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広島地方裁判所 平成8年(行ウ)21号 判決 1998年7月01日

第一、第二事件原告

村上光

右訴訟代理人弁護士

佐々木猛也

第一、第二事件被告

岡野敬一

第二事件被告

木村祐準

外四名

右被告ら五名訴訟代理人弁護士

高橋武三

主文

一  第一事件被告は、広島県因島市に対し、金五五万一五一〇円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第一、第二事件原告の第一事件被告に対するその余の請求及び第二事件被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一事件原告と第一事件被告との間に生じた部分はこれを三分し、その一を同事件被告の負担とし、その余を第一事件原告の負担とし、第二事件原告と第二事件被告らとの間に生じた部分は、第二事件原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  第一事件

第一事件被告は、広島県因島市(以下「因島市」という。)に対し、金一六三万四三九五円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第二事件

第二事件被告らは、因島市に対し、金二四八六万五二二四円及び内金三九一万六五三三円に対する平成七年七月一日から、内金四八一万九九一四円に対する同月八日から、内金一六一二万八七七七円に対する同月二二日から支払済みまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要等

一  事案の概要

本件は、因島市民である第一、第二事件原告(以下、「原告」という。)が、因島市を代位して、因島市長及び因島市職員である第一事件被告及び第二事件被告らに対してなした住民訴訟であり、①因島市が訴外請負人らに対して発注した工事の請負代金支払資金について、因島市長である第一事件被告は、本来、工事完成後の代金支払時期に借入れるべきところ、工事完成前に借入れた結果、因島市は、工事完成後の代金支払時期までの間に支払った利息分の損害を被ったとして、同被告に対し、右利息相当額の損害賠償を求めるとともに(第一事件)、②右工事の完成が約定の工期より大幅に遅延したにもかかわらず、第二事件被告らが、右請負人らに対し、約定の遅延損害金を請求しないことは、違法に財産の管理を怠るものであると主張し、同被告らに対し、右遅延損害金相当額の損害賠償を求めるものである(第二事件)。

二  前提事実(証拠を掲記した事実は、証拠により認定した事実)

1  当事者

原告は、因島市の市民であり、第一、第二事件被告岡野敬一(以下、立場に応じて「第一事件被告」、「第二事件被告岡野」、「第一、第二事件被告岡野」という。)は、昭和六二年四月から現在まで引き続き因島市長の地位にある者であり、第二事件被告木村祐準(以下、「第二事件被告木村」という。)は、平成六年度及び平成七年度中、因島市助役の地位にあった者であり、同三宅明仁(以下、「第二事件被告三宅」という。)は、右期間中、因島市経済建設部長の地位にあった者であり、同箱崎勇三(以下、「第二事件被告箱崎」という。)は、右期間中、因島市経済建設部建設課長の地位にあった者であり、同平木修二(以下、「第二事件被告平木」という。)は、右期間中、因島市経済建設部建設課課長補佐の地位にあった者であり、同原山覚(以下、「第二事件被告原山」という。)は、右期間中、因島市収入役の地位にあった者である。

2  因島市決裁規定

(一) 因島市は、市長の権限に属する事務の決裁について決裁責任の所在を明確にし、行政の能率的な運営を図ることを目的とし、因島市決裁規定(平成四年四月一日因島市訓令第一号・平成五年六月三〇日因島市訓令第五号)(以下、「決裁規定」という。)(乙五三の1及び2)を設けており、その三条において特に市長が決裁すべきものを規定するほか、四条及び五条とこれを受けた別表第一及び同第二においては、助役及び部課長が専決により処理しうる事項を明確に規定している。

(二) そして、右決裁規定三条では、市議会の招集(同条五号)、市議会の議決、承認、認定若しくは同意又は市議会への報告を要する事項に関すること(同条六号)、予算の編成及び決算の確定に関すること(同条一九号)、一件五〇〇万円以上の工事の施工に関すること(同条二五号)などは、市長の決裁事項とされ、下位の補助機関に対し、専決権限が与えられていない。

また、支出命令に関することは、担当課長の専決事項とされ、市債に係る資金の借入れの決定は、総務部長の専決事項とされている。

3  本件各工事請負契約

因島市は、平成五年度及び平成六年度の事業として、芸予文化情報センター進入路新設工事を施工することとし、以下の各工事(以下、「本件各工事」という。)の請負契約もその一環として締結された。

なお、因島市建設工事執行規則(以下、「本件規則」という。)五二条には、履行遅延の場合における損害金について規定されており、同条一項では、「請負人の責に帰すべき理由により所定の工期内に工事を完成することができない場合において、工期経過後相当の期間内に完成する見込みのあるときは、市長は、請負人から損害金を徴収して工期を延長することができる。」と規定され、同条二項では、「前項の損害金の額は、遅延日数一日につき、請負代金額の千分の一以内に相当する金額とし、請負代金と相殺し、なお不足する場合には、追徴する。」と規定されている(乙三九)。

また、本件各工事の請負契約と同時に建設工事請負契約約款(以下、「本件約款」という。)(乙五二の1及び2)が合意され、その四九条一項及び二項において、本件規則五二条一項及び二項と同様の事項につき規定されている。

