広島地方裁判所 昭和25年(ヨ)19号 判決
申請人 広島電鉄労働組合
右代表者 執行委員長
被申請人 広島電鉄株式会社
一、主 文
被申請人が昭和二十五年二月二十一日附をもつて別紙人名目録記載の者に対してなした懲戒解雇の意思表示は、その効力を停止する。
訴訟費用は被申請人の負担とする。
二、事 実
第一、申請の趣旨
申請人より被申請人に対する解雇無効確認等の本案訴訟の判決確定にいたるまで一、被申請人が昭和二十五年二月二十一日附をもつて別紙人名目録記載の者に対してなした懲戒解雇の意思表示は、その効力を停止する。二、被申請人は右の者が被申請人の被傭者として業務を行うことを妨害してはならない。三、被申請人は右の者に対し賃金の支払その他労働条件につき、従前の待遇を不利益に変更してはならない。四、訴訟費用は被申請人の負担とする。
第二、申請の理由
一、申請人組合は被申請人に雇傭せられている約千六百五十名の労働者をもつて組織する法人たる労働組合であり、別紙人名目録記載の者は申請人組合に属する被申請人の従業員である。
二、被申請人は昭和二十五年二月二十一日右十名の従業員に対し次の通知をした。
「昭和二十四年十二月二十六日午前三時頃会社(被申請人のこと)組合(申請人のこと)間の争議が解決し同三時十五分頃組合が二十四時間スト解除の指令を発し労調法による争議権が消滅したのにその直後において従業員中の一部が組合に関係なく広島市皆実町二丁目会社寄宿舍附属食堂を不法に占拠集合して事を構へ擅に職場を離脱しよつて職場の秩序を索乱した事件に関し就業規則第百九条同第百十二条第九号第十二号及び第百十三条第十三号により懲戒解雇する」。
三、しかし右懲戒解雇の意思表示は次の理由により無効である。
(一) 本件当事者間には昭和二十四年十二月末頃越年資金並びに基準賃金改訂で紛争が起り、申請人は昭和二十四年十一月十五日労調法所定の手続を経て同年十二月二十六日二十四時間ストを決行しようとしていたが、広島地方労働委員会の調停委員会より両当事者に勧告案が提示され、申請人は罷業決行の前日、即ち十二月二十五日の夜間臨時大会を開き、右勧告案を受諾するかどうかにつき協議を重ねた末翌二十六日午前二時五十分受諾に決し、被申請人も亦これを受諾した。そして右受諾に基く協定書に申請人が正式調印を了したのは同日午後三時直前である。従つて申請人の罷業権が制約を受けるにいたつた日時は昭和二十四年十二月二十六日午後三時頃である。
(二) ところが右臨時大会に出席した代議員は、時間的に各職場において十分な討議をするいとまを持たなかつたため、必ずしも各職場の意向を把握していなかつた上、組合の当初の要求と受諾された勧告案との間に雲泥のへだたりがあるため、下部組合員の間には右勧告案を受諾すべきでないとの意見が強く、前記の通り受諾と決するや、これに反対する一部代議員及び組合員はこれを不満として大会場から引き揚げ、皆実町の寮において勧告案を拒否し実力行使によつて被申請人に組合の要求を容れさせようとし、寮生大会を開いたのであつて、その数は凡そ百五、六十名であつた。
(三) そこで組合執行部は前記協定書の正式調印までに右の一部組合員に対し「スト不行使」を勧告すると共に、他方被申請人に対してはあくまで組合内部の問題として申請人組合において責任をもつて善処するから、会社はみだりに右組合員を処分しないよう口頭及び書面をもつて申し入れ、また会社においても、これらの者を処分するとの積極的な意思はなんら示さなかつた。若しその当時今回の如き被申請人の処分が少しでも予想されていたならば、申請人組合として絶対に協定書の正式調印はしなかつたのであるが、そうした事態の発生をみる懸念がなかつたので前記の通り調印をすませ、右組合員もその時頃から組合幹部の再三にわたる説得に従い態度を改め平静に復したものである。
