広島地方裁判所 昭和40年(行ク)6号 決定 1965年9月30日
申立人 古田正三郎 外一四名
被申立人 広島市長
主文
被申立人が昭和四〇年八月三〇日付広建土第一二三号をもつてなした申立人らに対する広島市西新天地広場使用禁止命令の実施措置を昭和四〇年一〇月三一日まで停止する。
申立費用は、申立人らの負担とする。
理由
一、申立の趣旨
被申立人が、昭和四〇年八月三〇日付広建土第一二三号をもつてなした申立人らに対する広島市西新天地広場使用禁止命令の執行は、本案判決確定までこれを停止する。
二、申立の理由
別紙本件申立書中申請の理由及び昭和四〇年九月三〇日付陳述書各記載のとおりである。
三、疎明資料<省略>
四、当裁判所の判断
被申立人が、申立人らに対し公共団体の管理する公共用土地物件の使用に関する法律第一条に基いて、昭和四〇年八月三〇日付で広島市西新天地広場(以下本件広場という)の使用禁止の通知をなし、同月一〇月一日以降は、本件広場への立入を禁止する為の実行処置を執ろうとしていることは、疎甲第八号証により認められる。
申立人らは、被申立人から本件広場の使用収益権を含む管理権を依嘱されている申立外新天地広場愛護会から屋台営業の範囲で本件広場の使用を許されているのであつて、正当な権限に基き、本件広場を使用しているものであると主張する。しかしながら、申立人ら提出の全疎明資料をもつてしても、右愛護会が被申立人から本件広場の土地につき申立人ら主張のような使用収益権を含む管理権限の依嘱を受けていることの疎明はなく、被申請人提出の疎明資料を総合すると、
申立人らの本件広場の使用は、都市計画の促進に見合う間、主として広場の清潔にして平穏な維持を期待する被申請人が申立外新天地広場愛護会(地元商店街の営業者の団体)に右事務の協力を求め、右愛護会はその趣旨に則り申立人ら屋台業者に同所における統制ある営業を許容すると共に、前記趣旨による広場の清掃、維持をなさしめていたものであり、被申立人において都市計画実施の為これが全面的な使用管理の必要上、愛護会に対する依嘱を解いた場合には、相当期間経過後は、屋台営業の為に同所へ立入ることを止めなければなよないものであることがうかがえる。
右の事情に、疎甲第一一号証によつて疎明される申立人らの立場を斟酌すると、疎乙六の一ないし二四の本件申立人らが停止を求める期限付立入禁止命令以前の使用禁止通知(期限付ではない)がなされたとしても、なお本件立入禁止命令に指定された期限の当否は疑問の余地なしとしない。この趣旨において申立人らの本案請求は一応の理由がある。
而して前記諸事情を勘案すれば、本件立入禁止命令の執行を主文の期間停止することが妥当であり、申立人らも右期間内に向後の方策を講ずべきである。
よつて右の範囲において本件申立を認め、申立費用については、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九二条の趣旨に則り主文のとおり決定する。
(裁判官 原田博司 雑賀飛龍 河村直樹)
(別紙)
申請の理由
一、申請の趣旨記載の広場(以下単に本件広場と称する)は被申請人の所有である。
二、被申請人は本件広場の使用収益の管理権限を昭和三三年三月二〇日、広島市新天地周辺の商人をもつて組織する新天地商業協同組合及び新天地広場愛護会の会長である鍋島廉平に委嘱した。
三、申請人等は昭和三四年三月四日より本件広場を使用して屋台営業を営み、今日に及んでいるものである。(営業時間は午後五時より翌朝午前二時までであり昼間は使用しない。)
四、申請人等の本件広場の使用権限は前同日本件広場につき使用管理権をもつ新天地広場愛護会より借り受けたものであり、以下その使用が正当のものであることを述べる。
(1) 申請人等は本件広場使用の対価として前記愛護会に対し、電灯料及び経費の名目にて月額金三万二千円又は金三万三千円を前示使用の始期である昭和三四年三月より今日まで一度の遅怠もなく支払を了している。
