広島地方裁判所 昭和55年(ワ)1389号 判決 1981年7月09日
主文
1 被告らは原告に対し各自六九万〇七四五円およびこれに対する昭和五二年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告のその余を被告らの各負担とする。
4 この判決の第一項は仮りに執行することができる。
事実
一 申立
原告は「被告らは原告に対し各自一〇四万四八一〇円およびこれに対する昭和五二年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、
被告らは「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
二 原告の主張
1 事故の発生
原告は昭和五二年一一月二五日午後六時一五分頃広島市西区三篠町二丁目四番一六号ジーンズシヨツプヤング前路上(国道五四号線)において、原動機付自転車を運転して同道路を西方から東方に向けて横断中、同道路北方から南方に向つていた被告会社従業員の被告高山運転の普通乗用自動車に衝突され、原告は入院加療一三八日間、通院加療八〇日間を要する頭部外傷Ⅱ型・左肩関節部挫傷等の傷害を蒙つた。
2 被告らの責任
(1) 被告高山
被告高山は本件道路を被告高山と同方向に進行していた並進車両が、原告が右道路を横断するのを妨げないように停車し、しかも原告の前方を原告と同様に原動機車両が横断したのであるから、前方をよく注意して運転しなければならないのにも拘らず、右注意義務を怠り漫然と時速四〇キロメートル位のスピードで進行した過失により、原告車を発見して急制動を講じても間に合わず本件事故となつたものである。
従つて、被告高山は民法第七〇九条に基き本件事故により原告に生じた損害を賠償しなければならない。
(2) 被告会社
被告会社は本件加害車両の使用者であり同車両の運行支配をしていたものであるから、自動車損害賠償法第三条の運行供用者として本件事故に基く原告の損害を賠償しなければならない。
3 損害
原告は本件事故により左記損害を蒙つた。
(1) ハリ治療費 七万九〇〇〇円
全康堂療院 三万五〇〇〇円
松平治療院 八〇〇〇円
田中〃 一万九〇〇〇円
丸木接骨院 一万一〇〇〇円
池田〃 六〇〇〇円
(2) 治療交通費 一万九八〇〇円
(3) 入院雑費 八万二八〇〇円
原告は本件事故により昭和五二年一一月二五日から同年一二月二四日まで伊藤外科へ、同日から昭和五三年三月三日まで岡本外科へ、同年九月二五日から同年一一月二日まで広島市民病院へ各入院したが一日六〇〇円とするのが相当であるる。
(4) 入院付添費 五〇〇〇円
原告は本件事故により意識不明となつて入院において付添を要し、伊藤外科において二日間家族が付添つた。
(5) 残休業損害 一九万八〇二一円
原告は本件事故により入院加療の為、昭和五二年一二月、同五三年一月、二月、及び三月三日まで休業を余儀なくされた。
(6) 文書費 五〇〇〇円
(7) 慰藉料 一五〇万円
原告は、本件事故により入院加療一三八日間、通院加療八〇日間を要する重傷を負つたので、右精神的損害の慰藉料としては金一五〇万円が相当である。
(8) 弁護士費用 二〇万円
被告らは本件事故に対する損害賠償について全く誠意を示さないため、原告は弁護士に委任して本訴を提起せざるを得なかつた。
右のとおり原告の蒙つた損害は合計二〇八万九六二一円であるところ原告にも五割の過失があると考えられ、原告の請求し得るのは一〇四万四八一〇円となる。
よつて原告は被告らに対し右の一〇四万四八一〇円およびこれに対する昭和五二年一一月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 被告らの主張
原告主張の事実中、事故発生の日時場所、被告会社が本件車両の使用者であることは認め、その余の点は争う。
本件事故は原告の一方的過失に基因するもので被告高山には全く過失のない事件である。
事故現場は六車線の国道五四号線上で被告高山は可部方面から同国道を南進していた。当時車両は渋滞しており被告高山運転の車両は時速約二〇キロメートルで片側三車線の左端を前車に続いて進行していたところ原告が右方(西側)から東側に向かい同国道上を横断すべく走り出てきて衝突したものである。
原告は指定方向外進行禁止場所を標識を無視して走行横断したものであり、時間的にも場所的にも危険な状況下で道交法に違反し渋滞中の車両の間から飛び出したという致命的な過失をおかした結果本件事故が発生した。被告高山は本件事故につき不起訴処分がなされている。
