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広島地方裁判所 昭和34年(タ)24号 判決 1967年12月26日

原告 藤井花子

右補佐人 坂田正

被告 藤井太郎

右訴訟代理人弁護士 田坂戒三

同 馬淵正己

主文

一、原告と被告とを離婚する。

二、被告は原告に対し、別紙第一目録記載の建物につき、所有権移転登記手続をなし、右建物、別紙第二、第三目録記載の各物件の引渡をせよ。

三、被告は原告に対し、金二〇〇万円の支払をせよ。

四、原告のその余の請求を棄却する。

五、被告の請求を棄却する。

六、訴訟費用は被告の負担とする。

七、この判決は第三項に限り仮に執行することができる。

事実

原告は本訴について、「一、原告と被告とを離婚する。二、被告は原告に対し、財産分与として三五〇万円を支払え。三、被告は原告に対し、三〇〇万円を支払え。四、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに二、三項につき仮執行の宣言を求め、被告の反訴に対し「被告の請求を棄却する、反訴費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

被告訴訟代理人は、原告の本訴に対し「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、反訴として「被告と原告を離婚する。反訴費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

≪証拠省略≫によると、原告と被告が大正八年一月一二日婚姻をなしたことが認められる。

弁論の全趣旨及び原、被告各本人尋問の結果によると、現に原、被告間の夫婦関係は破綻し、その復元の見込がないと認められる。≪証拠省略≫によると次の事実が認められる。

原告は、大正六年九月二八日被告と事実上結婚して、○○県○○郡○○町大字○字○○○○○○○番地の○○○番地の○の被告方に入り、以来相協力して家業の米穀商、農業、木材業に従事してきたところ、被告は昭和二三年ごろから被告の同族で構成する酒醸業、○○酒造株式会社の代表取締役として、右会社の経営にあたることとなり、竹中スミ子を同会社の女子事務員として入社させたが、同年八月ごろから同女と特に懇ろとなり、右会社附属居宅内で同女と同棲し夫婦同様の生活をするに至り前記本宅の原告の許にはたまにしか帰らなくなり、かねて被告は対女性関係において不品行であったけれど、原告は、いわゆる一時の浮気として隠忍していたのであるが、右竹中との関係の解消は容易に期待できない情況であったので、被告に対し、原告の許へ復帰するよう度々要請したが、被告はこれに応じなかった。そこで、原告は昭和二四年一二月ごろ、広島家庭裁判所三次支部へ離婚並びに財産分与の調停申立をなしたところ、同年一二月二四日、原告と被告とは同居し、互いに協力扶助すること、被告は原告に対し、○○郡○○町大字○○○○番地の○、木造瓦葺二階建居宅一棟、建坪一一坪、二階一〇坪、付属便所並びに廊下一坪を贈与し、被告はその占有する○○酒造株式会社株券二五〇株の所有権が原告にあることを確認する旨の調停が成立したのであるが、被告は右調停成立後依然竹中スミ子と前記の同棲生活を続け、原告を顧みるところがなかったので、原告は、再び昭和二五年同支部へ調停の申立をなしたところ、同年六月一九日、被告は原告に対し昭和二五年六月以降月額六、〇〇〇円の生活費を毎月二五日限り支給する旨の調停が成立した。しかし、その後原告が独立して材木商を始めたことから、被告は、原告が、右により収益を得るので扶養料支払の必要がない等の理由で、右支払を遅滞し、右を繞って、原告より被告に対する強制執行、被告より原告に対する請求異議の訴の提起等、夫婦間の裁判上の争いが続き、その間離婚の協議も再三なされたが、両者互に離婚の意思を有しながら結局原告に対する財産分与について妥結しなかったため、本訴提起をみるに至ったものである。

右のとおり認めることができ、被告の、被告が原告と別居したのは、昭和二四年一〇月九日、原告が被告に対し暴行をなし、被告が眼下に傷害をうけた以後であるとの主張にそう≪証拠省略≫は前掲各証言に対比し信用しがたい。

