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広島地方裁判所 平成9年(行ウ)5号 判決 2000年11月16日

原告

A有限会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

中田憲悟

被告

広島東税務署長 伊藤勉

右指定代理人

橋本健

林研志

被告

国税不服審判所長 島内乗統

右指定代理人

山根薫

堀尾昌志

被告両名指定代理人

池下朗

長尾俊貴

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告広島東税務署長が、原告に対し、平成三年一二月二七日にした平成二年六月一日から平成三年五月三一日までの事業年度法人税の所得金額を五三二万六五八九円、課税土地譲渡利益金額を四九四三万八〇〇〇円、納付すべき税額を一六三二万二六〇〇円とする更正処分のうち、課税土地譲渡利益金額を四九四三万八〇〇〇円とした部分、納付すべき税額一四九万一二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

二  被告国税不服審判所長が、原告に対し、平成八年一一月二七日にした平成二年六月一日から平成三年五月三一日までの事業年度の法人税更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分に対する審査請求をいずれも棄却した裁決を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が被告広島東税務署長の行った更正処分等が違法であるとしてその一部の取消しを求めるとともに、被告国税不服審判所長が行った裁決にも違法があるとしてその取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

原告は、宅地建物取引業等を目的として、昭和五一年七月一三日に設立された同族会社である。

2(一)  原告は、平成二年一二月一〇日、乙から、広島市安佐北区小河原町の山林(以下「乙土地」という。)を、代金八四〇〇万円で購入し、同月二一日、B株式会社(以下「B」という。)に対し、乙土地を代金九〇〇〇万円で売却した(右一連の乙土地に係る取引を、以下「乙取引」という。)。その際、原告から、原告に対して二五二万円の手数料(以下「乙手数料」という。)が支払われた。

(二)  原告は、広島市安佐北区小河原町の山林のうち、四二二・二三平方メートル(以下「丙土地」という。)を、丙に譲渡する旨の契約を解約した際、同人へ手付倍返金として六〇〇万円(以下「丙手付倍返金」という。)を支払った(右一連の丙土地に係る取引を、以下「丙取引」という。)。

3  確定申告及び本件更正処分等

原告は、平成二年六月一日から平成三年五月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)に係る法人税につき、左記(一)ないし(三)各記載の金額を、各土地の譲渡等による収益の額に対する原価の額(以下「本件原価の額」という。)に算入して、別表1の「確定申告」欄記載のとおり、確定申告をした(以下「本件確定申告」という。)ところ、被告広島東税務署長は、左記(一)ないし(三)各記載の金額は本件原価の額に算入することができないとして、平成三年一二月二七日、原告に対して、同表の「更正等」欄記載のとおり、法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。

(一) 広島市安佐北区小河原町の土地(地目は畑)及び同の公衆用道路の共有持分の一部(以下「甲土地」という。)並びに同の土地上の建物(以下「甲建物」という。)が株式会社C(以下「C」という。)に譲渡された際、原告が株式会社D(以下「D」という。)に支払った違約金四〇〇〇万円及び原告から原告への支払手数料七八〇万円(以下「甲手数料」という。)。

(二) 乙手数料二五二万円。

(三) 丙手付倍返金六〇〇万円。

4  異議申立て、審査請求及び裁決

原告は、平成四年二月二四日、被告広島東税務署長に対して、本件更正処分等を不服として異議申立てをしたが、同年五月二一日、被告広島東税務署長はこれを棄却する旨の決定をした。

そこで、原告は、平成四年六月二一日、被告国税不服審判所長に対して、審査請求をしたが、平成八年一一月二七日、被告国税不服審判所長はこれを棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした(以上の経過は、別表1課税処分等経過表「異議申立」欄ないし「審査裁決」欄記載のとおり)。

