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広島地方裁判所 昭和49年(ワ)120号 判決 1977年5月30日

主文

本訴につき

被告久保田は、原告らに対し、別紙目録一の土地につき、広島法務局昭和二八年一二月三〇日受付第三〇八一七号をもつて経由した同月二〇日付設定契約を原因とする地上権設定登記の抹消登記手続をせよ。

原告らのその余の請求を棄却する。

反訴につき

被告久保田が、原告らに対し、別紙目録二の土地につき、存続期間を昭和四八年一二年二一日から二〇年とし、建物所有を目的とする地上権を有することを確認する。

訴訟費用は、本訴、反訴を通じてこれを四分し、その三を原告らの、爾余を被告らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

(一)  原告ら

本訴につき

被告久保田は、原告らに対し、別紙目録一、二の土地につき、広島法務局昭和二八年一二月三〇日受付第三〇八一七号をもつて経由した同月二〇日付設定契約を原因とする地上権設定登記の抹消登記手続をし、別紙目録二の土地をその地上にある同三の建物を収去して明渡し、昭和四八年一二月二〇日から右土地明渡ずみまで一か月二万円の割合による金員を支払え。

被告中本、同築地は別紙目録三の建物から退去せよ。訴訟費用は被告らの負担とする。

反訴につき

被告久保田の請求を棄却する。訴訟費用は同被告の負担とする。

(二)  被告ら

本訴につき

原告らの各請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。

反訴につき

主文第三項と同旨及び訴訟費用は原告らの負担とする。

二  本訴請求原因

(一)  別紙目録一の土地(以下一土地という)、同二の土地(以下二土地という)はもと海村進が所有していた。

(二)  海村進は、昭和二八年一二月二〇日、二土地につき、地代月額一九二〇円、期間二〇年、普通建物所有を目的とし、その地上建物を他へ賃貸しない約束で被告久保田と地上権設定契約を締結した。

(三)  海村進は、昭和三二年八月三一日死亡した。

(四)  原告富子は海村進の妻であり、爾余の原告はその子であつたから、原告らは、同訴外人の死亡により一、二土地の所有権及び右地上権設定契約上の海村進の地位を承継した。

(五)  被告久保田は一、二土地について、広島法務局昭和二八年一二月三〇日受付第三〇八一七号をもつて、原因昭和二八年一二月二〇日付設定契約、目的建物所有、存続期間二〇年、地代一か月一九二〇円の地上権設定登記を経由した。

(六)  被告久保田は二土地上に別紙目録三の建物(以下本件建物という)を所有し、その一部を他の被告二名に賃貸し、同被告らは右建物を占有している。

(七)  二土地に対する被告久保田の地上権は期間の満了によつて終了した。

(八)  被告久保田は、二土地上の本件建物の一部を他の被告二名に賃貸し、地上権設定契約に違背したので、原告らは本件訴状の送達によつて右地上権の消滅請求をする。

(九)  被告久保田が、原告らに対し二土地の明渡を拒むことは権利の濫用に当り許されない。

(一〇)  二土地の賃料は一か月二万円を相当とする。

(一一)  よつて、原告らは被告久保田に対し、一、二土地につき経由された請求原因(五)記載の地上権設定登記の抹消登記手続をすること、二土地上にある本件建物を収去して右土地を明渡すこと及び右地上権消滅後である昭和四八年一二月二〇日から右土地明渡しずみに至るまで一か月二万円の割合による賃料相当損害金の支払を求め、被告中本、同築地に対し本件建物からの退去を求める。

三  被告らの答弁と抗弁

(一)  答弁

請求原因(一)、(三)、(四)、(五)、(六)の事実を認める。

同(二)の事実は、そのうち、本件地上権設定契約の対象土地が二土地のみであること及び右契約に「地上建物を他へ賃貸しない」旨の特約が附されていたとの点を除いてこれを認め、右特約の存在を否認する。なお右契約の対象土地は後述のとおり一、二土地である。

同(八)の事実は、そのうち、被告久保田が本件建物の一部を他の被告二名に賃貸していることは認めるが、その余は争う。

その余は争う。

(二)  抗弁

1  原告主張の地上権設定契約の対象は二土地のみならず一土地をも含むものである。

2  右契約で期間を二〇年と定めたのは、地代増減請求をなしうる時期を定める趣旨であつたにすぎず、その期間は満了と同時に当然更新される旨の特約があつた。

3  被告久保田は、二土地上は本件建物を所有しているが、期間満了後も二土地を使用しており、しかも昭和四八年一二月三〇日原告らに到達した書面で更新の請求をしたものであり、これによつて本件地上権は更新された。

