその後の地元の要望を契機としたものではない。

4  請求原因4の主張は争う。

第三  証拠

<証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これを引用する。>

理由

一  請求原因1(当事者)及び同2(本件事故の発生)について

請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、甲第二号証、原告井口真名美本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、請求原因2について、貴誠は、平成六年一一月一九日午後三時ころ、友人二名とともに、本件施設の捨石天端から、本件取水口前の水面に浮かんでいたいくつかのボールを取ろうとしているうち、誤って滑って本件河川の本件取水口前に転落し、間もなく、溺死した事実が認められる。

二  請求原因3(本件施設の設置又は管理の瑕疵)について

1  本件施設の概要等

甲第一号証の一及び二、第三号証の一ないし八、第八、第九号証、第一一号証、乙第一ないし第九号証、第一四ないし第一六号証、第一七号証の一ないし三、第一八号証、第一九号証の一及び二、証人安食正英及び同板垣利治の各証言、原告井口真名美本人尋問の結果、検証の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件施設の概要等について、次の事実を認めることができる。

(一)  本件施設は、広島城内堀の水質を改善するため、本件河川の流水のうち日量二万立方メートルを、広島市長の指定する準用河川(河川法一〇〇条)である堀川(広島城内堀及び流水路、導水路)へ導入する施設であり、河川浄化事業の一環として被告が直轄で施工し、平成五年一〇月に完成したものである。

本件施設は、本件河川に架かる三篠橋より下流五六〇メートルの左岸に設置されており、河道整備事業として昭和五八年一〇月に整備された基町環境護岸の一画にある。この付近は、堤防上に遊歩道が設置されて、芝生が植栽され、また、水辺に近づきやすくするための階段が設置されるなど、市民の憩いの場となるよう整備されている。

(二)  本件施設を上方から見ると、本件取水口付近の石張護岸及び捨石根固を取水施設幅で凹状に切り込んだ形状となっており、これを断面から見ると、上から順に堤防天端、施設天端、法面、中小段、石張護岸、捨石天端、捨石根固、水面と続く構造になっている。

堤防天端には、芝生の中にアスファルト舗装された遊歩道が設置され、施設天端まではほぼ平面といってよいほどなだらかな斜面となっている。

施設天端は、縦5.9メートル、横七メートルの平坦な石積みの範囲で、本件河川側端付近に縦二メートル、横42.5センチメートル、高さ四〇センチメートルの切石が三つ設置されており、その下方2.27メートルに中小段があり、施設天端から若干離れた場所に中小段に通じる横幅4.38メートル、傾斜角二九度の石階段がある。

中小段には、平坦でタイル状の石が敷き詰めてあり、施設天端側端付近に縦一五〇センチメートル、横四〇センチメートル、高さ三四センチメートルの切石が一つ設置されている。中小段から捨石天端まで、本件施設の中小段の両側に本件河川とほぼ平行に幅二メートル、傾斜角二九度の斜階段が二つある。

石張護岸は、丸みを帯びた石が傾斜角四五度で積まれ、石と石との間がコンクリートで固められている。

捨石天端には、大きさ、形状とも不揃いの石が並べられており、石の上は歩行できないほどではないが、多少でこぼこしており、石と石との隙間もかなり空いている。本件施設の捨石天端については、縦1.5メートル、横2.75メートルの平坦な石積みとなっているが、斜階段から同所へ行くには、途中、右の石が並べられた部分を通行する必要がある。

捨石根固は、捨石天端から川床に向かって、大きさ、形状ともに不揃いの石で形成されており、その傾斜角は約二五度であり、これにほぼ沿って、本件取水口の川上側と川下側の両端壁に、幅2.75メートル、傾斜角二六度の本件施設管理用の階段が川床に向かって降下している。

本件取水口は、凹型の奥まった部分にあり、凹型の内壁部分は垂直に切り立っているが、本件取水口には、六〇センチメートル角の石柱二本が立っており、石柱と石柱の間及び石柱と両端との内壁との間にはネットが張り渡してあり、ごみ等が取水口内部に吸い込まれないようにされている。

(三)  本件河川では、瀬戸内海に流入する河川特有の干満の差が見られ、本件事故時には、満潮から干潮に向かう途中で、本件施設の捨石天端最上部から二〇ないし三〇センチメートル下方に水面があったが、満潮時には、捨石天端は水没し、斜階段も途中まで水没する。ちなみに、本件事故当日の最高水位は、TPプラス1.78メートルであり、捨石天端から1.68メートル上方まで水面が上昇していた。