(一) 道路新設工事

平成六年一〇月一七日、訴外株式会社加納屋建設(以下、「加納屋建設」という。)との間で、「(仮称)芸予文化情報センター道路新設工事(二工区)」(以下、「道路新設工事」という。)として、建設工事請負契約を締結した。右契約においては、請負代金は金一億一三三〇万円(内消費税金三三〇万円)とされ、工期は平成六年一〇月一八日から平成七年二月二八日までとされている(乙五)。

右契約は、平成七年一月一九日、建設工事変更請負契約により、請負代金は金一億一二一七万一一二〇円(内消費税金三二六万七一二〇円)とされ、工期は「完成平成七年三月二〇日」と記載されている。さらに、同年二月一五日にも建設工事変更請負契約により、請負代金は金一億三一一二万八二七〇円(内消費税金三八一万九二七〇円)とされている(乙八及び九)。

(二) 舗装・照明工事

平成七年三月八日、訴外山陽建設株式会社(以下、「山陽建設」という。)との間で、「(仮称)芸予文化情報センター道路新設工事に伴う道路舗装及び照明工事」(以下、「舗装・照明工事」という。)として、建設工事請負契約を締結した。右契約においては、請負代金は金四一七一万五〇〇〇円(内消費税金一二一万五〇〇〇円)とされ、工期は「完成平成七年三月三〇日」と記載されている。

右契約は、平成七年三月一五日の建設工事変更請負契約により、請負代金が金四二五七万一九六〇円(内消費税金一二三万九九六〇円)に変更されている(乙一〇及び一一)。

(三) 修景工事①

平成七年三月八日、訴外千晃株式会社(以下、「千晃」という。)との間で、「(仮称)芸予文化情報センター道路新設工事に伴う修景工事」(以下、「修景工事①」という。)として、建設工事請負契約を締結し、右契約においては、請負代金は金九七八万五〇〇〇円(内消費税金二八万五〇〇〇円)とされ、工期は「完成平成七年三月三〇日」と記載されている。

右契約は、平成七年三月一五日に建設工事変更請負契約がなされているが、工期、請負代金に変更はない(乙一二及び一四)。

(四) 修景工事②

平成七年三月一三日、千晃との間で「(仮称)芸予文化情報センター道路新設工事に伴う修景工事(その2)」(以下、「修景工事②」という。)として建設工事請負契約を締結し、請負代金は金三九七五万八〇〇〇円(内消費税金一一五万八〇〇〇円)とされ、工期は「完成平成七年三月三〇日」と記載されている。

右契約は、平成七年三月一七日の建設工事変更請負契約により、請負代金が金三八九〇万一〇四〇円(内消費税金一一三万三〇四〇円)に変更されている(乙一三及び一五)。

4  本件各工事は、いずれも工期末には完成せず、平成六年度会計年度末である平成七年三月三一日においても、完成しなかった。

5  請負代金資金の借入

因島市は、本件各工事を含めた芸予文化情報センター進入路新設工事請負代金支払に充てる資金として、平成七年五月二二日に広島県市町村職員共済組合から地方債の一種である過疎対策事業債として金四四〇〇万円を年利3.85パーセントで、また、同月二九日に因島農業協同組合から地方債の一種である地域総合整備事業債として金二億二二六〇万円及び金二億二〇〇〇万円をいずれも年利3.595パーセントでそれぞれ借入れた(以下、「本件起債」という。)(乙三六及び三八)。

6  支出命令

因島市建設経済部建設課長である第二事件被告箱崎は、平成七年五月三〇日、本件各工事の請負人らに対する請負代金の支出命令(以下、「本件支出命令」という。)(道路新設工事につき金一億一一一二万八二七〇円、舗装・照明工事につき金四二五七万一九六〇円、修景工事①及び同②につき金四八六八万六〇四〇円の合計金二億〇二三八万六二七〇円)を専決した(乙三〇ないし三二)。

しかし、本件各工事は、右支出命令時においても、平成六年度出納閉鎖期日(地方自治法(以下、「法」という。)二三五条の五)である平成七年五月三一日においても、いずれも完成していなかった。

7  請負代金の支出

因島市収入役である第二事件被告原山は、支出命令の翌日である平成七年五月三一日、本件各工事の請負代金合計額である金二億〇二三八万六二七〇円を支出する手続を取った(乙三〇ないし三二)。

右請負代金合計額金二億〇二三八万六二七〇円のうち、起債による借入で賄われた部分は、合計金一億八二〇〇万円であり、その内訳は、金一三七〇万円が平成七年五月二二日に起債した年利3.85パーセントの過疎対策事業債により借入れられたものであり、金一億六八三〇万円が平成七年五月二九日に起債した年利3.595パーセントの地域総合整備事業債により借入れられたものである(乙三七)。

8  本件各工事の完成

その後、本件各工事のうち、舗装・照明工事につき平成七年六月二三日、山陽建設から工事完成届が提出され、同月三〇日に因島市による完成検査が行われ、その完成を確認し、検査調書が作成された。同様に、修景工事②につき平成七年六月三〇日、修景工事①につき同年七月五日、それぞれ千晃から工事完成届が提出され、同月七日に因島市による完成検査が行われ、その完成を確認し、検査調書が作成された。その後、道路新設工事につき同月一七日、加納屋建設から工事完成届が提出され、同月二一日に因島市による完成検査がなされ、その完成を確認し、検査調書が作成された(乙一六ないし二三)。

