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広島地方裁判所 昭和43年(ワ)190号 判決 1968年7月29日

原告

高瀬信一

被告

山中洋治

主文

被告は原告に対し、金八一万円およびこれに対する昭和四〇年四月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金八六万円及びこれに対する昭和四〇年四月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおりのべた。

一、被告は、昭和四〇年四月六日午前六時三〇分頃、小型乗用自動車を運転して、広島市大洲町一丁目バス停留所前車道を南進中、ハンドル操作を誤つて突如センターラインを右に越えて自車を右斜前方に暴走させ、右車道西側のバス停留所の歩道上でバスを待つていた原告に自車前部を衝突させ、原告に後頭、右側頭、右肘、右背部、左膝、右大腿・下腿部各打撲、右下腿骨々折の傷害を負わせた。

二、右事故は、被告が居眠り運転して右自動車を右斜前方に暴走させて反対側歩道に乗り上げさせたため発生したもので、被告の一方的な過失に起因するものであり、かつ、被告は右自動車を自己の業務のため自ら運転していたものであるから、被告は、自動車運行供用者および不法行為者として、右事故に基づき原告がうけた後記の人的・物的損害につき賠償する義務がある。

三、損害

(一)  入院治療費等 原告は前記受傷治療のため右受傷後同年八月一〇日まで広島市内武市病院に入院し、同月一一日から同年九月一二日まで同病院に通院し、同月一三日から同年一〇月三一日まで同市内広島市民病院に入院し、その後同年一一月七日まで右武市病院に通院治療し、右武市病院に以上の治療費として合計金二二三、二六〇円を、同病院における付添看護人に対し金六三、五〇〇円を、広島市民病院における治療費、看護料として一三、二四〇円をそれぞれ要し、右同額の損害を受けたほか、右治療期間中における特別栄養食費、通院交通費等の支出による損害、本件事故による原告所有の腕時計等の所持品の破損による損害計金五万円をこえる支出を余儀なくされた。

(二)  得べかりし利益 原告は本件事故当時、広島市織町四番二九号世界平和記念堂内宗教法人カトリツク広島司教区に事務員として勤務し、日給金一、二〇〇円を得ていたが、本件事故による傷害により入院治療中(一七五日間)この収入を失つたが、その合計は金二一万円となり同額の損害を受けた。

(三)  慰藉料 原告はその収入によつて一家の生計を維持していたものであるが、本件事故により前記傷害を負い約六カ月間入院治療したが、その間全く収入を奪われ、生活が困窮した。さらに、原告の長女英子は、本件事故が起きた日の二〇日後に結婚式をあげる予定であつたが、原告が本件事故にあつたため、右挙式を延期し、原告の付添看護をさせざるを得なかつた。原告は現在でもなお右足関節部にしびれ感があり、時には痛みすら感じる程で、歩行に際し運動困難である。以上の如く原告が本件事故により蒙つた精神的損害は甚大であつてこれを慰藉料として金銭に見積るときは金六〇万円を下ることはない。

(四)  弁護士費用 以上のとおり被告は原告に対し、本件事故に基づく損害賠償債務を負つているところ、原告は法律知識に乏しいので、この請求のためやむなく弁護士樋口文男に対し訴訟提起を委任し、その手数料として同弁護士に金五万円を支払い同額の損害を受けた。

四、よつて原告は被告に対し前記三項の(一)ないし(四)の合計金一二一万円のうち原告が本件事故による損害に関し自動車損害賠償保障法により受給した保険金三〇万円を控除した金九一万円のうち金八六万円およびこれに対する本件事故の翌日である昭和四〇年四月七日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

被告は適式の呼び出しを受けながら、本件口頭弁論期日に欠席し、答弁書その他の準備書面をも提出しなかつた。

理由

民事訴訟法第一四〇条第三項により、原告主張事実は被告においてこれを自白したものとみなすべきである。右によれば原告は、その主張の本件事故により、原告主張三、(一)の武市病院、広島市民病院における治療費看護料相当の合計金三〇万円および三、(二)の金二一万円の各損害をうけたものということができる。原告主張三、(一)のその余の損害は、主張が特定しないから認容できない。そこで原告主張の慰藉料について考えるのに、被告において自白したとみなすべき原告主張の本件事故の状況、原告の受傷の程度、その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると右は原告主張の六〇万円をもつて相当と認める。

つぎに原告主張の弁護士費用について考えるのに、本件事故は被告の一方的かつ明白な過失に基づくものであつて、その帰責について専門的法律知識を必要とせず、また損害、慰藉料の主張、立証も比較的簡単な事案であることが記録ないしは弁論の全趣旨上明らかであつて、いわゆる本人訴訟によつて目的を達しえないものでなく、民事訴訟で弁護士強制主義をとらない我が国においては、右の訴の提起及び遂行のために原告が支出した弁護士に対する手数料は、損害を回復するため通常必要とされる経費とは認めがたく、右費用が本件事故と相当因果関係にたつ損害であることを前提とする原告の主張は失当である。

以上によれば、被告は自動車損害賠償保障法第三条の運行供用者として原告に対し前認定の損害金五一万円、慰藉料金六〇万円の賠償義務を負担したものというべきところ、右に対し自動車損害賠償保障法により金三〇万円の支払をうけたとの原告主張事実は被告において自白したとみなすべきであるから、被告は原告に対し右残金八一万円およびこれに対する昭和四〇年四月七日から年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて、右の限度で原告の請求を認容、棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 長谷川茂治)

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