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広島地方裁判所 昭和47年(ワ)370号 判決 1973年9月21日

昭和四七年(ワ)第三七〇号事件原告(一) 甲野太郎

昭和四七年(ワ)第四八九号事件原告(二) 甲野春子

<ほか三名>

右五名訴訟代理人弁護士 幟立廣幸

被告 乙山一郎

主文

被告は原告甲野太郎に対し金七〇万円と、これに対する昭和四七年五月三〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被告は、原告甲野春子、同甲野二郎、同甲野夏子、同甲野秋子に対し各金一〇万円と、これに対する昭和四七年七月八日からそれぞれ完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、その二は被告、その余は原告らの負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一、双方の申立

原告ら訴訟代理人は、「被告は、原告甲野太郎に対し金二〇〇万円およびこれに対する昭和四七年五月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告は、原告甲野春子、同甲野二郎、同甲野夏子、同甲野秋子に対し各金三〇万円およびこれに対する昭和四七年七月八日からそれぞれ完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)  原告甲野太郎(昭和二年二月二七日生)は、訴外丙川花子(昭和七年一月一五日生)と結婚し、昭和二八年一月二八日婚姻の届出をした。

原告甲野春子(昭和二九年二月九日生)、同甲野二郎(昭和三〇年五月二一日生)、同甲野夏子(昭和三二年九月一三日生)、同甲野秋子(昭和三四年八月一〇日生)は、いずれも原告太郎と花子との間の実子である。

(二)  被告は、昭和四六年夏頃から原告太郎の妻花子と交際を始めたが、当時被告の妻が家出していたことから、花子と急速に親しくなった。原告太郎は、当時そのことに気付かないでいたが、花子が同年一二月一八日外泊したまま出奔したので、その行方を探索したところ、昭和四七年一月二四日午前三時半頃広島市○○○の映画館附近で花子と被告が一緒にいるのを発見したので、被告に対し自分が花子の夫であること、花子が家出していることを告げ子供も待っているので花子に家に戻るよう勧めてほしい旨依頼したが、被告は応じなかった。

(三)  そこで原告太郎において調査したところ、花子は昭和四六年一二月から被告経営の○○産業有限会社に勤務していること並びに被告に誘惑されて同棲している事実が判明した。原告太郎としては四人の子供のためを思い、妻を許す気になり、知人、友人に依頼して被告に対し花子を原告らの家庭へ戻すよう説得を行なったが、被告はこれに応じなかった。

このように、被告が故意に花子との不倫な関係を継続したため、原告太郎は、広島家庭裁判所に夫婦関係調整の調停申立をしたが、花子が離婚を求め原告との同居に応じないのでやむを得ず昭和四七年六月二日花子と調停離婚をした。

(四)  以上のように被告は、花子が原告太郎の妻であり、その余の原告らの母であることを知りながら花子を誘惑して同棲生活を始めるに至ったもので、花子が原告太郎に対し離婚を求め、同原告がこれに応ずる外なかったのも結局は被告の花子に対する不倫な誘引が主たる原因である。

(五)  被告の前記加害行為により、原告太郎は妻の貞操を要求する権利を奪われたほか、妻との約二〇年間に及ぶ平和な生活を破壊され、原告春子、同二郎、同夏子、同秋子は父母との共同生活によって得られる愛情的利益等の人格的利益を侵害され、それぞれ耐え難い精神的苦痛を受けた。

(六)  よって被告に対し、右不法行為による慰藉料として、原告太郎は二〇〇万円及びこれに対する昭和四七年(ワ)第三七〇号事件訴状送達の日の翌日である昭和四七年五月三〇日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、その余の原告らは各三〇万円及びこれに対する昭和四七年(ワ)第四八九号事件訴状送達の翌日である昭和四七年七月八日から各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二、被告の答弁

(一)  請求原因事実のうち被告が昭和四七年一月末頃広島市○○○附近で花子と一緒にいて原告太郎に会ったことは認めるが、その余の事実はすべて争う。

(二)  被告は、昭和四六年一二月末頃花子が乙山産業有限会社(被告は同会社の専務取締役)にミシンのセールスに来たことから知合い、翌年一月初め頃花子の依頼によりアルバイトとして右会社の事務を手伝わせたことから親しくなり、そのうちいずれから誘惑したわけでもなく互に好感を抱くようになって昭和四七年二、三月頃から肉体関係をもつに至ったが、花子は原告主張の家出当時においては原告太郎との間に被告が介入せずとも離婚すべき事情があり、被告が花子と性交渉をもつに至った時点では、原告太郎と花子との間は既に事実上の離婚状態にあったから、被告は原告らに対し、何ら損害を与えておらず被告に責められるべき点はない。