以上の経過によって原、被告間の婚姻は破綻し、復元の見込がなくなるに至ったというべきであり、被告は、右破綻原因は原告にある旨主張するので検討する。

原、被告各本人尋問の結果によると、原告が昭和一三年八月ごろから同年一一月ごろまで、身廻り品をまとめて里帰りをしたことが認められるが、右は前認定の被告が竹中と同棲したときより一〇年以前のことで、右里帰りが前認定の破綻の原因となったとは前認定の事実関係に照らしとうてい認められないし、他にこれを認むべき証拠がない。原告が、被告の父母を冷遇し、よって原、被告間に感情の乖離をみるに至った旨の被告主張にそう≪証拠省略≫は、≪証拠省略≫に対比し信用しがたく、他にこれを認むべき証拠はない。≪証拠省略≫によると、前認定のとおり、被告が昭和二四年一〇月九日眼下を負傷した事実が認められるが、右は、≪証拠省略≫によると、原告が竹中と同棲中の被告を前記○○酒造に訪ね帰宅を要請したことに端を発し原、被告もみ合いとなり、その際被告がつまづいて木製カウンターに顔を打ちつけて生じたものであると認められ、右夫婦喧嘩については原告に咎むべき点が全くないとはいえないけれども、前認定の経過に照すと、右原告の態度をもって、本件婚姻の破綻の帰責事由とはなしがたい。原告が水野一郎、伊東二郎と特殊な関係を有していた旨の被告主張にそう被告本人尋問の結果は、原告本人尋問の結果に対比し信用しがたい。被告主張の、原、被告間の裁判上の紛争は前認定のとおり、原、被告間に破綻を生じた後のことがらであるのみならず、前認定の経過に照らし、原告の右抗争の事実を非難すべき理由はない。その他の被告主張事実はこれを認めるにたるべき証拠がない。

以上によれば、原、被告の婚姻は、被告の不貞行為の結果破綻し復元の見込がないものと認むべきであるから、原告の離婚請求は理由がある。そして、右破綻原因につき原告に責むべき点が認められないのであるから、被告の反訴請求は理由がない。

そこで、原告の財産分与及び慰藉料の請求について判断する。

≪証拠省略≫によれば、被告はその特有財産として、または原告との共有財産として宅地約五一二坪、田約一町一反一畝、畑約一反八畝、山林約二町二畝、原野約一畝、別紙目録記載の建物、右建物内の別紙目録記載の動産、右建物の庭園の別紙目録記載の庭木類、芸備自動車株式会社株式一株五〇〇円のもの一七四株、日本通運株式会社株式一株一〇〇円のもの一三五株、向原酒造株式会社株式一株五〇円のもの三〇株、戸島酒造株式会社株式一株五〇円のもの二、二五〇株の所有名義を有しており、前記○○酒造株式会社の代表取締役社長として月額五万円(昭和四一年四月現在)の報酬を受けており、他方原告は、その特有財産として、別紙目録記載の建物の敷地である○○郡○○町大字○○○○○番地の○、宅地一一三坪(昭和二年一〇月三日頃被告と共同して買受け、被告から持分の贈与を受けたもの)、前認定の昭和二四年一二月二四日成立の調停において被告から贈与を受けた建物、戸島酒造株式会社一株五〇円のもの二五〇株を所有しておること、原告は、被告と結婚以来、家事及び家業に従事して、前記被告名義の財産の維持等に寄与したものであること、原告は昭和二九年頃から健康を害していること、被告は、原告に対し生活費として昭和二五年六月一九日成立の調停により同月から昭和三八年六月まで、前記のとおり遅滞はあったが月額六、〇〇〇円、昭和三八年七月以降月額八、五〇〇円を各支給してきたこと、被告は、原告に対し原告の神経痛温泉療養費として、六万円を支給していること、原、被告間に子がなかったため原、被告は昭和一〇年一月一六日被告の弟藤井三郎とその妻月子を養子とする養子縁組をしたものであるが、右養子夫婦は本件紛争に関して原告と反目するに至っておることがそれぞれ認められ、右認定を左右するにたるべき証拠はない。

右と、前認定の財産の価格に関する鑑定人土井政之、山岡茂、山沢金一、上田一美の各鑑定結果、向原町農業委員会長、吉田税務署長に対する各調査嘱託の結果を参酌し、かつ、別紙目録記載の建物の敷地は本訴において被告は原告に贈与したもので原告所有であることを自白(第二三回弁論調書参照)しており、弁論の全趣旨により原告は右地上の別紙目録記載の建物の財産分与を受けてこれに居住したい意向であること、原告はその年齢、前記のとおり病弱で、離婚後の生活は必ずしも容易でないこと、その他本件に表われた一切の事情を考慮すると、被告は原告に対し、夫婦共有財産の清算と離婚扶養を含む離婚による財産分与として別紙目録記載の建物、右建物内の別紙目録記載の有体動産、右建物の庭園にある別紙目録記載の庭木、庭石類を分与するのが相当であり、本件離婚が前認定の被告の不行跡に起因するものであるから被告は、不法行為者として原告が婚姻の破綻に陥ったことによりうくべき精神的苦痛に対する慰藉料を支払う義務があり、その額は右説明した一切の事情を考慮し金二〇〇万円をもって相当とすべきである。そして、前記財産分与の各物件中建物については被告は原告に対し所有権移転登記手続をすべきであり、右各物件については現に原、被告の共同占有にあるものと認めるのが相当であるから被告は原告に対し各これが引渡をすべきである。

よって、原告の本訴請求を以上の限度で認容し、その余を失当として棄却し、離婚に伴う財産分与につき右のとおり定め、被告の反訴請求を棄却することとし、慰藉料の支払いを命ずる部分につき民事訴訟法第一九六条により仮執行の宣言をなし、訴訟費用の負担につき同法第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長谷川茂治 裁判官 雑賀飛徳 篠森真之)

<以下省略>

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