広島地方裁判所 昭和25年(行)4号 判決
原告 坂友行
被告 比和町農地委員会
補助参加人 広島県農地委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用及び参加によりて生じた費用はいずれも原告の負担とする。
二、請求の趣旨
被告が昭和二十五年一月十八日別紙目録記載の土地につき定めた農地買收計画に対する訴外宇田恒一の異議申立を容認した決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。
三、事 実
原告訴訟代理人はその請求原因として次のとおり陳述した。
(一) 別紙目録記載の農地は、比和町に居住する訴外宇田恒一の所有であつて、原告が同人との小作契約に基き、昭和十七年からこれを耕作している。
(二) 被告委員会は昭和二十四年十二月二十日右農地につき、これが買收計画を定め、同月三十一日その旨を公告し、前記宇田恒一からこれに対し異議の申立がされると、昭和二十五年一月十八日申立を容認する旨の決定をした。
(三) しかし右決定は次の理由により違法である。
(1) 前記所有者宇田恒一の異議申立の要旨は、同人の小作地は本件農地のみであつて、在村地主の保有小作地面積五反歩を超過しないから、本件買收計画を取り消されたいというにある。
(2) ところが同人には、本件農地の外に次の四筆合計四反八畝十七歩の小作地がある。
(イ) 比婆郡比和町三河内字水越甲七百六十一番地の四
一、田 七畝十四歩(小作人 平原研二)
(ロ) 同所字小風呂五百三十五番地
一、畑 二畝八歩(小作人 右に同じ)
(ハ) 同所同字五百六十六番地
一、田 一反十九歩(小作人 山本小太郎)
(ニ) 同所同字五百六十四番地
一、田 二反七畝十六歩(小作人 中丸隆男)
(3) 宇田恒一は今次の農地改革が発表されて後、昭和二十一年中に右(2)の農地を各小作人に賣却し、同年十一月二十五日それぞれその所有権移轉登記を終えているところ、同月二十二日施行の昭和二十一年法律第四十二号(いわゆる第二次改正農地調整法)附則第二項の規定により、同法施行前從前の農地調整法第六條第三号の規定による農地所有権の移轉契約で、所有権移轉の登記及び農地の引渡のいずれもが完了していないものについては、右改正法第四條の規定により、改めて地方長官の許可を必要とするにも拘らず、これを得ていないから前記所有権移轉登記をしても、右四筆の農地の所有権は小作人等に移轉することなく、宇田恒一は依然として右小作地の所有者である。
(4) しかるに被告委員会は右の農地所有権移轉に関する法規の解釈及び適用を誤り、無効な契約を有効となし、前記の通り宇田恒一の異議申立を容認する決定をしたのである。よつて原告は被告の前記違法な決定の取消を求めたるため、本訴請求に及んだのである。
参加人の主張に対し、その主張の賣買契約の成立及び引渡が昭和二十一年十一月二十二日より前であることは認めると述べた。(立証省略)
被告は主文第一項と同旨並びに訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、訴外宇田恒一が平原研二外二名の小作人に対し原告主張の農地を賣却したことが無効であること、從つて被告の本件決定が違法であるとの点を除き、原告の主張事実はすべて認める。宇田恒一は本件買收計画の定められた当時、小作地としては別紙目録記載以外のものを有しないから、原告の本訴請求には應じ難いと述べた。(立証省略)
被告補助参加代理人は、原告は被告のした本件決定により何ら権利を侵害されていないから、本訴は権利保護の利益を欠くものというべく、訴外宇田恒一が原告主張のように小作地を賣却したのは、訴外平原研二に対しては昭和二十一年四月二日、訴外山本小太郎及び同中丸隆男に対しては同月三日であつて、いずれも引渡を了したのは賣買契約成立と同時であり、又昭和二十一年十一月二十一日までに右のとおり引渡を終えているものについては、原告主張の如く第二次改正農地調整法第四條の規定による地方長官の許可は不要であると述べた。
(立証省略)
四、理 由