(四) しかるに、被申請人は右組合員の行動をもつて、勧告案受諾後のものであるから、争議権なくしてされた違法のものというのであるが、これは明かに争議行為と争議状態との区別を弁えないものである。即ち勧告案の受諾により、争議行為は停止したが、争議状態は依然存在し、前記協定書の調印により争議状態は終るものである。このことは若し当事者の一方がなんらかの事情変更等の事由により正式調印を拒んだ場合には、勧告案受諾後と雖も争議権の行使ができることからみても明かであるのみならず、また労働組合法第十四条が労働協約(本件協定書による協定も労働協約である)の効力発生を書面による署名にかからしめていることからしても明白である。
(五) 如上申請人が本決勧告案の受諾をした前後の経緯や雰囲気殊に闘争委員会の本件争議に対する指導性の欠陥等諸般の事情からみて下部の一部組合員がこうした行動にでたことは眞にやむを得なかつたものというべく、これらの行為は本件のような大争議の場合前記調印で終結した申請人の争議の一環として行つた争議行為を含む正当な組合活動であつたのである。しかるに被申請人がこれをとらへて職場離脱の不当違法の行動と断じ本件組合員に対し懲戒解雇の処分をもつて臨んだことは、明かに不当労働行為及び労働関係調整法第四十条の違反行為であるのみならず、信義誠実の原則に反し、権利の濫用といわねばならない。従つて右懲戒解雇は無効である。
四、仮に然らずとしても、本件懲戒解雇は次の理由により無効である。
(一) 被申請人が本件懲戒解雇をしたのは前記の通り就業規則違反としてであるが、右、就業規則第百十五条によれば、従業員を懲戒解雇するには賞罰委員会の全員の合意によりこれを決定しなければならないのに、昭和二十五年一月十七、十八の両日本件に関する賞罰委員会が開かれ、申請人組合からは副執行委員長二名と書記長とが委員として出席し、本件十名の者に対する懲戒解雇には絶対反対の意思を表明したので、出席者全員の合意は得られなかつたのである。従來賞罰委員会の議に付せられた数百件に及ぶ懲戒案件は、ことごとく出席委員全員の合意により決定されてきた慣習があり、若しも右委員会の決定が多数決でもよいとすれば、会社側の十数名の委員に対し正副委員長の僅か三名しか委員を送らない組合側の意見は常に葬り去られるおそれがあり賞罰委員会に組合側の委員を加えたことは無意味となるのである。要するに本件懲戒解雇は賞罰委員会の有効な決定を得ていないから無効である。
(二) 若し賞罰委員会において全員の合意を得られず、決定にいたらぬ場合には、本件当事者間で締結されている団体協約に基く経営協議会に附議決定しなければならない。従業員を懲戒解雇にするような「重要なる人事に関する事項」を経営協議会に附議して処理すべきことは明かであるのに、この手続を経ることなくされている本件懲戒解雇はこの点からしても無効というべきである。
五、右の通り本件懲戒解雇はいずれの点よりみても無効であるから、申請人は被申請人を相手方とし解雇無効確認等の訴訟を提起しようとするものであるが、本案判決確定にいたるまでこのままの状態では本件被解雇者等は賃金の支払を受けられない上に、宿舍の寮から退去を強要され、また事務所の出入も禁ぜられ、更に現今の就職難の社会状態のもとでは解雇の如きは本人とその家族にとり死活の問題であつて、その損害は大であるに反し、被申請人会社は本邦有数の大会社であるから僅か十名の被解雇者を仮に従前の地位に復せしめてもその負担は軽いといわねばならぬ。
よつて本件申請に及ぶものである。
第三、被申請人の主張に対する反駁。