第三、証拠≪省略≫

理由

≪証拠省略≫を総合すると、原告太郎は、訴外丙川花子と昭和二八年一月結婚生活に入り昭和二九年二月一六日婚姻の届出をなし、両者の間には昭和二九年二月九日原告春子、昭和三〇年五月二一日原告二郎、昭和三二年九月一三日原告夏子、昭和三四年八月一〇日原告秋子がそれぞれ出生したこと、花子は昭和四四年からブラザーミシンのセールスをしていて、昭和四六年一二月頃にはその関係で被告が専務取締役をしている乙山産業有限会社に出入りし被告と知り合うに至ったこと、その頃花子は原告太郎との結婚生活を嫌うようになっていたが、たまたま同月一九日オールナイトの映画を見て朝帰りしたことから原告太郎に詰問されて家出をし、同月二九日花子の行方を探していた原告太郎に発見されて連れ戻されたものの、即日再び家出して、友人の許を転々とし、昭和四七年一月頃には被告に対し自分が人妻で家出中である事情を告げて右会社に雇傭してくれるよう懇請したこと、他方原告太郎は花子を連れ戻すべくその行方を探索していたが、そのうち昭和四七年一月二四日午前三時頃広島市○○○所在の映画館付近で花子が被告と一緒にいるのを発見し、被告に対し、自分は花子の夫であること、および花子が家出中であることを述べ、子供が年少であるから子供のためにも自宅に戻るよう花子に勧めてほしい旨依頼したが、被告は取り合わなかったこと、その頃花子は正式雇傭されないまま右会社の事務を手伝い、同年四月頃正式に事務員として採用されたが、その間被告は同年三月頃花子と肉体関係をもつに至り、その関係はその後も続いていること、原告太郎は、被告と会った右の時期後知人の訴外A、同Bに被告に対する説得方を依頼し、そのためAは同年一月頃、Bは同年三月頃それぞれ被告と会い花子を帰宅させるよう説得したが、被告はこれに応じなかったこと、このような事情の下においても原告太郎としては花子の帰宅を願う一心で、同原告は同年三月広島家庭裁判所に花子との同居を求める趣旨で夫婦関係調整の調停申立をしたが、同年六月二日の期日に花子は原告太郎の許への復帰を望まず離婚を求めたので、原告太郎もやむなくこれに応ずることとなり、その結果離婚の調停が成立したこと、その後被告は花子との同棲関係に入り現在に至っていることがそれぞれ認められる。≪証拠判断省略≫

なお、≪証拠省略≫によると、原告太郎は酒好きで酔っては花子と口争いすることが多かったことが認められるので夫婦の間は必ずしも円満ではなかったことがうかがわれるが、前記認定事実によると、花子としては原告太郎との共同生活を嫌っていたにしても、原告太郎としては調停において花子が離婚を求めるまで全く離婚の意思がなかったことが明らかであるから、被告が主張するように被告が花子と肉体関係をもつに至った当時原告太郎と花子とが事実上の離婚状態にあったと認めることはできない。

二、以上の事実によれば、被告は、花子に夫及び子があることを知りながら同女と肉体関係をもち不倫な関係を継続して原告太郎を花子との離婚に導いたもので、故意に花子が原告太郎に対して負う貞操義務の違反に加担したものというべく、また原告春子、同二郎、同夏子、同秋子は、被告の行為によって花子から母としての愛情を受けることができず父母との共同生活によって得られる精神的平和を乱され、その人格的利益を侵害されたものということができる。しかして≪証拠省略≫によれば、原告らとしては多大の精神的苦痛を受けたであろうことが容易に推測されるので、被告は原告らに対し相当の慰藉料を支払う義務がある。

三、そこで、慰藉料の額について検討するのに、≪証拠省略≫によれば、原告太郎は現在建築大工として働きながら、原告春子、同二郎、同夏子、同秋子を養育しており、生活が必ずしも豊かでないことが認められ、他方≪証拠省略≫によれば、被告は従業員一五、六名を擁して土木建築業を営む乙山産業有限会社の専務取締役をしていることが認められ、また、被告が花子と不倫な関係に入った経緯については≪証拠省略≫によると必ずしも被告の積極的な誘惑によるものではないことが認められるのであって、これらの事実およびその他本件に現われた諸般の事情を総合すると、被告の支払うべき慰藉料は、原告太郎について七〇万円、その余の原告らについて各一〇万円をもって相当と認められる。

四、よって、原告らの本訴請求は、被告に対して右各金員と、原告太郎に支払われるべき七〇万円については、本件不法行為の後である昭和四七年五月三〇日(昭和四七年(ワ)第三七〇号事件訴状送達の翌日でこの点は記録上明らかである)から、その余の原告らに支払われるべき各一〇万円については、同じく本件不法行為の後である昭和四七年七月八日(昭和四七年(ワ)第四八九号事件訴状送達の翌日で、この点は記録上明らかである)から、それぞれ完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森川憲明)

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