二  争点

1  原告は、いったん、甲土地・建物を売買により丁から取得したか。

(一) 被告らの主張

原告は、平成二年九月二五日に丁から甲土地・建物を取得し、同年九月二八日にそれらをCに譲渡した(右一連の甲土地・建物に係る取引を、以下「甲取引」という。)。甲取引に係る原告の行為は売買である。

なお、土地登記簿上では丁から直接Cに甲土地の所有権が移転したことになっているが、これはいわゆる中間省略登記であるから右事実を否定する根拠とはならない。

(二) 原告の主張

否認する。

(1) 平成二年九月二五日の原告・丁間の甲土地・建物の売買及び同年九月二八日の原告・C間の甲土地・建物の売買は、いずれも実質は丁・C間の売買の仲介である。

単純に丁・C間の売買とすると、丁に対し多額の土地譲渡益課税が課せられるため、原告・丁間及び原告・C間の各売買を仮装して丁の譲渡益を少なくするとともに、ペーパー・カンパニーであるDを介在させることによって、丁から要求のあった裏金を捻出しうる形態を整えたにすぎない。

(2) 仮に、丁からの裏金要求がなかったとしても、裏金は原告が保留しているものではない(右主張について、被告らから時機に後れた攻撃防御方法の提出であるとの申立てがなされているが、理由がないので右申立ては却下することとする。)。

(3) 以上より、原告の甲取引に関する行為は、土地売買の仲介に対する報酬を受ける行為であるところ、その報酬の額からみて、租税特別措置法(平成三年法律第一六号による改正前のもの。以下「措置法」という。)六三条の二第二項に規定する行為に該当せず、同条一項の規定は適用されない。

2  原告主張の各支出が「当該収益に係る原価の額(以下「譲渡原価」という。)及び当該超短期所有土地等に係る土地の譲渡等のために直接又は間接に要した経費の額(以下「付随費用」という。)」(措置法六三条の二第二項)に該当するか。

(一) 原告の主張

(1) 甲取引について

<1> 丁に対する支払金 三六〇〇万円

仮に、甲取引における原告の行為が売買であるとしても、原告は売主である丁に対し、三六〇〇万円を支払っているから、これを譲渡原価に含めるべきである。

仮に、支払先が丁でなかったとしても、原告は、当時、原告が従業員として雇用していた戊又はDと名乗るものに支払っているのだから、譲渡原価に含めるべきである(右主張について、被告らから時機に後れた攻撃防御方法の提出であるとの申立てがなされているが、理由がないので右申立ては却下することとする。)。

