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広島地方裁判所 昭和40年(ワ)913号 判決 1968年1月30日

原告 鯉松園産業株式会社

被告 広島市長・広島市

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立て)

一、原告の申立て

1、被告広島市長が昭和二五年一一月一一日付換地予定地指定通知書(広建東庶甲第一五五九号)をもつてした別紙目録記載の土地に対する換地予定地の指定処分は無効であることを確認する。

2、被告広島市は原告に対し、昭和三三年七月五日から別紙目録記載の土地についての仮換地を原告が現実に使用収益しうるにいたるまで、一月につき金二二、一六四円の割合による金員を支払え。

3、訴訟費用は被告らの負担とする。

二、被告らの申立て

主文同旨

(請求原因)

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、別紙目録記載の土地はもと福居シツノの所有であつたが、原告は昭和三三年七月五日売買(同月七日登記)によりその所有権を取得した。

二、被告広島市長は、広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業の施行者として、昭和二五年一一月一一日付換地予定地指定通知書によつて、当時福居シツノの所有であつた右土地四筆と同人の娘婿(養子)福居軍次郎の所有であつた次の二筆の土地、即ち、

広島市西魚屋町一四番地の一

宅地 三七坪二合〇勺

同町一四番の三

宅地  四坪八合八勺

とを合わせて、その換地予定地(以下仮換地ともいう)を

広島市西魚屋町一七二ブロツク一二ロツト

八九坪九合八勺

と指定した。

三、しかしながら、右仮換地指定処分は次の理由により無効である。

即ち、所有者を異にする数筆の土地を一団地に指定するにはその各所有者の同意が必要であるが、本件の場合、一方の所有者であるシツノの同意がないのに、軍次郎の一団地交付願の申請のみによつて前記のとおりの一団地指定をしたこと、しかも、軍次郎の右申請はシツノ所有の別紙目録記載の土地のうち平塚町の二筆についてだけであつたのに同目録の他の二筆をも合わせて一団地指定としたことは、その手続において重大かつ明白な瑕疵があるから、本件仮換地指定処分は無効である。

四、つぎに、本件仮換地指定処分によつては、シツノと軍次郎との使用部分の区別がつかず、しかも、この仮換地上には軍次郎所有の建物があるので、シツノ及び昭和三三年七月五日の売買以降は原告が、本件仮換地を使用収益する権限を侵害されている。この侵害による損害は、被告広島市長が前記のとおりシツノの同意を得ないでした違法処分に基づくものであり、かつまた、同被告が原告の再三にわたる部分指定の申立てにもかかわらず、その指定を放置したために生じたものであるから、被告広島市は、原告に対しこの侵害による損害を賠償すべきである。しかして、本件仮換地の昭和三七年二月一〇日現在の坪当り月額賃料は金三〇〇円であり、原告が使用収益すべき仮換地の部分は元地の地積で按分すると七三坪八合八勺となるから、原告が蒙つている損害は月額二二、一六四円となる。従つて、被告広島市は原告に対し、原告が所有権を取得した昭和三三年七月五日から原告が本件仮換地部分を使用収益しうるにいたるまでの間、月額二二、一六四円の割合による損害金を支払うべきである。

(被告らの答弁及び主張)

被告ら訴訟代理人は、請求の原因に対する答弁及び主張として次のように述べた。

一、請求原因第一、二項の事実は認める。

二、福居シツノ、福居軍次郎は母子関係にあるところ、軍次郎は昭和二二年六月二六日付で、当時右両名の各所有に係る原告主張の各土地を一団地として換地交付願いたいと申しいでこの願出については、シツノも同意していたので、広島市西魚屋町の旧地上には借地人である軍次郎の所有家屋が存在していたため、右の土地に一団地の換地指定をすることは、建物保存の意味からも両所有者の利益になるものと考え、換地は本来同一等級内において行うのが原則であるが、本件の場合には等級の低い平塚町の土地(四七級)を等級の高い西魚屋町の土地(五九級)に合一換地交付したものであるから、本件仮換地指定によつて右両名が特段の利益を受けていることはあつても少しも不利益を受けてはいない。従つて本件処分に違法は全くない。