補助参加人が原告には本訴につき権利保護の利益がない旨抗弁するので、まずこの点につき判断するのに、買收計画の対象とされた別紙目録記載の農地を原告がその当時小作していたことは当事者間に爭ないところであつて、若し買收計画確定の上賣渡の問題が起きてくると、特段の事由のない限り小作人たる原告は、第一に賣渡の相手方となるべき適格を有するものであるから右買收計画の復活を訴求するについて、原告が法律上の利益を有するものと解するのを相当とし右抗弁は採用しない。
つぎに本案について判断するに、比和町に居住する訴外字田恒一の所有する前記農地について被告委員会が昭和二十四年十二月二十日農地買收計画を定め、同月三十一日その旨公告したところ宇田恒一から異議の申立があり、被告委員会は昭和二十五年一月十八日異議申立を容認する旨の決定をしたこと、宇田恒一は右農地の外に原告主張の四筆合計四反八畝十七歩の小作地を所有していたが、これを小作人等に賣り渡し昭和二十一年十一月二十五日所有権移轉登記をしたこと及びその引渡が同年十一月二十一日までに終つていたことは当事者間に爭がなく、右の宇田恒一が小作地の所有権を移轉した契約につき、耕作の目的に供するためでないとは原告もあえて爭わないばかりか、特別の事情ない限り、地主が小作人に当該小作地を賣り渡すのは耕作の目的であると認めるのを相当とする。而して昭和二十一年十一月二十二日から施行された同年法律第四十二号(農地調整法の一部を改正する法律)附則第二項の規定によれば、右のように耕作の目的に供するため農地の所有権を移轉する契約にして、同法施行前既に当該農地の引渡が完了しているものには所有権移轉登記は未了であつても、改正法適用の余地なくその契約の効力が認められるのである。
右附則第二項は原告の主張する如く引渡及び登記の双方共にすんでいなければ改正法が適用されるようにも読めるけれども右改正法施行までは「農地ヲ耕作ノ目的ニ供スル爲」に所有権を移轉することは所定の認可がなくても有効にこれを爲し得たのであるから(第一次改正農地調整法第五條第六條参照)特別の事情のない限り農地の買主は賣買契約だけでその所有権を取得することとなりかくては前記改正法第四條の法意は沒却せられるにいたるであろうことを考え右改正法附則第二項によつてかような契約のうち引渡又は登記というような外部的象徴の伴うものだけは既存の契約の効力を認めるけれども、これらのいずれもが完了していないものは当事者間の意思表示だけで外部からそれと知るに由なく從つて脱法的行爲の行われること多かるべきを慮り新法第四條を適用することとしたものと解するを相当とする。
もつとも、農地調整法第一次改正の際の附則第二條には「登記アリタルモノ又ハ当該農地ノ引渡ヲ完了シタルモノニ付テハ之ヲ適用セズ」とあるのに第二次改正の附則第二項では同様な点につき「これを適用する」と積極的に規定したことは、原告のいうような右と異る解釈の生じる余地がありそうにみえるけれども、前者の場合には讓渡契約のうちその價格に関する取締規定の適用に関するものであつてたとえ讓渡契約が第一次改正法施行前に成立していてもその價格の支拂や受領が右施行後に行はれるのであれば改正法の適用を受けるべきであるから、その適用を排斥する趣旨で右の如く規定したものであり、後の場合には前記説示のように元來契約の効力は生じているのだから第二次改正法第四條の規定の適用がないのが原則であるけれども登記又は引渡のいずれもが完了していないものに限り例外的に改正法を適用しようというのであるから彼此立言方法を異にすることは当然であつてこの点からしても原告の右主張は採用できない。從つて宇田恒一が本件買收計画当時有する小作地はわずか保有をゆるされた小作地面積五反歩の範囲内なる本件農地のみであり、從つて被告委員会のした本件決定には、原告のいう違法はなく、正当なものと認められるのである。
よつて被告に対し本件決定の取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、第九十四條の規定に從い主文の通り判決する。
(裁判官 三宅芳郎 浅賀栄 熊佐義里)
(目録省略)