<2> 領収証作成手数料 四〇〇万円

原告は、Dと名乗る者に対して領収証作成手数料として四〇〇万円を支払った。

<3> 戊に対する支払手数料 七五〇万円

原告は、甲取引に係る支払手数料として戊に対し、七五〇万円を支払った。

<4> 地元対策費 八〇〇万円

原告は、甲土地の周辺の地元住民に対し、住民対策協力金として、同意書取得等に八〇〇万円を支払った。

<5> 工事代金 五〇〇万円

原告は、甲土地上の雑木、雑草や未登記の掘立小屋を撤去して整地するため、有限会社Eに対し五〇〇万円を支払った。

<6> 交通費 一万一二八〇円

原告は甲土地への交通に有料道路を利用し、そのための交通費として三〇八〇円を支払った。

また、甲取引に関し丁宅への訪問のためタクシー代八二〇〇円を支払った。

<7> 交際費 九五七九円

原告は甲取引に関し、丁に対して菓子代として九五七九円を支払った。

(2) 乙取引について

<1> 己に対する支払手数料 五〇万四〇〇〇円

原告は己に対し、乙土地取得の支払い手数料として五〇万四〇〇〇円を支払った。

<2> F有限会社(以下「F」という。)に対する支払手数料 七五万円

原告はFに対し、平成三年二月一日、乙土地取得のための仲介手数料として七五万円を支払った。

<3> 地元対策費 五〇万円

原告は開発行為のための隣接同意(境界同意、施工同意)を得るために、乙土地の隣接土地の所有者に対し、五〇万円を支払った。

<4> 登記費用及び印紙代等 二七万五九〇一円

原告は乙取引に関する登記費用として、司法書士に対する手数料、収入印紙、証紙、土地家屋調査士に対する手数料として、合計二七万五九〇一円を支払った。

<5> 境界確認測量費等 一一七万六五七〇円

原告は乙土地の測量のため、平成二年一二月二九日に測量費として一一二万六五七〇円を支払った。このように測量費が多額に及んだのは、乙土地に隣接する土地の所有者(丁)から測量に関しての協力が得られず、困難な測量となったためである。

また、原告は平成二年一二月一五日、乙土地の境界確認のために立会を依頼した乙土地の近隣者五名に対し、日当として一万円ずつを支払った。

<6> 雑木伐採費 三〇万円

原告は、雑木伐採費として三〇万円を支払った。

<7> 交通費及び交際費 二五万六一七五円

原告は乙取引に関し、交通費として二万〇一六〇円を、また交際費として二三万六〇一五円をそれぞれ支払った。交際費が多額に及んだのは、乙土地の所有者が売却に難色を示していたため、交渉や接待が多数回に及んだためである。

(二) 被告らの認否・反論

原告が主張する各支出はいずれも否認する。

(1) 甲取引について

<1> 丁に対する三六〇〇万円の支払

原告は四〇〇〇万円をDに対する違約金として支払ったのであって、三六〇〇万円を丁に支払った事実はない。

右違約金四〇〇〇万円は、甲土地・建物の購入の代価や甲土地・建物の購入のために要した費用ではないから、譲渡原価の額に算入することはできない。

<2> 領収証手数料四〇〇万円の支払

原告はDに対し四〇〇〇万円を違約金として支払ったのであって、領収証手数料四〇〇万円を支払った事実はない。

<3> 戊に対する支払手数料

原告が主張する金額が戊に対し支払われていたとしても、その支払が甲土地取得のために支出された費用か否かは不明であるから、付随費用に該当するとは評価できない。

<4> 地元対策費

原告が主張する地元対策費について、書証としては振替伝票しかなく、支払事実を直接明らかにするものではないところ、その金額が甲土地周辺の住民に支払われていたとしても、その支払は誰に対するものか、また甲土地取得のために支出された費用かは不明であるから、付随費用に該当するとは評価できない。

<5> 工事代金

甲土地の雑木、雑草等を除去して整地する費用は、丁・原告間の売買契約では丁の負担とする特約が付されている。また、原告が掘立小屋というのは甲建物であり、同建物は甲取引の対象となっているから原告が取壊し費用を支払う理由がない。さらに、右の特約事項を踏まえれば、原告主張の金額が甲建物の撤去及び整地費用に係る費用として有限会社Eに支払われたとしても、その支払は丁に対する立替金等としての性質を有する。

よって、付随費用に算入されるべきものではない。

<6> 交通費及び交際費

原告が主張する交通費及び交際費について、書証としては振替伝票しかなく、支払事実を直接明らかにするものではない(交際費を除く。)ところ、その支出は支出目的が不明であるから一般に公正妥当な会計処理の基準によれば、販売費及び一般管理費として計上されるべき費用であり、かつ、原告自身も右科目に係る費用を販売費及び一般管理費に計上して原価外処理しているから、これらを甲取引に係る原価の額に含めることはできない。

(2) 乙取引について

<1> 己に対する支払手数料

原告が主張する金額が己に対し支払われていたとしても、その支払が乙土地取得のために支出された費用か否かは不明であるから、付随費用に該当するとは評価できない。

<2> Fに対する支払手数料

原告が主張する支払手数料については、支払事実が明らかでないところ、その金額がFに対し支払われていたとしても、乙土地取得に係る契約書には、仲介業者としてFの記載はなく、乙土地取得のために支出された費用か否かは不明であるから、付随費用に該当するとは評価できない。