9  住民監査請求

(一) 第一事件について

原告は、平成八年四月二三日、請負工事代金二億〇二三八万六二七〇円を完了検査後に支払うべきであるのに、五月末日に支払うために借入をしたことにより生じた三ケ月分の利息金一六三万四三九五円を第一事件被告が因島市に返還するよう求めて住民監査請求をしたが、同年六月二〇日付けの「因島市職員措置請求の監査結果について(通知)」により、その請求には理由がないものとされた。

(二) 第二事件について

原告は、平成八年五月二七日、本件各工事が遅延したことによる遅延損害金(道路新設工事につき金一三七九万七〇三三円以内、舗装・照明工事につき金三九一万六五三二円以内、修景工事①につき金九六万八七一五円、同②につき金三八五万一一九九円以内)を因島市が徴収しないため、第二事件被告岡野にその額の支払を求めて住民監査請求をしたが、同年七月二二日付けの「因島市職員措置請求の監査結果について(通知)」により、その請求には理由がないものとされた。

第三  争点

一  本件の争点

1  第一事件

本件起債及び本件支出命令の違法性並びに損害の有無

2  第二事件

因島市の請負業者らに対する遅延損害金請求権の有無

二  争点に関する当事者の主張

1  争点1(第一事件)について

(一) 原告の主張

(1) 本件各工事は、平成六年度末である平成七年三月三一日までに完成しないことが見込まれたにもかかわらず、その予算措置を次年度に繰越明許する手続を怠った結果、平成六年度の出納閉鎖期日直前に起債による請負代金支払資金の借入及びその支払を余儀なくされた。

そのため、本来、本件各工事が完成し、その請負代金を支払うべき時期になすべき起債による借入を、請負代金支払時期よりも著しく早い時期にしたことにより、因島市は、三ケ月間不必要な利息分を支払っており、その利息分の合計金一六三万四三九五円は、現実の損害である。

(2) よって、原告は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、因島市に代位して、第一事件被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、金一六三万四三九五円及び本件(第一事件)訴状送達の日の翌日である平成八年八月一日より支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 第一事件被告の主張

(1) 本件の道路新設工事は、一部の地権者の同意が得られなかったため用地買収が遅れたことから、その着工が平成七年一月一〇日にならざるを得ず、その余の工事も、道路新設工事の進捗状況に影響されざるを得ないものであるから、結局、本件各工事を各工期内、あるいは平成六年度の会計年度末である平成七年三月三一日までに完成させることは困難であった。しかしながら、平成六年度の出納閉鎖期日である平成七年五月三一日までには完成するであろうとの見通しの甘さから、本件各工事の請負代金の予算措置につき、平成六年度から平成七年度への事業繰越しの手続を取らなかった事務処理上のミスにより、会計年度及びその独立の原則(法二〇八条一項、二項)から、すべて平成六年度の会計として処理せざるを得ないこととなり、本件各工事は未完成であったが、平成六年度の出納閉鎖期日までに起債、支出命令及び支払手続を取ったものである。

なお、支出を命じたのは、形式的には担当の建設課長である(因島市決裁規定五条)。

(2) 請負代金の支払時期については、政府契約の支払遅延防止等に関する法律一四条の準用により適用される同法六条に抵触しない限り、首長の裁量行為である。また、起債の時期も、事業の進捗状況、会計上の資金繰り等を勘案してなされる首長の裁量行為である。

(3) 損害について

本件各工事にかかる借入額合計金一億八二〇〇万円については、そのうち金一億一二一九万三三七七円が地方交付税により措置される予定である。一方で前記借入措置を講じることなく、本件各工事完成後に借入れるものとすれば、前記のとおり、本件各工事の請負代金の予算措置について事業繰越しの手続を経ていない本件においては、前記借入金相当額を平成七年度の一般財源で措置せざる得ないこととなり、因島市程度の財政規模であれば、かえって、行政執行上、多大の障害あるいは損害を生ぜしめる結果となる。したがって、前記借入措置を講じたことにより、逆に多大な利益をもたらしたものである。

2  争点2(第二事件)について

(一) 原告の主張

(1) 道路新設工事は、未解決のため着工できなかった用地関係に見切りをつけ、設計を変更して、変更契約により変更した工期に基づいて施工したものであり、その後において工事に支障を来す天災、その他の不可抗力的な事態は生じておらず、請負人らにおいて、本件約款及び本件規則に基づく工期変更の手続もなされていない。また、他の工事もすべてその後に契約されたものであり同様である。

よって、本件各工事の遅れは、すべて請負人らの責に帰するほか理由がないにもかかわらず、本件規則五二条一項、二項及び本件約款四九条一項、二項に定めた履行遅延損害金を徴収せず、本件各工事が未完成であった平成七年五月三一日に請負代金全額を支払ったことは、本件規則及び本件約款に反し、違法に財産管理を怠った違法がある。

(2) 本件各工事の請負代金額及び遅延日数(本件各工事の変更後の工期から完成検査日までの日数は、道路新設工事につき一二三日、舗装・照明工事につき九二日、修景工事①及び同②につきいずれも九九日である。)に照らせば、本件各工事の遅延による遅延損害金は、道路新設工事につき金一六一二万八七七七円、舗装・照明工事につき金三九一万六六二〇円、修景工事①につき金九六万八七一五円、同②につき金三八五万一二〇二円であるから、因島市に支払われるべき遅延損害金の合計は金二四八六万五三一四円となる。

