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広島地方裁判所 昭和48年(ヨ)105号 決定 1973年7月24日

申請人 岡田鹿造

<ほか二名>

申請人ら代理人弁護士 原田香留夫

同 高村是懿

同 恵木尚

相手方 尾崎巌

<ほか五名>

相手方ら代理人弁護士 長谷川茂治

主文

一、本件申請を却下する。

二、申請費用は申請人らの負担とする。

理由

第一、申請の趣旨

一、申請人らは、それぞれ、昭和四八年二月九日坂町漁業協同組合臨時総会での役員改選請求による役員改選の可決と、同年三月三日同臨時総会での役員改選によって退任せず、従前どおり、同組合の別紙第一目録記載の役員の地位を保有するものとする。

二、相手方らは申請人らの前記役員の職務の執行を、自らが別紙第二目録記載役員の職務の執行を行うことによって、妨害してはならない。

三、申請費用は相手方らの連帯負担とする。

第二、申請の理由

一、申請人らは、いずれも坂町漁業協同組合(以下組合という)の理事、申請人岡田は組合長で、未だその任期中の者である。

二、ところが、昭和四八年二月九日開催の組合臨時総会で、役員改選請求が可決され、同年三月三日組合臨時総会で、右にもとづく役員改選が行なわれ、相手方らが新たに別紙第二目録記載の役員に選任された。

三、しかしながら、右可決々議と選挙は、それぞれ、次の事由により無効である。

(二月九日議決の無効事由)

1 組合は、同年一月一七日の臨時総会において、正組合員たる大山政照および岡田松寿らの資格を誤って否認する決議をなしていたため、組合は二月九日の総会通知を同人らに発しなかった。これは公正な決議の成立を妨げるおそれのある重大な瑕疵である。

2 改選請求を受けた申請人ら役員は、その決議につき議決権を有しないとして投票を拒否され、さらに、他に正組合員約一〇名が議決権を奪われ投票を許されなかった。右は全く違法な措置であって許されない。

3 二月九日総会における役員改選請求の主たる理由は、申請人らが役員としての忠実義務に反し、通常総会の開催を怠ったというにある。しかし、開催が延引したのは、漁業補償金交渉および組合員資格審査についての申請人らの妥当な処理のための努力が一部の者から妨害され、しかも、その解決まで総会を開催してはならないとされたからである。改選の請求は、右のように理由なきもの、動機目的の不法なものであるから、右議決は無効である。

4 水産業協同組合法三四条四項、組合役員選挙規程によれば、役員は無記名投票によって選任するとされているのに、右の議決は記名投票によってなされたもので、選挙規定に反するのみならず、自由で公正な投票を妨げるおそれがあるという見地からしても、右議決は違法、無効である。

(三月三日選挙の無効事由)

1 同総会は適法に招集されていない。すなわち、水産業協同組合法においては、役員改選請求が可決されても当該役員は直ちにその職を失うことはない定めとなっている(同法四四条四項)、また、かりにそうでなくとも、当該役員は、退職後の職務として役員改選総会まで職務執行ができるというべきである。しかるに、組合長たる申請人岡田および他の申請人らは同総会の招集に全く関与しておらず、したがって、同総会の招集手続には瑕疵があるといわねばならない。

2 前記二月九日総会と同様、正組合員たる大山政照、同岡田松寿らに総会通知を発せず、同人らの出席を阻止し、議決権を行使し得なくさせた。

四、したがって、申請人らは、右議決および選挙によって退任せず、未だ役員たる地位にあるものである。

五、相手方らは、前記のように三月九日の総会で役員に選任せられたとし、また、その後一旦辞任したうえ、申請人らの権限を侵して招集された、同年七月七日の組合総会において、新たに別紙第二目録の役員に選任されたと称し申請人らの役員としての職務の執行を妨害し、組合の業務の執行に著しい支障を来しているので本申請に及ぶ。

六、なお、水産業協同組合法一二五条は、組合総会の議決の取消を行政庁に請求できる旨規定するが、その制度は、漁業協同組合の自主的運営と発展を指導するための簡便な行政的救済手段に過ぎず、本来の裁判救済が否定されねばならぬ理由はない。

なお、申請人らは、組合の議決そのものの無効ないし取消を主張するものでなく、その結果としての申請人らの地位の確認と、その職務執行の妨害排除を、これを争っている者らに対して求めるのである。