<3> 地元対策費、登記費用・印紙代等、境界確認測量費等、雑木伐採費

原告が主張する右費用については、支払事実が明らかでないところ(地元対策費五〇万円を除く。)、その各金額が支払われていたとしても、その支払は誰に対するものか、また、乙土地取得のために支出された費用かは不明であるから、付随費用に該当するとは評価できない。

<4> 交通費及び交際費

原告が主張する支出は、支払事実が明らかでないところ、その支出は支出目的が不明であるから、一般に公正妥当な会計処理の基準によれば、販売費及び一般管理費として計上されるべき費用であり、かつ、原告自身も右科目に係る費用を販売費及び一般管理費に計上して原価外処理しているから、これらを乙取引に係る原価の額に含めることはできない。

3  土地譲渡利益金額を計算する場合の直接又は間接に要した経費の額の計算につき納税者が当初概算法(後記第三、二2(一)参照)による処理をしていた場合でも、実額配賦法(同参照)による処理へ変更することができるか。

(一) 原告の主張

原告は、本件係争年度の確定申告に当たり、土地譲渡利益金額を計算する場合の直接又は間接に要した経費のうちの一部につき概算法に基づく原価外処理を行ったが、右確定申告の書類は税法に無知であった原告の関係者が作成したものであり、原価外処理を意識して行ったものではない。したがって、このような場合には、実額配賦法による処理変更を認めるべきである。

(二) 被告らの主張

租税特別措置法施行令(平成三年政令第八八号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という。)三八条の五第四項、三八条の四第六項及び同条第八項の規定によれば、実額配賦法によることができるのは、実際に支出した直接又は間接に要した経費の額のうち、当該土地の譲渡に係る部分の金額を合理的に計算して、法人税申告書(修正申告書を除く。)に記載した場合に限られるのであるから、原告が確定申告書において行った概算法による申告を、その後において実額配賦法に変更することは許されない。

4  本件裁決に裁決固有の瑕疵があるか。

(一) 原告の主張

被告国税不服審判所長は、原告の審査請求に対する審理において、当時、解散状態になっていたDや丁への金銭の流れなど重大な事実に関して、調査の必要性があるにもかかわらず、全く調査をせず、また、本件甲及び乙の各取引に重要な関連を有する広島市安佐北区小河原町及び同の土地取引に全く言及せずに裁決をしたのであるから、重大な違法がある。

(二) 被告らの主張

原告の主張は、被告国税不服審判所長が調査を十分にしなかったため、本件処分における土地譲渡原価についての誤まりを看過したということに尽き、結局のところ本件処分の実体的な違法を理由とするものであるから、裁決固有の瑕疵には該当しない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(甲取引の性格)について

1  事実経過

証拠(甲二、三〇、乙一ないし七、同八の1ないし3、九、一〇、一六の2、証人壬、同癸、同丁及び同戊)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告・Dを名乗る者との間の専任媒介契約締結

原告はD(昭和六二年一二月一〇日に株主総会決議により解散し、同月一四日にその旨登記が経由されており、当時清算中の会社であった。)を名乗る者との間で、平成二年八月一五日、原告が媒介して、丁の所有する甲土地・建物を二億二三八〇万円(一坪当たり二〇万円)で、Dを名乗るものに売却するとの専任媒介契約を締結した。

原告は、右契約に基づいて甲土地・建物を取得するために、原告の従業員として雇用していた戊に、丁との交渉をさせた結果、丁から甲土地・建物を取得できることとなった。

(二) Cからの購入依頼

Cは、当時の工場が手狭になったため、その一部を移転するために広島県安芸郡府中町の近隣で一〇〇〇坪程度のまとまった土地を探していたところ、G株式会社(以下「G」という。)に勤務していた庚(Cの代表取締役辛の子)から、丁がCの希望条件に合致する物件として甲土地を有していることを聞き、丁と交渉を行っていた原告にその旨を申し入れた。原告は、Cからの取得希望価格がDを名乗る者からのそれに比べて高額であったため、甲土地・建物をCに取得させることにした。

