広島地方裁判所 平成8年(わ)441号 判決 1996年10月15日
裁判所書記官
岡田幹雄
本店の所在地
広島県福山市新涯町六丁目一〇番五号
法人の名称
内田建設株式会社
代表者の住居
同市沖野上町二丁目一五番八号
代表者の氏名
内田憲男
本籍
同市沖野上町二丁目七〇八番地の一
住居
同市沖野上町二丁目一五番八号
会社役員
内田憲男
昭和二五年六月六日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官見越正秋出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人内田建設株式会社を罰金三〇〇〇万円に、被告人内田憲男を懲役一年六月に各処する。
被告人内田憲男に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人会社内田建設株式会社(以下、被告人会社という。)は、広島県福山市新涯町六丁目一〇番五号に本店を置き、砂利の仕入、販売等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人内田憲男(以下、被告人内田という。)は、被告人会社の代表取締役として被告人会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人内田は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告人会社の売上の一部を除外し、架空の外注費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 平成三年八月一日から同四年七月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億一〇一万四三八六円であったにもかかわらず、同四年九月三〇日、広島県福山市三吉町四丁目四番八号所在の所轄福山税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が二〇六万三七七三円であり、これに対する法人税額が四一万八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三六九五万三四〇〇円と右申告税額との差額三六五四万二六〇〇円を免れ
第二 平成四年八月一日から同五年七月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億一九三〇万九四五円であったにもかかわらず、同五年九月三〇日、前記福山税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が一七六五万五七四六円であり、これに対する法人税額が五八〇万九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額四三九一万七八〇〇円と右申告税額との差額三八一一万六九〇〇円を免れ
第三 平成五年八月一日から同六年七月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億二四八〇万五二三二円であったにもかかわらず、同六年九月二九日、前記福山税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における所得金額が二六二三万一二九八円であり、これに対する法人税額が八九七万七八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額四五九四万三一〇〇円と右申告税額との差額三六九六万五三〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
( )内の算用数字は検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を表す
判示全事実について
一 被告人内田の検察官に対する供述調書(50)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(29ないし32、36ないし40、42、43、45ないし49)
一 小林平八郎(15、16)、福島廣人(17ないし19)、中井恵子(24)、村角芳雄(25)、千葉時博(28)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の売上高調査書(5)、外注費調査書(6)、給料及び手当調査書(7)、通信交通費調査書(8)、受取利息割引料調査書(9)、雑収入調査書(10)、事業税認定損調査書(12)
判示冒頭の事実について
一 被告人内田の大蔵事務官に対する質問てん末書(35)
一 広島法務局福山支局登記官作成の商業登記簿謄本(13)
判示第一及び第二の各事実について
一 被告人内田の大蔵事務官に対する質問てん末書(44)
判示第一の事実について
一 岡崎時男の大蔵事務官に対する質問てん末書(23)
一 押収してある法人税確定申告書(平成八年押第九四号の1)
判示第二及び第三の事実について
一 被告人内田の大蔵事務官に対する質問てん末書(41)
判示第二の事実について
一 藤井博行の大蔵事務官に対する質問てん末書(22)
一 押収してある法人税確定申告書(平成八年押第九四号の2)
判示第三の事実について
一 内田治子の大蔵事務官に対する質問てん末書(14)
一 大蔵事務官作成の寄付金損金不算入調査書(11)
一 押収してある法人税確定申告書(平成八年押第九四号の3)
(法令の適用)
被告人会社の判示各所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、いずれも情状により同法一五九条二項を適用し、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法律による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額以下において処断し、右処断刑の範囲内において、被告人会社を罰金三〇〇〇万円に処する。
被告人内田の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法律による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人内田を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
一 本件は、砂利の仕入、販売等を目的とする被告人会社の代表取締役をしていた被告人内田が、架空の外注費を計上するなどして、三事業年度分について合計で一億一〇〇〇万円余の法人税を免れたというものであって、そのほ脱率は平均八八%と高率である上、本件犯行の動機は被告人会社の経営安定や被告人内田自らの遊興費を捻出するためなど、もっぱら私的利益を図るものであり、特に酌むべき点は認められない。また、ほ脱の具体的方法も、知人の財政的窮迫に乗じて架空の請求書の作成を依頼する等の方法で確定申告に符合するように証馮書類を整備していたもので、その手口は計画的かつ悪質である。加えて、被告人内田は、本件以前に国税局の査察が入り、修正申告をさせられたことがあるにもかかわらず、態度を改めることなく、なお脱税を続けたのであり、遵法精神の希薄さが顕著である。所得に応じて納税するのは当然の義務であって、本件のような多額の脱税は真面目な国民の納税意欲を減退させるもので、社会的影響も無視できない。これらの諸事情を考え合わせると、被告人らの刑事責任は重いといわなければならない。
二 他方、被告人内田は、捜査機関に対して法人税を免れた事実について素直に供述するとともに、被告人会社が本件法人税法違反につき修正申告をして、支払うべき本税・重加算税・延滞税の全てを納入したことなど顕著な反省の態度が認められること、被告人内田には罰金前科があるものの昭和五七年以降は犯罪歴がないことなど、被告人らのために有利に斟酌すべき事情も認められる。
三 そこで当裁判所は、以上の諸事情を総合考慮した結果、被告人会社については、主文掲記の罰金額を相当と認め、さらに被告人内田については、その刑事責任重いものの、主文の刑を科した上で、今回に限りその刑の執行を猶予して、社会内で自力更生する機会を与えるのが相当と判断した。(求刑 被告人会社につき罰金三五〇〇万円、被告人内田につき懲役一年六月)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷岡武教)