(3) よって、原告は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、因島市に代位して、第二事件被告らに対し、右怠る事実に関する不法行為に基づく損害賠償(一部請求)として、金二四八六万五二二四円及び、内金三九一万六五三三円に対する同年七月一日から、内金四八一万九九一四円に対する同年七月八日から、内金一六一二万八七七七円に対する平成七年七月二二日から(いずれも本件各工事完成検査日の翌日である)各支払済みまでそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 第二事件被告らの主張

(1) 本件各工事のうち、道路新設工事の着工が遅れたものの、完成時期の見通しの甘さから、本件各工事の予算措置について翌年度への事業繰越しの手続を取らなかったため、平成六年度の事業として会計処理せざるを得なかったことは、前記のとおりである。

そして、道路新設工事につき、平成七年一月一九日に、工期を同年三月二〇日に変更した時も、この工期が困難であることは最初から明らかであったが、会計年度とのかかわりから、表面上、工期を平成六年度内である平成七年三月二〇日としたものに過ぎず、加納屋建設が同年三月二〇日の完成を約して工期を変更したものではない。

その余の工事の工期も道路新設工事の進捗状況に影響されざるを得ないものであるが、やはり、道路新設工事と同様に、会計年度とのかかわりから、表面上、同年三月三〇日を工期としたに過ぎない。

(2) さらに、平成七年五月一日、同月一四日及び一五日には、因島市で稀にみる豪雨に見舞われ、施工途中の法面が崩壊するなどの災害のため、不要な日数を要した。

(3) よって、因島市が損害金を徴収しなかったのは、本件各工事が工期内に完成しなかった要因が、請負人らの責に帰するものではなかったからである。

(4) また、平成七年五月三一日の段階においては、本件各工事は完成していなかったが、同日が出納閉鎖期日であったため、いったん右請負代金全額の支出手続をとったものの、工事完成担保のため、同日から本件各工事の完成検査を終えて、右請負代金を現実に支払った同年七月二四日まで、因島市の経済建設部長名で、指定金融機関に預金し、実質的な支払は留保したものである。

第四  当裁判所の判断

一  本件の事実経緯

前記前提事実(第二、二)及び証拠(甲一、乙一、二、四の1ないし3、五ないし二三、二五ないし三三、三四の1ないし4、三五ないし三八、五二の1及び2、五三の1及び2、五五、五六、第二事件被告木村及び同三宅各本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  因島市は、平成五年度及び平成六年度の事業として、自治省の進める「特定地域における若者定住促進等緊急プロジェクト」の一環として、「カルチャードリームストリート計画」と題して芸予文化情報センター進入路新設工事を施工した。

平成五年度の事業費は、金二億〇六七九万四〇〇〇円であり、内金一億八六〇〇万円が地方債(地域総合整備事業債として金一億一七九〇万円、過疎対策事業債として金六八一〇万円)により賄われ、その余の二〇七九万四〇〇〇円が一般財源により賄われた。

平成六年度の事業費は、前年度繰越明許分金二億四七六二万一〇〇〇円を含む金五億四一二八万九〇〇〇円であり、内金四億八六六〇万円が地方債(地域総合整備事業債として、前年度繰越分金二億二二六〇万円及び当年度分金二億二〇〇〇万円、過疎対策事業債として当年度分金四四〇〇万円)により賄われ、その余の財源は、当年度分の金二九〇〇万円につきふるさと創生事業基金繰入金から賄われ、前年度繰越分金二五〇二万一〇〇〇円及び当年度分金六六万八〇〇〇円の合計金二五六八万九〇〇〇円については一般財源から賄われた。なお、地方債の元利償還金については、自治体の財政力に応じて地方交付税により措置されることになっており、その割合は、因島市の場合、地域総合整備事業債につき五〇パーセント、過疎対策事業債につき七〇パーセントである。

前記繰越明許分については、平成五年度中に用地買収が完了しなかったため、平成六年度に繰越明許したものである。その後、平成六年度には、未買収者との協議が整い、用地買収の仮契約を締結し、同年六月の因島市議会で公有財産取得を議決した。

2  因島市は、カルチャードリームストリート計画に基づく全長約六〇〇メートルの道路新設事業を一工区、二工区及び三工区に分割し、二工区の工事(道路新設工事)については、平成六年一〇月一七日、加納屋建設との間で、建設工事請負契約を締結した。

なお、前記前提事実(第二、二2(二))のとおり、決裁規定三条二五号では、一件五〇〇万円以上の工事の施工に関することは、市長決裁事項とされていたが、その決裁の方法は、まず、工事契約締結伺いについて市長が決裁することが支出負担行為とされ、その後、担当部署により建設工事請負契約が締結されることになっていた。

因島市は、その後、同年一一月一一日に右請負代金の前金払として金二〇〇〇万円について支出命令を出し、同月二一日に加納屋建設に対し、右金二〇〇〇万円が支払われた。

3  因島市は、前記二工区内の地権者である訴外小丸武との間でも、平成六年五月二五日、用地買収の仮契約を締結していたが、右仮契約には、因島市が代替地を提供する旨の条件が付いていたところ、右小丸武との間で、その代替地に関する合意を得ることができず、本契約の交渉が難航した。経済建設部長の第二事件被告三宅は、加納屋建設に対して、右小丸武との土地買収交渉が解決するまで、着工を控えてほしい旨依頼していた。

