広島地方裁判所 昭和47年(行ウ)18号 判決 1974年4月30日
広島市銀山町九番一三号
原告
金子修郎
右訴訟代理人弁護士
元村和安
広島市大手町四丁目一番七号
被告
広島東税務署長
竹本実
右指定代理人
清水利夫
同
上山本一興
同
秋山葆
右当事者間の物品税決定処分等取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
一、双方の申立
(一) 原告
(1) 被告が昭和四五年一一月二八日付でなした原告の昭和四三年一二月、昭和四四年三月、同年五月、同年六月、昭和四五年三月、同年六月の各月分の物品税額の決定処分および無申告加算税賦課決定処分(異議申立に対する決定により取消された部分を除く)のうち、別紙原告主張の税額欄記載の各金額を超える部分は、いずれもこれを取消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(二) 被告
主文と同旨。
二、双方の主張
(一) 請求の原因
(1) 被告は、昭和四五年一一月二八日付で原告に対し別表(二)の販売年月欄記載の年月分の物品税額および無申告加算税を同表の決定欄記載のとおり決定する旨の各処分をなした。
(2) 原告は、右の各処分を不服として、被告に対し昭和四六年二月一日異議の申立をしたところ、昭和四六年五月二六日付で昭和四三年一二月分の一部を取消されただけで、その余はすべて棄却されたので(異議決定にかかる税額、加算税額は別表(二)異議申立決定欄記載のとおり)、さらに、国税不服審判所長に対し昭和四六年六月二五日審査請求したが、昭和四七年二月二八日棄却された。
(3) しかしながら、原告の前記各月分の物品税額および無申告加算税額は、別表(二)原告主張の税額欄記載のとおりであるから、被告の前記各処分は違法であつて取消されるべきである。
(二) 請求原因に対する認否および被告の主張
(1) 請求原因事実(1)、(2)を認め、(3)を争う。
(2) 原告は、物品税法第一種物品の販売を業とする小売業者であるが、別表(一)のとおり貴石、半貴石製品等を小売販売したにもかかわらず、物品税法二九条一項による課税標準および税額の申告をしなかつたので、これに対し、被告は、国税通則法二五条および同法六六条により別表(二)のとおり物品税額の決定および無申告加算税の賦課決定をした。なお、別表(一)の22および26のダイヤ指輪の買受人は高田光喜であるが、その余の販売に関する買受人は不明である。
(三) 被告の主張に対する原告の答弁
(1) 原告が物品税法第一種物品の販売を業とするものであること、原告が被告主張のとおり別表(一)の物品を販売したこと、そのうち1、8、9、12、17、18、20、22、26の物品を除く他の物品が小売販売によるものであること、原告が物品税税法二九条一項による課税標準および税額の申告をしなかつたことはいずれも認めるが、その余の事実は争う。原告は、物品税法第一種物品について小売のみでなく、卸売をなすこともある。別表(一)の1、8、9、12の物品は訴外藤田力に、同17、18、20、22、26の物品は訴外高田光喜にそれぞれ販売したものであるが、いずれも小売販売ではない。
(2) 物品税法三条一項の課税要件があつたとするためには、販売の事実のほかに販売先を立証することを要するところ、被告は、右高田に販売した分以外の買受人は不明である旨自認している。してみれば、右販売が小売であるとの被告の認定は単なる推測に過ぎず、右の部分についての課税要件事実は立証がないことに帰着する。
三、証拠
(一) 原告
原告金子修郎の本人尋門の結果および検証の結果を援用、乙号各証の成立は知らない。
(二) 被告
乙第一ないし第四号証を提出、証人高田光喜、同田淵久雄、同藤田力の各証言を援用。
理由
一、請求原因(1)、(2)の事実、原告が物品税法にいう第一種物品の販売を業とする小売業者であること、原告が別表(一)記載のとおり物品を販売したこと、そのうち同表の22、26の物品の販売先は訴外高田光喜であること、同表の1、8、9、12、17、18、20、22、26の物品を除く他の物品が小売販売によるものであること、及び原告が別表(一)の物品販売に関し物品税法二九条一項による課税標準および税額の申告をしなかつたことはいずれも当事者間に争いがない。
二、ところで原告は、別表(一)の1、8、9、12、17、18、20、22、26の物品が小売販売によるものであることを争つているので、以下その点について検討する。
(一) 別表(一)の1、8、9、12、17、18、20の物品について
