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広島地方裁判所 昭和40年(行ウ)5号 判決 1968年9月10日

原告 伊藤勇正

被告 広島国税局長

訴訟代理人 小川英長 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、請求の原因第一項ないし第三項の事実、同第一項の訴外会社に対する法人税の更正処分ならびに加算税賦課決定がいずれも確定していること、広島銀行宇治支店の伊藤正子名義の普通預金債権(口座番号二一五一)は、原告が長女正子の氏名を利用したものに過ぎず、原告の権利に属することおよび普通預金口座には、被告主張の預け入れがいずれもなされていることは、当事者間に争いがない。

二、そこで、伊藤正子名義の右普通預金口座の預け入れにつき、それらが原告において訴外会社から無償譲渡をうけた金銭を預金したものであるか否かについてちくじ検討する。

(1)  昭和三六年一二月二八日預け入れ分七一九、八七〇円について。

<証拠省略>を総合すると、訴外会社は昭和三六年九月一四日新栄炭鉱に対する買掛金債務の支払のためとし金額七一九、八七〇円の支払手形を同炭鉱宛振出し、原告において満期の昭和三六年一二月二六日頃広島銀行宇部支店に右手形の取立てを依頼し、同銀行は支払場所である山口銀行東新川支店から現金でその支払をうけ同月二八日伊藤正子口座に入金したこと(二七日の営業時間以後のため二八日付の入金となつた)、右山口銀行東新川支店が支払つた資金の出所は訴外会社の昭和三六年一二月二六日付で振出した同金額の小切手によるものであり、それは、前記手形決済のため振出されたものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

原告は、本項の預金は原告が訴外会社の代表取締役をしていた竹田鼎個人に対し、昭和三四年三月より同三五年九月にかけて四回にわたり貸付けていた金銭を、同人から昭和三六年一二月二七日に現金で弁済をうけ、これを預金したもので無償譲渡をうけたものではない旨主張し<証拠省略>にもほぼこれとそうような記載部分がある。しかし、右各供述等は、その間に相互に矛盾する部分が認められること、本件全証拠によつても右竹田との間の前記各消費貸借の存在を証すべき借用証書の書類の存在する様子が全く見受けられないこと、原告の主張する貸金の合計が七二万円であるのに、これが返済をうけたものであると主張する本項の金額が七一九、八七〇円という端数のある貸金に満たないものであるうえ、このような少額の端数のある現金を返済することは不自然であること、しかも前記認定の如く本項の預金は手形取立てによる入金と認められ、原告が直接現金で預金したものとは認められないこと(原告は甲第二号証の本項預金欄の「代手」との記載が銀行側の誤記である旨主張しているが、右記載をもつて誤記であるとする根拠はない)本項に関する原告の主張に一貫性がないこと等を考え合わせると、信憑力のないものといわざるをえない。

以上の如く、本項の預金が訴外会社の当座預金から引出された金銭の預け入れによるものと認められ、かつ原告において訴外会社あるいは新栄炭鉱から右金銭を受領すべき事由は主張、立証しないところであり、しかも前記の如く右預け入れられた金銭は新栄炭鉱宛の支払手形決済のためとして引出されたものであること等を合わせ考えると、本項の金銭は、原告が預け入れの日ころ、訴外会社から無償で譲渡をうけ預金したものと判断するのが相当である。

(2)  昭和三七年一月八日預け入れ分一六五、一七〇円について。

<証拠省略>を総合すると、訴外会社は、昭和三六年一一月二八日常盤商事株式会社から受領した金額一六五、一七〇円の同会社振出しにかかる約束手形を、小林悟に対する買掛金債務の支払いにあてたとして帳簿上(同年一二月二〇日付振替伝票)おとした上、原告において同年一二月二九日末富初子(架空)名義で広島銀行宇部支店に取立て依頼し、満期の昭和三七年一月八日同銀行が取立てを完了し、一度右初子名義の別段預金とし、即日現金で払い戻しをうけ伊藤正子口座に入金したものと認めるに十分である。

原告は、訴外会社から右手形の割引方を依頼されたので、原告が友人の安田明良から一五万円を借り受け、会社のために割引きをし、その後昭和三七年一月九日訴外会社から一六五、一七〇円の弁済をうけ預金したものである旨主張するが<証拠省略>等に照らし措信できない。