三、原告は本件仮換地につき自己の使用部分が明らかでないと主張しているが、これは原告がシツノの旧地のみを買い受けたためであつて、被告らの責任ではない。

(証拠関係)<省略>

理由

第一、仮換地指定処分の無効確認を求める請求について

被告広島市長が、広島平和記念都市建設事業東部復興土地区画整理事業の施行者として、昭和二五年一一月一一日付換地予定地通知書によつて、当時福居シツノの所有であつた別紙目録記載の土地四筆と同人の娘婿(養子)福居軍次郎の所有であつた原告主張の土地二筆(請求原因第二項参照)とを合わせて、その換地予定地を「広島市西魚屋町一七二ブロツク一二ロツト八三坪九合八勺」と指定したこと、右シツノ所有の土地は原告が昭和三三年七月五日売買(同月七日登記)によつてその所有権を取得したことは、当事者間に争いがない。

ところで、原告は、右のとおり一団地としてした本件仮換地指定処分は、当時の所有者の一人であるシツノの同意がないのになされた処分であるから、無効であると主張するので判断する。

成立に争いのない乙第一号証、証人住田春男、伊東真造、岩宮登の各証言によると、前記区画整理事業の施行者は、土地の利用価値の増進という見地から、同一所有者の土地及び親子、兄弟間等特殊な関係にある者の土地は、原則として、一団地指定とするとの方針を採り、通常同意あるものとみて、いちいち各所有者の同意書をとることはしなかつたこと、そのため本件換地の場合には、軍次郎が施行者に対し、昭和二二年六月二六日付自己単独名義の書面で、シツノの前記平塚町の土地を西魚屋町の土地へ合わせて一団地として換地交付願いたい旨申しいでただけで、シツノが右施行者に対し、一団地指定の申しいでをしたり、あるいはその同意書を提出したりしたことはないことを認めることができる。しかしながら、成立に争いのない乙第四号証の四、五、証人福居軍次郎、福居千代子の各証言並びに弁論の全趣旨を綜合すると、西魚屋町一九番地と同番地の一の土地上には軍次郎所有の建物があつて、それらの土地に他の土地を加えて一団地として換地指定を受けなければ、換地に伴う減歩により、右建物の一部を移転ないしは除却しなければならない情況にあつたことと、シツノは、軍次郎と養親子関係(軍次郎はシツノの長女千代子の夫で、シツノの婿養子としてシツノの隠居により福居家の家督相続をしたものである)にあつて、昭和一五、六年頃から昭和三二年頃まで(つまり二女秀子の誘いでシツノが東京へ転出するまで)、軍次郎夫婦と同居し、その間、同夫婦の世話を受け、自己名義の財産も事実上軍次郎の管理に委ねていたことなどから、シツノ及び娘の千代子は、軍次郎がシツノと軍次郎との各土地を一団地指定としてもらいたい旨の所謂一団地指定交付願いを出すことについて同意し、しかも、施行者が本件一団地の仮換地指定をしたことに対して、法的に不服申立てをしなかつたことはもとより、当時、軍次郎らに対してもなんら不満を唱えていなかつた(もつとも、換地によつて減歩されたことが納得できぬとして人に尋ねていたことはあつたが)こと、ところが、秀子に誘われて東京へ転出した前記昭和三二年頃から、シツノは、一団地指定に同意したことがないと言い出し、自己所有の本件土地の売却を急ぐようになつたこと、以上の事実を認めることができる。右認定に反する甲第九号証(シツノ作成の証明書)は、本訴提起後の昭和三六年一〇月に作成されたもので、たやすく措信し難く、また、甲第二号証(財産留保証書)の存在は右認定と矛盾するものではない。

考えてみるに、施行者が、右処分をするに先立つて、一団地指定をすることについて土地所有者の一人であるシツノの同意を文書の上で確認しておかなかつたことは手続上の瑕疵といわなければなるまい。しかし、軍次郎夫婦はもとよりシツノも、両者の各土地を一団地として換地指定の願出をすることについて、実際上、合意していたものと認められるので、右のごとき手続上の瑕疵があるとしても、それのみでは本件仮換地指定処分の効力に消長を及ぼすものとはいえない。