その結果、原告は甲土地・建物をDを名乗る者に譲渡するとの専任媒介契約を履行できなくなったため、原告はDを名乗る者に対して違約金を支払うことになった。原告は、甲土地・建物をCに取得させるに際し、原告が丁からいったん甲土地・建物を取得し、それを売却する方法を採ることにより、丁・原告間の売買代金と原告・C間の売買代金の差額の一部をその違約金に当てることにした。

(三) 丁・原告間の契約

原告と丁は、平成二年九月二五日、売買物件を甲土地・建物、売買価額を二億六〇〇七万七〇〇〇円(一坪当たり二五万円)、物件の引渡期日を平成二年一〇月末日とする土地建物売買契約を締結した。

原告は、右土地・建物売買契約に基づき、平成二年一〇月一九日に手付金三〇〇〇万円を、また、平成二年一一月二八日に残金二億三〇〇七万七〇〇〇円を、甲土地・建物の売買代金として、それぞれ丁に支払った。

(四) 原告・C間の契約

CとGは、平成二年九月二八日、目的物件を甲土地・建物及び広島市安佐北区小河原町の山林のうち甲土地の隣接部分二五七平方メートルとし、媒介価額を三億五九二七万七〇〇〇円とする専任媒介契約を締結した。

原告とCは、右同日、Gの仲介の下で、目的物件を甲土地・建物及び広島市安佐北区小河原町の山林のうち甲土地の隣接部分二五七平方メートルとし、売買価額を三億五九二七万七〇〇〇円(一坪当たり三〇万円)、物件の引渡期日を平成二年一一月八日とする土地建物売買契約を締結した。

その後、原告とCは、平成二年一一月二〇日、土地建物売買契約に係る契約内容のうち、甲土地・建物以外の部分について、無条件解約する旨の覚書を交わし、その結果、甲土地・建物の売買価額は三億一二〇九万円(一坪当たり三〇万円)に変更された。

原告は、右土地建物売買契約に基づき、平成二年九月二八日に手付金五〇〇万円、同年一〇月一九日に中間金三一〇〇万円及び同年一一月二八日に残金二億七六〇九万円を、甲土地・建物の売買代金としてCから受領した。

(五) 原告からDを名乗る者への違約金の支払

原告は、平成二年一一月二八日、Dを名乗る者に対して違約金四〇〇〇万円を支払った。

2  評価

前記認定事実及び丁・原告間及び原告・C間の甲土地・建物の売買契約についてはいずれも契約書が作成され、それに基づいて現実に売買代金の決済がされていること、原告はその旨を会計帳簿(乙三)に記載していること、前記の売買の形式を採ることにより、四〇〇〇万円もの違約金を捻出しているほか原告は甲取引により利益を得ており、その利益の額は仲介手数料に比して高額であることの諸事情に照らせば、甲取引については、当初原告が媒介して、丁の所有する甲土地・建物をDを名乗る者に売却するとの専任媒介契約に基づき、原告と丁との間で交渉が行われていたが、同じ頃Cから甲土地の取得申し入れがあり、結果的にCへ甲土地・建物が売却されることになったため、原告は右契約を履行できなくなったことから、原告はDを名乗る者に対して違約金を支払うことになったが、その違約金を捻出するために丁・原告間の売買及び原告・C間の売買という二つの売買契約を締結し、甲土地・建物をいったん取得することとしたものということができる。

これに対して、原告は、原告からDを名乗る者へ支払った四〇〇〇万円は違約金ではなく、原告が丁から甲取引について裏金を要求され、その裏金を捻出するために、原告・丁間及び原告・C間という二つの売買の形式を採ったにすぎず、また、仮に丁から裏金を要求された事実がなくとも、原告は裏金を保留しているものではないので、甲取引の実質は丁・C間の売買の仲介であると主張する。