そして右の如く、原告が訴外会社の受取手形の取立てによる金銭を自己の預金に預け入れたことが明らかで、しかも右手形金を原告が訴外会社または小林悟から取得すべき合理的事由の証明がないこと、前述の如く原告が架空名義で取立依頼をして訴外会社からの直接の取得をいんぺいしていることを合わせ考えると、原告は訴外会社から本項の金銭を、前記取立依頼の日ころか、預け入れの日ころ、無償で譲渡をうけたものと認定するのが相当である。

(3)  昭和三七年八月一三日預け入れ分一、〇〇〇、〇〇〇円について。

広島銀行宇部支店の架空名義の定期預金二〇万円五口(昭和三六年八月一二日預け入れ)が昭和三七年八月一二日解約され、これが翌一三日に伊藤正子名義の普通預金口座に入金された事実は当事者間に争いがない。

そこで、原告は右架空名義の定期預金合計一〇〇万円は、義兄にあたる天川貞雄と共同事業を計画し、その事業資金として同人から預つた一〇〇万円を預金したものである旨主張し、<証拠省略>にもこれにそう記載があるが、右各供述部分等は、本件全証拠によると、天川貞雄の資力ならびに共同事業の具体性の点にも疑問があるばかりか、原告が右のように預つたことについてはこれを証すべき書類等が全く存在しないこと、<証拠省略>事業資金として預つたものを期間一年の定期預金にすることはいかにも不自然、不合理であること等からみて措信しがたい。

そして、前記(1) 、(2) 判示のように、原告は訴外会社から無償譲渡を受けるについて若干の作為をしている事情がうかがわれるほか、右の如く定期預金一〇〇万円の資金源につき原告の主張が首肯しがたいこと、証人竹田鼎の証言その他弁論の全趣旨によれば、原告は訴外会社の常勤取締役の地位にあつて会社経営の重要事項にも関与していたと認められること<証拠省略>によれば、昭和三六年八月頃、原告が訴外会社から受けていた報酬は月額二五、〇〇〇円ないし三〇、〇〇〇円位で、他に格別の資産収入等があつたものと認めるに足る証拠はないこと、<証拠省略>によつても、訴外会社の倒産後の財産の処分、清算関係が明白でなく、右乙第三号証の二によると訴外会社の預貯金は山口銀行の東新川支店ほか二支店、信用金庫宇部支店のみであること等一切の事情を総合すれば、本件定期預金は訴外会社の簿外預金であつたといわざるをえず、原告はそれを満期の翌日利息と共に返還をうけ、その元金一〇〇万円を伊藤正子名義の普通預金に預け入れた時点において訴外会社から一〇〇万円を無償で譲り受けたものと認定するのが相当である。

三、原告は、仮りに無償譲渡をうけたと認められたとしても、本件各法人税の法定納期限は更正処分の日である昭和三九年三月三一日であり、前記無償譲渡はいずれもその一年前である昭和三八年三月三〇日よりはるかに前のものであるから、第二次納税義務告知処分の対象とならない旨主張する。

しかし、国税徴収法第三九条にいう「法定納期限」は更正処分がなされた場合でも、更正処分の発せられた日をさすものではなく、各税法の規定により国税を納付すべき本来の期限をいい、本件の場合は法人税法所定の納期限即ち各事業年度終了の日から二カ月以内との期限をさすものと解されるから、右各無償譲渡は、自昭和三六年九月一日至昭和三七年八月三一日事業年度の法定納期限である昭和三七年一〇月末日以前一年内のものであること明らかであるから、原告の右主張は理由がない。

四、<証拠省略>および弁論の全趣旨によれば、滞納処分の対象となりうる訴外会社の資産としては八九五、〇一〇円の売掛債権があるにすぎず滞納税額に不足すること、そしてこれらの不足は原告が前述のとおり無償譲渡をうけたこと等に基因するものと認定するのが相当で、これに反する証拠はない。

五、以上によれば、原告に対してした本件告知処分には、原告の主張する違法事由が存しないものというべく、原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 熊佐義里 塩崎勤 木村要)

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