(2) 申請人等の右使用権限を被申請人当局に於てこれを認めていることは次のことで明白である。即ち申請人等のうち中野敏男及び中島正義の両名はもと広島駅前に於て飲食営業を続けていたものであるが、その営業敷地が土地区画整理により立退となつた為昭和三七年四月一七日本件広場に移り、同広場に於て営業中のものであるところ、右広場えの入居は決して申請人等の恣意によるものではなく、本件広場の所管課長である被申請人の土谷緑地課長(当時)が右二名を同伴して申請人等の代表である吉田正三郎に右立退の経緯を説明して本件広島えの入居を依頼し、一方同課長は前示愛護会に対してもその旨申入れ同会の了承があつたのでぜひ聞き入れて慾しいとのことで申請人等もこれを了承して入居し、本件広場を使用するに至つたものである。
(3) 次に被申請人が申請人等の使用を認めていることは右の事実のみでなく、更に次の事実からも十分に認められるところである。
申請人等は広島市新天地名物飲食組合なる名称で、親睦と相互扶助のため事実上の団体を結成しているところ、これが総会を昭和三八年七月五日広島市西新天地「エース」喫茶店二階に於て開催したところ、前記本件広場の所管課長である土谷緑地課長並に町内役員が出席し、その際申請人等を含む三者に於て本件広場の使用方法につき協議したのであるが、これは本件広場の使用時間及び衛生等に関する問題を主題とするものであつて、右総会に被申請人の所管課長の出席の事実並びに協議内容からしても申請人等の本件広場の使用を被申請人に於て認容していたこと明白と謂わざるを得ない。
五、申請人等の本件広場の使用権限は以上の如く決して不法のものでないのに拘らず被申請人は何故か(所管職員の更迭のため従前の経緯がわからない為と考えられる)、昭和四〇年八月三〇日附公共広場使用禁止命令と題する書面により申請人等に対し、突如同年九月三〇日を期限として使用禁止する旨の通達をなして来た。
しかしながら申請人等はその占有に於て正当であり、且昭和三四年三月より今日まで八ケ年の長きに亘り何等の支障も被申請人よりの警告もなく平穏公然に営業を営み、右営業による諸税も勿論完納し、その生活の基盤は専ら本件広場にあり、本件広場による営業によつて生活を維持している申請人等に対し僅か一ケ月の期間内にその使用を禁止されることは、いかに被申請人が公共団体であるとは言え無謀の処置と謂わざるを得ないものである。
六、もとより申請人等に於ては本件広場が公共広場であることは十二分に了承して居り、これが運営については公共目的にそうよう協力することは当然のことであつて、今後長年月に亘り本件広場の使用の継続を望むものでないが、八ケ年間にも亘る正当使用を頭から無視して僅か一ケ月の期限をもつてその使用を禁止する被申請人当局の態度はまことに遺憾である。
七、しかも被申請人は前記期限の到来を期して本件広場の周囲に柵をめぐらして、事実上申請人等の本件広場の使用を妨害すべくその準備計画をなし、且これを言明しているが、如何に被申請人が公共団体とは言え本件広場の使用禁止は司法的判断か又は、法律に基く行政代執行によるの他当然考えられないことは極めて明らかであり、且前記の如く本件広場の申請人等の使用は午後五時より翌朝午前二時までその他の時間は解放せられている実情より考えても何等緊急性はないのに敢えて実力をもつて本件広場の申請人等の使用を妨害することは法律上何等の根拠のない違法行為であるのでその停止を求めるため本申請に及ぶ次第である。
(別紙)
陳述書
一、本件広場に対する申請人等の使用収益の権能は新天地愛護会よりの借受けによるもので、右愛護会は昭和三三年三月二〇日被申請人より管理権を与えられているところ、この管理権は甲第一、二号証の辞令によつて付与されていることは極めて明白である。
(イ) ところが被申請人はこれが管理を清掃に限定するものというが、そのようなことは辞令書の何処にもないし又何等制限の表示されない『管理人の依嘱』が清掃のみというのは本件のためにいう抗弁にすぎない。甲第一、二号証の辞令書は常識をもつて解されるべきである。