しかしながら、原告が主張するような丁が原告に対して裏金を要求した事実や丁又は戊が四〇〇〇万円を現実に取得した事実はこれを裏付ける証拠がなく認めることはできないし、また、丁・原告間の売買代金と原告・C間の売買代金の差額から、Dを名乗る者に支払う違約金四〇〇〇万円を捻出した点も、前記認定のとおりであって、原告の右主張は採用することができない。

さらに、原告は、乙取引と同時に、丁所有の広島市安佐北区小河原町の山林四五二・三六平方メートルの土地及び同の山林八六四・六平方メートルの土地が順次、有限会社H、Bに売却されたが、実際には、右取引は丁・B間の取引に他ならず、丁から裏金作りを要求された戊が、ダミー会社として有限会社Hを介在させ、二つの売買があるかのように仮装させることによって二つの売買代金の差額を裏金として捻出し、原告も丁の仲介人として右取引の仲介行為をなしたものであって、右事実から、甲取引も仮装取引であることが推認されると主張する。

しかしながら、右取引について、丁が戊に対して裏金作りを要求した事実や裏金を現実に取得した事実を認めるに足りる証拠はないので、この点の原告の主張も採用することはできない。

そして、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  争点2(譲渡原価及び付随費用の該当性)及び同3(概算法から実額配賦法への変更の可否)

1  Dを名乗る者に対する違約金四〇〇〇万円の支払

(一) 譲渡原価について

超短期所有土地等に係る土地譲渡等がある場合の特別税率を定める措置法六三条の二に基づいて定められた措置法施行令三八条の五第三項は、同施行令三八条の四第五項一号イを準用しているところ、同規定によれば、課税土地譲渡利益金額の計算上、土地等の譲渡に係る収益の額から控除する原価の額を、当該譲渡に係る土地等の譲渡直前の帳簿価額(当該帳簿価額のうちに各事業年度において支出した利子の額が算入されている場合には、その額を控除した金額)とする旨規定されている。

ところで、措置法及び措置法施行令には帳簿価額の定義規定はないから、帳簿価額の意義は一般法たる法人税法(以下「法」という。)及び法施行令により定めるべきであるところ、法施行令三二条一項一号及び同令五四条一項一号は、たな卸資産又は原価償却資産の購入の代価(当該資産の購入のために要した費用を含む。)と当該資産を販売又は事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額を、当該資産の取得価額とする旨規定している。右規定は、会計慣行を具体化して、これを明文化したものにすぎないから、土地等の非減価償却資産についても、会計慣行に従い、法施行令五四条一項一号の規定を類推適用すべきである。

したがって、超短期所有土地等を譲渡した場合の帳簿価額は、法施行令五四条一項の類推適用により、当該土地の購入代価、購入のために要した費用合計額と解すのが相当である。

(二) 譲渡原価該当性

Dを名乗る者に対する四〇〇〇万円の支払は、原告が甲土地をCに売却するととなったために、Dを名乗る者の間に締結された専任媒介契約を履行できなくなったことに対する違約金として支払われたものであるから、甲土地の購入の代価でないことは言うまでもなく、購入のために要した費用とも認められないので、譲渡原価に算入することはできない。

2  その他の付随費用について

(一) 付随費用の取扱い

法人について、当該事業年度において当該法人が保有する土地等を譲渡したことによる譲渡益(土地等の譲渡等による収益の額からその収益に係る原価の額及び土地の譲渡等のために直接又は間接に要した経費の額を控除したもの、措置法六三条二項、六三条の二第二項)がある場合、その譲渡益については、その法人の当該事業年度の他の損益と通算されて本来の法人税の課税対象とされるほか、その土地の譲渡益のみを分離して、それに対して措置法所定の特別税率を適用して特別課税が行われることになっている(土地重課制度、措置法六三条、六三条の二)。そして、法人が昭和六二年一〇月一日から平成四年三月三一日までの間に超短期所有土地等(当該法人がその取得した日から引き続き所有していた土地等で所有期間が二年以下であるもの。)に係る土地の譲渡等をした場合には、当該超短期所有土地等に係る土地の譲渡等に係る譲渡利益金額(譲渡益)の合計額に一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した金額を重課するとされている(措置法六三条の二第一項、以下「本件超短期所有土地等に係る土地重課税」という。)。