(一) (労働協約の問題)被申請人は昭和二十四年十二月二十三日本件当事者間の労働協約を一方的に破毀通告してきたが、かかる一方的破毀はゆるされない。元來右労働協約は昭和二十一年七月八日成立し特約に基き一箇年毎に自動的に更新されてきたところ昭和二十三年七月六日両当事者は覚書を取りかわし、右労働協約を確認し、新労働協約締結まで右協約の有効なることを認めたのである。従つて当事者は新協約の締結まで一方的な協約破毀について重要な制限を加えられ、昭和二十四年七月八日更新された一箇年の期限を有する協約を、被申請人が一方的に破毀することはできない(もつとも、昭和二十五年七月八日の更新を予め拒絶したというのなら格別である)。よつて本件当事者間には労働協約が有効に存在し、これに基く経営協議会も消滅していないのである。
(二) (被申請者等の懲戒事由の存否)懲戒解雇は従業員から永久に反省の機会を奪う最重の処分であつてみれば、高度に不都合な行為のあつたものに対してのみなさるべきことは明かであり、かかる処分をするには、それ以下の軽い処分に付する余地がないかどうか、即ちいかなる方法をもつてしても改悛の見込がないかどうかの観点から判定されねばならない。しかるに本件被解雇者等には、従來こうした就業規則違反の行為はないのであつて、一方同人等の行為は組合活動に熱心のあまり諸種の事情から本件の如き行動にでたものである。被申請人はこうした情状につき考慮することなく、就業規則中に定められた譴責、減給、出勤停止等の懲戒処分を全然問題にせず、一挙に懲戒解雇に処するということは苛酷であり、規則の適用上妥当な措置とはいえない。しかも法的拘束力をもつ就業規則の適用を誤つた使用者の本件懲戒処分は無効と解すべきである。
第四、答弁の趣旨
一、申請人の本件申請を却下する。
二、訴訟費用は申請人の負担とする。
第五、被申請人の主張の要旨。
一、申請人の主張事実中、申請人組合がその主張するが如き組合であること。別紙人名目録に記載せられている者が被申請人の従業員であつたところ被申請人が申請人の主張する趣旨でこれらを懲戒解雇処分に付したこと、その主張するような賞罰委員会が開かれたこと、その主張日時に団体協約が成立したこと及びその主張するような覚書が申請人被申請人間に締結されたことはいずれもこれを認めるがその余の主張事実はすべてこれを否認する。
二、(本案前の抗弁)
(一) 解雇は個々の労働契約の解除であるから、解雇無効を争い、この効力の停止という仮の地位を定める仮処分申請の当事者は、労働契約の当事者である個々の労働者でなければならない。申請人組合は、右法律関係に関係がないから、本件申請の当事者適格を欠くものである。
(二) 申請人組合の組合規約に定める「目的及び事業」の範囲には、本件の如き仮処分申請は包含されていない。すなわち本件申請は目的逸脱の行為である。
(三) 仮に申請人に当事者適格がありとしても、本件仮処分申請の如きは組合大会で決定されねばならない。しかるに本件申請は、右の決定を得ることなく、組合幹部の專断によりされているものといえるから不適法である。
三、(申請人組合の争議権の消滅)昭和二十四年十二月二十六日午前三時前頃申請人組合は申請人主張の勧告受諾の意思を表示し、被申請人はこれより前既に調停委員会に対し受諾の意思表示をしていた。ついで同三時頃両当事者の代表者は、同時に同委員会に出頭し双方が勧告案受諾の意思を表示すると共にこれを受領した。しかも右勧告案には、十二月二十六日断行予定のストライキを中止し、業務の正常な運営を維持するよう直ちに適切なる措置を講ずる旨の規定があるから、申請人組合がこれを受諾したのは争議権を抛棄したものに外ならない。さればこそ申請人は同日午前三時十五分スト解除の指令を発しているのである。かりに争議権の抛棄が認められないにしても、斡旋の成立により争議は解決したのであるから、目的の達成により争議権は消滅すると解すべきである。
