大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和49年(ワ)597号 判決 1976年3月04日

原告

金岡文雄

右訴訟代理人

幟立廣幸

被告

大陽ビルデイング株式会社

右代表者

久本行圓

右訴訟代理人

伊藤仁

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

被告は原告に対し一、九六万七、三〇〇円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言。

二、被告

主文同旨。

第二  当事者の主張

別紙記載のとおり。

第三  証拠<省略>

理由

一原告主張の債権差押、転付命令がなされ、これが原告主張の日被告に送達されたことおよび請求原因二の事実は当事者間に争いがない。

ところで、家屋賃貸借における敷金は、賃貸借存続中の賃料債権のみならず、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金の債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保し、賃貸借終了後、家屋明渡がなされた時において、それまでに生じた右の一切の被担保債権を控除し、なお残額があることを条件として、その残額について敷金返還請求権が発生するものと解すべきであるから、賃貸借終了後であつても明渡前においては、敷金返還請求権は、その発生および金額の不確定な権利であつて、券面額のある債権にあたらず、転付命令の対象となる適格のないものと解するのが相当である(最高裁昭和四六年(オ)第三五七号同四八年二月二日第二小法廷判決・民集二七巻一号八〇頁以下参照)。

そして、<証拠>を総合すれば、訴外会社は、昭和四八年四月、被告から本件ビルの二階を借り受け、「六六」なる名称でスナツクを経営していたが、訴外会社の代表者訴外福田勝は、同年六月ころ、手形の不渡を出し、店をそのままにして行方をくらまし、そのころ、訴外会社の債権者である原告が、被告の承諾をえないで、事実上右「六六」の店を経営するようになり、被告に対し、「六六」の名で従前同様賃料の支払いをしていたが、同四九年二月、右店内で暴力事件が発生し、原告も勾留され、店をそのままにして閉店状態となつたこと、他方、被告は、訴外会社に対する約束手形債権に基づき、同年三月七日右店内にある訴外会社所有の物件について仮差押をしたが、その後も前記福田の所在が判明せず、訴外会社から被告に対し右賃借物件の明渡がなされていないことが認められ、<排斥証拠略>

原告は、本件転付命令前に本件賃貸建物の明渡があつた旨種々主張するが、本件全証拠によるもこれを認めるに足りる適当な証拠はない。

そうだとすれば、本件転付命令はその発生および金額の不確定な権利を対象としてなされた無効なものであり、したがつて、原告はいまだ右敷金返還請求権を取得していないものといわねばならない。

よつて、右敷金の支払を求める原告の本訴請求は理由がなく失当であるのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(若林昌俊)

【請求原因】 一、原告は、昭和四九年七月三〇日当時、訴外国際商事有限会社に対し、一、九六万七、三〇〇円の債権を有し、その債権について、当裁判所同年(手ワ)第五三号約束手形金請求事件の仮執行宣言付判決をえ、同会社の被告に対する後記二、〇〇万〇、〇〇〇円の敷金返還債権について、同年八月一二日同裁判所同年(ル)第三四五号、(ヲ)第三六四号債権差押、転付命令をえ、同命令は、同年八月一三日被告に、同月九月三日訴外会社にそれぞれ送達された。

二、訴外会社は、同四八年三月ころ、広島市十日市町三丁目九番一九号所在の被告所有のビルの一部を、賃料月四〇万円、敷金四〇〇万円の約で賃借し、被告に右敷金内金二〇〇万円を支払つた。

三、訴外会社は、同四八年六月一三日、小切手の不渡りを出し、代表者は行方をくらまし、倒産し、本件敷金債権以外みるべき財産がない。

そこで、原告は、訴外会社に対する債権者として、同会社に代位して、同四八年六月末日、同四九年初旬、本訴提起時、同五〇年六月一二日被告送達の準備書面で、それぞれ訴外会社と被告との間の右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、賃借建物の明渡をした。

かりにそうでないとしても、訴外会社が倒産し、代表者が行方不明になつた昭和四八年六月、被告が本件賃貸建物を閉鎖(被告の解除の意思表示とみるべきである)した同四九年三月初旬から、それぞれ公示送達に必要な期間の経過により、信義則上、契約解除、建物明渡があつたものとみるべきである。

四、よつて、原告は、被告に対し、訴外会社から原告に転付された敷金一九六万七、三〇〇円の支払を求める。<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例