(ロ) その証拠には駅前立退の中野敏夫等二名は被申請人の斡旋で本件広場に入居しているし、更に申請人等の結成した新天地名物組合の総会には被申請人方より本件広場の主管課長たる土谷緑地課長が出席し広場の使用について協議していることは既に申請書に記載した。
(ハ) しかも申請人等は八年間の長きに亘り本件広場で屋台営業を行つて来ており、その間一度も被申請人より立退を求められたことはないのであつて、本件広場についての前記辞令が単に清掃又は美化に限定されているのであれば当然その間に異議がある筈である。
更に付言するとこのことは被申請人代表者においても当然了知のことゝ信ずる。
今更となつて甲第一、二号証の管理の辞令を清掃、美化に限定するという被申請人の態度は甚だ諒承し難いところである。
(ニ) 以上のことは愛護会関係者につき調べれば、すぐ明白化するところである。
二、申請人は本件広場を平穏かつ公然に八ヶ年に亘り使用して来ているが、被申請人より今日まで一度もこれが退去を求められたことはない、被申請人は昭和三五、六年に求めた旨いうがこの事実は全くない。
あるのは本年六月四日付(広建土公第八七号)禁止通知書を同年七月二九日受領したことはあるが、これには日時限定しての退去要求はなく結局甲第八号証たる本年九月末日限りの使用禁止命令と題する書面が本格的な退去の要求となつたのみである。
三、被申請人は本件につき当裁判所が事実上の審尋を行われた昭和四〇年九月二七日の翌日たる同二八日当裁判所の審理中に本件広場に、同年一〇月一日よりの立入りを禁止の立札をした。
この法律上の根拠は甲第八号証によると『公共団体の管理する公共用土地物件の使用に関する法律』第一条に基くものゝ如くである。
しかし本件広場は被申請人の所有であつて右法律にいう管理の範疇に属するか否かに第一点の問題があり、更に重要なことは右法律は行政代執行法の所謂根拠条章にすぎないものというべきである。
現に被申請人は御庁昭和三五年(行)第一一号行政処分無効確認事件では右法律を根拠法律にして代執行を行つているのであつて右禁止命令がそのまゝ執行行使に移行するということは如何なる観点よりも法律上の根基を伴わない。
仮りに代執行によらず禁止命令が発せられるとしても、この不作為命令に執行という概念の導入される余地は皆無であつて、被申請人の行わんとする柵等の施設は事実行為に属し、この事実行為は申請人等が使用権を主張して占有する以上違法となることも亦明白である。
四、申請人等は本件広場周辺の住民たる新天地商業協同組合の全幅の支援をうけている、申請人等は愛護会との約定どおり秩序ある使用を継けているのであつて決して近隣に迷惑はかけていない。
五、しかのみならず、被申請人には本件広場の使用につき具体的な何等の建築等工事の計画もない、そして申請人等の使用は午後五時より翌朝午前二時まで、昼間は一物もおいていない制限された使用方法であり、更に又申請人等には何れも家族があり、これを僅か一ケ月の間に退去させ一家が糊口を凌ぐに窮するような措置を、それも不法占有の名において強行する程の緊急性は一体何処にあるか。
ことは家族を含めて大人数の生活権との対決の問題である、何れ申請人等が本件広場を明渡すとしても秩序整然と行われるべきが行政の真の姿であろう。
当裁判所の速かなる英断を求めるや切である。
尚保証金の額は申請人等は何れも零細業者であつて余裕がないので格別の配意を賜りたい。
六、結局のところ本件は権限を有して占有使用(制限時間で)している零細業者たる申請人等を不法占有として一ケ月の間の予告期間で退去を強行せんとするものでありかつこれは事実行為によるものである。
これに対し申請人等は秩序ある退去を拒否するものではないのであるから本件で一応仮処分命令を戴き、その後の和解で或いは本案で解決される決して公共目的に反するものではなくむしろ附近住民の臨むところである。