申請人は協定書に署名捺印を終えたのは同日午後三時直前であつたと主張するが、それは午前八時過頃のことであつた。申請人は本件当事者間の協定は書面に作成することによつてその効力を生ずると主張するが、協定は合意の成立によつてその効力を生じ、書面の作成を要する要式行為ではない。かりに要式行為であるとしても、前記の通り午前八時過には双方の署名捺印を了えたからその時に争議権は消滅した。
申請人は右協定は労働組合法第十四条にいう労働協約に該当すると主張するが右協定に定めているのは一時補給金及び越年資金であつて、いずれも一時的性質のものであり、また一般的かつ基本的な性質を備えていないから右労働協約に該当しない。
四、(被解雇者の行為の概要)被解雇者等は右の通り申請人組合の争議権が消滅したに拘らず、なお争議行為を継続する意思のもとに二十六日午前三時頃から同日午後五時頃までの間次の如き違法行為を敢てし、公衆に多大の迷惑をかけた。
(一) 被解雇者のうちA、Bは代議員として二十五日夜半から翌日二十六日にかけて行われた臨時組合大会に出席し、その他の八名は同僚数十名の者とこれを傍聴していたが、勧告案受諾決定後、直ちに退場し皆実町会社寄宿舍に引き揚げ、同所食堂を許可なく不法に占拠し、同じく傍聴より引き揚げた五、六十名を集合させ、C、D、F等がそれぞれ午前三時三十分頃より同四時頃にかけて寄宿舍に就寢中の軌道課員を呼び起してこれに参加を求め約百名を集めてここに合計百五、六十名の集団を結んだ。
この集結は青年部又は寮生のけつ起大会というにあつたらしくDが司会者となり、先ず最初にEを議長に指名し、勧告案受諾に反対しあくまで団結して闘争するよう被解雇者等は交々けつき激励し団結を強調した。Cは集団欠勤を提案し他の者もこれに和し、十分審議することなく当日全員欠勤して闘うことを決定し、特に集団欠勤という言葉を避けて「疲れて頭が痛く事故を起す危険があるから休む」という名目で届けることとし、D、E、G、H、Iを中心とする二、三十名の者がスクラムを組んで千田町軌道課に赴き、係員に対し「寮生を代表していうが、吾々は昨夜一睡もしていないので欠勤します。欠勤届は後から出します」とGが全員を代表して発言し、直ちにスクラムを組んで帰つた。
(二) E、D、G、I等は疊を敷くことを提案し、勝手に附近の会社建物内にあつた畳十数枚を運び込みこれと腰掛とを使用して籠城することとし、なお、被解雇者等は団結の強化を図り、裏切つて離脱する者を防止し、外部から他の者が入るのを阻止するため、三箇所の出入口に鍵をかけ、主としてD等が指揮して出入口の警戒をさせた。
(三) 被解雇者等は種々闘争的煽動的発言をしたらしいが、殊にBはけつ起を激励し、宮島線の者も共同して闘争すると恰も鉄道課従業員も同一行動をとるような口ぶりで参加者を煽動した。
(四) 午前十時頃食堂係長が現場に赴き制止しようとしても、阻止されて中に入れなかつたし、ついで午前十時三十分頃制止のため軌道課現業係長森沢喜多次、同副係長眞田昇の両名が現場に赴いたが中に入れず、辛うじて入口において中からでてきたA、E、F等に対し入室を求めたが拒んで中に入れなかつたところ、その際Eは全員が解雇になつてもよい程の固い決心でやつている旨の強い発言をしているのであつて、右係長等はむなしく引取つた。
(五) 被解雇者等は団結を固めるため、威圧を加えるような言辞をろうした外、出入口の警戒と相俟つて多数の者を軟禁状態に置いて、集合の状態を続けたのである。
かくて被解雇者等の行為によつて参加者全員が職場を離脱したのであつて、途中若干の脱落者があつたとはいえ、この状態は同日午後四時頃まで続いたのである。
(六) 被解雇者の中
(イ) C、J、G、Iは当日午前番勤務につくべきであつたが勤務につかず。
(ロ) D、E、Hは当日午後番勤務につくべきであつたが勤務につかず。
いずれも本件の主謀的中心人物であり、煽動行為があつた。
(ハ) Fは当日公休であつたが、右七名と同様本件の主謀的中心人物であり、煽動行為があつた。