第三、当裁判所の判断

一、疎明資料によれば、申請人らは、いずれも坂町漁業協同組合(以下組合という。)の役員たる理事、申請人岡田は同組合長であったが、その任期中の昭和四八年一月二二日、同人らに対する役員改選請求がなされ、同年二月九日の組合臨時総会において、右改選請求が可決され、その後三月三日の組合臨時総会で新たな役員が選任されたが、申請人らは役員に選任されなかったことが一応認められる。

二、ところで、本件申請は、組合の決議ないし選挙の違法を前提とするものであるところ、水産業協同組合法(以下水協法という。)一二五条一項は、組合員は組合総会の決議または選挙若しくは当選の取消を行政庁に請求できる旨規定するので、以下本件申請の適否について検討する。

水協法は、漁民等の経済的社会的地位の向上と水産業の生産力の増進とを図り、国民経済の発展を期するという多分に公益的な目的を有する(同法一条)ものであってこの目的を達するため、同法は組合の組織運営および業務執行等につき行政庁に対し広汎な監督権限を与えている。従って水協法一二五条一項の趣旨も、総会の招集手続議決の方法又は選挙が法令、法令に基いてする行政庁の処分又は定款若しくは規約に違反する等取消事由に該当する場合には日常組合を監督する衝にあって組合の事情に精通する行政庁に右議決又は選挙若しくは当選の取消請求の当否を迅速適切に処理させることにしたものと解せられただ右決議等の瑕疵が重大な場合換言すれば、組合決議が不存在ないし手続的内容的に無効と目される場合に限って裁判所に対し直接救済を求めることができるものと解するのが相当である。

三、そこで本件について検討する。

1  まづ、申請人が組合役員たる地位を失った時点につき考えるに、水協法には役員改選請求が可決された場合の当該役員の地位の変動につき明文の規定はないが、中小企業等協同組合法(四一条一項)は右可決によって役員の職を失う旨規定し、水産業協同組合において、別異に解する実質的根拠は見出しえないから申請人らも右改選請求の可決によってその職を失うものと解する。

2  二月九日総会決議の瑕疵について

申請人の主張は、要するに、同人らの役員たる地位を失わしめた組合の意思決定の瑕疵を主張するにあると解されるので、二月九日総会の決議の瑕疵について検討する。

疎明資料によれば、同総会は役員改選請求による役員改選の可否を議題とし、出席組合員数(委任状提出者、書面決議者も含め)九〇名をもって開かれ、請求にかかる役員の弁明を聞いたうえ、決議方法については、総会の過半数の同意(五六名の賛成)をもって記名式投票とすることとして採決したところ、その結果は役員改選請求を可とするもの五五名、不可とするもの二六名、無効二名であったこと、件外大山政照および岡田松寿については、同総会に先立って、組合において、その正組合員たる資格を否認する旨の決議がなされていたため同総会の通知がなされず、同人らは総会に参加し得なかったこと改選請求を受けた申請人らを含む八名の役員につき、改選請求決議の議決権が認められなかったことが一応認められる。

右事実からすれば、右総会において役員改選決議は外観上なされたものということができる。而して件外岡田らに対して招集通知がなされなかったのは総会に先立って同人らの正組合員たる資格を否認していたためでありかりに右資格の否認が誤っていたとしても前記投票結果からすれば改選請求可決に明らかに影響を及ぼしたとも認め難い。次に改選請求を受けた役員らの投票権が否認された点については、水協法五一条(民法六六条)組合定款四九条によれば、組合と正組合員との関係について議決を行う場合は、当該正組合員は、その議決につき議決権を有しないとされているところから、本件議決においては、右の者らの投票権が否認されたものとうかがわれ直ちに違法と断ずることはできず、また同人らの投票権を否認したことが投票結果に明らかに影響を及ぼしたと認め難い。また右のほか約一〇名の正組合員の投票権の行使が妨げられたとの点についてはこれを認めるに足りる疎明がない。さらに、水協法三四条四項が役員改選決議にも準用されると解し、したがって、本件決議の方法が同条項に違反するとしても、本件総会において記名投票が行われたのは、総会の多数の意思にもとづくものであって、これにより自由な意思決定が阻害されたとの疎明はない。なお本件決議の目的が不法であるとの疎明はない。

これを要するに、申請人ら主張の瑕疵は、本件決議を無効ならしめるほど重大なものとは認められず、他に右の如き瑕疵があるとの疎明はない。

四、そうすると、本件決議の瑕疵を前提として、救済を申立るには水協法一二五条一項の趣旨に則りまず行政庁に対しその取消請求をなすべきであって直接裁判上の救済を求めることはできないと解するので、その余の判断をするまでもなく本件申請を不適法として却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田辺博介 裁判官 海老澤美廣 広田聰)

<以下省略>

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