なお、原告は、施行者が軍次郎の一団地換地交付願い(乙第一号証)に記載のない「シツノの西魚屋町の土地二筆」をも含めて一団地としたことを非難するけれども、しかし、前記認定の各事実及び弁論の全趣旨に徴すると、軍次郎が右換地交付願いに「シツノの平塚町の土地二筆」を「西魚屋町の土地」へ合わせて換地してほしい旨記載して、「シツノの西魚屋町の土地二筆」をも含む旨明記しなかつたのは、前記のとおりシツノの右西魚屋町の土地には軍次郎の建物があつて、その建物を確保するために、それらの土地と軍次郎の同町一四番地の一、同番地の三の土地とを一団地とすることは明記するまでもなく当然のこととし、たゞ、シツノの平塚町の土地は、それらの土地から離れているのでこれをそれらの土地へ加える必要があつたので、これを明記したまでであつて、シツノの西魚屋町の土地二筆を除外する趣旨ではなかつたと考えられ、従つて、右換地交付願いの書面は「シツノの平塚町の土地二筆」を「シツノと軍次郎との西魚屋町の各土地」へ合わせて一団地の換地指定を願いたいとの趣旨と解するのが相当であるから、この認定に反する原告の右非難はあたらない。

してみると、本件仮換地指定処分の無効確認を求める原告の本訴請求は、失当として棄却を免れない。

第二、損害賠償請求について

原告は、本件仮換地指定後、シツノから従前の土地(別紙目録記載の土地)を買い受けたが、その仮換地に対する自己の使用収益しうる部分が明らかでないため、使用できないでいるが、これは、施行者たる被告広島市長が、シツノの同意を得ないで違法な一団地指定をしたこと、原告の再三にわたる部分指定の申しいでを放置しているためである、として被告市に対して、右仮換地を使用収益しえないことによる損害の支払を求めている。

なるほど、原告がシツノから右土地を買い受けたことは、当事者間に争いがなく、本件仮換地の使用部分が明らかでないうえ、右仮換地上には軍次郎所有の建物があることにより、原告が右仮換地を使用できないでいることは、被告らの明らかに争わないところである。

しかしながら、本件仮換地指定処分はシツノの同意があつて無効でないことは、前記説示のとおりであり、そして、原告が昭和三三年八月一〇日付陳情書(乙第五号証の三、四)をもつてした本件仮換地に対する部分指定(事後の事由による仮換地指定の変更)の申し立てに対し、施行者はその取り扱いを放置していたわけではなく、その部分指定がおくれているのは、要するに、次に認定するように、やむを得ない事情によるものであつて、違法とはいえないから、被告市が損害を賠償すべき理由はないものというべきである。

即ち、成立に争いのない乙第四号証の一ないし五、証人渡辺武、伊東真造の各証言によると、原告の前記部分指定の申しいでにより、広島市の土地区画整理審議会では、紛争調停委員会を開いて、数回にわたり、部分指定をすべきか否かについて審議をしたが、本件仮換地には古くから軍次郎所有の建物が四棟あつて、同人がその土地を全部占有しており(仮換地の指定の前後をつうじ、軍次郎の土地使用につきシツノに異論があつたものとは認め難い。)、そのうえ、右土地は間口が八・三八四米に対し奥行きが三三・一五八米という奥行きの長い土地で、この土地について袋地をつくらずに従前の土地の地積の割合に応じて部分指定しようとすると、どの使用部分も一段と間口の狭い細長い土地となつて利用価値を著るしく低下させること、また、そのためもあつて両所有者間で使用部分の協議が調わないこと、それに、軍次郎には西魚屋町の一七二ブロツクの一二ロツトの外に、三ロツトの仮換地もあるが、これも含めて部分指定をすべきかどうか、などから、部分指定の方法について右委員会の意見がまとまらないため、今日に至るまでその指定ができずに、のびのびになつていること、が認められる。

右のように、部分指定のしにくい事情のもとでは、その指定がおくれていることをもつて、直ちにこれを違法ということは相当でない。(なお、本件の場合、原告会社の元代表者中村登は、市の土地区画整理審議会委員をしていたので、本件土地の買い受け当時、シツノと軍次郎とが千代子の離婚問題等をめぐつて仲たがいをしていたこと及び本件仮換地が右のとおりの占有状況にあつて、部分指定のしにくい土地であることを十分知つていながら、あえて右土地を買い受けたものである。)従つて、原告が被告市に対して本件仮換地を使用できないことによる損害賠償を求める本訴請求も、その余の点について判断するまでもなく理由がないので棄却を免れない。

第三、結語

よつて、原告の本件請求は、いずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 熊佐義里 立川共生 角田進)

(別紙目録省略)

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