(ニ) Bは己斐寮々長であり、一時間位行動を共にして、午前五時二十五分頃帰寮したといつているが、この時間は明かにし得ない。
しかし、けつ起を激励し共同闘争をするという好餌をもつて煽動している点その情が重いのみならず共闘企図のもとに帰つたが、鉄道課の者が既に出勤していたためその目的を果さなかつたものである。
(ホ) Aは当日午前八時より午後四時までの勤務につくべきであつたが、勤務につかず、本件の主謀的中心人物であり煽動行為があつた。
五、(被解雇者等の行為による支障)前記の被解雇者等の行為が会社の業務の運営その他公衆に与えた支障は次の通りである。
(一) 当日の参加者で勤務につかなかつた者の状況(軌道課乘務員関係)
(イ) 午前番の欠勤者 四十四名(出勤すべき者百八十四名)
(ロ) 午後番の欠勤者 三十八名(出勤すべき者百九十四名)
(二) 電車運転に及ぼした影響として、平常午前中の臨時車は三十輛であるが当日運転した臨時車は十七輛、午後の臨時車は十八輛ないし二十輛であるが当日運転したもの十九輛である(系統車は午前午後とも五十二輛であつて当日も同数を運転した。)これは非番員の呼集、監督者、事務係長等の乘務により辛うじて右のように運転し得たのであり、出庫時刻も平素と異り、特にラツシユ時には甚だしい混雑をきたし、公衆に多大の迷惑を及ぼした。
(三) 本件発生のため、非番員はじめ幾多の他の従業員に多大の迷惑をかけそのため業務能率を減殺した外、皆実町食堂と本社食堂に対し支障を与えた。
六、(本件懲戒解雇の正当性)前記の通り被解雇者等の行為は正当な争議行為又は組合活動でなく、労働法第三十七条に違反している。
その上、右は被申請人の事業に対する協力及び誠実の義務、職場秩序保持の義務に違反し、ほしいままに事を構えて集団的に職場を離脱し職制上の上長の指示に従わない違法な行為である。
右の事実に照し、被申請人は被解雇者等を就業規則に基ずき処断したのであつて「労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて」解雇したのでないから、これを不当労働行為であるとする申請人の主張は失当である。
申請人自ら被解雇者等の行為を「常識を逸した行為」(昭和二十四年十二月二十六日附被申請人宛文書)「アナキスト的行為」(一九五〇年一月十九日附日本共産党広島地方委員会宛抗議文)であると自認し、また「一年かあるいは二年の出勤停止処分に相当する行為」(賞罰委員会の議事録参照)であることを自認しているほどであるから、被申請人の処分行為は、信義誠実の原則に反しないし、また解雇権の濫用でないことも明かである。若し本件のような惡質の行為に対し、解雇権を行使することができないようでは、公共事業である交通事業の円滑な運営を到底期待できないし、営業秩序を保持することができないといえるので、本件処分は当然な措置であり、少しも権利行使の範囲を逸脱していない。
七、(賞罰委員会の性格等)就業規則第百十五条は「懲戒は別に定める賞罰委員会に附議して決定する」と定め、賞罰委員会規程第一条は「表彰及び懲戒はこの委員会において審議決定する」と定めているが、附議して決定するとは、附議することなくして企業権に包せつせられる人事権に基ずいて一方的に決定することはないという意味であり、審議決定するという表現も同様である。附議又は審議した場合に、それに伴う決定のあることは当然であるが、人事権がこれに拘束される趣旨ではない。
賞罰委員会における議決が全員一致でなされることは望ましいことであり、また従来可及的にそうした形で運営されたことも事実である、しかしそれはあくまで期待であつて要件ではない。
従つて申請人の右に反する主張も失当である。
