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広島地方裁判所 昭和37年(行モ)3号 決定 1962年11月06日

申立人 平山金属有限会社

被申立人 尾道市

主文

本件申立を却下する。

申立費用は、申立人の負担とする。

理由

申立代理人は、「被申立人の申立人に対する尾道市吉和町新浜地先野積場内に設置してある建物及び工作機械設備一切を撤去すべき旨の命令の代執行を、本案判決をなすまで停止する。」との裁判を求めた。

その理由とするところは次のとおりである。

一、申立人は、被申立人が港湾法に基き管理している港湾隣接地域たる尾道市吉和町新浜地先二一〇坪を、昭和二七年頃から野積場として占用許可を得て使用しているものであるが、昭和三五年九月頃右占用土地の上に約二〇〇坪の伸鉄工場を建設したところ、被申立人は、昭和三五年一〇月三一日に至り、同年一一月一日以後の使用許可を取り消した上、昭和三五年一一月二一日、同月三〇日までに右伸鉄工場の建築物及び工作機械設備等の撤去を命じ、その後昭和三七年二月九日、右の履行期限を同年三月一〇日と定め、その期限までに履行がされない場合は代執行をなすべき旨を戒告し、次いで、同年九月二〇日、代執行令書をもつて代執行をなすべき時期を同年一〇月三一日午前一〇時とする旨通知した。

二、しかしながら、右代執行処分は、次の点において違法であるから取消されるべきである。即ち、本件伸鉄工場敷地は港湾運営に直接影響しない地域に属し、右敷地附近は約三〇〇米の地帯にわたつて、現在十数名の業者が被申立人から占用許可を得て、いずれも工場・倉庫等の敷地或は野積場として使用しているものであつて、被申立人が直接使用し或は公共の為に提供している場所ではない。又、被申立人は、現在本件敷地より東方約八〇〇米の地先において海面の埋立工事を施工しているが、工事の進行状況から考えて約三、四年先はともかく、現在では本件建物が右埋立工事の障害にはならない。しかも右埋立工事にとつて本件工場よりも障害になるところの本件工場の東方の区域には多数の工場倉庫等の建物が存在しており、特に申立人の本件工場を急いで撤去すべき理由は存しない。従つて、申立人の右義務の不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときにあたらないから、本件代執行は、法定の要件を欠く違法のものである。

三、よつて、申立人は、右代執行処分取消の本案訴訟を提起したが、もし本案判決言渡前に本件建物撤去の代執行がなされると、申立人より本件工場を借り受けている申立外瀬戸伸鋼株式会社は現在注文を受けている伸鉄生産が止り、契約破棄の止むなきに至り一挙に信用を失い、一五、〇〇〇、〇〇〇円を要した工場設備はスクラツプ化して了うのみならず、本件工場で働いている約四〇名の工員及びその家族は生活の糧を失い、回復すべからざる損害を受けることになるから、これを避けるため緊急の必要があるので、右代執行の停止命令を求めるため、本件申立に及んだのである。

当裁判所の判断は、次のとおりである。

およそ行政処分の執行の停止は、その申立人において回復の困難な損害を生ずる場合においてのみ許されるものと解すべきであるから、たとい、申立人主張のように、瀬戸伸鋼株式会社同会社の工員およびその家族がその主張のような損害を蒙るとしても、本件処分の執行により生ずる回復の困難な損害にはあたらないし、申立人提出のすべての疎明資料によつてみても、申立人が本件処分の執行により回復の困難な損害を蒙ることを認めることができない。

そうしてみると、本件申立は、その余の点について判断を加えるまでもなく、すでに理由のないことが明らかであるから、却下すべきものである。

よつて、申立費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 原田博司 浜田治 武波保男)

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