右の土地重課制度は、土地の譲渡益に重課することにより、土地投機を抑制し、併せて土地の供給促進に配慮しようとするものであるが、超短期所有土地等に係る土地の譲渡等については、土地転がしのように極端な土地投機を防止する必要があることから特に税率が加重されている。

前記の「土地の譲渡等のために直接又は間接に要した経費の額」(付随費用)については、<1>譲渡した土地等の保有期間において要した負債利子の額として、措置法施行令三八条の四第六項一号イ及びロに掲げる金額の合計額に一〇〇分の四の割合を乗じて計算した金額<2>土地の譲渡等に要した販売費及び一般管理費の額として同号イ及びロに掲げる金額の合計額に一〇〇分の四の割合を乗じて計算した金額とする旨の概算による計算方法(「概算法」という。)により算定することとされている(措置法施行令三八条の五第四項、三八条の四第六項)。ただし、法人が措置法施行令三八条の四第六項第一号又は第二号に掲げる金額に係る経費の額につき、当該事業年度においてした土地の譲渡等のすべてについて支出するこれらの経費の額(各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されるものに限る。)のうち当該土地の譲渡等に係る部分の金額を合理的に計算して法一五一条一項に規定する法人税申告書(法二条三九号に規定する修正申告書を除く。)に記載した場合には、当該計算した金額を概算法によって計算した額に代えて控除することができる(当該計算方法を「実額配賦法」という。措置法施行令三八条の五第四項、三八条の四第八項)。

(二) 計算方法の変更の可否について

証拠(甲三、二五の1、乙一二、一三、証人壬、同日癸及び同a)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件係争年度の確定申告に当たり、付随費用の算定を概算法によっており、申告書(甲三、以下「本件申告書」という。)に実額配賦法による記載をしていなかったこと、本件申告書を作成したのは、原告の当時の代表者であるbの娘であるcであったことが認められる。

そうすると、措置法施行令三八条の五第四項、三八条の四第八項によれば、原告は、その後、実額配賦法による算定を主張することができないのは明らかである。

この点、原告は確定申告の段階で概算法によって付随費用の算定を行っていたとしても、右確定申告の書類は税法に無知であった原告の関係者が作成したものであり、後に実額配賦法による算定への変更を認めるべきであると主張する。

そもそも、納税者に概算法による計算方法が認められている趣旨が、付随費用に係る支出が土地の譲渡等のために必要であるかの判断が困難なものが多く、また、支出の必要性が認められる場合であってもその支出額が著しく少額であり、各支出の記帳事務が繁雑となる場合があるため、納税者を記帳事務から解放するともに、課税標準額及び税額の確定を容易かつ迅速にすることで課税事務の円滑化を図るためにあることからすると、納税者が、一旦、概算法によることを選択して確定申告をした場合には、たとえ実際に要した付随費用の額が右概算額を超えるため、実額配賦法を選択した場合に比して納付すべき税額が多額になったとしても、実額配賦法への算定方法の変更を主張して課税処分の取消しを求めることは、原則としてできないというべきである。

もっとも、概算法と実額配賦法の選択に関する錯誤が客観的に明白かつ重大であって、当初の概算法選択の無効を主張して、実額配賦法への変更を認めなければ、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合にはこの限りではない。