八、(労働協約破毀の有効)本件当事者間に締結した団体協約には「本協約の期限は昭和二十一年七月八日より一箇年間とし協約当事者双方に於て特に之が改訂の意思表示なきときは自動的に一箇年宛継続するものとす」と定められており、この規定により協約は一箇年継続したが昭和二十三年五月申請人は改訂の申入をし、被申請人も同年六月改訂の意思表示をしたので協約は自動的更新効力を失うにいたつたところ、当事者は無協約の空白状態を避けるために、同年七月六日申請人のいうように「当事者間の労働協約は新労働協約締結まで有効であることを双方認める」こととした。併しこの合意は新協定の成立という不確定期限附のものか或は条件附のものとみるべきであつて、少くとも期間を定めたものでないことは明かであるから、更新の効力は既に失われているので被申請人が申請人に対し昭和二十四年十二月二十三日右協約の破毀通告をしたのは適法であつて、右協約は労働組合法第十五条第二項本文により同日終了している。従つて右協約に基ずく経営協議会も当然消滅していることになる。
よつてこの点についての申請人の主張も失当といわねばならない。かりに協約がなお有効に存続しているとしても、人事の事項に関し経営協議会に附議するという規定は、協約のいわゆる債権的部分であるから、本件解雇について附議の手続を欠くことは解雇の効力に消長をきたさないといえる。
九、(経営協議会と賞罰委員会との関係)申請人が主張するように本件当事者間に労働協約が今尚存続する限りにおいては懲戒解雇の処分は当然経営協議会に附議されねばならないことはこれを認めるけれどもその主張に係る賞罰委員会は右労働協約ではなく就業規則にその定めがあるところ就業規則は労働協約に反してはならないのであるから就業規則で懲戒解雇を賞罰委員会の全員の合意によつて決定する旨規定することは右労働協約に違背した無効のものと解せざるを得ない結果となる。これは賞罰委員会が会社の単なる諮問機関であることを忘れてこれを意思決定の機関であるとしひいては労働協約の優先的効力を無視した結果生じた議論であつて従業員を懲戒解雇するには賞罰委員会の全員の合意でこれを決定しなければならないとの申請人の主張は理由がない。
十、(被解雇者等の行為の正常性の主張に対する反駁)組合大会が九十七対四十二の圧倒的多数をもつて勧告案受諾の決議をした以上、組合員はこれに服従し、全努力を傾注し正常な業務の運行を図ることが当然であり、組合員に要請されている協力誠実の義務である。しかるに受諾に不満を抱く少数の組合員が本件の如き違法な行為をするについて、やむを得ない事情は全くないところである。申請人は、勧告案が要求より低位にあつたから一部従業員の不満を買うにいたつたと主張しているが、八千円の賃金ベースを九千円に引き上げ更に越冬資金一人八千円の支給を要求したのに、勧告案ではベースの賃上は認めることなく昭和二十四年十月ないし十二月までの補給金として一人当り六百円越年資金として三千円だけを認めたことだけからすれば、申請人の要求に比すれば低位であるともいえる。
しかし同年十一月現在全国私鉄百七十社の平均基準賃金支払額は七千四百八円であつたから被申請人会社の八千円の賃金ベースはこれより上位にあつたもので、大都市の著名私鉄のそれに比較し、決して劣るものではない。また越年資金三千円も全国私鉄に比しなんら遜色あるものではなかつた。他方被申請人会社の経理面からみるならば、勧告案を受諾するときは株主に利益配当をすることも不能な状況にあつた。被申請人会社は終戦後七回の決算期に五分配当二回、三分配当一回を行うたのみであるから、この際五分配当をしなければ株主の協力も期待できない事情にあるにも拘らず、かえつてそれを犠牲に供して勧告案を受諾した事情を了知している組合員としては、当然勧告案受諾の決議に服すべきであつた。従つて本件のような行為をとることが、真にやむを得ざるものであつたとはいえないし、また勧告案を不満とすべき理由もないのである。
第六、(疎明省略)