(四)  本件取水ロ付近は、感潮区間においてできる限り真水を取水する必要性があるため、周辺に比して水底が深く掘削されており、本件取水口付近の水底から捨石天端最上部までの距離は、2.2ないし2.4メートルであり、捨石天端最上部はTPプラス0.1メートルの高さである。

なお、本件施設の捨石天端から見て、本件取水口付近にある程度の水深があることは推測できないではないが、具体的にどの程度の水深があるかは分かりにくい状況にあった。

(五)  本件施設完成後、子供が本件取水口付近に近づくこともあったが、地元の基町小学校PTA役員会においても、本件取水口の危険性が話題となり、会長である安食が、平成六年一月二八日、本件施設を管理する太田川工事事務所に対し安全対策について架電したところ、太田川工事事務所では、単なる問い合わせとして処理し、斜階段はごみを採取するため必要であり、安全柵の設置は美観を損ね、また、予算の問題もある旨回答するにとどまり、特段の対応策はとらなかった(なお、原告主張に係る平成五年一〇月の安食の本件施設の改善に関する申出については、証人安食正英の証言によっても、なお申出の相手方、内容等が判然としない。)。

(六)  太田川工事事務所は、本件事故後の平成七年三月、地元の要望を踏まえ、本件施設の中小段に、本件河川側(本件取水口側)に石柱三基(その後の破損による取替えがあったが、その後の形状は、縦九七センチメートル、横三六センチメートル、高さ七一センチメートル)を等間隔で設置し、その左右に四角柱型の石柱(縦二〇センチメートル、横二〇センチメートル、高さ七〇センチメートル)を各七基設置し、各石柱間を亜鉛メッキ鉄鎖で連結して、中小段から捨石天端へ降りる斜階段が利用し難いようにした。

なお、太田川工事事務所は、本件事故直後、本件施設付近に、ロープを張って「ロープの中に立入らないで下さい」との札を下げ、さらに、鉄パイプ製の仮柵も設置したが、これらは、本件事故前から予定されていた芝生養生のための措置であった。

2  本件施設の設置又は管理の瑕疵

(一)  国家賠償法二条一項の公の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常備えるべき性質又は設備を欠くこと、すなわち、本来備えるべき安全性を欠いている状態をいい、その有無は、営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等を総合して判断すべきである。

これを本件について見ると、右認定事実によれば、本件施設について、①本件取水口付近の水深は、本件施設の目的から必要なものではあるが、その設置により生じたもので、捨石天端から子供が転落すると溺死の危険があること、②本件事故当時、本件河川の堤防天端にある遊歩道から中小段両端に設置された斜階段下までは、何ら通行に支障を来す構造になっていないこと、③右斜階段下にある捨石天端も、若干歩行困難な面はあるが、干潮時前後には物理的に通行可能な構造となっており、かつ、その先に本件施設管理用階段が存在するなどおよそ人の通行を予定していないわけではなく、現に、本件事故前も、子供がそこを通行して本件取水口付近に遊びに行くこともあったこと、④施設天端に設置された切石三つには、位置、形状等に照らし、本件取水口付近の危険性の警告機能があるとは言い難いこと、⑤被告は、本件事故前から、地元基町小学校PTA役員会から本件取水口付近の危険性の指摘を受け、相応の対策を講じる機会があったことの諸点を指摘することでき、これらの諸点に照らせば、本件施設の捨石天端は一般人の利用を予定していないと一応言い得るけれども、被告は、本件施設の本件取水口付近の危険性について、危険認識能力及び判断能力が低い子供が興味をそそられて容易に近づき得る(このことが予見不可能な異常な行動とは到底言い難い。)状況のまま放置していたものであり、その設置又は管理に瑕疵があったというべきである。

(二)  ところで、被告は、本件施設に安全柵、看板等を設置することについて、治水上の問題や美観上の問題を主張する。

しかしながら、治水上の問題については、乙第一〇号証には、昭和四七年の集中豪雨の際のものとして、庚午橋の橋脚が曲がり、橋脚に流されてきた筏が引っかかっている状況が写真として掲載されているが、橋脚が曲がった原因が筏にあるのか不明であるし、安全柵と筏とを同一視もできないなど、本件全証拠によっても、被告主張のような危険発生のおそれを認めるには足りない。また、美観上の問題については、事故が発生した場合の結果の重大性にかんがみれば、多少美観を損ねることがあったとしても、適宜のものが設置されてしかるべきであったということができる。

