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広島地方裁判所 昭和43年(行ウ)6号 判決 1968年8月29日

原告

キャタピラー三菱株式会社

代理人

木戸孝彦

ほか二名

被告

広島市長

山田節男

代理人

宗政美三

主文

原告の固定資産課税台帳の登録訂正処分の取消を求める訴を却下する。

被告が原告に対し、別紙目録記載の物件につき、昭和四二年一二月二日付固定資産税納税通知書をもつてした昭和四二年度の固定資産税の税額を金一〇四、〇〇〇円とする課税処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が別紙目録記載の物件について、償却資産課税台帳の所有者名義を訴外藤江開発有限会社から原告に訂正した登録訂正処分を取消す。被告が原告に対し、同目録記載の物件につき、昭和四二年一二月二日付固定資産税納税通知書をもつてした昭和四二年度の固定資産税の税額を金一〇四、〇〇〇円とする課税処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

原告訴訟代理人は請求原因として次のとおり述べた。

一、原告は建設機械の製造販売を業とする株式会社であるところ、土建業を営む訴外藤江開発有限会社との間において、昭和四〇年一二月八日別紙目録記載一のブルドーザ―一台につき、昭和四一年九月三〇日同目録記載二のトラクターショベル一台につき、「代金は分割払とする。原告は契約締結と同時に本物件を訴外会社に引渡すものとする。ただし、右代金を訴外会社が原告に対し、完済するまでは原告において、本物件の所有権を留保する。」との所有権留保付割賦売買契約を締結し、それぞれ即日右物件を訴外会社へ引渡した。

二、訴外会社は右各物件をいずれも広島市内において、保有し、自己の用に供し、かつ会計帳簿の処理上、自己の資産として計上し、その減価償却額を法人税の所得の計算上、必要経費として算入していた。そして、訴外会社は、右一の物件につき、地方税法第三八三条第一項に基づき、固定資産税の納税義務がある償却資産の所有者として、昭和四一年一月一日現在における右物件の所在、数量、取得時期、取得価額、耐用年数、見積価額、その他償却資産課税台帳の登録及び当該償却資産の価格の決定に必要な事項を被告に対し、申告し、被告においては、これに基づき賦課処分をなし、訴外会社は右物件に対する同年度の固定資産税を納付したものであり、ついで、訴外会社は、右一の物件とともに、右二の物件につき、いずれも固定資産税の納税義務がある償却資産の所有者として、昭和四二年一月二〇日付で、同年一月一日現在における前同様償却資産課税台帳の登録及び当該償却資産の価格の決定に必要な事項を被告に対して申告し、被告においてはこれに基づき、訴外会社に対し、同年四月一日付で右各物件につき、固定資産税の納税通知をなした。

三、ところが、訴外会社は昭和四二年四月三〇日手形不渡を出して、倒産も同様の状態になり、右固定資産税を滞納するに至つたため、被告においては同年五月二一日付で訴外会社に対して督促をなし、ついで、同年六月二〇日付で納期限を同月三〇日と限つて催告をなし、その後同年八月二日広島市の係官が訴外会社へ調査に赴いた際、たまたま右各物件が所有権留保付割賦売買契約によつて訴外会社へ引渡されたものでまだ右割賦金が未済となつている事実を知つたため、同年一一月一三日付をもつて、右償却資産課税台帳の所有者名義を訴外会社から原告に訂正する登録訂正処分をなし、右登録訂正処分に基づき、同年一二月二日付固定資産税納税通知書をもつて、原告に対し、昭和四二年度の右各物件に対する固定資産税の税額を金一〇四、〇〇〇円とする旨の課税処分をなした。

四、そこで、原告は昭和四二年一二月二六日被告に対し、右処分を不服として、異議の申立をなしたが、被告は昭和四三年一月一二日付をもつて、右異議申立を棄却し、同月一三日原告にこれを通知した。

三、しかしながら、右登録訂正処分並びにそれに基づく課税処分は次に述べるところにより違法であるから取消されるべきである。

(一)  地方税法によれば、固定資産税は賦課期日における固定資産税台帳に所有者として登録されているものをもつて納税義務者とする租税であつて、台帳課税主義ないしは表見課税主義によるものであるところ、前記のとおり、別紙目録記載の各物件については、訴外会社が賦課期日における所有者として申告登録されていたものであるから、被告は右登録に基づいて賦課処分をなすべきであつて、たまたま訴外会社に納税能力がなくなつたからといつて、任意に所有者の登録を訴外会社から原告に訂正することは法の規定に基づかない違法の処分であり、あるいは行政裁量権の濫用である。なお、被告は、右根拠規定として、地方税法第四一七条第一項を挙げるが、同条項は「価格等の決定または修正」に関するものであつて、右価格等に所有者が含まれないことは同法第三八九条第一項の価格等の定義からして自明のことである。

したがつて、右違法な訂正処分に基づいてなされた本件課税処分も違法というべきである。

(二)  かりに、右主張が認められないにしても、固定資産税は収益者負担の原則ないしは実質課税の原則に基づいて賦課されなければならないところ、本件各物件は所有権留保付割賦売買契約によつて訴外会社に引渡されたものであつて、なるほど代金完済までは原告が所有権を留保するが、右は割賦代金履行のための担保的意味を有するに過ぎないものであつて、割賦代金についても、物件の本来の販売価格に割賦期間中の利息を加えて定められるものであり、買主の使用に伴う対価は計算されていないものであるが、他方買主は物件の引渡を受けと同時に物件に対する支配権能をえて、これを使用収益し、直ちに自己の固定資産として計上し、償却を開始しているものであるから、固定資産税において、納税義務者となりうる所有者とは、訴外会社にほかならず、したがつて、訴外会社から実質的使用収益者でない原告に訂正された本件登録訂正処分並びに右に基づく本件課税処分は違法である。