そのころ、工事現場を視察した第一、第二事件被告岡野は、二工区の道路新設工事が着工されていないことに気付き、その理由を右工事の請負人である加納屋建設の代表取締役に問い合わせたところ、同人から右の事情及びこれ以上着工が遅れれば工期に間に合わなくなることを聞かされ、第二事件被告原山、同三宅及び同箱崎らを市長室に呼び、買収可能な土地を前提として設計の変更を指示した。結局、因島市は、買収を予定していた訴外小丸武の土地の一部について用地買収を断念し、買収可能な土地を前提に設計変更をした上で、右小丸武との間で、平成六年一二月二七日、合意の得られなかった一部の土地を除き、用地買収の本契約を締結し、用地買収が完了した。

4  その後、加納屋建設は、平成七年一月一〇日にようやく道路新設工事に着工した。また、因島市は、前記設計変更に伴い、同月一九日、道路新設工事に関し、建設工事変更請負契約を締結し、完成期日が同年三月二〇日とされた。

しかしながら、同年一月一九日の設計工事変更請負契約の段階において、右変更契約を決裁した第一、第二事件被告岡野と加納屋建設は、変更した工期である同年三月二〇日まで、ひいては会計年度末である同月三一日までに道路新設工事を完成させることが不可能であることを認識していた。

にもかかわらず、このような工期が設定されたのは、前記用地買収の遅れから、その着工が同年一月一〇日にならざるを得ず、道路新設工事を、工期内、あるいは平成六年度の会計年度末である同年三月三一日までに完成させることは困難であり、本来、本件各工事の予算措置について、翌年度に繰越明許する手続が必要であったが(平成五年度予算の平成六年度への繰越明許分は、前記認定のとおりであり、平成五年度からの繰越明許を経ていない平成六年度予算を繰越すことは可能であった。)、第一、第二事件被告岡野は、(1)平成六年度の出納閉鎖期日である平成七年五月三一日までには完成するだろうとの第二事件被告三宅の甘い見通しを信用し、(2)事業の最終年度でもあり、現実に繰越明許手続をするとなると、平成五年度に繰越明許手続を取ったものも含まれていることから、手間と時間がかかることなどから、繰越明許手続の措置を取らないことを容認したため、会計年度及びその独立の原則(法二〇八条)から、すべて平成六年度の会計として処理することになり、工期も、契約書上は、平成六年度の会計年度内である平成六年三月二〇日とされたものである。

5  また、平成七年三月八日、山陽建設との間で、舗装・照明工事の建設工事請負契約を締結し、同日、千晃との間で、修景工事①の建設工事請負契約を締結し、さらに、同月一三日、千晃との間で、修景工事②の建設工事請負契約を締結し、いずれも、完成期日が同月三〇日とされているが、道路新設工事の場合と同じく、その工期である同月三〇日、ひいては会計年度末である同月三一日までに完成することは到底不可能であることを知りつつ、前記予算措置の都合上、会計年度内での工期として処理したものであった。

6  第二事件被告三宅及び同平木は、平成七年三月二三日、実際に現場に赴き、道路新設工事が完成しておらず、全体の進捗状況は約三〇パーセント程度であったが、第二事件被告三宅は、起債に必要となることから、道路新設工事が完成したものとして、検査調書を作成した。同被告は、この時点においても同年五月三一日までには右工事が完成するとの見通しを持っていた。

同様に、第二事件被告三宅及び同平木は、平成七年三月三〇日、舗装及び照明工事、修景工事①及び同②についても工事の進捗状況を確認し、第二事件被告三宅は、右各工事が完成していないにも関わらず、検査調書を作成した。

7  そして、平成六年度の出納閉鎖期日である平成七年五月三一日までに平成六年度の出納事務を完了せねばならないことから、因島市は、平成七年五月二二日に過疎対策事業債として、広島県市町村職員共済組合から金四四〇〇万円を年利3.85パーセントで、同月二九日には、地域総合整備事業債として因島農業協同組合から平成五年度繰越明許分の二億二二六〇万円及び平成六年度分として二億二〇〇〇万円をいずれも年利3.595パーセントでそれぞれ借入れた。

8  また、平成七年四月末から五月半ばにかけて、大量の降雨があり、施工中の水路が崩壊したり、谷間を埋めていた土砂が流出することがあった。加納屋建設は、降雨に備え、防水用のテントを張るなどの措置を講じていた部分もあったが、これらの被害は、その予想を上回る豪雨によるものであり、その結果、工事の進捗状況が悪化し、同年五月三〇日段階での本件各工事全体の進捗状況は約八〇パーセントほどであり、結局、同月三一日の出納閉鎖期日までに本件各工事が完成しないことが明らかとなった。

9  しかしながら、平成七年五月三一日の出納閉鎖期日以降は、平成六年度の出納事務が一切できなくなることから、起債により借入れた金員のうち、本件各工事の請負代金相当額の処理が問題となり、同月三〇日、第一、第二事件被告岡野、第二事件被告木村、同原山及び同三宅の四名の間で協議がなされた。

その結果、手続上は本件各工事に対する請負代金を支出することとするが、工事が完成していないのにこれを請負人らに支払うことは適切でなく、本件各工事が実際に完成するまでは、これを因島市で保管しておくこととした。しかしながら、収入役である第二事件被告原山が右請負代金の保管を拒否したことから、第一、第二事件被告岡野の提案により、経済建設部長名義の預金通帳を作成し、そこで保管しておくこととなった。