四  原告らの答弁と再抗弁

(一)  答弁

抗弁のうち、被告久保田が二土地上に本件建物を所有しており、期間満了後も二土地を使用していることは認めるが、その余は争う。

(二)  再抗弁

原告らは、被告久保田に対し、期間満了後である昭和四八年一二月二二日ころ到達の書面をもつて更新拒絶の意思表示をしたが、右更新拒絶には次のとおり正当の事由がある。

1  原告らは、一土地上の原告富子所有の四階建建物で質商を営んでおり、その一階部分を質営業用店舗、倉庫に、二階部分を台所、倉庫に、三階部分を倉庫、住居に、四階部分を原告暢の勉強部屋、寝室に利用し狭隘を極めているが、殊に近時物質の大型化に伴つてその程度はますます甚だしくなつてきている。そのため、やむなく高額の賃料を支払つて隣接店舗を他から借り、営業の用に供している。しかも、原告海村暢は近い将来独立の店舗をもつ必要に迫られており、以上の次第で、原告らが二土地の明渡を受けてそこに店舗を新築する必要性は大である。しかも、質営業では夜間の入質、質物の受け戻しが多いので、一土地上の建物を営業用のみに供し、原告らすべてが他に住居を構えることは許されない。

2  他方、被告らの事情は次のとおりである。

被告久保田は広島市流川町に宅地、建物を所有し、そこに居住して質商、金融業を営み、併せて本件建物階下の一部ではその妻が古物商を営んでおり、被告中本は安芸郡府中町に宅地、建物を所有し、本件建物階下の一部で古物商を営み、被告築地は広島市吉島町に宅地、建物を所有し、夫がそこで金融業を営み、同被告は本件建物階下の一部で古物商を営んでおり、いずれも他に住宅ないし店舗を所有するもので、二土地の使用を必要とする程度は低い。

以上1、2のとおり、前記更新拒絶には正当の事由があるが、仮に右事情のみでは正当の事由ありとするに十分でないとすれば、原告らは被告久保田に対し立退料として一五〇〇万円或いはそれをこえる相当額の金銭を支払う用意があるので、これによつて正当事由が具備されたものというべきである。

五  再抗弁に対する被告らの答弁と主張

(一)  答弁

原告らが、一土地上の原告富子所有の四階建建物で質商を営んでいること、被告久保田が広島市流川町に宅地、建物を所有し、そこに居住して質商、金融業を営み、併せて本件建物階下の一部で同被告の妻が古物商を営んでいること、被告中本、同築地の両名が本件建物階下の一部でそれぞれ古物商を営んでいることは認めるが、その余は争う。

(二)  原告らの更新拒絶には次の理由で正当事由がない。

原告富子は、一土地上に鉄筋四階建建物を所有し、原告らはさらに他から隣接店舗六坪を賃借し、質商を営んでいるが、そのほか昭和四〇年一二月ころからは、広島市光が丘四番六に木造瓦葺二階建居宅床面積一四七・八二平方メートルを所有し同建物を住宅として使用しており、しかも、原告公治はかねて安芸郡府中町へ転出していたのに、昭和四六年三月一五日わざわざ一土地上の前記建物へ帰つてきたものであり、原告らの二土地使用の必要性は少ない。これにひきかえ、被告中本、同築地の両名は被告久保田が主宰する古物商の集りである「にまる会」の会員であり、被告らはいずれも本件建物で二〇年来古物商を営んできており、多数の顧客がつき、暖簾もできていることであり、加えて被告中本はその二階部分に居住しおり、被告久保田が二土地を使用する必要性は大きい。

六  被告らの右主張に対する原告らの答弁

原告らに二土地使用の必要性が少ないこと、被告久保田が二土地の使用を必要とする事情を争い、その余の事実を認める。海村公治が、昭和四四年その妻と共に一土地上の建物から一旦他へ転出し、同四六年再び同所に転入したのは、租税対策のため住民登録上そのような操作をしたものにすぎない。

七  反訴請求原因

(一)  被告久保田は、昭和二八年一二月二〇日、海村進と同訴外人所有の二土地(一土地と共に)につき、地代を月額一九二〇円、期間を二〇年、建物所有を目的とする地上権設定契約を締結した。

(二)  海村進は、昭和三二年八月三一日死亡し、原告らは相続によつて同訴外人の権利義務を承継した。

(三)  被告久保田は、右地上権設定契約の期間満了後も引き続いて二土地上に本件建物を所有してこれを使用しているので、右契約は前契約と同一の条件で更新された。

(四)  ところが、原告らは、二土地に対する被告久保田の地上権を争つている。

(五)  よつて、被告久保田は請求の趣旨記載の判決を求める。

八  反訴請求原因に対する原告らの答弁と抗弁

請求原因(一)の事実は、一土地が地上権設定契約の対象であることを否認、その余を認める。

同(二)、(四)を認める。

同(三)のうち、被告久保田が右地上権設定契約の期間満了後も引続いて二土地上に本件建物を所有して右土地を使用していることは認めるが、その余を争う。

原告らは、右地上権設定契約の期間満了後、被告久保田に対し遅滞なく異議を述べたが、右異議は、本訴において述べたとおり、正当の事由を具備するものである。

九  抗弁に対する被告久保田の答弁

原因らの、被告久保田に対する地上権設定契約の更新拒絶が正当の事由を具備することを争う。その事情は本訴において述べたとおりである。

一〇  証拠関係(省略)

別紙

目録

一 広島市猿猴橋町四番七

宅地 四四・六〇平方メートル

二 同所 四番二七

宅地 四四・五五平方メートル

三 同所 四番地七

家屋番号 四番七の一

木造瓦葺二階建居宅兼店舗 一棟

床面積 一、二階とも三九・四七平方メートル

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