(三)  かりに、右主張が認められないにしても、償却資産に対する固定資産税は資産を償却資産となしうる者に対して賦課されるべきところ、本件各物件につき、償却資産の帰属者は原告ではなく、訴外会社であるから、本件登録訂正処分並びに右に基づく本件課税処分は違法である。

すなわち、地方税法第三四一条第四号によれば、法人がその資産を自己の固定資産として計上し、法人税法上の償却資産の対象とした資産が地方税法上の償却資産となりうるのであるから、その納税義務者は当然償却資産の帰属者たる当該法人でなければならず、これが地方税法において、所有者とみなされるべきところ、本件においては訴外会社が本件各物件を前記のとおり、購入後直ちに償却資産として計上し、かつ自己の資産として申告しているが、他方原告においては、本件各物件は棚卸資産であつて、償却資産の対象としているものではないのであるから、右各物件に対する固定資産税は訴外会社に対して賦課されるべきものである。

かりに、右主張が認められないとすると、原告は本件各物件につき、棚却資産として、その販売利益の中から法人税を支払うのみならず、併わせて固定資産税をも支払うことになり、原告は同一物件につき、二重に課税されることになり、右は課税公平の原則に反する違法の処分というべきである。

(四)  かりに、右主張が認められないにしても、原告に対する本件賦課処分は業界の慣習に反し、日本の経済秩序を破壊する違法な処分である。

我国建設機械業界においては、建設機械の割賦販売の場合は売主は所有権の留保を行なうが、買主は自己の資産として申告登録し、固定資産税を納付しているのが、全国的慣行となつているところ、右所有権留保付割賦売買方式は零細企業が大半を占める我国土建業界の現状においては止むをえない販売方式であり、右方法が採択されたことにより、右零細企業といえども、高額の建設機械を入手して、我国国土開発、経済の高度成長に多大の貢献をしているものであるが、本件の如く建設機械の売主に対し、固定資産税を賦課することは右業界の慣行に反し、我国の経済秩序を破壊する違法の処分というべきである。

被告訴訟代理人は請求原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

一、請求原因第一、第二、第四項の事実は認める。同第三項中、訴外会社が不渡手形を出したことは不知。その余の事実は認める。同第五項の原告の各主張は争う。

二、所有権留保付割賦販売資産についての固定資産税の納税義務者は売主であるところ、本件は当初訴外会社の申告により、訴外会社名義で固定資産課税台帳に登録されたが、調査の結果、原告が所有者であることが判明したので、地方税法第四一七条第一項に基づいて所有者名義を訴外会社から原告に訂正したものであつて、正しい所有者が判明したときは、これを訂正して真実の所有者に課税することはなんら違法でもなくまた行政裁量権の濫用でもない。地方税法第四一七条第一項を適用すべき場合は、価格等の訂正に限定すべきではなく、固定資産課税台帳を縦覧に供した日以後において、納税義務者の誤認、脱漏及び未申告の課税もれについても適用されるべきものである。右は自治省の見解でもある。

証拠<省略>

理由

一請求原因第一、第二、第三項(ただし訴外会社が不渡手形を出したことを除く)の事実については当事者間に争いがない。

二原告は、被告広島市長を被告として固定資産課税台帳の登録訂正処分の取消を求めるところ、地方自治法において市町村長を被告として右の抗告訴訟を認めた明文の規定がなく、行政事件訴訟法第九条の適用上も、すくなくとも、右処分を前提としこれに後続する固定資産課税処分がすでになされている本件では、原告において右訂正処分の取消を求める法律上の利益を有ないと解するを相当とし、右訴は不適法というべきである。右訴を右訂正処分の無効確認訴訟とみても、確認の利益を欠き不適法として却下を免れない。

三そこで、本件固定資産課税処分の当否について検討する。

被告は本件固定資産課税処分の前提手続として、昭和四二年一一月一三日付をもつて、本件償却資産課税台帳の所有者名義を訴外藤江開発有限会社から原告に訂正し、右訂正は地方税法第四一七条第一項の規定に基づくと主張するところ、右は弁論の全趣旨に徴し、同条項所定の固定資産課税台帳縦覧後において、「固定資産の価格等の登録がなされていないことを発見した場合」に該当するとして右訂正をなしたものと認められる。ところで、同条項にいう固定資産の「価格等」は同法第三八九条第一項にその用語を定義するところで、同項に定める価格及び同法第三四九条の三の規定による額を指すもので、前記争いのない事実によると、本件課税物件の「価格」は固定資産課税台帳縦覧時に台帳に登録されていたことが明らかであるから、本件は前記の台帳縦覧後において固定資産の価格等の登録がなされていなかつたものでなく、被告の本件登録訂正処分は、右の点において処分の根拠を欠き、無効というべきである。被告は、右台帳縦覧後、台帳に登録された所有者に誤りがあつた場合右第四一七条第一項により登録訂正処分をなしうると主張するが、右主張は以上により同条項の明文に反し、また右条項によつて、市町村長が台帳縦覧後に未登録の課税物件及びその所有者を発見した場合その価格の決定をなしうるのはかくべつ、同法第三四三条第一、第三項において、固定資産税は賦課期日における固定資産課税台帳に所有者として登録された者をもつて納税者とする旨定めて、いわゆる表見課税主義をとつている点からしても、被告の所論は採るをえない。したがつて、右違法な訂正処分に基づいてなされた本件固定資産課税処分は違法であり取消を免れず、原告の右請求は認容すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。(長谷川茂治 北村恬夫 篠森真之)

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