さらに、被告は、安全柵、看板等を設置していたとしても、本件事故の回避可能性はなかった旨主張し、原告井口真名美本人尋問の結果によれば、貴誠は、本件事故当時、満七歳で基町小学校一年に在学中であり、日ごろから、原告ら等から水辺での遊びの危険性についても一般的な注意を受けていた事実が認められるが、右注意はまさに一般的な注意であって、本件事故は本件取水口付近への接近について具体的な注意を受けていたにもかかわらず敢えてこれを無視したといった態様のものではないので、本件事故当時、安全柵、看板等が設置されていても、本件事故が防止できなかったとは言い難い。

(三)  そのほか、右のとおり、貴誠は、本件事故当時、小学校一年生であり、日ごろから、水辺での遊びの危険性についても注意を受けていた事実が認められ、前認定の本件施設の構造、形状等に照らし、本件施設の捨石天端部分に至るまでに存する捨石天端の石が並べられた部分は本来一般人の通行を予定したものではないこと、さらには、本件河川の本件取水口付近は一定の水深がある可能性があること、特に満潮から干潮へ向かう時間帯で濡れて滑りやすい状況にあったと推認される捨石天端上から水面上に身を乗り出して遊ぶことが本件河川への転落の危険を伴うことも、貴誠としては認識不可能ではなかったというべきではあるが、これらは、損害賠償額の算定に当たって過失相殺事由として斟酌すべきことであり、これらをもって本件施設の設置又は管理の瑕疵の存在を否定するものではない(したがって、この点に関する被告の主張は、過失相殺事由の主張と解して、以下判断する。)。

三  請求原因4(損害)について

1  逸失利益 二九五九万九三六九円

前認定のとおり、貴誠は、本件事故当時、満七歳で基町小学校一年生に在学中であったところ、甲第四ないし第七号証及び原告井口真名美本人尋問の結果によれば、原告らは貴誠を大学へ進学させたいとの思いから学習塾に通わせるなどし、貴誠は、広島大学附属東雲小学校の入学試験(学科試験)に合格したり、学習塾から表彰状を受けたりするなどしていた事実が認められるが、貴誠の大学進学年齢に達するまでの年数等に照らすと、貴誠が満一八歳で大学に進学する蓋然性については、なお不確定要素が多いというべきであるから、原告ら主張の逸失利益算定方法は採用できない。

そこで、貴誠の逸失利益については、平成六年賃金センサスによる産業計男子労働者学歴計全年齢平均年収額五五七万二八〇〇円に基づき、満一八歳から満六七歳までのものを、生活費控除割合を五割とし、中間利息の控除についてライプニッツ式計算法により算定することとし、これによれば、左のとおり、二九五九万九三六九円になる。

5,572,800×0.5×(18.9292−8.3064)≒29,599,369

2  慰謝料 二〇〇〇万円

本件に現れた諸般の事情を考慮すると、本件事故により死亡した貴誠の精神的苦痛に対する慰謝料としては、二〇〇〇万円をもって相当とする。

3  葬儀費用 一二〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告紀之は、貴誠の葬儀費用を支出した事実が認められるが、本件事故と相当因果関係のある額は一二〇万円と認めるのが相当である。

4  過失相殺

前二2(三)に認定説示のとおり、本件事故については、本件施設の設置又は管理の瑕疵のほか、貴誠すなわち原告ら側の過失も寄与しているというべきであり、原告ら側の過失の割合は七割をもって相当とする。

そして、右1ないし3の損害につき右過失割合によって減額すると、貴誠の損害は一四八七万九八一〇円、原告紀之の損害は三六万円となる。

5  相続

原告らは、貴誠の損害につき二分の一ずつ損害賠償請求権を相続したので、原告紀之の損害は、これと右葬儀費用の合計七七九万九九〇五円、原告真名美の損害は七四三万九九〇五円となる。

6  弁護士費用 一五〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告らは、原告ら代理人らに対し、本訴の追行を委任することを余儀なくされ、相当額の報酬の支払を約した事実が認められるが、本件事案の内容、審理経過、認容額その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、原告ら各自につき七五万円と認めるのが相当である。

7  合計

原告らの損害は、原告紀之につき八五四万九九〇五円、原告真名美八一八万九九〇五円となる。

四  結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、原告紀之について、八五四万九九〇五円及びこれに対する本件事故発生の日である平成六年一一月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告真名美について、八一八万九九〇五円及びこれに対する右同日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言及び同免脱の宣言について同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官池田克俊 裁判官能勢顯男 裁判官畑一郎)

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