被告らは本件事故につき六九万四三三〇円を負担している。
四 証拠〔略〕
理由
昭和五二年一一月二五日午後六時一五分項広島市西区三篠町二丁目四番一六号ジーンズシヨツプヤング前路上において本件事故が発生したこと、被告会社が被告高山運転の車両の使用者であることは当事者間に争がない。
成立に争のない甲第一ないし第四号証、原告および被告高山の各供述を総合すると、原告は原付自転車を運転して事故現場に西から東に向かつて差しかかつたが原告の進行方向は指定方向外進行禁止場所であり標識に気づかないで進行したこと、被告高山は同所に普通乗用自動車を運転して北から南に向かつて差しかかつたこと、事故現場は一方通行であり右方(西側)からの進入車両等はないものと考えて右前方に対し注意をしないで進行したため右方道路から進入してきた原告の発見が遅れて原告に衝突したことを認めることができる。
右事実によると本件事故は原告と被告高山の過失により惹起されたものと認められ、その割合は五対五とするのが相当である。従つて被告らは本件事故により原告が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。
次に原告の蒙つた損害について検討する。
成立に争のない甲第七ないし第一〇号証、原告本人の供述、同供述により真正に成立したものと認められる第一四号証によると、原告は本件事故により負傷し昭和五二年一一月二五日から同年一二月二四日まで伊藤外科医院に、同日から昭和五三年三月三日まで岡本病院に、同年九月二五日から同年一一月二日まで市民病院に入院したこと、その外岡本病院、池田外科病院等に通院した外はり治療や接骨医での治療を受けたことを認めることができる。
(一) 治療費 三六万九二五〇円
成立に争のない甲第一二号証の一ないし六、乙第一号証、前記甲第一四号証によると、原告は伊藤外科医院、岡本病院、全康堂療院、松平治療院、田中治療院、丸木接骨院、池田接骨院における治療費として合計三六万九二五〇円を要したことを認めることができる。
(二) 交通費 一万九八〇〇円
原告本人の供述によると原告は交通費として一万九八〇〇円を要したことを認めることができる。
(三) 入院雑費 六万九〇〇〇円
前記のように原告は本件事故により受傷して合計一三八日間入院しており、入院雑費は一日五〇〇円とするのが相当である。
(四) 入院付添費 五〇〇〇円
原告本人の供述によると、原告は事故直後意識不明となり伊藤外科医院での当初の二日間は付添を要したことが認められ、その付添費は一日二五〇〇円とするのが相当である。
(五) 休業損害 五〇万二一〇一円
成立に争のない甲第一一号証の一・二、原告本人の供述によると、原告は広陽パーツ商会に勤務しているが、本件事故により受傷したため昭和五二年一二月から昭和五三年三月三日まで給与の支給を受けられなかつたこと、昭和五二年一二月当時の給与は平均月額一五万六六一八円、昭和五三年二月以降は一七万二〇〇〇円であることが認められ、前記の給与の支給を受けられなかつた期間の休業損害は五〇万二一〇一円となる。
(六) 文書費 五〇〇〇円
成立に争のない甲第一三号証の一ないし三、原告本人の供述によると原告は診断書等の文書費として五〇〇〇円を要したことが認められる。
(七) 慰藉料 一五〇万円
本件に顕れた諸般の事情を考慮すると慰藉料の額は一五〇万円とするのが相当である。
以上のとおり原告は本件事故により二四七万〇一五一円の損害をを蒙つたものと認められるところ、原告にも五割の過失があるので被告らが負担すべき額は一二三万五〇七五円となる。
成立に争のない乙第一号証によると被告らは既に六九万四三三〇円を支払つていることが認められ残額は五四万〇七四五円となる。
なお本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は一五万円とするのが相当である。
右のとおり被告らは原告に対し六九万〇七四五円およびこれに対する昭和五二年一一月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。
よつて、原告の本訴請求中右の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却し、民訴法九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 糟谷邦彦)