広島地方裁判所 昭和48年(行ク)6号 決定 1973年6月30日
申立人 株式会社 ダイシヨウ
相手方 広島法務局登記官
主文
本件申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
一 申立の趣旨
相手方が、昭和四八月六月二〇日付日記第四七三号をもつてなした、同月一四日広島法務局受付第二七五八〇号仮処分記入登記嘱託の却下決定処分の効力は、右処分に対する本案判決が確定するまでこれを停止する。
二 申立の理由
(一) 申立人は、昭和四八月六月一四日、件外山田正實を被申請人とする広島地方裁判所同年(ヨ)第二二一号不動産処分禁止の仮処分決定を得た。そこで、同裁判所は、相手方に対し、右仮処分決定の記入登録記嘱託をなし、右同日相手方によつて広島法務局受付第三七五八〇号事件として受理された。
(二) しかるに、相手方は同月二〇日、納付すべき登録免許税三一万二〇〇円のうち二〇〇円を納付しないとして、不動産登記法四九条九号により右登記嘱託を却下した。
(三) しかし右却下処分は次の理由により違法で取消さるべきである。
1 仮処分記入登記の嘱託は、裁判所の執行行為に属し、登記官は右登記手続では執行機関となるもので登録免許税の些細な不足等により却下できるものではない。また、不動産登記法四九条九号は登録免許税を全く納付しないか、あるいは、その大部分を納付しない場合を規定していると解すべきである。
2 そうでないとしても、登録免許税の納付は極めて容易に補正できる事項であり、登記官としては、登記嘱託者、または、その申請人に対し事前に補正の機会を与える義務があり、かりにそれが法的義務でないとしても、従来、登記官と執行裁判所間においては欠缺を通知し、補正を促す慣行があり、これを無視して登記嘱託を却下することは違法である。しかるに本件においては、相手方より登記嘱託者たる広島地方裁判所または登記権利者たる申立人に対し、何らの通知もなく補正の機会が全く与えられなかつた。
(四) よつて、申立人は右却下処分取消の本案訴訟を提起したが、前記仮処分の目的たる不動産は申立人が前記件外山田より買いうけたもので、その代金等すでに相当額の出捐をしているのに、同人はこの契約を履行せず、他に有利に転売せんとしており、現に申立人が前記仮処分決定を得た翌日には件外株式会社平安住宅のため、所有権移転の仮登記がなされた。したがつて、右本案訴訟の確定を待つていたのでは右仮登記上の権利行使、譲渡等が行われ申立人は回復困難な著しい損害を受けるおそれがあり緊急に本件行政処分の効力を停止する必要があるので本申立に及ぶ。
三 当裁判所の判断
本件記録並びに疎明資料によれば、相手方が昭和四八年六月二〇日申立人主張の如き仮処分登記嘱託却下処分をなしたので、申立人が、右処分取消の訴えを提起し、本件執行停止申立をしたことが明らかである。
しかしながら右却下処分の執行を停止しても、右仮処分登記嘱託に対し許否の処分がなされない状態が生ずるのみで申立人にとつて、直接積極的効果を生ぜしめることにはならず、また、疎明資料によれば、右仮処分登記の対象たる不動産には、昭和四八年六月一五日付で件外株式会社平安住宅のために所有権移転の仮登記が適法になされていることが認められるから、右執行が停止され、新たに仮処分登記嘱託記入がなされたとしても登記の順位には影響を及ぼさないから損害を避ける余地はないといわねばならない。従つて、本件申立は申立の利益を欠くものといえるからその余の判断をまつまでもなくこれを却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 田辺博介 海老沢美廣 広田聰)