まず販売先について原告は、別表(一)の1、8、9、12の物品は訴外藤田力に、同表の17、18、20の物品は訴外高田光喜にそれぞれ販売した旨主張しているが、その主張にそう原告本人尋問の結果は、証人藤田力、同高田光喜の各証言に照らして措信し難く、他に右主張事実を認めるに足る的確な証拠はない。
反対に証人藤田力の証言により真正に成立したものと認める乙第一、第三号証、証人高田光喜の証言により真正に成立したものと認める乙第二号証、証人藤田力、同高田光喜、同田渕久雄の各証言によると、藤田力は昭和四四年九月頃懇意な女性に与えるため原告からダイヤ指輪一個を約五万円で買受けたことはあるが、別表(一)の1、8、9、12の物品を同表記載の時期に買受けた事実がないこと、高田光喜は別表(一)の17、18、20の物品を同表記載の時期に買受けた事実がないことがそれぞれ認められるから、右各物品は藤田、高田を除く他の者に販売されたものという外ない。
そこで次に右各物品が小売によるものかどうか検討するのに、前掲乙第一号証、原告本人尋問の結果によると原告は質屋を営み質流れの宝石類を販売していることが認められるし、当事者間に争いない前記一の事実からすると原告が昭和四三年一二月、昭和四四年の三、五、六月、昭和四五年の三、六月に販売した貴石、半貴石製品、貴金属(以下宝石類という)合計四〇個のうち本訴において小売であることを争つている一九個を除いてはすべて小売であるから、原告の業種、業績、販売実績からして小売が主体であるとみられること、及び原告本人は昭和四四、四五年頃における宝石類の卸売先は藤田、高田のみであつて他はすべて小売である旨供述しているところ、原告が販売先と主張する藤田、高田が質受けていないことを総合考察すると、右各物品は小売販売されたものと認めるのが相当である。
(二) 別表(一)の22、26の物品について
前掲乙第二号証、証人高田光喜の証言によると、別表(一)の22の物品は高田光喜が自分で使用するため買受けたもので買受後自分の左手薬指にはめて使用していること、別表(一)の26の物品は高田が知人の福田某から同人の妻等に使用させるため安く買つて欲しい旨依頼され、旧知の原告に他の人からの依頼で買求めるものである旨告げた上で買受け、その代金は福田から受領してそのままの金額を原告に手渡したこと、高田は衣料品の卸売業を営む株式会社タカタの代表取締役で、古物商の許可も得ているが、同会社、高田個人ともに物品税の課税対象としての宝石類を取扱つておらず、原告は高田が宝石類を取扱つていないことを知つていたことが認められ、この認定に反する原告本人の尋問結果は措信できないところ、右認定事実からすると右各物品は高田が消費者の立場で買受けたもの、すなわち原告によつて小売されたもので、原告自身も小売販売であることを認識していたものと推認することができる。
三、次に原告は、物品税法三条一項の課税要件があつたとするためには販売の事実のほかに販売先が立証されることを要する旨主張しており、被告が別表(一)の各物品のうち22、26の物品を除いては買受人が不明である旨主張していることは原告指摘のとおりであるが、買受人が不明であつても諸種の間接事実から課税対象物品が小売販売されたものと認められれば足り、必らずしも氏名等によつて買受人が特定されることを要しないものというべきである。物品税に関する法令によれば、課税物品の販売のうち小売によるものについては販売業者は買受人の住所、氏名を帳薄に記載する義務を負わないのが原則で(物品税法三六条、同法施行令五二条四項)、その場合買受人の住所、氏名を確認しないのが通常であるし、また販売業者が記帳義務を負うにもかかわらず、記帳していない場合販売業者の申出によらないで買受人の住所、氏名を探索することは事実上不可能であるということができるから、原告の右主張は課税者に難きを強いる論であつて採用することができない。
四、以上の説示からすると、別表(一)の各物品はすべて小売されたことになるので、昭和四八年法二二号による改正前の物品税法一一条、一四条に基いて課税標準、物品税額を算出すると別表(一)記載の課税標準額、税額のとおりであり、また国税通則法六六条一項、三五条二項に基き無申告加算税を算出すると別表(二)の決定欄の加算税額のとおりである。
五、してみると原告の異議申立に対する決定において維持された限度において被告のなした本件各処分には違法がなく適法であるということができる。
よつて原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森川憲明 裁判官 安次樹真一 裁判官高升五十雄は、転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 森川憲明)
別表(一)
<省略>
<省略>
別表(二)
<省略>