10  右協議結果を受けて、同日(平成七年五月三〇日)、第二事件被告箱崎の専決により、本件各工事の請負人らに対する請負代金の支出命令(道路新設工事につき金一億一一一二万八二七〇円、舗装・照明工事につき金四二五七万一九六〇円、修景工事①及び同②につき金四八六八万六〇四〇円)がなされ、翌三一日、第二事件被告原山は、いったんはその支出手続をとったが、第二事件被告三宅は、各請負人らに了解を得て、支出命令書の領収欄に請負人らの記名押印を得て、同日、因島市の指定金融機関である訴外株式会社広島銀行因島支店に経済建設部長名義の預金口座を作成し、右請負代金合計額金二億〇二三八万六二七〇円を入金した。

右請負代金合計額金二億〇二三八万六二七〇円のうち、起債による借入で賄われた部分は、金一億八二〇〇万円であり、その内訳は、金一三七〇万円が平成七年五月二二日に起債した年利3.85パーセントの過疎対策事業債により借入れられたものであり、金一億六八三〇万円が同月二九日に起債した年利3.595パーセントの地域総合整備事業債により借入れたものである。

11  その後、本件各工事のうち、舗装・照明工事につき、平成七年六月二三日に山陽建設から工事完成届が提出され、第二事件被告三宅は、同月三〇日に現場に赴き、その完成を確認し、検査調書を作成した。同様に、修景工事②につき同月三〇日に、修景工事①につき同年七月五日に、それぞれ千晃から工事完成届が提出され、同被告は、同月七日に現場に赴き、その完成を確認し、検査調書を作成した。また、道路新設工事につき同月一七日に加納屋建設から工事完成届が提出され、同被告は、同月二一日に現場に赴き、その完成を確認し、検査調書を作成した。

12  第二事件被告三宅は、本件各工事がいずれも完成したことを確認したので、平成七年七月二四日、経済建設部長名義の預金口座から、各請負業者に対して、請負代金額を送金し、右口座を解約した。右口座における預金開始日である同年五月三一日から解約日である同年七月二四日までの預金額金二億〇二三八万六二七〇円に対する預金利息は、金三万五二九一円であり、これは、因島市の歳入に加えられている。

13  その後、第一、第二事件被告岡野は、芸予文化情報センター進入路新設工事の施工にあたり、工期が大幅に遅延したことに対し、給料の減給措置を講ずるべく、平成七年九月一九日、因島市議会に対し、因島市長及び同市助役である第一、第二事件被告岡野及び第二事件被告木村の同年九月分の給与を一〇パーセント減額する条例案を提出し可決された。

また、本件により、第二事件被告三宅及び同箱崎は戒告処分を、第二事件被告平木は訓告処分を受けた。

二  第一事件について

1  本件支出命令及び本件起債の違法性について

(1) 法二〇八条一項は、地方自治体の会計年度を毎年四月一日から翌年三月三一日までとし、同条二項は、法令が特に規定する場合を除くほか(法二一二条、二一三条、二二〇条三項、二三三条の二、二四三条の五(地方自治法施行令一六〇条、一六五条の八、一六六条の二))、各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもって充てることを規定している(会計年度及びその独立の原則)。

(二) また、地方自治法施行令一四三条は、歳出の会計年度所属区分を規定し、同条一項四号においては、工事請負費のうち、相手方の行為の完了があった後支出するものについては、当該行為の履行があった日の属する年度をもって歳出の会計年度区分と規定している。

そして、請負代金の支出は、本件約款及び本件規定に照らせば、前金払や部分払など特段の措置がとられない限り、工事が完成し、その完成検査に合格した後の請負人の請負代金請求の日から四〇日以内とされており、本件各工事の請負代金について見ると、その支出時期は、加納屋建設に対する前金払を除けば、早くとも(請負人らの代金請求が完成検査日当日になされたものとして)、本件各工事の完成検査日であり、これは、前記認定のとおり、道路新設工事につき平成七年七月二一日、舗装・照明工事につき同年六月三〇日、修景工事①及び同②につき、同年七月七日であるから、いずれも平成七年度の会計年度区分に該当するものである。

(三)  しかしながら、本件各工事の請負代金が平成六年度の予算として計上されており、しかも翌年度への繰越手続が取られていないことは前記認定のとおりであるから、これを平成七年度の会計年度区分に該当する本件各工事の請負代金に充てることは、法二〇八条二項に反する違法なものであり、右繰越手続を経ずに、本件各工事の請負代金支出のためになされた本件起債及び本件支出命令はいずれも法二〇八条二項に反する違法な財務会計行為である(このことは、第一事件被告も認めるところである。)。

なお、法二三五条の五は出納閉鎖期日について定めているが、会計年度末の翌日である四月一日から出納閉鎖期日である五月三一日までの期間は、会計年度末直前に確定した債権債務について、現金の未収未払の整理を行うための出納整理期間であり、右期日まで平成六年度の事業をなしうるとする趣旨のものでないことはいうまでもない。

2  第一事件被告の責任について

(一) ところで、本件起債及び本件支出命令は、法令上本来的には地方公共団体の長の権限であるところ(法一四九条二号、二三四条の四第一項等)、因島市決裁規定によれば、本件起債については、総務部長の専決事項とされており、本件支出命令については、担当課長の専決事項とされている。

そして、普通地方公共団体の長が自己の権限に属する財務会計上の行為を補助職員に専決させた場合において、右補助職員が長の権限に属する財務会計上の行為を専決により処理した場合は、長は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体に対し、右補助職員がした財務会計上の違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁平成三年一二月二〇日判決・民集四五巻九号一四五五頁参照)。

