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広島地方裁判所 昭和48年(ワ)241号 判決 1973年7月25日

原告

村上忠男

被告

東洋工業株式会社

右代表者

松田耕平

右訴訟代理人

岡咲恕一

補助参加人

日新商事株式会社

右代表者

矢田博

右訴訟代理人

紫田治

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、双方の申立

原告は、「被告は、原告に対し金一〇〇万円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

被告は、主文同旨の判決を求めた。

二、原告の請求原因

(一)  訴外株式会社ミマサカ工具製作所(以下訴外会社という)は、被告に対し昭和四六年一〇月一六日現在一、四八四、一〇〇円の売掛代金債権を有していた。

(二)  原告は、訴外会社に対する岡山地方法務局所属公証人浅野猛人作成第三五、四二〇号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基き、前記売掛代金債権のうち一〇〇万円について岡山地方裁判所津山支部に債権差押及び転付命令の申請をし(同裁判所昭和四六年(ル)第二二号、(ヲ)第二八号事件)、これに基く債権差押及び転付命令(以下本件差押及び転付命令という)は、昭和四六年一〇月一六日第三債務者である被告に、同月一九日債務者である訴外会社に送達された。

(三)  よつて原告は、被告に対し転付債権一〇〇万円の支払を求める。

三、被告の答弁及び主張

(一)  請求原因(一)・(二)の事実は認める。但し本件差押及び転付命令の被告に対する送達の効力は争う。

(二)  被告は、本件差押及び転付命令正本を昭和四六年一〇月一六日広島県安芸郡府中町字新地六〇四七番地所在の被告本社正門守衛所において、岡山地方裁判所津山支部執行官武村等から受領したが、これは執行官が執行官法四条に違反して職務執行区域外で違法に職務を行なつたものであるから、有効な送達であるとはいえない。

(三)  仮に右命令が被告に対し有効に送達されたものとしても、本件差押及び転付命令は訴外会社に昭和四六年一〇月一九日送達されているところ、被告は、その前日である同月一八日訴外会社の被告に対する前記売掛代金債権について債権者日新商事株式会社(補助参加人)、債務者訴外会社、第三債務者被告、差押及び転付債務額一、六六五、六〇七円とする債権差押及び転付命令(前記裁判所昭和四六年(ル)第二四号、(ヲ)第三〇号事件)の送達を受けたから、差押の競合を生じており、したがつて原告の受けた本件転付命令は無効である。

四、被告の主張に対する原告の反論

執行官が職務執行区域外で職務を執行した場合でも当然無効ではないから、本件差押及び転付命令の送達は有効であるし、また転付命令は第三債務者に送達されたとき効力を生ずるものと解すべきであるから被告主張の事由によつては差押の競合を生じない。

五、証拠関係<略>

理由

一請求原因(一)・(二)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

もつとも本件差押及び転付命令の被告に対する送達の効力について争いがあるので検討するのに、仮に被告主張のとおり岡山地方裁判所津山支部執行官が右各命令を被告主張の場所において送達したものとすれば、執行官法四条に違背して職務執行区域外でなされた職務行為として違法ではあるが、当然に無効ではないと解するのが相当であり、殊に本件の場合送達が違法であるとしても被告において送達にかゝる書類を受領しているから、前記各命令は昭和四六年一〇月一六日被告に対し有効に送達されたものというべきである。

二次に本件転付命令の効力について判断する。

<証拠>によると、補助参加人日新商事株式会社は、訴外会社に対する岡山地方法務局所属公証人坂井虎雄作成昭和四六年第五七八号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基き訴外会社の被告に対する売掛代金債権について差押及び転付されるべき金額を一、六六五、六〇七円に満つるまでとして債権差押及び転付命令を申請し(岡山地方裁判所津山支部昭和四六年(ル)第二四号、(ヲ)第三〇号事件)、これに基く債権差押及び転付命令は昭和四六年一〇月一八日第三債務者である被告に、同月一九日債務者である訴外会社にそれぞれ送達されたことが認められる。

ところで債権差押命令は第三債務者に対する送達によつて効力を生ずるもので、このことは民事訴訟法五九八条三項の規定によつて明らかであるが、転付命令については執行裁判所は職権をもつて第三債務者及び債務者に送達すべきものとされ(民事訴訟法六〇〇条二項、五九八条二項)、それによつて債務者は券面額で弁済したものとみなされることとされており(同法六〇一条)、転付命令の効力発生時期については債権差押命令の場合と異なり別段の規定もないところからして、転付命令は、第三債務者及び債務者の双方に送達されて初めて効力を生ずるものと解するのが相当である。

したがつて本件差押命令は、被告に送達された昭和四六年一〇月一六日その効力を生じ、本件転付命令は同月一九日訴外会社に送達された時点で効力を生ずべきこととなるが、補助参加人の申立にかかる債権差押命令は、その前日である同月一八日第三債務者である被告に送達された時点において効力を生じているから、訴外会社の被告に対する売掛代金債権額が右両差押命令において差押えるべき金額と表示された額の合計額(二、六六五、六〇七円)を超えない限り本件転付命令が効力を生ずべき時点において差押の競合を生じていることになる。ところで訴外会社が被告に対して有していた売掛代金債権額は昭和四六年一〇月一六日当時一、四八四、一〇〇円であつて、その後補助参加人申立にかゝる債権差押命令が効力を生じた時点において本件差押命令と競合を生じない程に訴外会社の被告に対する売掛代金債権額が増大していたことは原告の主張しないところであるし、またそのことを認めるに足る証拠もないから、本件転付命令が効力を生ずべき時点においては差押の競合を生じていたものということができるが、このように債権者の第三債務者に対する債権について差押の競合が生じている以上、金銭債権の執行における債権者競合の場合平等主義をとつているわが国の民事訴訟法の下では一人の債権者に独占的満足を与えることは許されないから、本件転付命令は実体的に無効であり、その本来の効果を生じないものという外ない。

三よつて本件転付命令により被告に対する一〇〇万円の売掛代金債権を取得したことを前提とする原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九四条を適用して主文のとおり判決する。 (森川憲明)

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