三、理 由
第一、被申請人の本案前の抗弁。
所属組合員が使用者から懲戒解雇の処分に付された場合、これが無効なる旨主張し、地位の保全を訴求するにつき、労働組合が被解雇者とは独立に当事者としての適格を有するものと解する。それは一般に労働組合の本質的目的から、そうなるのであるけれど、被解雇者本人の意に反してまで訴訟追行できるわけのものではない。
本件申請をするについて、申請人組合員の総意に反するものとの疏明はないので、一応組合代表者において組合の名において本件申請をすることは適法といえる。
第二、本件争議の経過。
申請人組合は被申請人会社の従業員約千六百五十名をもつて組織される法人たる労働組合であつて、別紙人名目録記載十名のものは右組合員であるが、被申請人会社が昭和二十五年二月二十一日就業規則違反の理由により右の十名のものを懲戒解雇の処分に付する旨の意思表示をしたことは当事者間に争がない。
成立について争のない甲第三号証と乙第二、三号証、第十号証、証人a、同b、同c、同dの各証言並びに申請人組合代表者eの本人尋問の結果を綜合すると、申請人組合は昭和二十四年十月から十一月にかけて基準賃金八千円ベースの九千円引上げと越年資金一人当り八千円の要求を被申請人会社に対してしたが、同会社の拒否するところとなり、同年十一月十五日基準賃金の改訂につき、同年十二月十日越年資金につき、それぞれ広島地方労働委員会へ調停の申請をした結果、同委員会広島電鉄労働争議調停委員会は十二月十四日調停案を当事者双方に提示した。その要旨は、(一)基準賃金の改訂は認めない、(二)昭和二十四年十月から同年十二月までの三箇月分一時補給金として組合員一人平均六百円(税込)を被申請人会社は支給すること、(三)越年資金として被申請人会社は組合員一人平均三千円(税込)を支給することというのであつた。
申請人組合では臨時大会を開いて受諾の可否を審議した結果圧倒的多数をもつて右調停案を拒否することに決し、その旨右委員会に報告したが、被申請人会社ではこれが受諾の意思表示をしたのである。しかし申請人組合では被申請人会社の反省を求める要ありとし、十二月二十日から二十三日まで組合幹部数名のものが「ハンスト」を決行し、ついで二十三日には同月二十六日午前零時を期して二十四時間ストライキを断行する旨のスト宣言を発したところ、前記調停委員会はその後も斡旋をつづけ、同月二十五日午後十一時頃当事者双方に勧告案を提示した。申請人組合では直ちに闘争委員会を開いて勧告案の諾否を検討し約一時間にわたる討議の結果一応受諾の結論を得た。ところが右勧告案の内容は前記調停案のそれと大差なく僅かに組合員一人当り平均支給額合計三千六百円に対する所得税を一時会社が立替払をして置き、昭和二十五年二月から四箇月の間に組合員から返済させるという点だけが異つていた。これより先、申請人組合では勧告案提示のことあるを予期し、二十五日午後四時頃代議員を集め臨時組合大会を開き、一応休憩に入つていたものであるが、前記の通り闘争委員会の結論を得た後(翌二十六日午前零時過頃)これを再開し、前記勧告案受諾の可否をはかると共に闘争委員会の一応の結論も発表し、討論の後無記名投票の結果九十七対四十二の多数をもつて、受諾に決した。それは午前三時前頃であつたが、直ちに前記調停委員会に勧告案受諾の旨報告したところ、既に被申請人会社も同じく受諾の意思表示を了していた。ついで申請人組合は午前三時十五分頃ストライキ中止の指令を発し、同組合書記長新田浩が会社側常務取締役福原孟等と協定書の文案その他前記補給金等の具体的配分方法について協議を重ねた末午前七時前頃には協定書の文案について双方の了解成立し、午前八時過ぎ会社側で協定書を作成しはやくも午前十時頃までの間に会社側、組合側は相ついでこれに署名捺印を了へたものである。