(二)  本件においては、前記認定のとおり、第一事件被告は、遅くとも、平成七年一月一九日には、道路新設工事が平成六年度末である平成七年三月三一日までには完成し得ないことを知りつつ、本件各工事の予算措置について繰越手続を取らないことを少なくとも容認していたというべきであり、かかる第一事件被告の態度は、本件各工事の請負代金の支出が平成七年度の歳出であることを認識しながら、平成六年度の会計で処理しようとするものであり、法二〇八条二項に反する違法なものである。

その後、総務部長による本件起債行為及び建設課長による本件支出命令は、第一事件被告の容認した違法な会計処理の方針を踏襲するものであり、右各財務会計行為自体、平成七年度の歳出を平成六年度の歳入で賄うことを目的とするもので、法二〇八条二項に反するのみならず、同被告が、工事の遅延及び年度内完成が不可能であることを認識した平成七年一月一九日ころ、適切に本件各工事の予算措置について繰越手続をとっていれば、法二〇八条一項に反する本件起債及び本件支出命令を回避し得たのであり、同被告は、因島市長として、適切に繰越手続をとることによって、違法な本件起債及び本件支出命令の専決を阻止すべき立場にあったにもかかわらず、これを容認したものであり(繰越明許費は予算を構成するものであり(法二一五条三号)、予算の編成及びその議決のための市議会の招集等は、前記前提事実のとおり、市長決裁事項である。)、前記(一)を前提としても、同被告は、総務部長及び建設課長が専決した財務会計上の違法行為により因島市が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である。

3  損害について

(一) 本件では、前記前提事実及び前記認定のとおり、第一事件被告において、本件各工事が平成六年度末に完成しないことが判明した時点において、その予算措置を翌年度に繰越明許する手続を取ることは可能であり、かつ、決裁規定上も下位の補助機関に専決権限が与えられておらず、同被告の権限だったのであり、同被告において、法二〇八条二項を遵守すべく右繰越明許手続を経ていれば、原告の主張するとおり、少なくとも本件各工事完成後に起債することが可能であったことが認められる。よって、法二〇八条二項に違反する本件起債及び本件支出命令が不可避であり、本件利息分の支出もまた不可避であったということはできず、本件利息分の支出は、違法な財務会計行為である本件起債及び本件支出命令と相当因果関係のある損害というべきである。

もっとも、第一事件被告は、本件起債及び本件支出命令は、同被告の裁量行為である旨主張するが、本件約款及び本件規定の定める特段の措置(前金払、部分払など)をとるか否かについて同被告に何らかの裁量の余地が認められるとしても、右特段の措置をとらない以上は、請負代金の支払時期は、本件約款及び本件規則により羈束されたものであることは明らかであり、その時期は前記認定のとおりであって、同被告の主張には理由がない。起債の時期については、法二三〇条二項が特段の規定を置いていないことから、地方公共団体の長の裁量に委ねられていると解する余地もないではないが、本件起債においては、裁量権の行使の結果として起債の時期が選択されたものではなく、本件各工事の請負代金の予算措置について、繰越明許手続を怠ったことから、やむを得ず出納閉鎖期日直前に起債したものであることは明らかであって、裁量権の範囲を逸脱したものと言わざるを得ず、この点に関する第一事件被告の主張も理由がない。

(二) また、第一事件被告は、本件措置により、損害額をはるかに上回る地方交付税措置がなされることを主張するが、同被告において、適切に繰越明許手続をなしていれば、翌年度に工事が完成してから起債しても、同措置を受けることができたのであるから、同被告が主張する利益と原告が主張する損害を単純に比較して損害の有無を論じるべきものではない。

また、因島市が現に支出する右損害分についても、一定の割合による地方交付税措置が見込まれているが、前示認定のとおり、本件各工事の請負代金支出のための本件起債及び本件支出命令が法二〇八条二項に反する違法なものであることからすれば、必ずしも第一事件被告の見込みどおり地方交付税措置がなされるとは限らないといわざるを得ず(地方財政法二六条等参照)、現実に地方交付税措置がなされた場合に、その割合に応じて損害分が填補されたものとすることは格別、現在の段階においては、右損害分における地方交付税相当額も、因島市に生じる現実の損害であるといわざるを得ない。

(三) したがって、本件においては、本件各工事の予算措置を適切に繰越明許する手続を取ったうえで、早くとも、本件各工事のうち最初に完成検査を終え、請負人(山陽建設)の請求があり次第支払時期となり得る平成七年六月三〇日(舗装・照明工事の完成検査日)以後に起債すべきものというべきであり、本件起債から右前日である同月二九日までの間に因島市が支払った利息分合計は、金五八万六八〇一円(過疎対策事業債につき金1370万円×0.0385÷365日×39日=金5万6357円(一円以下切り捨て、以下同じ。)、地域総合整備事業債につき金1億6830万円×0.03595÷365日×32日=金53万0444円)である。

なお、前記前提事実のとおり、本件各工事の請負代金は、平成七年五月三一日から同年七月二四日まで、経済建設部長名義の預金口座により保管されており、その間の預金利息金三万五二九一円が因島市に入金されていることが認められるから、因島市の被った損害額は、前記利息分合計額からこれを控除した金五五万一五一〇円と認められる。

