広島地方裁判所 昭和37年(わ)558号 判決 1962年11月28日
被告人 藤井秋人
決 定
(被告人氏名略)
右の者に対する昭和三七年(わ)第五五八号強制わいせつ被告事件につき、昭和三七年九月二八日、広島地方裁判所裁判官池田憲義がなした保釈許可の裁判に対し、右被告人から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
原決定中保証金額は金八万円とするとあるのを、保証金額は金三万円とする、と変更する。
理由
本件申立の理由は、原決定によつて保証金額が金八万円で保釈が許可されたが、被告人の職業、資産および家庭の状況からして右金八万円は到底納付できそうにもない過大なものであるからその変更を求めるというに帰着する。
一件記録によれば、被告人は昭和三七年九月一九日広島地方検察庁検察官から強制わいせつ罪で広島地方裁判所に起訴され同事件は同裁判所昭和三七年(わ)第五五八号強制わいせつ被告事件として審理されていること、同被告人は同年九月八日勾留状の執行を受け爾来継続して勾留されていること、同年九月二五日被告人から保釈の請求をなしたところ同月二八日同裁判所裁判官池田憲義は「被告人の保釈を許可する。保証金額は金八万円とする。被告人の住居を広島県佐伯郡廿日市町大字佐方五七六番地に制限する。七日以上の旅行又は転居の際には、予め書面で裁判所に申し出て許可をうけなければならない。」との決定をなしたことが明らかである。
ところで、保証金額は、犯罪の性質および情状、証拠の証明力ならびに被告人の性格および資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならないことは刑事訴訟法第九三条第二項の規定により明らかである。よつて本件につき一件記録によつてこれをみると、被告人の本件犯行は四才の幼女に対する強制わいせつでその犯罪悪質であること、被告人は昭和三四年にも同種強制わいせつ罪により広島地方裁判所で懲役一〇月に処せられたことがあるほか、他に傷害、窃盗横領、詐欺、窃盗、賍物故買罪等により前後四回にわたり処罰を受けており、被告人には犯罪の常習性のあることさえも窺われ、その性格、犯罪の情状等は比較的悪いこと、しかしながらその反面本件被害者は被告人の父の弟の子であること、本件には傍証も十分にあり、被告人は公判廷でも犯行を自供していて罪証隠滅のおそれはないこと、被告人には一定の住居がありまた保釈された後は出頭することを誓約していて逃亡のおそれは少ないこと、被告人には会社員として月二万五〇〇〇円位の収入があるほかには私選弁護人に依頼できるほどの資力もないこと、被告人は病気の内妻を抱え同女の身を案じて本件保釈の請求をなしていることを認めることができる。以上認定の事実に本件記録に現れた諸事情をかれこれ勘案して考慮すると本件において被告人の出頭を保証する金額としては金三万円をもつて相当とすると思料する。
そうだとすると本件申立は理由があるというべきであり、保証金額を金八万円とした原決定は右の限度で失当であるとして変更を免れない。
よつて刑事訴訟法第四三二条第四二六条によつて主文のとおり決定する。
(裁判官 渡辺雄 田原潔 池田久次)