然るに右臨時大会に代議員として出席した者の一部と傍聴席にいた軌道課所属の組合員数十名のものらは、前記大会の決議を不満として大会場より直ちに引き揚げ、広島市皆実町の会社寄宿舍構内の食堂に集結し、寮生多数を集合させ、ここに本件被解雇者十名を含む総計百五、六十名の集団を結び、勧告案受諾に対する不満から団結して闘争するの気勢をあげ、外部勢力の援助も手伝い、外来者の入室を禁じ種々闘争方法を論議し、二十六日当日には全員一せいに欠勤することを申合せてこれを実行し、組合幹部及び軌道課現業係長等が面接を求めてもこれを拒否して入室させなかつたものであるが、午前十一時頃にいたり申請人組合執行委員長eと二、三時間にわたる折衝に入るに及びその説得を漸く聞くようになり、午後三時過ぎには大体平静に帰り、午後四時過頃集団を解散したものであることが一応疏明される。
第三、被解雇者等の行為の違法性。
申請人は被解雇者等の右行為は未だ争議状態が終了しない間に正当な組合活動の一環として為されたものであると主張するけれども前段説示のように被解雇者等は申請人組合の決議に不満で組合の統制に服さず勝手に争議行動をとつたものであるから右主張は理由がない。
第四、本件解雇の効力。
被申請人会社が被解雇者等の右行為は「事業に対する協力心を欠き業務上についての上長の指示に従わずその他職場の秩序を紊したとき」(就業規則第百十二条第九号)「その他職務上の義務又は法令若しくは会社の諸規則に違反し懲戒を必要とするとき」(同条第十二号)に該当するとし「その情が重い」(第百十三条第十三号)として懲戒解雇処分をしたことは当事者間に争がないが、被解雇者各自に対する解雇通知書には「情が重い」事由は何等明示されておらず(甲第二号証参照)申請人組合に対する通知書にはわずかに「本事件に密接な関係のある」「十名を限つて懲戒解雇とした」旨記載(甲第一号証参照)されてあるところ、被申請人の疏明方法によれば、その真意は右被解雇者等はその主謀的中心人物であつて煽動的行為があつたものとなす如くであるが、証人Eの証言成立に争のない乙第四、十号証、真正に成立したと認められる乙第八号証の一、(但し一部、記録第六十二丁裏参照)同号証の三の(ツ)乙第十二号証中車掌f、g各陳述書を綜合すれば、本件食堂占拠事件には組合員以外の者も参加し、それ等の影響が相当大きかつたことが窺われるのみならず、前記説示の如く調停案が圧倒的多数で拒否されたにかかわらず、これと大差のない勧告案が組合員の充分な討議と諒解を得ることなくスト突入後三時間にして午前三時頃に代議員のみの臨時大会で受諾と決定したことや組合のスト中止指令は右食堂の占拠者に対して速かに徹底しない憾のあつたこと及び被申請人の主張によるも会社としては右事件のため或程度の犠牲を払つた上のことではあるけれども、当日午前のラツシユ時には系統車は平常通り運転したが臨時車が三十輛予定のうち十七輛しか運転できなかつただけで午後のラツシユ時は殆んど平常通り運転し得たことを彼此綜合して考えると被申請人提出の疏明資料によつては、前記のように本件被解雇者等に懲戒解雇に値する程の「情の重き」行為があつたことの心証を起さない。
そうすると被申請人は就業規則に違反して懲戒解雇処分に付すべからざるものを処分したことになり、他の争点について判断を加えるまでもなく右処分は無効といわねばならない。
第五、保全の必要
如上本件懲戒解雇が一応無効と認められるに拘らず、被解雇者等が本案判決確定にいたるまで、賃金の支払を受けられず、事業場への出入を禁ぜられることは大なる損害であり、就業難の今日の社会情勢等諸種の事情を綜合すれば、本件懲戒解雇の停止の仮処分を求める必要があるものというべきである。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
( 裁判官 三宅芳郎 浅賀栄 熊佐義里)
別紙目録<省略>