4  以上により、原告の本訴請求(第一事件)は、第一事件被告が金五五万一五一〇円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を因島市に返還するよう求める限度で理由がある。

三  第二事件について

1  原告は、本件各工事の建設工事請負契約書ないしは建設工事変更請負契約書で示された工期に完成しなかったことをもって、工事の完成が遅延した旨主張し、これに対し、第二事件被告らは、右各工期は、会計処理の都合上のもので、請負人らが右各工期に工事を完成させることを約したものではない旨主張する。

2  この点、前記認定事実によれば、本件各工事の予算措置を次年度に繰越明許する手続を取らなかったことにより、本件各工事の会計処理はすべて平成六年度のものとして処理していたことが認められ(それが法二〇八条二項に反するものであることは前示のとおりである。)、道路新設工事の当初の工期(平成六年一〇月一八日から平成七年二月二八日までの一三四日)と着工後に変更された工期(着工は平成七年一月一〇日、工期末は同年三月二〇日までの七〇日)を比較してみても、約二分の一に短縮されており、到底工事の完成が可能な工期ではなく、そのことを第二事件被告岡野も右工事の請負人加納屋建設も認識していたことからすれば、第二事件被告らの主張するとおり、道路新設工事の変更後の工期は、因島市側の会計処理の都合上形式的に定められたものに過ぎず、加納屋建設が右工期での完成を約したものとは認められない。また、その余の工事についても、道路新設工事を前提とする舗装や修景を内容とするものであり、道路新設工事の進捗状況に左右されるものと認められるから、道路新設工事と同様、因島市側の会計処理の都合上形式的に工期が定められたものであり、請負人らが右工期での完成を約したものではないと認めるのが相当である。

3  この点、平成六年度の出納閉鎖期日である平成七年五月三一日までに本件各工事の会計処理をすべて終了しなければならなかった因島市側の事情に照らせば、右の事情が因島市側の現場監督員であった訴外峯松やその上司である第二事件被告平木などを通じて、請負人らにも伝わり、これによって、請負人らに対する関係でも、本件各工事の工期末を、平成七年五月三一日(着工から一四一日)とする旨の黙示の合意が成立したと認める余地があるかの如くである。

しかしながら、右の程度の事情をもって、工期の合意が成立したものとすれば、請負人らは、工事の完成が平成七年五月三一日を遅延すると契約上所定の遅延損害金支払義務を負わなければならないことになるが(本件約款四九条一項、二項)、かかる結果を容認することは、請負人らに酷であり、契約当事者の通常の意思に反し相当でないのみならず、前記認定のとおり、もともと用地買収の遅れという因島市側の事情により道路新設工事の着工が遅れたことや平成七年五月に因島市に降雨があり、予想外の大雨によって、本件工事現場においても土砂の流出などの被害があり、工事の進捗状況が悪化し、工事への影響があったことなどが認められ、しかも変更後の工期が因島市側の都合による会計処理上のものに過ぎず、請負人らがこれに合意したものとは証拠上認められない本件においては、請負人らが工事遅延の責任を負担しなければならない理由はないというべく、したがって、因島市が請負人らに対し、本件遅延損害金請求権を有することを前提とする原告の主張は、理由がないというべきである。

また、前記のとおり、請負人らは、契約書上の工期に拘束されるものではないから、請負人らにおいて因島市に対して工期の変更を求める手続をとらなかったことは、請負人らに工事遅延の責任はないとした右認定を左右するものではないというべきである。

4  もっとも、前記のとおり、本件各工事の契約書上の工期末が、因島市側の会計処理の都合上定められたもので、請負人らが右工期での完成を約したものではなく、さらに、出納閉鎖期日である平成七年五月三一日を本件各工事の工期末と認定することもできないとすると、本件各工事の請負契約は当初の工期が変更された以降は、工期の定めのないものといわざるを得ないが、因島市発注の工事につき工期の定めがないことは、そのこと自体、本件規則に反する違法なものといわねばならない。

かかる違法な事態は、因島市側の杜撰な財務会計上の処理に起因するものであり、これに直接、間接に関与した第二事件被告ら市の幹部の行政責任は免れないところであるが、法二四二条の二第一項四号に基づく損害賠償代位請求訴訟である本件においては、前示のとおり、契約の相手方である請負人らの責に帰すべき事由が見当たらず、工事遅延による債務不履行責任を認めることができないのであるから、請負人らに対する関係で、因島市に工事遅延による損害賠償請求権が発生する余地はなく、したがって、第二事件被告らが請負人らに対しその徴収を怠ったものとはいえないこと、換言すれば、原告が第二事件被告らに対し、因島市に代位して行使すべき権利自体の存在を認めるに由ないものというべきである。

5  以上により、因島市は、請負人らに対して遅延損害金請求権を有していないというべきであるから、第二事件被告らが請負人らに対しその徴収を怠ったとして、因島市に代位して同被告らに対し右遅延損害金相当の損害賠償を求める原告の本訴請求(第二事件)は理由がない。

四  結論

よって、第一事件における原告の請求のうち、第一事件被告が因島市に対し、損害賠償金五五万一五一〇円及びこれに対する平成八年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払うよう求める限度で理由があるからこれを認容し、第一事件被告に対するその余の請求及び第二事件原告の同事件被告らに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六一条、六四条を適用し、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官松村雅司 裁判官金村敏彦 裁判官竹添明夫)

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