大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和37年(ワ)669号 判決 1969年7月11日

原告 株式会社久保田組

右代表者代表取締役 久保田義勇

右訴訟代理人弁護士 早川義彦

右訴訟復代理人弁護士 山本敬是

被告 広島平和祈念像建設会

右代表者会長 前田伊織

右訴訟代理人弁護士 田坂戒三

主文

被告は原告に対し金六〇万円及びこれに対する昭和三七年一二月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告

(一)  被告は、原告に対し、金二三一万八、四二二円及びこれに対する昭和三七年一二月一二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行宣言。

二、被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

≪以下事実省略≫

理由

一、請求原因第一、二項の事実(原、被告の地位、本件工事請負契約の締結)は当事者間に争いがない。

二、ところで、被告は本件工事請負契約が昭和三五年一〇月末頃原告の債務不履行によって解除された旨主張するのに反し原告は右契約解除の事実を認めながら、これは注文者たる被告の都合による解除であると抗争するので、まづこの点について判断するに、≪証拠省略≫に徴すると、次の各事実を認めることができる。

(一)  原告は本件請負工事契約締結後直ちに東京在住の彫刻家柳原義達氏に金一〇〇万円で立像の彫刻製作を依頼するとともに訴外建築士河内義就の設計監督のもとに本件工事に着工し、河床工事、護岸化粧工事等の諸工事を進めていたものであるが、昭和三四年六月二九日被告建設会の代表者で同会の会長である前田伊織が平和記念会館に本件工事請負者である原告会社の代表取締役久保田義勇や同工事の設計監督者である河内義就をはじめN・H・Kその他の報導関係者を招き、その関係者が同席する席上、平和祈念像を等身大のコンクリート像から身丈約三メートルのブロンズ像に変更したい旨の発言をした。

(二)  前田会長の右発言を重くみた原告等工事関係者は、前田会長の希望にそうべく、早速東京在住の彫刻家柳原氏にその旨連絡し、その意向を打診したところ、ブロンズ像の製作のためには原形の製作鋳型作成彫刻等諸工事はすべて東京で行う必要がある上相当の輸送料もかかって製作費が可成り嵩むのみならず、立像の完成も昭和三五年五月下旬頃まで遅れるとの回答をえたので、その旨伝えると共に本件工事代金も約一九〇万円程度の増額を認めて貰い度い旨懇請する一方河内義就の設計指示にしたがい、ブロンズ像建設のため更に河床工事、護岸工事、台座工事等の諸工事を進め、昭和三四年八月四日頃には立像製作を除いて出来高にして約金三二〇万円程度の工事を完成していた。

(三)  その間原告は工事現場を視察に来た被告建設会の建設委員等に対し工事変更の趣旨と竣工期日の延期の了解を得るとともに昭和三四年七月一八日には河内義就氏を同伴して被告建設会の会長前田伊織宅を訪問し、工事変更の趣旨と被告建設会の確たる方針の決定を要請したが、被告建設会の内部に設計変更について異議があったため、暗に原告の設計変更に基づく諸工事の施行と竣工期日の遅延を承認しながら明確なる方針の決定を明らかにされないままであった。

(四)  その後被告建設会において本件工事の変更殊に前記前田発言の当否をめぐって種々検討されたが、被告建設会の委員間に意見の一致をみないのみならず、原告等が立像の彫刻を依頼していた柳原氏と被告等が依頼したとみられる円鍔氏との間にも立像製作の担当をめぐって対立が生じてその収拾が困難となったため、被告は昭和三四年一一月五日原告に対し「諸種の事情によって契約上の工事を進めることは都合の悪い所がありますので此の際本工事を打切り次期推進について再検討をすることに広島平和祈念像建設委員会において決定しましたから一応契約の打切り方を御了承願い度い」旨申入れてきた。原告は被告の執った措置には承服し難い点も多々あったが、本件工事の工程は立像の製作据付を除いてほぼ終了していたのでそのまま工事を中止して被告に既成工事部分(立像を除く)を引渡すとともに原告の損害の補償を求めて再三再四被告との交渉を進めるうち、被告は昭和三五年一〇月三〇日付の内容証明郵便をもって本件工事の竣工日である昭和三四年八月六日までに本件工事が竣工しなかったことを理由に本件工事請負契約を解除し、工事現状のまま被告建設会の責任において引取る旨通知してきた。

≪証拠判断省略≫

以上認定の諸事実によれば、本件工事の注文者たる被告が請負人たる原告が未だ本件工事を完成していない昭和三五年一〇月末頃本件請負契約を解除したものというべきであり、しかも右被告の解除は請負人たる原告の竣工遅延等の債務不履行を原因とする解除によるものではないと認めるのが相当である。

したがって、本件請負契約が原告の債務不履行によって解除された旨の被告の主張は採用することができない。

三、しかるところ、被告の前項認定の契約解除は民法第六四一条によるものと解されるので、同条の規定上被告において原告が解除により被った損害を賠償する義務のあることが明らかである。

そこで、原告の被った損害額について検討するに、原告は工事中止後既成工事部分(立像を除く)を被告に引渡したことは前記認定のとおりであるから、原告が右既成工事に費した設計費、材料費、労賃、運搬費、その他の諸経費のみならず、原告において本件工事を完成したとすれば自ら取得したであろう利益のうち右既成工事部分に相当する部分もまたうべかりし利益として損害賠償の範囲内に含まれるものというべきところ、≪証拠省略≫を総合すると、原告は河床工事、護岸工事、平座工事、台座工事、附帯工事(但し立像工事を除く。)等の諸工事に諸経費としてすくなくとも合計金三二五万八、七六〇円を支出して前記の諸工事を実施した外、彫刻家の柳原氏に合計金四五万円を支払っていることが認められるから、右諸経費に既成工事部分についての得べかりし利益を加算したその評価総額はすくなくとも金三八〇万円を下らないものというべくこれと同額の損害賠償請求権を原告において取得したものと認定するのが相当である。

なお、原告は河内義就の作成に係る甲第二号証の「御予算書」には河川工事等においては通常認められるいわゆる潮待ち等の分増経費が含まれていないから、右河内の評価金額四二五万八、七六〇円に約三割を加算すべきであると主張するけれども、既成工事における出来高は現実に支出した諸経費や完成部分の価額を具体的に評価算定すべきであって、河川の工事であるからといって、一律に三割の増経費を加算すべき合理性は認められないから、原告の右主張は採用できない。

したがって、原告が本件工事請負契約の解除によって被告から受けるべき損害は合計金三八〇万円をもって相当とすべく、それらを超える原告の請求は失当として排斥を免れない。

四、そうだとすれば、原告の本訴請求は、前記損害金合計金三八〇万円から原告がすでに被告から受領した金三二〇万円を控除した金六〇万円およびこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが本件記録に徴して明らかな昭和三七年一二月一二日から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分において理由があるからこれを認容するが、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例