これを本件についてみるに、本件申告書は若干の計算間違い等のミスがあるものの、全体としては所定の方式に則って記載されており、その作成担当者であるcにおいても、それなりの税法に関する知識があったことが伺われ、税に無知であったとは必ずしもいえないこと、本件申告書(甲三)別表三(二)によれば、同表の「直接又は間接に要した経費の額の計算」欄の「負債利子」及び「販売費及び一般管理費」欄には、付随費用の計算につき、概算法と実額配賦法それぞれの場合を記載する箇所が存在し、記入者に両方法の存在が分かるようになっていることに照らせば、作成担当者c又は原告に、付随費用の計算方法の選択につき、錯誤があったことが客観的に明白であるとまでは言い難い。また、法定の申告期限までに収支決算を終了しさえすれば、概算法と実額配賦法のいずれが税負担において有利になるのかは容易に判明するのであるから、必ずしも、納税者たる原告に酷であるともいえない。

したがって、原告主張にかかる事情が、当初の概算法選択の無効を主張して、実額配賦法への変更を認めなければ、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合とは認められず、他にこれを認めるに足りる主張立証もない。

よって、原告の右主張は採用できない。

3  したがって、付随費用の該当性については、判断するまでもなく、原告の主張には理由がない。

三  本件更正処分及び本件賦課決定処分の適法性について

1  本件更正処分の適法性について

本件事業年度において、原告がDを名乗る者に支払った違約金四〇〇〇万円を譲渡原価として控除できないことについては前記で認定したとおりであり、原告は、平成二年一二年一〇日、乙から、乙土地を、代金八四〇〇万円で購入し、同月二一日、Bに対し、代金九〇〇〇万円で売却したこと、甲手数料、乙手数料を付随費用として控除することができないこと及び丙取引は本件超短期所有土地等に係る土地重課税の対象とならないことは当事者間に争いがなく、その他に原告が本件訴訟において主張する付随費用を控除することができないことについては前記のとおりである。

以上を前提に、措置法六三条の二、同法施行令三八条の五、同条の四、法施行令五四条一項を適用又は類推適用して、甲土地及び乙土地の超短期所有に係る土地譲渡利益金額を算定すると、別表2記載のとおり、五五一四万五六九三円(甲土地分が四九八四万五六九三円、乙土地分が五三〇万円)となり、これから国税通則法一一八条により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額は五五一四万五〇〇〇円となる。

よって、原告の本件事業年度における土地譲渡利益金額は本件更正処分のそれ(四九四万八〇〇〇円)を上回るから、本件更正処分は適法である。

2  本件賦課決定処分の適法性について

前記のとおり、本件更正処分は適法であり、原告が納付すべき法人税額を過少申告したことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められない。よって、同法所定の計算方法に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。

四  争点4(裁決固有の瑕疵)について

原告は、被告国税不服審判所長が、重大な事実に関して、調査の必要性があるにもかかわらず、全く調査をせずに裁決をしたことは違法であり、裁決固有の瑕疵があると主張する。

行政事件訴訟法一〇条二項は、いわゆる裁決主義が採られていない場合に、裁決の取消訴訟において主張し得る違法事由を制限しており、法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分に対する裁決についての取消訴訟については、裁決主義は採られていないから、右裁決の取消訴訟においては、原処分を維持した裁決の違法事由のうち、処分の実体的違法理由となるものは原処分の取消訴訟で争われるべきものであって、裁決取消訴訟において争うことができるのは、それ以外の裁決固有の違法事由に限られることになる。しかしながら、原告の右主張は、要するに被告国税不服審判所長が十分な調査を行わなかったことにより、誤った裁決をしたということに尽きるのであり、これは原処分の実体的な違法を理由に本件裁決の取消しを求めていることに帰着するものというべきであるから、前記条項に違反するものである。

そして、他に本件裁決手続について固有の違法事由があることを認めるに足りる証拠はない。

よって、原告の右主張は採用できない。

第四結論

以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉了造 裁判官 谷口安史 裁判官 秋元健一)

別表1

課税処分等経過表

<省略>

別表2

土地譲渡利益金額の計算

<省略>

土地譲渡税額の計算

<省略>

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